M&Aの人事デューデリジェンス(買収監査・企業調査)・PMI(統合プロセス)を解説

M&Aでは、譲渡側が持つ事業や資産、設備などとともに、人材も譲受側に移行します。M&Aの多くで課題になりやすいのが、人事面の手続きです。人事面への配慮が不足したことで、人材が流出し、M&Aが失敗に終わるケースも少なくありません。

この記事では、事業の継続を希望する経営者に向けて、成功するM&Aのポイントを人事面から解説します。M&A成就のヒントとして、ご活用ください。

1.M&Aにおいて人事手続きは重要

事業の高度化が進むなか、多くの企業において、優秀な人材の確保が課題として挙げられています。そのため、M&Aそのものが、人材の獲得を目的に行われるケース少なくありません。企業価値に占める人材の割合が高くなりやすい中小企業においては、特にその傾向が顕著です。

しかし、M&Aで人材を獲得しても、人事手続きの未熟さゆえに人材が流出してしまう場合もあります。M&Aの成否は、人事面にかかっているといっても、過言ではありません。従業員1人ひとりに対する細やかな配慮と手続きが、M&Aを成功に導きます。

2.M&Aにおいて必要な人事手続き

M&Aで配慮したい人事手続きは、人事デューデリジェンス(買収監査・企業調査)と人事PMI(統合プロセス)の2つです。以下でそれぞれについて解説します。

人事デューデリジェンス(買収監査・企業調査)

人事デューデリジェンス(買収監査・企業調査)とは、譲受側が譲渡側の人事制度およびマネジメントを詳細に調査することです。M&Aの最終契約前に、問題点・課題を発見するために行います。人事デューデリジェンスの調査内容は、以下のとおりです。

・組織風土

・組織構造

・人件費

・採用および育成制度

・労働契約

・労働組合

・給与

・福利厚生

人事PMI(統合プロセス)

PMI(統合プロセス)は、M&A最終契約後に行う経営統合プロセスです。具体的なマネジメント方法を決定し、統合後の経営を円滑に進めるために実施します。人事PMIとは、PMIのうち人事面に関する工程を指します。人事PMIは、主に以下の項目に関して行われます。

・人員配置の見直し

・職務および決裁権限の見直し

・ルールの変更

・関係各所に対する説明会

3.M&Aにおける人事デューデリジェンス(買収監査・企業調査)の進め方

M&Aの人事デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は、細やかな配慮をしながら進めなければなりません。ここでは、目的と対象、注意点の観点から、進め方について解説します。

人事デューデリジェンスの目的

人事デューデリジェンスは、M&A成立後の人事リスク回避が目的です。人事デューデリジェンスによってM&Aによるリスクが明確になれば、人事PMI(統合プロセス)に反映できます。事前に回避手段を講じることができて、新体制での経営を円滑にスタートできるでしょう。

人事デューデリジェンスにより、従業員のモチベーション低下や人材流出、トラブル発生も防げます。

人事デューデリジェンスの対象

人事デューデリジェンスの対象領域は、多岐にわたります。主に人材に関する領域ですが、財務や法務、ITなど、他のデューデリジェンスと重複する場合もあります。

譲渡側を人事面から調査することで初めて見つかる問題もあるため、多方面からのアプローチを心がけてください。

人事デューデリジェンスの注意点

人事デューデリジェンスは、M&Aスキームによって承継方法が異なる点に注意します。合併、または会社分割によるM&Aは、労働契約をはじめとする従業員の権利義務も譲渡されます。潜在的な問題点がないか、調査が必要です。

事業譲渡では、労働契約の再締結が必要です。勤続年数や有給取得日数などの承継に、注意しましょう。

4.M&Aにおける人事PMI(統合プロセス)の進め方

M&Aにおける人事PMIは、どのように進めていくべきでしょうか。ここでは、進め方について具体的に解説します。

人事PMIの必要性

人事PMIの必要性は、以下の2点に集約できます。

・M&Aによるシナジー(相乗効果)の発揮

・人事面のリスクを回避と人材流出防止

人事PMIは、緻密な工程です。人材配置や給与体系など、従業員への配慮と円滑な経営を両立させなければなりません。適切な人事PMIは、M&Aの成否を握るポイントともいえます。

