「会社を売りたい」と考える経営者の方、後継者不在や事業成長の加速など、その理由は様々ではないでしょうか。M&Aは、事業承継の実現やまとまった資金獲得など、大きなメリットをもたらす一方、情報漏洩や条件交渉など注意すべき点も存在します。本記事では、会社を売ることを検討する経営者のために、準備から手続、注意点、費用、税金まで、M&Aの成功に必要な情報を網羅的に解説し、あなたの新たな一歩を応援します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」
そのような漠然とした疑問をお持ちではありませんか? みつきコンサルティングでは、20年間・500件以上のM&A支援実績をもとに、本格的なご検討の前でも、情報収集を目的とした無料相談を随時お受けしています。まずはお話をお聞かせください。

会社を売りたいと思った日から、実際に譲渡が完了するまでには、さまざまなステップがあります。M&Aは準備、交渉、クロージング、そして経営統合という大きく4つのフェーズで構成されます。本記事は、その全体像を分かりやすくお伝えし、具体的な準備や手続、知っておくべき注意点、費用、そして税金のことまで網羅しています。どこから読み進めても理解できるよう構成していますが、まずは全体をざっと眺めて、気になる部分から読み始めるのがおすすめです。この記事が、あなたのM&Aを成功に導くための羅針盤となることを願っています。
▷関連:会社売却の総合ガイド
まずやる【7つの準備】(即日〜1か月)
会社を売りたいと考えたら、最初の一カ月で何をするべきか、具体的にイメージできるでしょうか。M&Aは長期戦になることもありますが、最初の準備がその後のスムーズな進行を大きく左右します。この初期段階でしっかりとした土台を築くことが、後々の時間やコストの節約にもつながるのです。ここでは、特に重要となる7つの準備について解説します。
チェックリスト:
- 秘密保持契約書について理解しましたか?
- M&A専門家への依頼の要点を把握しましたか?
- 決算書や売上推移などの資料は整理できていますか?
- 作成すべき資料のチェックリストを確認しましたか?
- 社内の情報管理体制を考えましたか?
- あなたの希望条件は整理できていますか?
- 相談先の候補をリストアップしましたか?
1 秘密保持契約書の準備
会社を売ることについてM&A仲介会社に相談する際、最も大切なのが情報の漏洩防止です。あなたの会社の機密情報が外部に漏れることは、事業価値の毀損や従業員の不安につながりかねません。そのため、情報を開示する前には必ず「秘密保持契約書(NDA)」を締結する必要があります。この契約は、情報の取り扱いに関するルールを明確にし、あなたの会社の重要な資産を守るための盾となります。専門家選びの初期段階で、この契約の重要性をしっかりと理解しているかを確認することも大切です。
2 専門家への依頼文と手順
M&A仲介会社などの専門家へ最初に連絡する際、どのような問い合わせ文を送るべきか迷うかもしれません。「会社を売りたい」という意思を伝えることはもちろん大切ですが、その際、会社の概要や売却を検討している理由、希望条件などを簡潔にまとめることが、スムーズなやり取りの第一歩です。具体的な雛形としては、以下の要点を盛り込むと良いでしょう。
- まず、簡単な自己紹介と会社の事業内容、そしてM&Aを検討している旨を伝えます。
- 次に、売却の目的や希望時期、譲渡価格の目安、譲渡後の希望(例えば、従業員の雇用維持や経営への関与度合い)を記載します。
- 最後に、守秘義務の遵守を求める一文を忘れずに加えます。
でも、少し面倒と感じたり、面識のない専門家に最初からお伝えすることには抵抗があるでしょう。そんなときは、「会社を売ることを検討している」と一報するだけでも大丈夫です。専門家との初回面談のなかで、ゆっくりお話していきましょう。
3 資料の整備(決算・売上推移・主要契約)
会社を売ることについて本格的に動き出すには、客観的な情報が不可欠です。譲受企業は、あなたの会社の財務状況や事業内容を詳しく分析し、その価値を判断します。そのため、過去3期分の決算書、月次試算表、売上推移表、主要な契約書など、基本的な資料を網羅的に整備しておくことが重要です。
