負債とは、将来の支払義務を総称したものです。事業承継の際には負債も後継者に引き渡されるため、負債が大きいと事業継承を阻む要因となることがあります。記事では、負債の意味や債務超過に伴うリスクについて解説します。また、事業承継における負債の取り扱いや事前に実施できる対策についても触れています。
負債とは
負債とは、広い意味で企業が将来支払わなければならない債務を指します。法律的・税務的な確定債務のみならず、引当金等の会計上の将来支払義務も含む概念です。
負債は「流動負債」と「固定負債」に分けられます。流動負債とは、未払金や買掛金など、支払期限が比較的短期間(支払い期限が1年以内に到来)の負債を指します。一方、固定負債は長期借入金や社債など、支払期限が1年以上の負債を指すものです。
事業を展開する上で、負債は避け難いものとなっています。例えば、商品を掛け売りで仕入れた際には「買掛金」が発生し、土地の購入代金の一部が未払いであれば「未払金」という形で負債が生じます。このように、金融機関などからの借入以外にも、事業を行う上では様々な負債が発生します。
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負債が増え過ぎると債務超過になる
債務超過とは、企業が負担する債務の金額が、その企業が保有する資産の金額を上回る状態を指します。貸借対照表で負債と資本を合計した金額が資産の金額となりますが、債務超過の場合、負債の金額が資産よりも大きく、資本の金額がマイナスになります。言い換えると「会社のすべての資産を負債の返済に充てても、負債を返済しきれない状態」です。
債務超過に陥ると信用が悪化し、金融機関からの新規融資が困難になり、借入金の早期返済を求められるケースもあります。この状態が長く続くと、キャッシュフローが悪化し、会社の継続が困難となってしまう可能性もあります。
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赤字が続くと債務超過になる
「債務超過」と「赤字」は、よく似たイメージをもたれることがありますが、両者は異なる意味を持っていますので、区別することが重要です。
赤字は、損益計算書において当期の純損益がマイナスになっている状態を指します。一方、債務超過は前述の通り、貸借対照表で負債が資産を上回る状態を指します。当期の収益が赤字であっても、負債を上回る資産を保有している企業であれば債務超過とは見なされません。逆に、債務超過の状態であっても、当期の営業成績が良好であれば黒字となる可能性もあります。
要するに、赤字は1つの事業年度における収益のマイナスを示しているのに対し、債務超過は一時点における企業全体の資本がマイナスになる状態を指します。企業が得た利益は利益剰余金として純資産に加算されますが、一方で赤字になると利益剰余金が減少し、純資産も減少します。つまり、赤字の状態が続くことで純資産がマイナスとなり、株主資本を調達しない限り、債務超過となります。
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事業承継と負債の関係
中小企業の経営者が事業承継を検討する際、「負債がどのように扱われるのか?」、「後継者にどう影響するのか?」といった問題が気になるでしょう。この記事では、中小企業の事業承継において負債がどのように問題となるかを解説します。
負債も承継される
事業承継を行う際には、経営権や自社株式、事業用資産などの他に、負債や金融借入(個人保証)も後継者に引き継がれることになります。
例えば、金融機関からの借入金がある場合、後継者は事業承継後も契約通りに返済を続ける必要があります。収益が安定していれば問題ありませんが、返済資金が不足している場合は、資産売却などの対策が求められることもあります。このようなリスクを回避するためには、事業承継前に経営改善を行い、負債や金融借入をできるだけ減らすことが重要です。
連帯保証も承継されることがある
事業承継において、負債だけでなく経営者個人が連帯保証人になっていることも注意が必要です。中小企業では、金融機関からの融資時に経営者自身が連帯保証人になることが多く、事業承継時にはこの連帯保証問題が大きな課題となります。
事業承継時には、後継者が金融機関から連帯保証の引継ぎを求められることがありますが、保証契約は経営者個人と金融機関の間の契約であるため、後継者が必ずしも連帯保証を引き継ぐわけではありません。また、事業承継時に先代経営者の連帯保証が自動的に解除されるわけではなく、契約の解除などをしなければ、先代経営者の保証が残ることもあり得ます。
こうした問題を解決するため、国では「経営者保証に関するガイドライン」に基づく支援策が実施されています。これを利用して、取引金融機関と相談することで連帯保証の解除が可能となる場合もあります。
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負債対策を事業承継前に行う
事業承継後の経営安定化には、事業承継前の負債対策が非常に重要です。この記事では、事業承継における負債対策について、具体的な方法やポイントを詳しく解説します。
資金繰りの改善に取り組む
負債問題を解決するためには、会社の資金繰りを改善し、負債の軽減を図ることが重要です。具体的な方法としては、以下のようなものが考えられます。
- 販路拡大や商品単価アップに取り組み、売上高を増加させる
- 自社の商品ラインナップを見直し、利益率の高い商品に経営資源を集中させる
- 固定費や原価の削減を図る
