PMIとは|M&A後の経営統合を成功に導くポイントと失敗事例

PMIとは、M&A後の経営統合プロセスを指す言葉です。本記事では、M&A後の企業価値を最大化するPMIの重要性、その具体的な流れ、実践的な方法、成功へ導くための大切なポイント、そして過去の事例から学ぶべき教訓までを、分かりやすく解説いたします。

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M&A後の経営統合(PMI)とは

PMIは「Post Merger Integration」の略称で、M&Aが成立した後に行われる、経営や事業を統合していく大切なプロセスです。M&Aによる最大の効果を得るためには、このPMIが非常に重要になります。PMIをうまく進められるかどうかが、M&A全体の成功と失敗を左右すると言っても過言ではありません。単に2つの会社を1つにするだけでは、期待される相乗効果を引き出すことは難しいのです。

PMIのパズル:主要な統合項目

PMIの基本的な意味

PMIは、M&Aによって異なる会社同士が一緒になった後、新しい一つの組織として、経営の仕組み、事業の進め方、そして働く人々の意識までをスムーズに統合していく一連の作業を指します。例えば、新しい経営体制を考えたり、それぞれのITシステムを統合したりといった、多岐にわたる作業がPMIに含まれます。この統合プロセスが成功しなければ、M&Aの本当の意味での成功は難しいとされています。

PMIがM&Aに欠かせない理由

M&Aは、異なる会社が機能的に一つになることを意味します。そのため、統合をスムーズに進めるには、内部の管理体制を整えたり、従業員同士の不和を防いだりといった、綿密な経営統合が欠かせません。M&Aの後に業務が滞ることなく、順調に進むためには、統合後の明確なビジョン(理想の姿)、計画、そして方針を定めることが何よりも大切です。

シナジー効果を早期に実現する重要性

M&Aを行う目的の一つに、企業同士が持つそれぞれの良い特徴を組み合わせることで、単独では得られない「シナジー効果」を生み出すことが挙げられます。PMIは、このシナジー効果をできるだけ早く現実のものとするための有効な施策として広く認識されています。逆に言えば、PMIの計画をきちんと立てて具体的に実行できなければ、せっかくM&Aをしたのに、期待していた相乗効果を引き出せない可能性が高まってしまうのです。これは、M&Aの本来の価値を大きく損なうことになりかねません。

人材流失のリスクを減らす配慮

M&Aによって会社が一つになると、新しい環境に対して不安や不満を感じる従業員の方々が出てくることがあります。PMIは、そのような従業員の不安を和らげ、不満を解消するための施策を考え、実行していく上でも大きな役割を果たすプロセスです。例えば、新しい会社の企業理念や経営戦略を従業員一人ひとりに丁寧に伝え、浸透させることで、従業員の方々が新しい状況を受け入れる時間を与え、離職のリスクを減らすことができます。これは、大切なノウハウや人材が流出するのを防ぎ、新しい体制への移行を迅速に進めることにも繋がります。

内部統制をきちんと構築する意義

M&Aの契約が完了した後には、譲受企業のルールに合わせて、対象会社の内部管理体制をしっかりと整える必要があります。PMIの段階で内部統制の構築方法や方針をきちんと決めておけば、その後の環境整備を迅速に進めることが可能となります。もし内部統制の構築が遅れてしまうと、業務が滞ったり、様々な問題が発生したりするリスクが懸念されます。その結果、せっかくのシナジー効果が引き出せず、会社が損害を被ってしまう可能性も考えられます。

PMIの主な目的を理解する

PMIの最も大きな目的は、M&A取引が完了した後、統合された会社の価値を最大限に高めることです。この目的を達成するために、PMIにはいくつかの具体的な目標があります。これらを一つ一つクリアしていくことが、M&Aを成功へと導く道のりと言えるでしょう。

企業文化を融合させること

企業文化の融合は、異なる二つの組織を一つにまとめていく上で、非常に重要な要素です。会社にはそれぞれ独自の歴史や価値観、仕事の進め方があります。これらの文化の違いを深く理解し、共通の価値観を築き上げていくことで、従業員の方々が協力しやすくなり、統合された組織全体に一体感が生まれるのです。これが、新しい会社として力強く進んでいくための土台となります。