4 M&A検討時に必要な書類チェックリストの確認
会社を売るという大きな目標に向けて、どのような資料を準備すれば良いのでしょうか。主要な書類をリストアップし、漏れなく揃えていくことが、M&Aの手続を円滑に進めることに繋がります。
カテゴリ | 主な必要書類 |
---|---|
会社に関する書類 | ・商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書) ・定款 ・株主名簿 ・直近3年分の定時株主総会議事録 |
組織・人事労務に関する書類 | ・組織体制図 ・役職員名簿(役職・業務内容・年齢・社歴・保有資格など) ・就業規則・各種規定 ・雇用契約書サンプル ・直近3年分の賃金台帳 |
財務会計に関する書類 | ・過去3期分の決算書一式(勘定科目明細、申告書別表含む) ・直近月の月次試算表 ・金銭消費貸借契約書 ・返済予定表 ・リース契約一覧・契約書 ・保険契約一覧・保険証書・直近の解約返戻金が分かる資料 |
事業に関する書類 | ・取引先・商品別売上推移表(過去3期分) ・主要取引先との契約書 ・賃貸借契約書 ・許認可・特許などの証書 |
不動産に関する書類 | ・全部事項証明書(土地・建物) ・固定資産税納税通知書 ・施設写真 ・各種図面 |
その他 | ・会社の強みや将来性を説明する資料など |
5 社内の情報管理(コードネーム・権限管理)
「会社 売りたい」という情報は、非常にデリケートです。社内にM&Aを検討していることが漏れると、従業員に不安を与え、モチベーション低下や離職につながるリスクがあります。そのため、M&Aを進める際には、関係者以外には情報を徹底的に秘匿することが重要です。例えば、プロジェクトにコードネームを使用したり、情報にアクセスできる人物を限定し、権限を厳密に管理するといった対策は不可欠です。私も、情報管理の重要性は常に強調しています。
6 希望条件の整理(価格・引継ぎ条件)
「会社 売りたい」と考えるあなたの頭の中には、きっと明確な希望があるはずです。例えば、「いくらで売りたいのか」という譲渡価格はもちろん、「従業員の雇用はどうなるのか」「譲渡後の経営にどの程度関与したいのか」といった引継ぎ条件も非常に重要ですし、本当に譲渡オーナーの人生を左右する要素です。これらを事前に整理し、譲れない条件と譲歩できる条件を明確にしておくことが、交渉をスムーズに進めるための鍵となります。優先順位をつけ、紙に書き出してみるのも良い方法です。
7 相談先の候補リスト化
会社を売りたいと思った時、どこに相談すれば良いか悩む方もいるかもしれません。M&Aの専門家は、M&A仲介会社、会計事務所が代表的ですが、他にも様々な選択肢があります。それぞれの専門家には得意分野があり、あなたの会社の状況や希望に合う相談先を選ぶことが大切です。公的な機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」も選択肢の一つでしょう。まずは複数の候補をリストアップし、無料相談などを活用して比較検討することをお勧めします。
▷関連:中小企業M&Aの相談先ランキング|銀行・税理士・仲介会社の違い
会社を売りたいときの手順と期間
会社を売る意思が固まった、次に気になるのは具体的な手続の流れと期間ではないでしょうか。M&Aは短期間で終わるものではありません。一般的に、準備からクロージングまで半年から1年程度の期間を要することが多いです。しかし、交渉が難航したり、デューデリジェンスに時間がかかったりすると、さらに長期化する可能性もあります。この章では、M&Aがどのような手順で進み、各段階でどのようなことが行われるのかを解説します。
チェックリスト:
- 準備から引継ぎまでの全体像を理解しましたか?
- 譲受候補探しのアプローチ方法を把握しましたか?
- 条件交渉で何を整理すべきか理解しましたか?
- 最終契約書の主要ポイントを把握しましたか?
- 引継ぎ計画について考えましたか?
