環境デューデリジェンスとは|必要な具体例、流れ、注意点を解説

環境デューデリジェンスとは、譲受企業が対象企業の所有する用地の環境面のリスク(土壌汚染リスクや排気廃水、遵法性など)を多角的に調査・分析を行い、M&Aにおける意思決定や譲渡条件に反映させる重要な調査をいいます。もともとデューデリジェンス(Due Diligence / DD)とは、M&Aなどにおける対象企業に関する徹底的な調査を意味する用語です。

Dueは「然るべき」「相当の」という意味で、Diligenceは「努力」「配慮」という意味をもち、相当の配慮、すなわち精査、適正評価となります。デューデリジェンスの対象は、財務、法務、事業、労務、環境など多岐にわたります。環境デューデリジェンスはその一部として重要視されており、実務においても度々実施されます。本記事では、環境デューデリジェンスの主な目的や調査対象となる項目、進め方について解説するとともに、実施時に留意すべきポイントについても詳しく説明します。

環境デューデリジェンスの概要

環境デューデリジェンスは、対象会社の用地等を環境面から多角的に調査・分析します。対象会社の事業活動などによって土壌等の周辺環境へ悪影響を及ぼし、そのリスクが顕在化した場合には、企業価値評価に反映させる必要があります。そのため、適切な環境デューデリジェンスを行って、環境リスクの有無を明らかにすることが重要です。この節では、環境デューデリジェンスが求められる状況について具体的な事例を紹介します。

環境デューデリジェンスが求められる場合

環境デューデリジェンスは、対象会社の環境リスク(土壌汚染リスクや排気廃水、遵法性など)を適切に評価することを目的とした調査であり、以下のような場面でその必要性が高まります。

  • 大気汚染防止法等に規定された届出対象となる施設を保有している場合
  • 水質汚濁防止法等に規定された届出対象となる施設を保有している場合
  • 水質汚濁防止法に基づく特定施設がある、特定有害物質を使用しているなど土壌汚染防止法等の調査・報告を要する場合
  • 廃棄物(特に産業廃棄物)を施設内等で管理・処理する必要がある場合
  • 施設内設備の運転などで騒音・振動が発生している場合
  • 化学物質、危険物を施設内等で保管・管理する必要がある場合
  • 施設、設備が古く有害物質(PCB、アスベスト等)の使用可能性がある場合

環境デューデリジェンスは、譲受企業が対象企業の環境リスクを分析することで、統合後に社会的責任を遵守しながら事業を継続運営できるかどうかを判断する重要なプロセスといえます。

環境デューデリジェンスの目的

環境デューデリジェンスの主要な目的は、対象会社の環境問題に対するリスクを可視化し、その影響を数値化することで企業価値、ひいては投資判断そのものを適切に評価することにあります。M&Aが完了した後に、対象会社の環境対策の瑕疵によって、周辺住民や従業員等への健康被害の発生が露見した場合には、譲受企業にとっても賠償責任リスクや健康被害を生じさせた企業であるというレピュテーションリスクがあるからです。

M&A後の環境問題に対処するための事前準備

デューデリジェンスは、M&A後のトラブルを未然に防止する目的で実施されるものです。特に環境問題に関しては、成立後に重大な瑕疵が判明した場合、追加調査や問題解決のための対策、修復工事などによって想定以上にコストが必要になる場合もあります。廃棄物や環境汚染の対策費用は高額であることが一般的であり、事後的なトラブルが譲受企業にとって大きな負担となり、重大なリスクとなることがあります。場合によっては、譲り受けたものの、対象企業の事業を継続することが難しいこともあるかもしれません。環境デューデリジェンスは、これらのトラブルを防ぐために実施されるものです。

環境デューデリジェンスでの調査項目

環境デューデリジェンスにおいて重要な調査項目は、概ね以下の3つのカテゴリに分類されます。

  • 法的調査:法的規制の有無や法的解釈の判断に関するもの
  • 物理的調査:土地や建物、施設の状況調査や周辺環境調査など
  • 経済的調査:環境リスクが生じた場合の原状回復費用等のコスト算定

