有限会社はM&Aで株式譲渡できる?株式会社との違い・流れ・注意点

有限会社がM&Aをしようとする場合、株式譲渡や事業譲渡が可能です。2006年の会社法施行以前に設立された有限会社は、現在も特例有限会社として存続しており、事業承継や第三者への譲渡の際には株式会社とは一部異なる点がありますので、ご留意ください。

有限会社はM&Aで譲渡できる

有限会社のM&Aによる譲渡は、可能です。会社法の改正により、2006年以降は有限会社も株式会社と同様の規定が適用されるようになり、M&Aの選択肢が広がりました。

有限会社の譲渡方法としては、株式譲渡や事業譲渡が一般的です。株式譲渡の場合、社員の持分を買い手に売却することで会社の所有権が移転します。事業譲渡では、会社の事業や資産を個別に売却する形となります。ただし、譲渡に際しては社員全員の同意が必要となるため、株式会社と比べて手続きがやや煩雑になる可能性があります。

実際のM&Aでは、譲受企業の意向や譲渡後の経営方針などを考慮し、場合によっては有限会社から株式会社への組織変更を行ってから譲渡するケースもあります。このように、有限会社であってもM&Aによる事業承継や会社売却は十分に実現可能な選択肢となっています。

有限会社が譲渡される場合とは

有限会社の譲渡が行われる典型ケースは以下のようなものです。

後継者問題を解決するため

有限会社は、小規模事業者や家族経営などの形態が多数を占めます。大企業と比較すれば、経営が安定せず、昇給が難しいケースも少なくありません。経営者が薄給で働いているケースも多いため、後継者が見つかりにくくなっています。後継者がいなくて廃業となるのを防止する役目も合わせて、事業承継の株式譲渡が行われている状態です。

人手不足を解消するため

人手不足解消のために、株式譲渡が行われるケースも珍しくありません。有限会社の多くは、後継者だけでなく慢性的な人手不足が問題になっています。有限会社であっても、「特許は取得していないが、特殊技術は有している」というケースも少なくありません。

問題は、技術の引き継ぎができないケースが多々あることです。しかし、株式譲渡によって事業が継承されれば、特殊技術継承にも役立ちます。

休眠会社を整理するため

有限会社の株式を譲渡するケースの1つは、有限会社が休眠会社であることです。有限会社の廃業には、複雑な手続きと一定の費用が必要となりますが、譲渡益を得ることも難しくありません。第三者への株式譲渡から廃業への手続きであれば、複雑かつ煩雑な手続きは不要です。休眠会社を整理しなければならない場合でも、譲渡益を得られる可能性があります。

有限会社を買収する側のメリット

特例有限会社を譲り受けることの代表的なメリットを紹介します。

会社存続に伴うコスト(費用)を抑えられる

特例有限会社を譲り受ければ、会社を存続させるためのコストを抑えられます。特例有限会社の取締役には、任期の制限がありません。一方、株式会社の場合は、任期が原則2年(最大10年)となっています。株式会社では、役員の任期が満了するたびに登記変更が必要となり、その都度登記費用が発生します。しかし、特例有限会社では役員の任期に制限がないため、登記を変更する必要がなく、これらの費用を節約することができます。

長期的な視点で見ると、この違いは会社の運営コストに大きな影響を与える可能性があります。特に、小規模な企業や経営資源の限られた企業にとっては、このコスト削減効果は無視できないメリットとなるでしょう。

社会的な信用を高められる

特例有限会社は、会社法が施行される2006年以前に創業した企業であるため、現在まで存続していることが、そのまま社会的な信用となります。社歴の長さは、社会的信用を深めるため、取引先や顧客からの信頼も得やすくなる点がメリットです。

また、長年にわたって事業を継続してきたという事実は、その企業が市場のニーズに応え続けてきたことを示しています。このような実績は、新規の取引先や顧客との関係構築において大きな強みとなるでしょう。