- 準備→候補探し→条件交渉→確認→【最終契約書】→引継ぎ
会社を売るプロセスは、まるでマラソンのようです。まず、M&A仲介会社とアドバイザリー契約を結んで準備フェーズに入ります。次に、譲受企業候補を探し、マッチングと交渉を進めます。その後、財務・法務デューデリジェンスという確認作業を経て、最終契約書の締結に至ります。そして、最後は譲受企業への円滑な引継ぎです。それぞれのステップで専門家のサポートが不可欠になります。
お相手候補探し:紹介・横断検索・指名打診
会社を売りたいと思った時、譲受企業をどう見つけるかは重要なポイントです。M&A仲介会社を通じた紹介が最も一般的ですが、最近ではM&Aマッチングサイトでの横断検索も増えています。また、あなたの事業内容に強い関心を持つと思われる特定の企業を「指名打診」することも可能です。あなたの会社の「強み」を最大限にアピールできる、最適な相手を見つけることが、何と言っても大事です。
条件交渉:価格と引継ぎ条件の整理
会社を売る交渉の核心は、やはり価格と引継ぎ条件です。譲渡価格は、会社の時価純資産に営業利益の2~5年分を加える簡易的な方法で算出されることが多いですが、最終的には譲受側による企業価値評価やデューデリジェンスの結果を踏まえ、交渉で決まります。従業員の雇用維持、譲渡オーナーの譲渡後の関与度合いなど、価格以外の条件も、あなたの会社の未来と人生にとって非常に大切ですから、慎重にすり合わせる必要があります。
確認作業:財務・法務・労務の観点
会社を売るプロセスにおいて、譲受企業は必ずデューデリジェンス(DD)と呼ばれる詳細な調査を実施します。財務面では会社の収益性、キャッシュフロー、負債の状況が、法務面では契約関係、許認可、係争リスクが、労務面では雇用状況、人事制度、潜在的なトラブルなどが、あらゆる側面から徹底的にチェックされます。この確認作業は、譲渡価格や最終契約の条件に大きく影響しますが、譲受企業との信頼関係を壊さないよう、誠実な情報開示が求められます。
最終契約書の主要ポイント
会社を売る手続の集大成ともいえる最終契約書は、譲渡後の関係性を決定づける最も重要な書類です。ここには、譲渡対象物(株式数や事業範囲)、譲渡価格、対価の支払い方法といった基本的な内容に加え、表明保証、前提条件、誓約事項、補償条項、解除条件などが詳細に記載されます。特に表明保証は、開示された情報が真実であることを譲渡オーナーが保証するものであり、後々のトラブルを避けるためにも、内容を十分に理解しておく必要があります。
引継ぎ:経営・人・取引の計画
会社を売った後も、事業は続いていきます。クロージングが完了すれば、譲受企業への経営の引継ぎが本格的に始まります。従業員への丁寧な説明や取引先との関係維持、業務プロセスの移行など、円滑な引継ぎ計画が不可欠です。PMI(ポストマージャーインテグレーション)と呼ばれる経営統合プロセスを成功させることで、M&Aによるシナジー効果を最大限に引き出し、あなたの育てた事業がさらに大きく飛躍する姿を見ることができるでしょう。
▷関連:M&Aの流れを仲介会社が解説|中小企業の売却プロセス・進め方
注意点と失敗を避けるコツ
会社を売る決断は、新たな可能性を秘めている一方で、いくつかの注意点も存在します。これらのリスクを事前に把握し、適切な対策を講じることで、後悔のないM&Aにつなげることができます。
チェックリスト:
- 情報漏洩対策は徹底できていますか?
- 関係者への情報開示のタイミングと記録について考えましたか?
- 連帯保証や担保解除の段取りを把握しましたか?
- 価格だけでなく、引継ぎ条件の重要性を理解しましたか?
- 表明保証・補償の範囲と上限について専門家と相談しましたか?
情報漏えいを防ぐ運用
「会社を売るかもしれない」という情報は、非常にデリケートです。情報が漏洩すると、競合他社に悪用されたり、従業員や取引先に不安を与えたりする可能性があります。そのため、M&Aの手続中は、情報の管理を徹底することが重要です。秘密保持契約の締結はもちろん、打ち合わせの場所や資料の保管方法、電子データの取り扱いにも細心の注意を払う必要があります。社内での情報共有も、するとしても最小限にとどめましょう。
関係者の段階的開示と記録
会社を売りたい考えを、誰に、いつ、どのように伝えるかは、M&Aの成否を左右する重要な判断です。M&Aの実施が決定するまでは、信頼できる幹部など、限られた関係者のみに情報を共有し、できるだけその記録を残しておくことが賢明です。そして、M&Aの成立や詳細な条件が決定したタイミングで、従業員や取引先などへ丁寧に説明を行い、周囲の不安を解消していきます。M&A後の透明性を持った対応が、円滑な関係維持につながります。
連帯保証・担保の解除の段取り
