株式贈与による事業承継|譲渡・相続との違い、流れ、メリットとは?

生前贈与で株式を贈与すると、受贈者側には贈与税がかかります。贈与の際には、どの程度の税金が発生するのかについて把握しておくとよいでしょう。この記事では、贈与税の算出方法や贈与税の種類、生前贈与で株式を贈与するメリットやデメリットについて解説します。贈与税以外に株式譲渡にかかる税金についても解説するので、参考にしてください。

株式の贈与とは、譲渡・相続との違い

以下では、株式の贈与と譲渡・相続には、どのような違いがあるのかを解説します。

株式の贈与とは

株式の贈与とは、経営者が生前に後継者へ株式を渡す方法です。贈与をする際には、贈与契約があったことを証明する、贈与契約書を作成する必要があります。譲渡とは異なり、贈与は無償で行われます。

一般に、贈与による自社株の承継は、相続とともに親族内承継でのみ採用される手法です。ただ、オーナー経営者の生前に自社株を承継しようとすれば、贈与か株式譲渡を採用することになります。

株式の譲渡とは

株式譲渡とは、経営者が株式を対価と引き換えに譲渡する方法です。譲渡する株式と引き換えに、金銭を受け取るのが一般的です。第三者ではなく、親族や社内の従業員に譲渡する場合でも、金銭のやり取りが発生することがあります。

株式の相続とは

株式の相続とは、経営者が亡くなった後に、遺言や遺産分割協議などによって、後継者に対して株式を譲渡する方法を指します。一般的に、配偶者や子どもが法定相続人となるため、家族へ株を譲渡することが可能です。

株式贈与のメリット

株式の贈与には、さまざまなメリットがあります。ここでは、3つのメリットについて解説します。

生前贈与が活用できる

株式を贈与するメリットは、生前贈与を活用できる点です。経営者が亡くなってから株式を相続すると、株式以外の資産も相続することになり、相続税が高くなる可能性があります。そのため、生前贈与のほうが金銭的なメリットが大きいといえるでしょう。また、存命中に暦年贈与をすれば、相続税の負担も抑えられるのもポイントです。

基礎控除が活用できる

贈与で得られるメリットとして、基礎控除が活用できることが挙げられます。基礎控除とは、所得税額の計算をする場合に、総所得金額などから差し引ける控除の1つです。贈与税にも基礎控除があり、年間110万円までの贈与は非課税となります。例えば、暦年贈与で、毎年110万円以内で数年間に分けて株式贈与すれば、受贈者の課税負担が減らすことが可能です。

後継者に引き継ぎやすい

株式を贈与するメリットは、後継者に引き継ぎをしやすくなる点です。贈与者が亡くなるまでの間、相続時精算累進制度を活用すると、将来的に株価が上がったとしても相続税への影響はありません。

相続時精算累進制度は、累計2,500万円までの財産贈与が非課税になります。60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに財産を贈与するときに選択できます。

株式贈与のデメリット

株式の贈与には、メリットだけではなくデメリットもあります。以下で詳しく解説します。

贈与税を負担する必要がある

株式に限らず、資産を贈与された場合には贈与税がかかります。一度に多額の贈与をすると、課税される贈与税額も大きくなり、税負担がデメリットになるでしょう。また、株式の時価が高いと贈与税も多額となります。贈与額が多額になるにつれて負担が大きくなる点に注意が必要です。

相続争いや会社の乗っ取りが起こる可能性がある

相続人のなかに株式の贈与に納得していない人がいる場合、トラブルに発展することがあります。暦年贈与の途中で先代の経営者が亡くなった場合、残りの株式について、他の相続人にも相続する権利が発生します。そのため、贈与をきっかけとしたトラブルが起こりやすくなります。

また、譲渡制限株式の譲渡請求が可能である場合は、将来的に後継者が株式を喪失する可能性もあるでしょう。

株式贈与の流れ

ここでは、株式を贈与する手順について解説します。

1.株式譲渡に制限がかけられているか確認する

株式を贈与する際には、株式の譲渡に関して制限が設けられているか否かを確認しましょう。株式譲渡制限会社の場合は、株主の独断による株式の譲渡譲受はできません。

制限が設けられているのは、株主の独断で自由に株式を動かせると、第三者に自社の株式を大量に購入される可能性があるためです。多くの株式を持っている人が、株主総会で議決権を行使し、経営者を解任するといった問題が起こるリスクもあります。

2.株式譲渡承認請求の対応について通知する

譲渡制限がかけられている場合は、株式譲渡承認請求を会社に対して提出します。株式譲渡承認請求書には、株式の種類や株式数、譲り受ける後継者の氏名などを記載しましょう。

3.決議内容を通知する

株式譲渡承認請求書を受け取ったら、株主総会や取締役会で判断を下します。株式の受贈が認められるためには、株主総会を通さなければなりません。これは、株主総会が会社の再興意思決定機関であるためです。ただし、取締役会を設置している場合は、取締役会で判断を下せます。