秘密性を守ることができる

株式会社では、公告義務があるため決算書類などを公開しなければなりません。特例有限会社には、決算公告義務がないため、決算書を公開しなくても問題にならず、会社の秘密性は守れます。譲り受けた後も、決算公告義務は生じません。

この特徴は、特に競争の激しい業界や、独自の技術やノウハウを持つ企業にとって大きなメリットとなります。財務情報を非公開にすることで、競合他社に自社の経営状況を知られることなく事業を展開できます。また、新規事業の立ち上げや研究開発など、まだ公開したくない情報がある場合にも、この秘密性は有効に機能します。企業戦略を秘匿しつつ、事業を展開することが可能となります。

有限会社とは

有限会社は、2006年5月の会社法施行前に設立できた会社形態の1つです。株式会社と同様に法人格を持ちますが、現在は新たに有限会社を設立することはできません。

東京商工リサーチによると、有限会社は2013年から2018年の間に毎年10,000社以上が廃業・解散しており、年々数は減少しているのが現状です。

特例有限会社の誕生

2006年の会社法施行により、有限会社は以下の2つの選択肢が与えられました。

  • そのまま有限会社の名前を残した「特例有限会社」として存続する
  • 移行手続を行い、株式会社に移行する

特に手続きをしない場合は、有限会社の性質を残した「特例有限会社」として存続します。つまり、現存する有限会社は、全て特例有限会社ということになります。一方、「特例有限会社の商号変更による株式会社設立登記申請書」と「特例有限会社の商号変更による解散登記申請書」の提出を行うことで、有限会社から株式会社へ移行することも可能です。ただし、有限会社から株式会社への移行には費用がかかるため、そのまま特例有限会社として存続する道を選ぶ会社も多数存在しています。

誕生の背景

会社法施行以前、株式会社の設立には最低1,000万円の資本金が必要でしたが、有限会社は最低300万円の資本金で良かったため、株式会社を設立するよりハードルが低く、有限会社が多く存在しました。しかし、法改正によって株式会社設立の最低資本金が1円となったことや、実態として株式会社と有限会社を区別する意味が薄れてきたため、有限会社の会社形態は不要となり、廃止されることになりました。

有限会社と株式会社の違い

有限会社と株式会社には、いくつかの重要な違いがあります。以下の表で主な違いを比較します。

(特例)有限会社株式会社
商号有限会社株式会社
最低資本金300万円1円
株式の譲渡制限あり定款の定めによって制限可能
取締役会の設置不可任意
取締役の任期なし2年(最大10年)
決算公告の義務なしあり
有限会社と株式会社の違い

特例有限会社は、2006年の会社法施行時に有限会社から特例有限会社に移行しましたが、特例有限会社の存続期間の制限はありません。株式会社向けの制度である会社法に加えて、従前の有限会社に類似した制度の一部を引き継いでいます。

有限会社のM&Aの流れ

有限会社のM&Aは、どのように進めればよいのでしょうか。ここでは、特例有限会社の株式譲渡の流れについて解説します。

1. M&Aの初期的な相談

M&Aを検討する最初のステップとして、専門のアドバイザーや仲介会社に相談することが一般的です。この段階では、自社の状況や買収の目的、希望する条件などを伝え、アドバイスを受けます。また、M&A仲介会社に登録することで、条件に合う案件の紹介を受けることができます。

2. ノンネーム検討

ノンネーム検討とは、譲渡側企業の具体的な名称や所在地などを明かさずに、企業の概要情報のみを提示して、M&Aの可能性を検討する段階です。この段階では、業種、規模、財務状況などの基本的な情報を基に、案件が譲受企業の買収方針に合致するかどうかを判断します。

3. 秘密保持契約の締結

ノンネーム検討の結果、譲受企業が興味を持った場合、次は秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)を締結します。この契約により、譲渡側企業の詳細情報を開示することができるようになります。秘密保持契約は、M&Aプロセスにおいて非常に重要な役割を果たし、双方の利益を保護します。