中小企業の経営者にとって、「会社を売りたい」と考える大きな理由の一つに、個人保証からの解放が挙げられます。会社の債務に対する経営者の個人保証は、事業の拡大を阻害するほどの大きなプレッシャーと思います。株式譲渡の場合、通常は譲受企業が負債を引き継ぐため、個人保証は解除されることが一般的です。M&Aの交渉段階で、解除のタイミングや手続についてしっかりと確認し、段取りを進めることが不可欠です。この重圧からの解放は、譲渡オーナーにとって計り知れないメリットとなるでしょう。
価格だけで決めない(引継ぎ条件の重要度)
会社を売りたいとき、譲渡価格は確かに重要な要素です。それはあなたの長年の努力の結晶ですから。しかし、価格だけで決断してしまうと、後悔につながることもあります。従業員の雇用、事業の継続性、譲渡後のあなたの関与度合い、そして譲受企業の経営方針や企業文化があなたの会社の従業員や事業と合致するかどうかなど、価格以外の引継ぎ条件も、あなたの会社の未来にとって非常に大切です。多角的な視点から慎重に見極めることが、大事です。
表明保証・補償の範囲と上限
会社を売る契約書に捺印する際、重要な条項の一つが「表明保証」です。これは、あなたが譲受企業に開示した情報(財務状況、法的リスクなど)が真実かつ正確であることを保証するものです。もし、表明保証に違反があった場合、譲受企業から損害賠償を請求される可能性があります。契約書に記載される補償の範囲や上限、つまり「どこまで責任を負うのか」について、M&A仲介会社と十分に協議し、リスクを理解しておくことが不可欠です。
▷関連:中小企業のM&A仲介とは?メリットとデメリット・費用相場・選び方
会社を売る費用と支払い
会社を売りたいと考えた時、M&Aにかかる費用はどのくらいなのだろう、と気になるかと思います。M&A仲介会社に依頼する場合、その報酬体系は様々です。費用構造を事前に理解しておくことで、安心して手続を進めることができます。ここでは、M&Aにかかる費用と支払いの実務について解説します。
チェックリスト:
- M&A業界の報酬体系(成功報酬、実費、成果物)を理解しましたか?
- 着手金や顧問料など、M&A手続途中で発生する費用の有無を確認しましたか?
- M&A成功のために、節約しない方がよい工程を把握しましたか?
見積の読み方(成功報酬・実費・成果物)
M&A仲介会社に相談する際、提示される見積には様々な費用項目があります。一般的には、M&Aが成立した場合に支払う「成功報酬」が大きな割合を占めますが、他にも、業務開始時に発生する「着手金」、月々に支払う「月額報酬」、資料作成などの「実費」や、特定の成果物に対して支払う「成果報酬」などが含まれることがあります。これらの費用は、依頼する専門家や案件の規模によって大きく異なります。契約前にしっかりと内容を確認し、不明な点は必ず質問しましょう。
着手金/途中費用の有無
会社を売りたいと考えていても、M&Aが必ず成立するとは限りません。そのため、初期費用を抑えたいと考えるのは自然なことです。M&A仲介会社の中には、着手金や月々の顧問料が不要で、M&A成立時にのみ成功報酬を支払う「完全成功報酬」の体系を採用しているところもあります。これは譲渡オーナーにとって大きなメリットになり得ます。ただし、完全成功報酬の仲介会社は、売却価格が大きい案件を優先する傾向があることも知っておくと良いでしょう。
節約しない方がよい工程
会社を売る上で、費用を抑えたい気持ちはよく分かります。しかし、費用を節約すべきでない工程も存在します。例えば、契約書作成に関わる弁護士への依頼は、ときに将来的なリスクを回避するために重要です。 表明保証条項や補償条項、価格調整メカニズムなど、譲渡オーナーの利益を守る条項の検討にはプロの知見が必要な場合があります。また、買い手が実施するデューデリジェンスに対して、譲渡オーナー側も独自に税理士や弁護士に相談し、指摘事項への対応策を検討することが場合があり、この場合も費用が生じます。もっとも、これらの費用は、専門性の高いM&A仲介会社を起用した場合には、彼らが助言してくれるでしょう。
▷関連:売り手のM&A手数料相場は高い?アドバイザリー費用を25社比較!
会社を売るときの税金と手取り
会社を売りたいと考えた時、最終的に手元にいくら残るのかは、誰もが最も気になる点ではないでしょうか。M&Aは、譲渡の形態(株式譲渡か事業譲渡か)や譲渡オーナーが個人か法人かによって、かかる税金の種類や税率が大きく異なります。税金の知識を事前にしっかりと身につけておくことは、あなたの資金計画を立てる上では重要です。
チェックリスト:
- 株式譲渡の税金と申告手続を理解しましたか?
- 事業譲渡の税金と資産区分の影響を把握しましたか?
- 退職金活用や分割受取の留意点について確認しましたか?