業務プロセスを統合すること

業務プロセスの統合は、会社全体の効率を上げ、生産性を高めることを目指すものです。M&Aによって重複する部門や業務があれば、それらを一つにまとめたり、より良い仕事の進め方(ベストプラクティス)を採用したりすることで、無駄をなくし、効率的な運営を実現します。これは、コストの削減にも繋がり、会社の利益を増やしていく上で欠かせない取り組みと言えるでしょう。

シナジー効果を創出すること

シナジー効果の創出は、M&Aを行う際の主要な目的の一つです。PMIを通じて、M&Aによって生まれる相乗効果を具体的に形にしていきます。例えば、二つの会社が一緒になることで、重複する業務を統合してコストを削減したり、お互いの顧客基盤や販売ルートを活用して売上を増やしたりすることができます。また、資金調達の費用を抑えたり、税金面でのメリットを活かしたりすることも、シナジー効果の一つとして考えられます。

リスクを最小限に抑えること

M&Aの後には、予期せぬ問題が発生する可能性もあります。PMIの段階で、そうしたリスクを事前に見つけ出し、それに対する対策を立てておくことが非常に重要です。これには、法律に関わるリスク、お金に関わる財務リスク、そして日々の業務に関わるオペレーショナルリスクなどが含まれます。事前にリスクを洗い出し、備えておくことで、M&A後のトラブルを未然に防ぎ、会社の安定した運営を守ることができます。

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PMIの具体的な進め方と手順

PMIのプロセスは、大きく分けて「準備段階」「実行段階」「評価とモニタリング」の3つの主要なフェーズで構成されています。それぞれの段階で適切な手順を踏むことが、M&A後の統合を成功させるための鍵となります。まるで登山に例えるなら、入念な計画を立て、一歩一歩着実に登り、そして定期的にルートや体力を確認するようなものです。

PMI成功への道のり:統合プロセス

1 統合方針を決める準備段階

M&A後のPMIは、M&Aの検討段階から始まると言っても過言ではありません。特に重要なのが、統合の「青写真」を描く準備段階です。この段階で、対象会社(売り手)と譲受企業(買い手)が協力して、M&A後の統合をどのように進めていくか、その大まかな方針を決めていきます。

デューデリジェンスで得た情報の活用

デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は、M&Aの価格や取引を判断するために、事前に譲受企業が対象会社に対して行う詳細な調査を指します。このデューデリジェンスで得られた情報は、M&A後の統合を進める上で非常に貴重な「羅針盤」となります。この情報を元に、統合を進める順番や手法、そしてどのくらいの速さで進めるかといった統合方針を、両社で綿密に話し合っていくのです。M&Aにおける経営統合の方針を決める際には、まず相手会社の情報をしっかりと収集し、それに合わせて必要な環境や設備の準備を進めておくことが基本となります。その上で、具体的な統合の進行方法や、中長期的な目標を定めるのが、この初期段階の重要な流れとなるのです。

シナジー効果の測定と目標設定

M&Aによって、どのようなシナジー効果が得られるのか。これを事前に具体的に測定し、数値で把握しておくことは非常に大切です。シナジー効果の測定結果を「指標」として、M&A後の目標を設定することで、より現実的で達成可能な効果を見込むことができます。経営統合した後も、PMIが計画通りに進められているかを常に確認するためには、KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に成果をチェックすることが欠かせません。まるで健康管理のように、定期的なモニタリングでPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回していくことが、統合の成功へと繋がるのです。

短期的な統合計画(ランディング・プラン)の立案

ランディング・プラン(統合作業の計画)とは、M&Aのクロージングからおよそ3ヶ月から6ヶ月程度の期間で、何を優先して行うべきかを決め、具体的なスケジュールを立てる方法のことを指します。PMIの計画を立てる際には、一般的に譲受企業と譲渡オーナーが協力し、このランディング・プランを詳細に決めていきます。この短期的な計画が、統合をスムーズにスタートさせるための大切な一歩となるのです。

