事業再構築補助金を利用したいけど、M&Aを行う際に利用できるのかわからない方も少なくないでしょう。事業再構築補助金は、事業の再構築のために活用できますが、M&Aにかかる全ての費用をカバーする補助金ではないことに注意が必要です。
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金とは、中小企業の事業再構築を支援し、日本経済の構造転換を促す補助金です。元々はコロナ禍で打撃を受けた企業を支援する目的で開始されましたが、現在は幅広い企業が対象となっています。いまも新型コロナ禍の影響に苦しく企業だけでなく、事業再編や新規事業進出、業態転換を目指す全ての企業が利用できる制度です。
補助対象者と上限額・補助率
事業再構築補助金の補助金額は、従業員数や資本金、企業規模(中小企業、中堅企業など)で申請枠の種類が異なります。補助率は1/3~3/4、補助上限額は100万円~1.5億円と幅広いのが特徴です。また、最低補助金額が設定されている点も押さえておきましょう。低額な補助事業の場合は、対象外となるケースがあります。
事業再構築要件とは
事業再構築補助金を利用するためには、中小企業庁が事業再構築指針で示す「事業再構築の定義」に該当する必要があります。事業再構築の定義は、以下の5つです。
- 新市場進出:既存事業とは異なる市場への進出
- 事業転換:主たる事業の変更(業種は変更なし)
- 業種転換:主たる業種の変更
- 事業再編:組織再編「新市場進出」「事業転換」「業種転換」のいずれかを行う
- 国内回帰:海外製造から先進性を有する国内製造へと拠点を整備する
▷関連:事業承継とはマッチング!後継者不在が50%超・手順・失敗と成功例
M&Aにおける事業再構築補助金
事業再構築補助金がM&Aで利用できるなら、利用を検討したいところです。両者の関係について説明します。
M&Aとは
M&Aとは、「企業の合併・買収」を意味する言葉です。場合によっては提携(業務提携・資本提携)を含む場合もあります。M&Aの主な手段は、「買収(株式取得、事業譲渡)」「合併」「分割」の3種類に分類されます。
M&Aを実施する目的
M&Aは、シナジー(相乗効果)による成長戦略として行われます。企業をゼロから立ち上げるよりもスピーディな展開で、新規事業への参入や事業の強化、シェア拡大、顧客の獲得を実現することが可能です。また、後継者不足による事業継承の問題を解消し、雇用の継続を可能にする目的で、M&Aを行うケースもあります。
▷関連:会社のM&Aとは何か?方法・価格・利点と欠点・流れを簡単に解説
事業再構築補助金はM&Aで利用できる?
事業再構築補助金事務局が発表する事業再構築補助金の「公募要領」には、次のような記載があります。そのため、M&Aによって事業再構築に該当する事業を展開し、成長性が見込まれれば事業再構築補助金が利用できます。
事業再編 「会社法上の組織再編行為(合併、会社分割、株式交換、株式移転、事業譲渡)など補助事業の開始後に行い、新たな事業形態のもとに新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業転換、業種転換のいずれかを行うことをいう。 」 |
▷関連:M&Aの相談先はどこが良い?税理士・銀行・仲介会社の違い
M&Aで事業再構築補助金が利用できる場合
ここでは、M&Aで事業再構築補助金が利用できるケースについて解説します。
手続などM&Aに要する経費は対象外
事業再構築補助金の公募要領には、株式の購入費や公租公課は補助対象外であると明記されています。
また、補助対象になる経費は、「補助事業の実施期間内に、補助事業のために支払ったこと」を確認できるものに限られています。つまり、交付決定より前に発注(契約)した経費は補助の対象外です。事業再構築補助金の交付決定前にM&Aを実施する場合は、事前着手届出制度を活用する方法もあります。
事業再構築補助金はM&A成立後の経費に活用できる
事業再構築補助金の補助対象とするには、事業拡大につながる事業資産(有形・無形)への相応の規模の投資を含む必要があります。主に、建物費、設備費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関与経費、広告宣伝・販売促進費、研修費などが補助対象です。
補助金に該当しない費用もあるため、事前の細かいチェックが必要です。
▷関連:事業承継にかかる費用|承継先による違い、税金・専門家報酬など
M&Aを実施する事業計画が採択されるためのポイント
M&Aを実施する事業計画が採択されるためのポイントについて解説します。
事業計画作成は支援機関を利用する
事業再構築補助金は、延べ40,000件を超える申請がありますが、その内採択されたのは約17,000件と、全ての申請が通るわけではありません。
M&Aで事業再構築補助金を利用するためには、いかに申請が通るような事業計画を策定するかが重要です。事業計画書で検討が必要な13個の重要トピックでは、生産性とシナジー(相乗効果)を確実にカバーする必要があります。事業計画書を自社で作成したあとに、支援機関による内容チェックを受けて、必要な内容が全て網羅されているかを確認しましょう。
参考:中小企業庁担当者に聞く「事業再構築補助金のポイント」 | 経済産業省 中小企業庁
コロナ禍の影響による売上の減少と緊急性をアピールする