株式譲渡の税金と申告の段取り
会社の売り方として、譲渡オーナーである個人が自社株を譲渡した場合、譲渡益に対して所得税、住民税、復興特別所得税を合わせて約20.315%の税金がかかります。この譲渡益は、株式の譲渡価格から取得費やM&A仲介手数料などの必要経費を差し引いて計算されます。譲渡オーナーが法人である場合は法人税がかかります。いずれの場合も確定申告が必要になりますので、税理士に相談し、漏れなく進めることが重要です。
事業譲渡の税金と資産区分
会社の売り方として事業譲渡を選択すると、譲渡益に対して法人税がかかります。事業譲渡益は、譲渡価格から譲渡資産の簿価を差し引いて計算されます。また、土地以外の建物や機械設備、棚卸資産など課税対象の資産が含まれる場合は、譲渡オーナーが譲受企業から受け取った消費税を国に納める必要がありますので注意が必要です。譲受企業側にも印紙税や不動産取得税などがかかります。
退職金活用や分割受取の留意点
会社を売ったタイミングで、譲渡オーナーが会社から退職金を受け取ることもあります。退職金は、株式譲渡益とは税法上の扱いが異なり、所得税の計算上、優遇措置が受けられる場合があります。そのため、M&Aと合わせて退職金の支給を検討することは、税金対策として有効な手段の一つです。また、譲渡対価を一度に受け取るのではなく、分割で受け取る方法も考えられますが、それぞれに税務上の留意点があります。自身のライフプランや資金計画に合わせて、税務に強いM&A仲介会社と慎重に検討することが大切です。
▷関連:M&Aの税務|売り手・買い手の売却時の税金対策、個人法人別に解説
いくらで売れるかを見極める
会社を売りたいと考え始めた時、まず気になるのは「自分の会社は一体いくらで売れるのだろう」という点ではないでしょうか。会社の売却価格は、その後の人生設計にも大きく影響しますから、しっかり見極めることは非常に重要ですし、譲渡オーナーとしては当然の関心事です。ここでは、簡易的な算定方法と、会社の価値を上げるための短期的な施策について解説します。
チェックリスト:
- 簡易的な売却価格の考え方(純資産+のれん)を理解しましたか?
- 会社の価値を上げる短期施策(在庫、売掛金、契約の見直し)を確認しましたか?
簡易評価の考え方(純資産+のれん)
会社の売却価格は、一般的に「時価純資産額+営業利益の2年~5年分」が相場と言われています。年買法(年倍法)と呼ばれる評価方式になります。このうち「営業利益の2年~5年分」は「のれん」と呼ばれるもので、会社の将来性や収益力を評価する部分です。まずは、この簡易的な方法で、自分の会社の目安となる売却価格を把握してみると良いでしょう。ただし、これはあくまで目安であり、最終的な価格は様々な要因で変動することを忘れてはいけません。
価値を上げる短期施策(在庫・売掛・契約)
会社を売るなら、少しでも高く評価されたいでしょう。M&Aの検討を始める前に、会社の価値を上げるための短期的な施策に取り組むことは有効ですし、当社も推奨しています。例えば、不要な在庫の処分や、回収見込みのない売掛金の整理は、貸借対照表をスリム化し、財務状況を良く見せることができます。また、主要な取引先との契約内容を見直し、安定した収益性をアピールすることも、評価向上につながるでしょう。
▷関連:企業価値評価とは?流れ・費用・算定方法・M&A実務でのポイント
小規模・廃業懸念・赤字・債務超過でも売れるか
会社は売りたいけれど、自分の会社は小規模だし、そこまで高い金額は期待できないかもしれない…と諦めてしまう方もいるかもしれません。しかし、規模が小さくても、魅力的な事業や将来性があれば、M&Aは十分に可能です。ここでは、小規模・低価格帯の案件でも売却が実現する可能性について、具体的なケースとともに解説します。
チェックリスト:
- 小規模でも売却可能なケースの現実を理解しましたか?
- 廃業と比較した場合のM&Aのメリット・デメリットを把握しましたか?
- 赤字や債務超過でも会社が売れるケースを理解しましたか?
