M&Aの検討時には、「IPO」という選択肢も考えられます。それぞれの特徴やメリット・デメリットを把握し、適切な選択を実施することが自社の利益につながります。本記事では、M&AとIPOの違いと、それぞれのメリット・デメリット、現在主流のハイブリッド型のイグジット(出口戦略)について解説します。
IPOとは
IPOとは「Initial Public Offering」の略称で、「新規株式公開」を意味します。株式市場に株式を公開し、一般投資家に売り出す方法です。証券取引所に上場することで、以降は誰でも自社の株を取引できるようになります。IPOは資金調達としての有用性だけでなく、ベンチャー企業やスタートアップ企業にとっての、成長戦略としても活用されています。
国内外におけるM&AとIPOの割合
経済産業省「大企業XスタートアップのM&Aに関する報告書」を参考にすると、IPOとM&Aの割合はアメリカでは、約1:9となっており、M&Aが圧倒的に多いのが現状です。M&Aによるメリットを多くの企業が活用し、事業の成長や利益拡大に活用していると想定されます。一方で日本では、約7:3でIPOが多い結果になっています。
しかし、「MARRonline」によると、国内のM&Aの件数は増加していて、2022年には2年連続で最高値を更新しています。今後は日本国内でも、M&Aが主流になる可能性があります。
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M&AとIPOの主な違い
M&AとIPOには、以下の点で違いがあります。
売却額:M&Aは金額が確定するが、IPOは公開するまで明確な金額が分からない
必要な時間:M&Aは交渉次第でスムーズに成約できるが、IPOは数年単位の時間がかかる
売却のしやすさ:M&Aには、IPOのように証券取引所の審査や内部管理体制の構築が必要ないため、事業の売却がしやすい
上記のように、売却額の決まり方、計画が完了するまでの時間、売却のしやすさなどの面において、M&AとIPOにはさまざまな違いがあります。主な違いを把握したうえで、M&AとIPOのどちらを選択すべきか判断するとよいでしょう。
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IPOのメリット・デメリット
企業がIPOを実施することには、さまざまなメリット・デメリットがあります。
上場のメリット
以下では、IPOによる主なメリットを解説します。
スムーズな資金調達が実現できる
IPOは企業にとって、スムーズな資金調達の方法となり得ます。IPOによって証券市場からの投資が行われるため、資金調達の手段が増えて事業活動に必要な資金の確保がしやすくなります。また、上場後は金融機関からの借入に対し、経営者個人保証を付ける必要がなくなる点もメリットです。
社会的な信用度を高められる
IPOをきっかけにして、企業の社会的な信用度を高められることもメリットの1つです。資金調達力と信用度が高まることで、融資も受けやすくなる可能性があります。社会的な信用度が高まると、取引先が増えるなどの成果にも期待でき、さらなる事業拡大につながるケースも見込めるでしょう。
採用活動にもメリットがある
社会的な信用を獲得することで、採用活動が円滑に進む可能性も高まります。人材不足が問題となる社会において、雇用を充実させられる点は大きなメリットになり得ます。従業員を増やすことで、新事業の立ち上げなど、さまざまな計画を立案できるようになります。企業の可能性を広げられることも、IPOのメリットです。
上場のデメリット
IPOにはメリットも多いですが、その分いくつかのデメリットもあります。以下では、IPOのデメリットについて解説します。
IPOの実現には時間がかかる
IPOの実現には、長い準備期間が必要です。最低3年程度の時間がかかることが多く、10年近い時間をかけたケースもあります。このように、短期的な効果は見込めない点は、デメリットであるといえるでしょう。早急な資金調達が必要な場合や、事業拡大のチャンスを逃したくない場合には、IPOは不向きな方法となる可能性があります。
IPOにかけたコスト(費用)が無駄になることもある
IPOには時間がかかるため、その間に市場の動向や商品・サービスの需要が変化することもあります。IPOの準備が整っても、時期が悪いと中止になるケースも考えられます。IPOにかけたコスト(費用)が無駄になるリスクがある点も、デメリットの1つです。一般的には5,000万円/年~程度の上場コストがかかるため、企業にとって大きな損失となります。