補助金の申請理由については、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するためであることを強調しましょう。コロナの影響による深刻な現状を伝え、緊要性・必要性をアピールします。説得力のある積算根拠を明記し、補助事業での投資が何年で回収できるかを記載しておきましょう。
M&Aで「事業再構築」を行うことを明記する
事業再構築補助金の申請では、再構築の内容や事業化の妥当性・実現性などが審査されます。そのため、抱えている課題を明確にし、その解決方法だけではなく、代替案も一緒に記載することが必要です。M&Aの時期や契約についてしっかりと明言し、取り組み内容やその効果も必ずセットで記載しましょう。
▷関連:事業承継計画書とは?必要な理由(業務・税制・融資)・雛形の記入例
事業再構築補助金の申請手順
ここからは、事業再構築補助金を申請する際の手順について詳しく解説します。申請にはある程度の期間を要するため、早めの対応がおすすめです。
1. GビズIDプライムアカウントの取得
まず、「GビスIDプライムアカウント」を取得します。事業再構築補助金の申請は、電子申請システムのみでの受付となっているためです。GビスIDは、法人・個人事業主向け共通認証システムであり、社会保険の電子申請などさまざまな行政サービスで使用できます。申請書と印鑑(登録)証明書を郵送し、約1週間程度で受け取ることが可能です。
2. 事業計画の策定
次は、事業計画の策定を行います。事業計画書には決められたフォーマットがなく、作成には時間を要するでしょう。早めに着手することをおすすめします。
提案書の様式は、A4サイズの計15ページ以内(補助金額1,500万円以下は計10ページ以内)で、以下の4項目について作成します。
- 補助事業の具体的な取り組み内容
- 将来の展望(事業化に向けて想定している市場および期待される効果)
- 本事業で取得する主な資産
- 収益計画
また、「認定経営革新等支援機関」からの確認書も必要であるため、この段階での「認定経営革新等支援機関」への相談が推奨されています。
3. 申請の提出
事業再構築補助金の申請に必要な書類は、次のとおりです。
- 事業計画書
- 認定経営革新等支援機関・金融機関による確認書
- 決算書(直近2年間の賃貸対照表、損益計算書(特定非営利活動法人は活動計算書)、製造原価報告書、販売管理費明細、個別注記表)
- ミラサポplus「電子支援サポート」の事業財務情報
- 従業員数を示す書類
- 収益事業を行っていることを説明する書類
さらに、事業類型ごとに追加の提出資料が必要なケースもあります。
▷関連:事業承継の相談先は税理士・公認会計士がおすすめ!選び方・費用相場
M&Aで事業再構築補助金以外に活用できる補助金
M&Aで活用できる補助金は、事業再構築補助金だけではありません。ここでは、M&Aの手続きにかかる費用や委託費が対象となる補助金について解説します。
事業承継・引継ぎ補助金(M&Aの手続費用が対象)
事業承継・引継ぎ補助金は、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3事業を対象としています。この3事業のうち、「専門家活用事業」は、M&Aで委託したデューデリジェンス(買収監査・企業調査)費用などが補助対象です。
譲渡側(売り手支援型)、譲受側(買い手支援型)両方の中小企業が対象で、その補助率は経費の2/3以内(売り手支援型にて要件に該当しない場合には1/2以内)です。補助上限額は300万円、補助下限額は50万円で、補助限度額を下回る申請は受け付けていません。また、廃業費の場合は、上限額が150万円に設定されています。
▷関連:事業承継・引継ぎ補助金とは?補助金制度の概要や種類、交付決定率、注意点について解説
東京都事業承継支援助成金(M&Aの委託費が対象)
東京都事業承継支援助成金は、中小企業や個人事業主が円滑に事業承継を行うための支援を目的としています。事業承継に関連する専門家費用や、事業承継後の新しい取り組みに必要な費用などが助成対象になります。後継者未定の事業区分の場合は、M&A仲介業者などとの契約締結に要する経費(成功報酬は対象外)も対象経費に含まれます。最大で、200万円(申請下限額は20万円)のM&A関連費用が助成されます。
東京都独自の制度ですが、他の自治体でも事業承継に関する助成制度が存在する場合があります。
▷関連:事業承継税制とM&Aの関係|利点と欠点・要件・手続とは
事業再構築補助金と事業承継のまとめ
事業再構築補助金は、新分野展開や事業転換などの思いきった「事業再構築」への挑戦を支援するものです。事業再構築補助金への申請が採択されるためには、生産性とシナジー(相乗効果)が確実にカバーされた内容の事業計画書の提出が必要になります。
事業再構築補助金やM&Aなどでお悩みの方は、みつきコンサルティングにお任せください。クライアントそれぞれに合わせた具体的なアクションプランを計画し、再生計画の策定から現場での実行支援までの総合的な事業再生・承継サービスを提供します。M&Aでの事業再構築補助金などの支援制度の利用を検討中の方は、ぜひ一度ご相談ください。
著者
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
- 2024年11月18日増加する「IT業界のM&A」で2025年の崖を解決できる?
- 2024年11月17日M&Aニーズの高い人気業種6選!業界別の動向・成約事例も紹介
- 2024年11月17日社員への株式譲渡|社内承継は増加・目的・課題・リスク・方法とは
- 2024年11月17日事業譲渡で社員はどうなる?雇用契約・人員調整・退職金・注意点とは