100万円で売れるケースの現実
会社を売りたいという思いはあっても、事業規模によっては売却価格が低くなることもあります。実際に、100万円といった低価格で会社が譲渡されるケースも存在します。これは、事業そのものに魅力や将来性があり、譲受企業にとって「投資する価値がある」と判断される場合に起こり得ます。特に、譲受企業が欲しい特定のノウハウや商圏がある場合など、金額だけではない価値が評価されることもあります。例えば、特定の地域の顧客網や、専門的な技術を持つ職人がいる場合などです。
廃業との比較(費用と所要期間)
会社を売ることと対極にある「廃業」と比較することは重要です。廃業には、設備の処分費用や解散・清算の手続費用がかかるだけでなく、従業員の雇用を維持できないという大きなデメリットがあります。M&Aであれば、譲渡益を得られる可能性があり、従業員の雇用も維持できるため、廃業費用をかけずに済む点でメリットが大きいと言えるでしょう。廃業の手続自体にも時間と労力がかかりますので、総合的に検討することが大切です。
赤字・債務超過で売れる可能性
会社を売りたいが、今は赤字経営で債務超過だから…と悩んでいる方もいるかもしれません。しかし、赤字や債務超過だからといって、M&Aを諦める必要はありません。驚かれるかもしれませんが、赤字の会社でも売却が成立するケースは十分に存在するのです。譲受企業にとっては魅力的な要素となり得る場合があります。例えば、現在は赤字でも将来的な黒字化が見込める事業計画がある、特定の優れた技術やノウハウ、優秀な人材、あるいは特定の顧客基盤を持っている場合などです。譲受企業が「自社の経営資源を投入すれば、再生可能だ」と判断すれば、M&Aは十分に成立します。
▷関連:債務超過でもM&Aできる!赤字企業の2割が売却を検討・私的整理
許認可・個人情報の取扱い
売りたいと思っている会社が、許認可が必要な業種や、多くの個人情報を扱っている会社の場合、その取扱いには細心の注意が必要です。これらのデリケートな情報は、M&Aの手続に大きな影響を与える可能性があります。
チェックリスト:
- 承継に許可が必要な業種の注意点を把握しましたか?
- 顧客の同意取得やデータ移転の実務について確認しましたか?
承継に許可が必要な業種の注意点
M&Aを進める際、建設業や医療、介護事業など、特定の許認可が必要な業種では、譲渡後に許認可を承継できるかどうかの確認が不可欠です。多くの場合、許認可は譲渡企業の法人格に紐づいているため、株式譲渡であれば比較的スムーズに承継できますが、事業譲渡の場合は新たな許認可の取得が必要になることもあります。これは意外と手間がかかるものです。事前に規制当局への確認を怠らないようにしましょう。
顧客の同意・データ移転の実務
M&Aでは、顧客情報や個人情報の移転が伴うケースがほとんどです。この際、個人情報保護法に基づき、顧客からの同意が必要となる場合があります。特に、事業譲渡で個別契約の承継が必要な場合や、個人情報の利用目的が大きく変わる場合などには注意が必要です。専門家と協力し、法的に問題のない形でデータの移転を進める実務的な対応が求められます。情報漏洩のリスクも鑑み、厳重な管理体制で準備を進めましょう。
相談先の選び方(チェックリスト)
会社を売りたいと考えた時、誰に相談すれば良いのか、その選び方はM&Aの成否を大きく左右します。信頼できる専門家を見つけることが、あなたの会社を良い形で託すための第一歩です。ここでは、M&Aの相談先を選ぶ際の重要なポイントを解説します。
チェックリスト:
- 仲介会社に向く案件・向かない案件の違いを理解しましたか?
- M&A専門家との面談時に聞くべき10の質問(実績、体制、守秘など)を把握しましたか?
仲介会社に向く案件/向かない案件
M&A仲介会社は、会社を売りたいと考える経営者の強力な味方です。幅広いネットワークと専門知識で、譲受企業探しから交渉、クロージングまで一貫してサポートしてくれます。特に、売り手と買い手の双方と契約する仲介モデルは、中立的な立場でM&Aをサポートするため、個人事業主や中小企業による会社売却に適しています。ただし、大手企業による大規模な会社売却や、上場企業の非公開化など場合は、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の方が適していることもあります。
▷関連:FAとM&A仲介の役割・業務の違い|アドバイザリーとは
専門家との面談で訊くべき10問
会社を売るに際してのM&A専門家との面談は非常に重要です。その専門家が本当に信頼できるのかを見極めるために、ぜひ以下の10問を尋ねてみてください。
- あなたの会社や担当者のM&A実績は豊富ですか?特に私の業界や規模の案件経験はありますか?
- あなたの会社には、公認会計士や税理士などの専門資格を持つ人は在籍していますか?