物理的調査の主要項目は、以下のような項目が挙げられます。

  • 土壌汚染対策法上の特定有害物質
  • ダイオキシン類
  • アスベスト汚染・アスベスト廃棄物
  • PCB汚染廃棄物
  • ホルムアルデヒド等
  • 産業廃棄物
  • 地盤不良・基礎不良
  • 液状化 など

これらの調査は、土壌汚染調査技術管理者・環境計量士・作業環境測定士・技術士・建築物石綿含有調査者などの専門家を有する環境計量証明機関などによって行われます。環境デューデリジェンスの調査範囲は、対象企業の事業内容や状況によっても異なるため、確認したい項目に応じて調査範囲が広がり、費用も増加します。

環境デューデリジェンスの流れ

環境デューデリジェンスは、通常約1.5~3か月程度の期間をかけて実施されるプロセスであり、適切な調査を行うために、土壌汚染調査などは以下の流れに沿って進めることが一般的です。短期間で効果的な調査を実施し、M&A後の企業価値を確保することが目的となります。

資料調査・ヒアリング

用地形状がわかる資料を参照し、登記簿謄本等をもとにその用地の使用履歴を調査します。使用履歴から対象用地が工場用地だったことが判明した場合は、使用物質や廃棄物の処理方法などを確認します。そのうえで対象用地の所有者や管理者へのヒアリングも実施し、過去に土壌汚染調査や対策工事が行われたかどうかを問い合わせます。事実があれば、当時の調査報告書等の提出も求めます。

実地調査・詳細調査

実地調査では、対象用地の表層土壌の試料を採取し、土壌汚染の可能性を調査します。もし実地調査の結果、土壌汚染が確認された場合や土壌汚染の可能性がある場合には、詳細調査に進みます。詳細調査では、ボーリング調査(鉄の筒を打ち込み地質などを調査する手法)を実施し、深部の土壌汚染の状況を確認します。また、地下水や地盤に関する調査もこのタイミングで行います。

土壌等の汚染対策

譲受企業は、一連の調査を通して確認された環境リスクに対して、その対策費用を算定することが求められます。対策費用が発生する、もしくは発生する可能性がある場合には、そのリスクの度合いに応じて以下のような方策を取ることになります。

  • 想定される対策費用を譲渡条件に反映させる
  • 表明保証条項に盛り込む
  • 保険に加入する
  • M&Aからの撤退

環境デューデリジェンスは、リスク回避のみならず、統合後の事業成長や経営効率を最大化するためにも必要なプロセスです。適切に環境デューデリジェンスを実施することでM&Aを成功に導くことができます。

環境デューデリジェンスの費用相場

環境デューデリジェンスの費用は、50万円程のケースもあれば300万円を超えるケースもあり、大きな幅があります。その理由は、実施する項目や範囲が多岐にわたり、費用もそれぞれのケースに応じて大きく変わるためです。なお、環境デューデリジェンスに関連する費用は、その他財務・法務・事業デューデリジェンスなどと同様に、一般的に譲受企業が負担します。

環境デューデリジェンスを実施する際の注意点

環境デューデリジェンスの調査は、環境汚染や有害物質、廃棄物などの性質・特性に関する技術的、専門的な情報を調査する重要なプロセスです。仮に汚染物質が拡散してしまった場合には、周辺住民や従業員への健康被害なども想定されます。

環境汚染調査の特殊性とよく問題となるポイントについて、以下に示します。

  • 素人では考えにくい想定外の箇所から汚染・廃棄物が検出されることがある
  • 調査・対策範囲の確定が難しい
  • 汚染原因の特定が難しい
  • 汚染調査・対策にかかる時間・費用を正確に見積もることが重要
  • 行政機関によって対応が異なることがある

環境デューデリジェンスのまとめ

環境問題が脚光を浴びる現代において、M&Aを実行する際に譲渡企業が抱える環境リスクを把握することは重要です。そのため、環境デューデリジェンスという調査手法が不可欠となります。将来にわたり環境汚染が発生するリスクを詳細に検討し、事前にその影響を評価することで、統合後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

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著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人