人事PMIの目的

人事PMIの目的は、M&Aに伴う人事面の移行を円滑に進めることにあります。具体的には、以下の3つです。

・従業員のモチベーション向上

・統合後の体制に即した人材の再配置

・M&Aによるシナジー(相乗効果)の発生

M&Aの目的や労働条件・企業風土の変化を従業員に納得させ、不満を回避する狙いもあります。

人事PMIの内容

人事PMIの実施内容から、主な項目は以下のとおりです。

・組織と人材材配置の最適化

・人事システムや業務フローの統合

・人事および労務関係法令への対処

・内部規程の変更

譲渡側の従業員と譲受側の企業との信頼関係を構築する大切な機会です。従業員を集めた説明会や個別面談を積極的に実施し、理解を深めます。

人事PMIの注意点

人事PMIは、従業員の働き方や心理状態に直接影響を与えます。安心感と労働意欲の醸成のためには、十分な説明と丁寧なコミュニケーションが必要です。労働環境や制度の変更は、従業員が強い不安を感じるポイントです。勤務地や年金制度の変更、新システムの導入などは、綿密に人事PMIを進めましょう。

5.人事PMI(統合プロセス)を成功させるポイント

人事PMIは、M&A成功の鍵を握るともいえます。ここでは、ポイントを2つ、解説します。

経営陣がリーダーシップを発揮する

M&Aが従業員の士気を低下させないよう、経営陣がリーダーシップを発揮して人事PMIを進めます。人事PMIの実行適任者は、譲渡側の経営陣です。譲渡側の企業内部を熟知しており、従業員からの信頼も厚いためです。

譲受側にPMI経験者がいれば、人事PMIを担当させても良いでしょう。

信頼関係を構築する

人事PMIの成功には、譲渡側と譲受側の相互理解が大切です。対等な関係性で互いを深く理解できるよう、密なコミュニケーションを心がけましょう。人事PMIは、人事制度や業務システムなどのハード面だけに注力すると、失敗する可能性があります。従業員の気持ちをくみ、譲渡側の企業文化など、ソフト面にも十分な配慮が必要です。

6.M&Aをアドバイザーに依頼するメリット

「M&Aは社内人材だけで進められる」「M&Aは自社で何とかできる」と思われがちですが、M&Aの成功には、M&Aアドバイザーの協力が不可欠です。ここでは、M&Aのアドバイザーに依頼するメリットについて解説します。

人事部の負担を軽減する

M&Aが行われる際には、人事部に大きな負担がかかります。作業内容が煩雑で工数が多く、当初の想定以上に人員と手間が必要になる場合もあります。アドバイザーが譲渡側と譲受側を仲介することで、M&Aも日常業務も滞りなく進められるでしょう。

コミュニケーションが円滑になる

M&Aアドバイザーは、譲渡側と譲受側、関係各部署の連携もサポートします。多忙なM&A局面でも、必要なコミュニケーションを円滑に進められます。人事PMI(統合プロセス)の煩雑な手続きも、アドバイザー主導で進められます。

不要なトラブルを回避できる

M&Aの専門家であるアドバイザーに依頼すると、不要なトラブルを回避できます。契約書の不備や内容の確認、契約内容と関係法令の照合なども確実に進められます。万が一のトラブル発生時にもアドバイザーが対応するため安心です。

7.M&Aの相談はみつきコンサルティングへ

M&Aに欠かせない人事デューデリジェンス(買収監査・企業調査)・人事PMI(統合プロセス)に関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。みつきコンサルティングには、経営コンサルティング経験者が数多く在籍しています。対象企業の詳細な事業分析や、シナジー(相乗効果)創出を期待できる候補先の紹介を強みとしています。

8.まとめ

M&Aでは、事業や資産の移転が注目されがちですが、M&Aの成功とシナジーの発揮には、人事面への配慮が欠かせません。人事デューデリジェンスや人事PMIは、M&A後の人材流出や士気低下を防ぐために、大きな役割を果たします。

みつきコンサルティングは、事業所内承継や親族内承継など、さまざまな視点から事業継続の方法をご提案します。税理士グループの強みを活かし、M&Aに伴う相続対策にもワンストップで対応します。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人