請求から2週間経過しても通知がない場合は、自動的に承認されたと判断される点に注意が必要です。

4.株式贈与契約書を締結する

株主総会あるいは取締役会で、株式贈与の承認が下りたら、譲渡側と受贈側で株式譲渡契約を結びます。契約の際、生前贈与の場合には、贈与契約書を利用しましょう。譲渡譲受の場合には、譲渡日や代金、支払い方法などを具体的に記載した書類を利用します。

5.株主名簿の書き換え請求をする

株式が贈与された後には、会社の株主名簿を書き換える手続きを進めます。贈与者と受贈者は、会社に対して共同で株主名簿書換請求をします。ただし、株券交付会社の場合は、受贈者のみで請求可能です。なお、株券不発行会社である際には、株主名簿の書き換えによって受贈の完了となります。

贈与税がかかる

贈与税には、相続時精算課税と暦年課税があります。いずれも基礎控除額は110万円です。相続時精算課税では、基礎控除額(110万円)を控除したうえで、特別控除(最高2,500万円)の適用がある場合は、その金額を控除した残額に、20%の税率を乗じて贈与税額を算出します。

暦年課税は、基礎控除額(110万円)を控除した残額に、一般税率又は特例税率の累進税率を適用して贈与税額を算出します。

※参考:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁

株式譲渡を採用した際の税金

株式を譲渡する際には、譲渡所得税がかかります。譲渡所得税は、譲渡をする人が個人か法人かによって計算方法が異なります。

  • 譲渡者が個人:譲渡所得などの金額×20.315%
  • 譲渡者が法人:譲渡所得などの金額×約30.315%

譲渡所得の計算方法は、以下のとおりです。

  • 譲渡で得た金額-株式取得費用-手続きに要した費用

また、法人が譲渡側の場合は、法人税がかかります。法人譲渡益は総合課税方式により、株式譲渡益以外の損益と通算され、合計金額に対して所得金額に応じ29~42%の課税率で算出されます。税率に幅があるのは、年度によって適用される法人税や、法人の規模により適用される法人税率が変わることがあるためです。

個人が株式贈与した場合の税金

個人が株式を贈与した場合に、どのような税金がかかるのかについて解説します。

法人に贈与したとき

法人が受贈者であり、時価で株式を贈与した場合は、譲渡側には譲渡益に対して譲渡所得税がかかります。ただし、受贈者に税金はかかりません。ただし、時価より低い価額で取引した場合、受贈者は時価と譲渡価額の差額分を寄付されたとみなされ、寄付金課税が適用される点に注意が必要です。

時価より高い価額で受贈すると、譲渡側が差額分の寄付を受けたとみなされ、寄付金課税が適用されます。

個人に贈与したとき

個人に対して株式を贈与するケースでは、譲渡価額と時価との関係によって課せられる税金が変わります。通常は、譲渡所得に対して譲渡所得税がかかります。この場合、受贈者への所得税の課税はありません。また、時価より低い額の場合は、みなし贈与とされて、差額に贈与税が発生します。

法人が株式贈与した場合の税金

ここでは、法人が株式を贈与した場合にかかる税金について解説します。

個人に贈与したとき

法人から個人への株式を贈与した場合は、条件によって課せられる税金が変わります。条件は、以下のとおりです。

  • 譲渡価額と時価との関係
  • 受贈者が法人の役員であるか否か

譲渡側の法人には法人税、受贈者には所得税が発生します。個人の受贈者は、寄附金という所得を得たことになるため、贈与税ではなく所得税がかかります。

法人に贈与したとき

法人から法人へ株式を贈与する場合は、譲渡側、受贈者のいずれも、法人税がかかります。受贈者が財産を時価で贈与されたとみなされるためです。同様に、譲渡側にあたる法人も、財産を時価で渡したとみなされます。

株式贈与の節税方法

株式の贈与でかかる税金を減らすには、どのようにしたらよいでしょうか。以下で解説します。

贈与税の特例制度を利用する

株式の贈与を受ける場合、中小企業がその事業を円滑に承継できるように定められた特例制度があります。贈与の際には、この制度を活用しましょう。後継者である受贈者が、認定を受けている非上場会社の株式などを贈与で取得した場合、一定の要件を満たせば、贈与税の納税を猶予または免除されます。

生前贈与を利用する

贈与をする際には、生前贈与の利用も選択肢に入れましょう。生前贈与は年間110万円まで非課税のため、相続税の負担が減らせます。相続税精算課税制度は、贈与時より相続時の株価が下がっている場合、相続税の圧縮にはつながりません。また、暦年贈与では、相続開始前3年以内に贈与した財産は、贈与者の相続財産に足し戻されて、相続税の課税対象になりません。

株式贈与のまとめ

贈与や譲渡によって株式を相手方に渡すと、受贈者側には贈与税が発生します。贈与を検討する際には、どの程度の税金がかかるのかを把握しておきましょう。損をしないためには、法律の専門家への相談をおすすめします。

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著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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