中長期的な課題解決に向けた「100日プラン」

ランディング・プランと並行して、中長期的に発生が予想される課題の解決に関する計画も立てていきます。特に、クロージング後100日間のうちに解決すべき課題を洗い出し、具体的なアクションを考える「100日プラン」を設定することも一般的です。この100日間は、新しい組織が勢いをつけて進んでいくための大切な助走期間となります。この期間に基盤を固めることで、その後の長期的な統合も円滑に進みやすくなるのです。

2 計画を実行する段階

綿密な計画を立てた後は、その計画を実行に移す段階です。この実行段階こそが、PMIの真価が問われるフェーズと言えるでしょう。計画通りに進めることはもちろん重要ですが、現場で発生する様々な事態に柔軟に対応していく姿勢が求められます。

策定したプランの実行と検証の重要性

ランディング・プランと100日プランを策定した後、実際に統合プロセスに移行し、計画を実行していきます。この際、計画を実行するだけでなく、同時にその効果を検証することが極めて重要です。具体的な問題点や新たな課題、そして計画とのずれが生じていないかを常に洗い出し、必要に応じて計画の修正や改善を行う必要があります。これは、羅針盤を見ながら航海を進める船が、定期的に現在地を確認し、必要に応じて舵を切るのと似ています。

課題への迅速な対応と改善

統合プロセスを進める中で、予期せぬ問題や課題は必ず発生します。このような時、各部門の代表者が集まる「分科会」を週に一度など、短い間隔で細かく実施することが非常に効果的です。これにより、新たな課題や計画とのずれを早期に発見し、迅速に解決策を見つけて実行しやすくなります。問題の芽を小さいうちに摘み取ることで、統合プロセス全体が停滞することなく、スムーズに進行することが期待できるのです。

3 統合後の評価とモニタリング

M&Aの成功は、統合が完了した後の成果によって測られます。そのため、PMIの最後の段階として、統合後の「評価とモニタリング」が非常に重要な役割を担います。このステップでは、統合の進捗状況や実際に得られた成果を継続的に測定し、必要に応じて計画を修正していくことが求められます。

進捗と成果を測る指標の設定

統合後の評価とモニタリングを行う主な目的は3つあります。1つ目は統合計画がどこまで進んでいるかを確認すること。2つ目は、M&Aで期待していたシナジー効果がどの程度実現しているかを測ること。そして3つ目は、統合プロセスの中で発生した問題点や新たな課題を早期に見つけ出すことです。これらの目的を達成するためには、具体的な評価指標(KPI)を設定し、定期的に測定することが非常に重要になります。例えば、売上高や利益率といった財務的な指標、生産性やコスト削減率といった業務効率に関する指標、そして従業員の離職率やエンゲージメントスコアなど、多岐にわたる指標を用いて統合の成果を定量的に評価することが可能になります。

継続的な改善サイクルの確立

評価とモニタリングのプロセスは、単発で終わるものではありません。最も重要なのは、評価の結果に基づいて、迅速に行動を起こすことです。もし問題点が見つかった場合は、すぐに具体的な対策を立てて実行することで、統合プロセスの軌道修正が可能になります。また、この評価とモニタリングは、一度だけでなく、継続的に行うことが重要です。統合後1年、3年、5年といった長期的な視点で成果を測定し、必要に応じて戦略を見直すことで、M&Aの真の価値を実現することができます。まるで車の定期点検のように、常に最良の状態を保つための継続的な取り組みが、PMIの成功には欠かせません。

PMIの具体的な統合方法

M&Aの後により大きな効果を得るためには、具体的な統合の手法を理解し、実行していくことが求められます。PMIには大きく分けて、「経営統合」「業務統合」「意識統合」の三つの側面があり、それぞれにアプローチが必要です。これらの統合をバランス良く進めることが、M&Aの成功に繋がる「秘訣」と言えるでしょう。

PMIの本質:3つの統合タイプ

経営統合の視点

経営統合は、M&A後の組織の骨格を形成する重要な側面です。新しい会社として、どのような方向性で進んでいくのか、その基盤を固めるための様々な調整が行われます。

新しい経営体制の構築と人員配置

M&Aが成立した後、まず両社の経営理念や経営戦略を深く理解し、それらを受け入れられるような体制を築くことが非常に重要です。新しくなる会社の経営陣をどのように構成するか、また、重要なポジションに誰を配置するかなど、人員の配置転換も含まれます。これは、新しい会社がスムーズに動き出すための「司令塔」をしっかりと作り上げることに他なりません。従業員の方々が新しい経営体制を信頼し、受け入れてもらえるような環境づくりが求められます。