- 担当者のM&Aに関する経験年数と、M&Aチームの体制について教えてください。
- 貴社の報酬体系(成功報酬、着手金、月額顧問料など)の詳細と、それらがどのように発生するかを説明してください。
- 譲受企業の具体的な探し方(マッチング手法)と、そのプロセスを教えてください。
- 平均的な成約率を教えてください(成約率が低い会社はマッチングが難しい案件を放置する傾向)。
- デューデリジェンスの際、貴社はどこまで関与し、どのようなサポートを提供しますか?
- 最終契約書作成のサポート範囲と、弁護士との連携について教えてください。
- 交渉中にトラブルが発生した場合、貴社はどのように対応しますか?
- M&A後の財産管理(運用、節税、相続対策)のサポートは可能ですか?
▷関連:2025年版【M&A仲介会社一覧】上場・非上場・会計系を紹介
スピードを上げて早期成約する方法
会社を売ると決断したら、時に迅速な対応が求められることもあります。業績が好調な時期を逃したくない、あるいは事業承継を急ぎたいなど、スピード感を重視したいと考える経営者もいらっしゃるでしょう。M&Aのプロセスをスピーディーに進め、無駄な時間を減らすための現実的な方法を解説します。
チェックリスト:
- 資料整備と社内決裁の短縮化について検討しましたか?
- 譲受候補のターゲット選定と打診順序について考えましたか?
資料整備と決裁の短縮
会社を売るために動いている状況でスピードを上げるには、何よりも資料整備を迅速に行うことが重要です。決算書や契約書などの必要書類を事前に準備しておくことで、デューデリジェンス等の時間を短縮し、交渉をスムーズに進めることができます。また、社内の意思決定プロセスを簡素化し、主要な決裁を短期間で行えるようにしておくことも、全体のスピードアップにつながります。
効果的な買い手候補の見つけ方と打診戦略
会社を売りたい気持ちから先走りして、手当たり次第に声をかけようとする経営者がいらっしゃいます。しかし、実はそれが遠回りになることもあります。候補先の選定とアプローチの順番をしっかり計画することが、結果的に迅速な売却につながるのです。
やみくもな打診は逆効果
たくさんの会社に一斉に打診すると、情報が不用意に広まったり、交渉が複雑になったりする恐れがあります。本当に興味を持ってくれる会社と、集中して話を進める方が、誠意が伝わりやすく、交渉もスムーズに進みます。
相性の良い相手を見つける
実績・経験が豊富なM&A仲介会社は、あなたの会社の強み(独自の技術、優良な顧客リスト、優秀な人材など)を評価し、それを最も必要としている「相性の良い」買い手候補をリストアップしてくれます。例えば、あなたの会社の技術を使えば新製品を開発できる、といった具体的なメリットがある相手が理想的です。
打診の順番も戦略的に
リストアップした候補の中から、最も可能性が高い「本命」の会社から順に、一社ずつアプローチするのが基本です。これにより、相手企業は「自分たちが特別に選ばれた」と感じ、真剣に検討してくれます。複数の会社と同時に交渉すると、競争で価格は上がるかもしれませんが、調整が複雑になり、かえって時間がかかることが多いのです。
▷関連:M&A仲介会社の比較|信頼できるアドバイザーを選ぶポイント
M&A成約事例のインタビュー
みつきコンサルティングがM&A仲介(一部はFA)したオーナー経営者様のインタビューを以下のページで紹介しています。

みつきコンサルティングのM&A成約実績を見る|ご成約した譲渡オーナー様の体験談
よくある質問|会社を売りたいケースに関するFAQ
会社 売りたいと考える経営者の皆様からよくいただくご質問にお答えします。ここでは、あなたの疑問を解消し、M&Aへの理解を深めるためのQ&Aを集めました。
会社を売りたいと思ったら、まずはM&A仲介会社に相談することが一般的です。自社の状況を分析してもらい、売却の可能性や適切な方法についてアドバイスを受けることから始めましょう。同時に、あなたの希望条件の整理や必要書類の準備を進めることが大切です。専門家の知見を借りることが、後悔のないM&Aへの第一歩です。
「会社 売りたい」という情報を周囲に知られないためには、情報管理の徹底が非常に重要です。M&A仲介会社との秘密保持契約(NDA)締結はもちろん、社内では限られた信頼できる幹部のみに情報を共有し、コードネームを使用するなどの対策を講じましょう。情報開示のタイミングも専門家と綿密に計画することが不可欠です。
「会社 売りたい」手続は、一般的に準備から完了まで半年から1年ほどかかります。これはあくまで目安であり、交渉が難航したり、デューデリジェンスに時間がかかったりすると、さらに長期化する可能性もあります。そのため、時間に余裕を持ってM&Aの準備を進めることが大切です。決して焦らず、しかし着実に進めることが成功につながります。