4. 詳細情報の開示と検討

秘密保持契約締結後、譲渡側企業の詳細な情報が開示されます。この段階では、財務諸表、事業計画、顧客リスト、従業員情報など、より具体的な情報を入手し、譲受企業側で慎重に検討されます。有限会社の場合は、特に以下の点が確認されます。

  • 株主構成
  • 取締役の任期や権限
  • 特殊な定款の有無

5. 基本合意の締結

詳細情報の検討結果、買収を進めることを決定した場合、基本合意を締結します。基本合意書には、M&Aの意思、大まかな条件、今後のスケジュールなどが記載されます。この段階では、まだ法的拘束力のある最終契約ではありませんが、双方の信頼関係を構築する重要な文書となります。

6. デューデリジェンス(DD)の実施

デューデリジェンスとは、譲渡企業の詳細な調査を行うプロセスです。財務DD、法務DD、税務DD、ビジネスDDなど、様々な観点から譲渡企業の状況を精査します。有限会社の場合、特に以下の点に注意してDDを行う必要があります。

  • 株式譲渡に関する定款の規定
  • 過去の株主総会議事録
  • 取締役の選任や解任に関する記録
  • 特殊な資産や負債の有無
  • 税務上の問題点

DDの結果は、最終的な譲渡価格や条件の交渉に大きな影響を与えます。

7. 最終契約書の作成と締結

DDの結果を踏まえ、最終的な買収条件を交渉し、合意に達したら最終契約書を作成します。有限会社の株式譲渡の場合、主に以下の点について明確に契約書に記載する必要があります。

  • 譲渡する株式の数と価格
  • 株主総会の承認に関する条項
  • 譲渡後の経営体制
  • 表明保証条項(譲渡側の保証事項)
  • 補償条項(問題発生時の対応)

契約書の内容について双方が合意したら、正式に契約を締結します。

8. クロージング(決済)

契約締結後、実際に株式の譲渡と代金の支払いを行う段階がクロージングです。有限会社の場合、以下の手続きが必要となります。

  1. 株主総会の開催と株式譲渡の承認
  2. 株主名簿の書き換え
  3. 株券の発行(株券発行会社の場合)
  4. 代金の支払い

また、クロージング後には以下の手続きも必要です。

  1. 取締役の変更登記(経営者が変わる場合)
  2. 各種契約の名義変更

有限会社のM&Aにおける企業価値評価

特例有限会社は、非公開会社のため、株式の譲渡価格の算定が必須です。ここでは、3つの算出方法を紹介します。

コストアプローチ

コストアプローチは、特例有限会社の資産を譲渡する想定で算出する方法です。簿価純資産から算出する方法や、時価純資産から算出する方法があります。時価純資産額と営業権を合わせて計算する方法が一般的です。営業権を算出する要素は次のようになります。

【営業権を算出する要素】

  • 経営理念と経営哲学
  • 取引先や顧客
  • 従業員のスキルやノウハウ、年齢など
  • シェア
  • 特許や権利など
  • 特定商品の有無

インカムアプローチ

インカムアプローチは、特例有限会社が将来生み出すであろう利益を基準に算出する方法です。方法としては、DCF法や配当権限法、リアルオプション法などがあります。インカムアプローチの特徴は、将来性を反映させやすいことです。主観的な評価になりやすいため、特例有限会社の譲渡には適していないケースが少なくありません。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、対象となる特例有限会社と類似した会社の取引を比較する方法です。決算書や財務諸表を比較検討するため、決算公告義務がない特例有限会社には適していません。決算書や財務諸表を得られなければ、比較検討が難しいからです。類似の会社を探しても、特例有限会社であることが珍しいため、情報を得ることも難しいでしょう。

有限会社のM&Aにおける注意点

有限会社の株式譲渡を行う際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを理解し、適切に対処することで、円滑な譲渡プロセスを実現できます。

株主総会の承認が必要

有限会社の株式譲渡には、株主総会の承認が必要です。これは、会社法第585条第1項に基づいています。株主総会の承認を得るためには、総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成が必要となります。ただし、定款で別段の定めをすることも可能です。例えば、全員の同意が必要といった厳しい条件や、逆に取締役会の承認で足りるといった緩和された条件を定めることができます。