マネジメントフレームの見直し

経営体制の構築と並行して、会社全体のマネジメントフレーム(管理の仕組み)を見直す作業も不可欠です。例えば、人事制度や会計制度、予算管理の仕組みなどを新しい会社に合わせて整備していきます。また、会社の基本的なルールである定款(会社の憲法のようなもの)や、従業員が働く上でのルールを定めた就業規則、そして給与に関する規則といった労務関連の規程なども、新しい体制に適合するように見直す必要があります。これらの仕組みが整うことで、会社全体が効率的かつ公平に運営されるようになります。

業務統合の視点

業務統合は、日々の仕事の進め方や使うシステムを効率的にしていくための取り組みです。ここでは、M&Aによって生まれた重複をなくし、会社全体として最適な業務フローを確立することを目指します。

部門の統廃合と業務効率化

M&Aによって、2つの会社が持つ間接部門(例えば、経理部や人事部など)に重複が生じることがあります。これらの部門を統廃合し、機能を1つにまとめることで、無駄をなくし、業務全体の効率化を図ることができます。これは、会社のスリム化を意味し、コスト削減にも直結する重要なステップです。効率的になった分、より重要な業務にリソースを集中できるようになります。

ITシステムとインフラの統一

現代の企業運営において、ITシステムは欠かせない基盤です。M&A後には、業務システムや決算システムなど、会社が基盤として利用するシステムをグループ全体で統一することが必要となります。例えば、顧客管理システムや販売管理システム、会計システムなどが異なると、情報共有がスムーズにいかず、業務に支障をきたす可能性もあります。これらのシステムやITインフラを統合することで、会社全体としての情報連携が強化され、より迅速な意思決定や業務遂行が可能となるのです。

人員の再配置と人事制度の整備

部門の統廃合やITシステムの導入に合わせて、従業員の方々の人員配置を見直すことも重要です。新しい会社の経営体制や業務の進め方に合わせて、適切な人材を適切な部署に配置し直します。また、統合後の経営に見合った新しい人事制度を整備することも欠かせません。これには、評価制度や報酬制度の調整なども含まれ、従業員の方々が安心して、そしてモチベーション高く働ける環境を整えることが期待されます。

意識統合の視点

PMIにおいて、最も繊細で、しかし最も重要なのが「意識統合」です。会社の経営陣だけでなく、全ての従業員が新しい会社の一員としての意識を共有し、一体となって目標に向かうことが、M&Aで期待される効果を最大限に発揮するためには不可欠です。

企業風土を統一し、一体感を醸成する

M&Aによって異なる企業文化を持つ二つの会社が一つになる際、それぞれの会社の「色」を理解し、新しい「共通の色」を作り上げていくことが意識統合の核心です。一般的には、譲受企業の企業風土に合わせて方向性を統一していくことが多いですが、対象会社の良い文化も取り入れる柔軟性も大切です。新しい会社の企業文化や価値観を全ての従業員と共有し、心の垣根を取り払うことで、一体感を醸成できると、組織はぐっと強くなります。

従業員の不安を取り除くコミュニケーション

M&Aは、従業員の方々にとって大きな環境変化です。そのため、不安を感じる方も少なくありません。意識統合を成功させるためには、従業員の方々の不安を排除するための丁寧なコミュニケーションが欠かせません。新しい会社が目指す方向性や、M&Aによって従業員の方々がどのように影響を受けるのか、そしてどのようなチャンスがあるのかなどを、定期的に、そして誠実に伝えていくことが重要です。疑問や懸念に耳を傾け、対話を通じて理解を深めることで、従業員の皆さんが安心して新しい一歩を踏み出せるようになります。

PMIを成功に導く大切なポイント

M&A後の統合プロセスを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらは、PMIという複雑な道のりを、より確実に、そしてスムーズに進めていくための「道しるべ」となるでしょう。計画性と柔軟性、そして何よりも人への配慮が求められます。