参考:IPOの費用|上場準備・上場時・上場後それぞれの費用目安|ネクスパート法律事務所
経営者の責任が増大する
IPOによって投資家の資金を運用する形になると、当然経営者の責任が増大します。ときには責任説明を果たしたり、ディスクロージャー(経営内容の開示)に備えたりする必要もあります。経営方針や事業活動の自由度が、IPOの前よりもなくなる可能性はデメリットになり得ます。
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M&Aのメリット・デメリット
IPOとは異なる点で、M&Aには多くのメリット・デメリットがあります。
M&Aのメリット
以下では、M&Aならではのメリットについて解説します。
スムーズな事業の譲渡を実現できる
M&Aは交渉が上手くいけば、スムーズな事業の売却を実現できます。基本的に素早くキャッシュ(現金)が手に入る点が、メリットになります。売却までの時間や手間を削減するために、信頼できるM&A仲介会社に依頼して、サポートしてもらう方法もおすすめです。
M&Aは事前準備にかかる時間も短い
M&AはIPOと比較して、事前準備にかかる時間も短いです。数か月程度の準備期間で十分な場合も多く、コスト(費用)もそれほど必要とならない点がメリットです。なるべく早く資金を確保したいケースでも、M&Aにメリットがあります。
小規模の事業でもM&Aで譲渡できる可能性がある
小規模の事業でも、M&Aで売却できる可能性があります。M&Aの譲渡額の幅は広く、個人が少額で譲受するケースも珍しくありません。小規模の事業でも計画しやすい点は、M&Aのメリットの1つです。
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M&Aのデメリット
M&Aにもメリットだけでなく、注意すべきデメリットがあります。以下では、M&Aにおけるデメリットについて解説します。
M&A後は経営から離れることになる
M&Aでは事業をバイアウト(譲渡)するため、経営から離れることになる場合もあります。事業に思い入れがあると、M&Aの決心がつかない可能性も懸念されます。その後も経営に携わりたい場合には、その旨を含めた交渉が必要です。交渉の成功につなげるには、M&A後も経営に携わるメリットを具体的に提示するとよいでしょう。
既存の従業員の雇用に影響が出る可能性がある
M&Aによって事業が統合されると、既存の従業員の雇用に影響が出る可能性があります。従業員によっては、M&Aに納得できず退職するケースも想定されるでしょう。従業員の雇用に関してきちんと取り決め、雇用を維持できるように努める必要があります。同時に従業員ともM&Aについて話し合い、メリットや今後の流れを確認しておくことも重要です。
交渉相手が見つからないケースもある
M&Aでは、交渉相手が見つからないケースもあります。条件にマッチした交渉相手が見つからないまま時間が経過し、最適な時期を逃してしまう可能性も懸念されます。M&Aマッチングサービスや、M&A仲介会社を利用するなどの工夫が必要です。
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近年の動向(スタートアップからスケールアップへ)
設立間もない会社を「スタートアップ」企業と呼びますが、それから成長してネクストステージにいる状況の会社を「スケールアップ」企業といいます。一般に、スケールアップ企業とは、立ち上げから数年ほどで急激な規模拡大をしている企業を指すことが多いです。
スケールアップを目指す成長性の高い企業の中では、IPOは出来るにも拘わらず、敢えてM&A(資本参加の受け入れが多い)を選ぶ企業が増えています。
資金調達先の多様化
成長期待の大きい企業の場合、海外やCVC(事業会社による自己投資)、ファンドといった先からの資金調達が可能な状況になっています。例えば、SaaS(クラウド経由でソフトウエアを提供するサービス)企業の中には、海外から資金を集めて成長する企業があります。
大型IPO狙い
日本のIPOの小型化が問題となっていますが、成長意欲の高い企業経営者は、小粒な状態でIPOしても調達できる資金が少ないことを知っています。それよりも、いったん外部資本を受け入れた上で大きく成長し、ゆくゆく大型上場として大きな資金調達を目指します。