定款の確認

株式譲渡を行う前に、必ず定款の内容を確認する必要があります。特に以下の点に注意が必要です。

  • 株式譲渡制限に関する規定
  • 株主総会の承認要件
  • 特殊な株主権利に関する規定

定款に特別な規定がある場合、それに従って手続きを進める必要があります。

株価算定の難しさ

有限会社の場合、株式が市場で取引されていないため、適切な株価の算定が難しいケースがあります。一般的には以下のような方法で株価を算定しますが、それぞれに一長一短があります。

  • 純資産価額方式
  • 類似会社比較方式
  • DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式
  • 収益還元方式

適切な株価算定は、譲渡価格の交渉や税務上の問題を回避するために非常に重要です。必要に応じて、専門家の助言を受けることをお勧めします。

税務上の影響

株式譲渡には、譲渡側・譲受側双方に税務上の影響があります。主な税金としては以下のようなものがあります。

  • 譲渡側:譲渡所得税(個人の場合)、法人税(法人の場合)
  • 譲受側:登録免許税(登記を行う場合)、不動産取得税・消費税(事業譲受の場合)

特に、個人が保有する株式を譲渡する場合、譲渡価額が時価と著しく異なると、贈与税や所得税の問題が生じる可能性があります。適切な株価算定を行い、税務リスクを最小限に抑える必要があります。

従業員への対応

有限会社の株式譲渡では、従業員の処遇が重要な問題となることがあります。特に、長年同じ経営者のもとで働いてきた従業員にとっては、大きな変化となります。以下の点に注意して、従業員への対応を行う必要があります。

  • 譲渡の事実と理由の説明
  • 雇用条件の継続性の保証
  • 新しい経営方針の説明
  • 従業員からの質問や不安への対応

従業員の理解と協力を得ることは、円滑な事業承継や買収後の事業運営にとって非常に重要です。

取引先への対応

有限会社の場合、長年の取引関係や個人的な信頼関係に基づいて事業を行っているケースが多くあります。株式譲渡に伴い経営者が変わる場合、これらの取引先との関係維持が課題となります。以下の点に注意して、取引先への対応を行う必要があります。

  • 譲渡の事実と新経営者の紹介
  • 取引継続の意思表明
  • 必要に応じた契約の見直しや再締結

特に重要な取引先に対しては、譲渡前に個別に説明を行うなど、丁寧な対応が求められます。

株券の取り扱い

有限会社の中には、株券を発行している会社と発行していない会社があります。株券を発行している場合は、譲渡に際して株券の受け渡しが必要となります。一方、株券を発行していない場合は、株主名簿の書き換えのみで譲渡が完了します。株券の紛失や破損などのトラブルを避けるためにも、事前に株券の有無と保管状況を確認しておくことが重要です。

株主名簿の管理

有限会社の場合、株主名簿の管理が適切に行われていないケースがあります。株式譲渡を行う際には、現在の株主構成を正確に把握し、必要に応じて株主名簿を整理・更新する必要があります。特に、長年株主の変更がなかった場合や、相続などで株主が変更されているにもかかわらず手続が行われていない場合には注意が必要です。

有限会社M&Aのまとめ

有限会社は、2006年の会社法施行により、新たな創立はできなくなりました。現在、存続している有限会社の正式名は、特例有限会社です。特例有限会社は、新たな会社法の制度だけでなく旧来の制度も遵守しなければなりません。事業承継や第三者へ特例有限会社を譲る際には、株式を譲渡する必要があります。

特例有限会社の株式を譲渡するためには、譲渡制限があり会社の承認が必要です。特例有限会社の株式譲渡やM&Aは、難しい問題もあるため、事業承継のプロフェッショナルである「みつき税理士法人/みつきコンサルティング」の利用をご検討ください。M&Aだけではなく、事業所内承継や親族内承継など複数の選択肢をご提案します。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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