- システム導入による人件費削減などの経費削減を進める
これらの方法によって会社の財務体質を改善し、収益を向上させることができれば、事業承継後の経営の安定性が向上します。
遊休資産の売却を行う
企業内に遊休資産が存在する場合、それらの売却も一つの選択肢となります。遊休資産とは、事業用資産として取得されたが、事業の変更や新たな機械の導入により使用や稼働が停止した資産を指します。具体的には、使われていない土地や建物、機械やソフトウェアなどが該当します。
遊休資産の売却益を負債返済に充てることで、負債が減少します。
DESやDDSの手法を活用する
DES(デット・エクイティ・スワップ)とDDS(デット・デット・スワップ)は、負債を圧縮するための手法です。
DESは、債務を株式に転換することで負債を資本に変える方法です。DESを利用することで、負債が減少し、純資産(資本)が増加することから、自己資本比率が向上するメリットがあります。
一方、DDSは、負債を劣後ローンに借り換える手法です。一定の要件を満たす劣後ローンは金融機関から資本として扱われることがあるため、金融機関による評価が向上する可能性があります。劣後ローンとは、他の債権に比べて優先順位が低いローンを指します。
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過剰債務を抱えるときの事業承継のポイント
過剰債務を抱えた会社の事業承継は、後継者にとって経営上のリスクが伴います。事業承継に向けて慎重な検討と対策が求められます。
分社化による対策
過剰債務を持つ会社の事業承継においては、分社化も選択肢の1つとして有効です。これは、収益性の高い部分だけを切り離し、新たな会社を設立することで、過剰な債務を引き継がずに事業承継を行える手法です。この方法により、後継者は収益の良い部門を中心に経営を行うことができ、事業承継後の負担も軽減されます。
分社化を実現するためには、事業譲渡や会社分割(新設分割・吸収分割)といった方法があります。ただし、残った負債は元の会社に返済義務が残るため、経営者による弁済、あるいは破産手続などで返済義務を解消します。しかし、その際債権者は分社化の無効を訴えることができます。
近年問題視されている事項の一つであるため、分社化を検討する際は必ず専門家に相談することをお勧めします。
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事業再生による対策
事業再生とは、債務超過などの困難な状況に陥った会社が、事業を大幅に改革し、廃業・清算せずに、収益力のある事業へと再建するプロセスを指します。
過剰な負債を抱えているものの収益力がある中小企業は少なくなく、国はこのような企業の事業再生支援や円滑な事業承継を促進する目的で、「事業承継・引継ぎ補助金」を実施しています。
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事業廃業を選択肢とする場合
経営改善が見込めないほどの過剰債務が存在する場合、事業承継ではなく事業廃業も検討が必要です。事業廃業の手続は、株式会社と個人事業主の場合で異なる点に注意が必要です。
株式会社の場合、廃業に際しては「解散」および「清算」が必要となります。株主総会で特別決議を経て解散を決定し、解散登記を行った後、清算手続や債権者保護手続などを行います。
なお、個人事業主の場合は、「個人事業主の開業・廃業等届出書」を税務署に提出し、関連する行政機関で手続を行うだけで廃業が完了します。
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資産と負債の把握と早期対応が重要
事業承継においては、会社や個人事業の財務状況の把握が重要です。特に、過剰債務を持つ会社を承継する場合には、資産と負債の状況を正確に理解しておく必要があります。
中小企業では、経営者の個人資産と会社資産が混在しているケースが多く見られます。このため、会社の負債を正確に把握するためには、個人資産と会社資産を明確に区別して管理することが重要です。
さらに、負債の圧縮や遊休資産の売却、DESやDDSの実施には時間と労力がかかります。会社の財務状況を正確に把握した上で、早期に事業承継に取り組むことが望ましいです。
負債と事業承継のまとめ
負債は将来の支払いが必要となる債務であり、多額の負債が経営に大きな影響を及ぼすことがあります。事業承継を検討する際、後継者に負担をかけないようにできるだけ負債を減らした状態で引継ぐことが望ましいです。負債を圧縮する方法として、以下のような手段が考えられます。
- 売上高を増加させて資金繰りを改善する。
- 遊休資産や不要な資産を売却して負債を返済する。
- 相談やサポートを受けて事業の経営状況を把握し、適切な対策を検討する。
- 収益性の高い事業を分社化し、その企業を承継することで負債を回避する。
これらの方法を活用し、負債を適切に管理しながら事業承継を行うことが、経営の安定や後継者への負担軽減に繋がります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
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著者
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
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