スイングバイIPO
スイングバイIPOは、大企業の支援を受けて成長したスタートアップが、後に独立して上場を目指す新しい成長モデルです。以下では、このハイブリッド型のイグジット(出口)戦略を紹介します。
スイングバイIPOとは
大手企業によるM&A(合併・買収)をいったん受け入れたうえで、新規株式公開(IPO)を目指すスタートアップが増えています。この手法は「スイングバイIPO」と呼ばれ、単純なIPOやM&Aとは異なる「第3の出口戦略」として注目されています。スイングバイIPOを選択することで、スタートアップはじっくりと時間をかけて成長することができ、大手企業との協業のチャンスも得られます。このような成長戦略が、将来的に広く定着することが期待されています。
スイングバイIPOの由来
スイングバイIPOの由来は、惑星の引力を利用して探査機を加速させる宇宙用語にあります。これは、大手企業の力を借りてスタートアップが成長していく姿を表現しています。この名称は日本発祥であり、具体的なモデルケースも存在します。2024年3月に約600億円の時価総額で東証グロースに上場したソラコムがその一例です。ソラコムは、KDDIのスタートアップ協業プログラムの支援を受け、成長を後押しされました。この「スイングバイIPO」という呼び名は、ソラコムの社員が考案し、KDDIも賛同して広まった経緯があります。
スイングバイIPOは第三の出口戦略
ソラコムの成功は、スタートアップにとって新たな選択肢となりました。これまでスタートアップが出資者の利益を確定して成長に一区切りを付ける「出口戦略」は、単独でのIPOか大企業の傘下に入るM&Aの二択が一般的でした。日本では経営の独立性を重視してIPOを選ぶ企業が約8割とされていますが、投資資金の回収を急ぐベンチャーキャピタル(VC)の期待により、企業価値が小さいまま上場してしまうことが多く、その後の成長戦略の欠如や資金不足で伸び悩む「小粒上場」の問題が指摘されてきました。
従来の出口戦略とスイングバイIPOの比較
従来の出口戦略としては、単独でのIPOと大企業の傘下に入るM&Aの二つが一般的でした。しかし、スイングバイIPOはこれら二つの中間的な性格を持っています。M&Aで大手企業の傘下に入っても、合意の上で経営の独立性を守りながら将来のIPOを目指すことができるという利点があります。このような手法は、スタートアップにとって大手企業のリソースを活用しつつ、自社の独立性を保持できる新たな成長戦略となります。
スイングバイIPOのメリット・デメリット
スイングバイIPOのメリットは、将来のIPOを容認しつつ、大企業とスタートアップがそれぞれの強みを生かして成長を加速させる点にあります。この手法は日本企業と非常に相性が良いとされています。他方で、いわゆる親子上場の問題は、日本固有の資本市場の問題として従来から指摘されてきたところです。親子上場の是非の議論を踏まえつつ、当事者固有の事情に照らして、スイングバイIPOの選択を採用するかどうかを検討することになるでしょう。
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M&Aの相談は「みつきコンサルティング」がおすすめ
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M&AとIPOの違いのまとめ
企業にとって資金調達や成長戦略の一環となるM&A・IPOは、重要な施策として捉えられています。それぞれの特徴を把握し、計画を立案することで、大きな成果を出すことにも期待できるでしょう。この機会にM&AとIPOの違いを確認し、それぞれの計画について具体的に考案してみてはいかがでしょうか。M&Aを実施する際には、「みつきコンサルティング」にご相談ください。
みつきコンサルティングは完全成功報酬型であるため、成約に至るまで費用がかかりません。さまざまな分野のプロがチームを組んでサポートするため、あらゆる課題に対処ができます。まずはお気軽に、M&Aについてお問い合わせください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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