「会社 売りたい」際に必要となる主な書類は、商業登記簿謄本、定款、株主名簿、直近3期分の決算書一式、月次試算表、組織体制図、役職員名簿、就業規則、雇用契約書サンプル、主要取引先との契約書、許認可証、不動産関連資料など多岐にわたります。これらはM&A仲介会社を通じて譲受企業に開示され、デューデリジェンスで詳細に確認されます。早めの準備が円滑な手続の鍵です。
「会社 売りたい」という場合、たとえ売却価格が100万円という低価格であっても、売却できる可能性は十分にあります。譲受企業にとって、その事業が持つ特定のノウハウや顧客基盤、ブランド力などに価値を見出すことができれば、金額以上のメリットがあると判断されることがあります。小規模な案件でも、諦めずに専門家にご相談ください。
「会社 売りたい」という状況が赤字であっても、売却は可能です。譲受企業が、赤字の原因を解消できると判断したり、将来的な黒字化が見込めると評価したりする場合、または特定の技術や優秀な人材に魅力を感じれば、M&Aは成立します。現在の財務状況だけで諦めず、まずは専門家に相談し、会社の潜在的な価値を見出してもらうことが重要です。
「会社 売りたい」場合で、許認可が必要な業種(例:建設業、医療、介護)は、許認可の承継について事前に確認が必要です。株式譲渡なら比較的スムーズですが、事業譲渡では新たな取得が必要なケースもあります。M&A仲介会社や行政書士と連携し、法令遵守の上で手続を進めましょう。複雑な手続になることもあるので、専門家のサポートは不可欠です。
「会社 売りたい」という事実を従業員に伝えるタイミングは非常に重要です。基本的には、M&Aの成立や詳細な条件が決定した後、経営者から直接、丁寧に説明することが最善です。従業員の雇用や待遇が悪化しないことを伝え、不安を解消することが、M&A後の円滑な経営統合につながります。従業員の理解と協力は、事業継続の重要な要素です。
「会社 売りたい」M&A手続において、手付金は一般的には発生しませんが、M&A仲介会社との契約で着手金が必要な場合があります。また、基本合意書や最終契約書には、独占交渉権の違反や表明保証違反などがあった場合の違約金や損害賠償に関する条項が盛り込まれることがありますので、契約内容を十分に確認しましょう。
「会社 売りたい」場合、譲渡契約には「競業避止義務」が盛り込まれることが一般的です。これは、譲渡後一定期間(会社法では最長20年、特約で30年まで有効な場合もありますが、通常は5~10年程度が多いです)、同一または競合する事業を行わないという義務です。新たな事業計画がある場合は、契約内容を慎重に確認し、専門家と相談することが大切です。
「会社 売りたい」際の税金対策は、M&Aの検討を始めた早い段階から着手することをお勧めします。M&Aのスキーム選定や、譲渡オーナーの資産状況によって最適な税金対策は異なります。M&A仲介会社や税理士などの専門家と相談し、譲渡益の税金、退職金の活用、事業譲渡の場合の消費税など、総合的な視点から計画を立てることが重要ですし、私もこの段階での相談を重視しています。
「会社 売りたい」と考える際の相談先は、実績の豊富さ、専門性(公認会計士、税理士の在籍など)、報酬体系の明確さ、そして何よりも信頼できる担当者であるかが重要です。複数のM&A仲介会社や会計事務所に相談し、無料相談などを活用して、比較検討することをお勧めします。相性も大切ですから、じっくり選びましょう。
会社を売りたい経営者のまとめ
「会社を売りたい」という決断は、経営者にとって非常に大きな一歩です。後継者不在の課題解決、事業の新たな成長、そして経営者の新たな人生への道など、M&Aは多くのメリットをもたらします。しかし、情報管理や税金、交渉など、注意すべき点も少なくありません。事前の準備と信頼できる専門家との連携が、M&A成功の鍵を握ります。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業のM&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。会社を売ることを検討される際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
-
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
2025年9月5日事業承継での転廃業支援|SBI新生銀行グループが支援するM&A型廃業とは
2025年9月5日銀行系投資会社とは?事業承継の新たな選択肢!特徴や注意点を解説
2025年9月4日経営資源集約化税制とは?M&Aに利用できる減税措置の内容・要件
2025年9月2日会社を売りたい|最短で進める準備7項目・手順・必要書類・注意点