スピード感を意識した計画と実行

PMIにおいては、ある程度の「スピード感」が成功の鍵となります。統合後の目標やスケジュールを明確にし、計画をできるだけ早く完成させることが重要なポイントです。

混乱期を乗り切るための準備

M&Aが完了した直後は、会社全体が新しい体制に移行する過渡期であり、少なからず混乱が生じるものです。この時期を円滑に乗り切るためには、統合の初日までにはPMIの計画を完全に仕上げ、目標やスケジュールについて、全ての従業員の方々に明確に発信できるように準備しておく必要があります。計画がきちんと示されることで、従業員の皆さんも先の見通しが立ち、不安が軽減されるでしょう。

従業員に寄り添う無理のない進行

ただし、スピードだけを追求し、従業員の方々の感情や状況を考慮しないままPMIを進めてしまうと、モチベーションの低下や、最悪の場合には大切な人材の離職に繋がってしまう恐れがあります。これは、M&Aで得ようとしたシナジー効果を大きく損なうことになりかねません。従業員の方々のペースや感情に寄り添いながら、無理のないスケジュールでPMIを進行させることが非常に重要です。定期的に従業員の方々にヒアリングを行い、PMIについての意見や懸念に耳を傾けることも、成功への大切なポイントとなります。

リーダーシップの発揮が不可欠

PMIという大きな変化の時期には、組織の混乱や従業員の反発を抑制し、全員を同じ方向へ導くための強力な「リーダーシップ」が不可欠です。まるで、嵐の海を航海する船長のように、強い意思と冷静な判断力が求められます。

変化を導く強い意思と人材の配置

統合の成功には、明確なビジョンを持ち、それを実現するために強いリーダーシップを発揮できる人材を確保し、適切なポジションに配置することが非常に大切です。このリーダーは、変化の先頭に立ち、周囲を巻き込みながら統合プロセスを推進していく役割を担います。その存在は、従業員にとっての「心の支え」ともなり、未来への不安を希望に変える力となるでしょう。

従業員との信頼を築く対話

配置されたリーダーは、従業員の方々とのコミュニケーションを徹底し、統合プロセスに対する深い理解を促す役割も担います。一方的な情報伝達ではなく、対話を通じて疑問や懸念を解消し、信頼関係を築いていくことが重要です。リーダーが従業員一人ひとりに真摯に向き合うことで、組織全体が一体感を持ち、M&Aによる変化を前向きに受け入れられるようになるのです。

その他の成功への着眼点

PMIを成功させるためのポイントは、スピード感やリーダーシップだけではありません。他にも、細部にまで気を配り、計画的に準備を進めるべき重要な点があります。これらを抜かりなく準備することで、統合後の安定した事業運営と成長の土台が築かれます。

業務システムの統合計画を周到に立てる

M&A後の事業を早期に稼働させるためには、業務システムの統合計画を立案し、その準備を周到に進めておくことがPMIを成功させる大切なポイントです。場合によっては、新しい業務システムを導入するなど、大掛かりなアクションが必要になることもあります。計画性がなければ、無駄なコスト(費用)がかかってしまう可能性もあるため、PMIに向けた計画立案には十分な時間をかけ、慎重に進めるべきです。

事業内容の再検討とリソース調整

M&Aによって、対象会社の事業内容が大きく変わることがあります。そのため、従来の事業内容を改めて検討し、M&A後の新しい体制に合わせる準備も、PMIの一環として非常に重要です。事業内容の優先度によっては、これまでとは異なる業務に会社の資源(リソース)を割り当てるように調整する必要も出てきます。PMIを進める際には、常に柔軟性を意識し、様々なパターンを考慮しておくことが、変化に対応できる強い会社を作るポイントとなります。

取引先の選定を改めて行う

M&Aによって事業内容が変化すると、これまで付き合いのあった重要な取引先との関係性も変わる可能性があります。場合によっては、新しい事業計画に合わせて、改めて取引先の選定を実施し、新体制に適合させる準備も必要になるでしょう。M&A後に計画している事業内容を明確にした上で、本当に重要な取引先を厳選していくプロセスが求められます。もし、統合によって取引している製品やサービスが重複する場合には、取引先を一つに絞るなどの対応も必要となることがあります。

予期せぬトラブルへの柔軟な対応

M&Aが完了した後には、様々なトラブルが発生することが想定されます。中には、PMIの作業が原因となって起きる問題もあるため、事前にどのようなトラブルが起こりうるかを予測し、それに対する解決策を考案しておくことが非常に重要です。シナジー効果を高めることだけに注力するのではなく、リスクヘッジ(リスクを予測し、対応すること)を常に意識することも、PMIを成功させる大切なポイントとなります。まるで雨上がりの道路に突然現れる水たまりのように、予期せぬ事態への備えが、スムーズな進行を助けるのです。

必要に応じたTSA(Transition Service Agreement)の導入

TSAは「Transition Service Agreement」の略で、対象会社や事業がこれまで行ってきた業務サービスを、M&Aのクロージング後も譲渡オーナー側から継続して利用するための契約です。特に、事業の一部だけを譲渡する「事業譲渡」や、会社を分割して一部の事業だけを譲渡する「会社分割」後の「株式譲渡」など、特定の事業を切り出す「カーブアウト」と呼ばれるM&Aで、導入が検討されることがあります。これにより、新しい会社がまだ体制が整わない間でも、必要なサービスを継続して受けられるようにし、業務の停滞を防ぐことができます。

PMIにおける期間と予算管理

PMIは、M&A後の企業価値を最大化するために不可欠なプロセスですが、それには適切な期間と予算の管理が欠かせません。まるで家を建てるのに、工期と建築費用が重要であるように、PMIも計画的な期間設定と、コストを厳しく管理していくことが成功の重要な要素となります。

PMIに要する標準的な期間

PMIの標準的な期間は、一般的に1年から3年とされています。しかし、M&Aの規模や複雑さ、そして対象会社の事業内容によって、この期間は大きく異なることがあります。例えば、小規模なM&Aであれば6ヶ月から1年で完了することもありますが、大規模なM&Aでは2年から3年以上かかることも珍しくありません。

M&Aの規模と複雑さによる期間の変動

PMIの期間が変動する主な理由として、組織の統合には時間がかかること、期待されるシナジー効果の実現に一定の期間を要すること、そして何よりも異なる企業文化を融合させるのに時間が必要なことが挙げられます。また、統合の範囲がどれくらい深く、広範囲にわたるのか、両社の企業文化の違いは大きいのか、地理的に離れているのか、そして経営陣がPMIにどのくらい積極的に関わるのか、といった要因によっても期間は大きく変わります。重要なのは、PMIの期間を固定的に考えるのではなく、まるで成長する植物に水やりをするように、柔軟に対応していくことです。統合の進捗状況を定期的に評価し、必要に応じて期間を調整することが成功の鍵となります。

段階的な統合アプローチの有効性

PMIの期間中は、段階的なアプローチを取ることが非常に効果的です。例えば、最初の3ヶ月から6ヶ月を「初期統合期」として、基本的な業務の統合や喫緊の課題解決に集中します。その後の6ヶ月から1年を「中期統合期」として、本格的な業務プロセスの統合や具体的なシナジーの実現に取り組みます。そして、1年以上の期間を「長期統合期」と位置づけ、企業文化の深い融合や長期的な戦略の実行を進めていくのです。このように、各段階で明確な目標を設定し、着実に進めることで、効果的な統合を実現することができます。

PMIのコスト管理の重要性

PMIは、多岐にわたる作業を伴うため、少なからずコストが発生します。このPMIにかかるコストを適切に管理することは、M&Aの成功を左右する重要な要素です。適切なコスト管理を行うことで、統合プロセスを効率的に進め、M&Aで期待されるシナジー効果を最大限に引き出すことができるのです。

詳細な予算計画の策定

PMIのコスト管理において、まず最も重要なのは、非常に詳細な予算計画を立てることです。これには、ITシステムの統合にかかる費用、従業員の退職金や再教育費用などの人事関連費用、外部のコンサルタントに支払う費用、法務や会計に関連する費用、そしてオフィスの移転や統合にかかる費用など、様々な項目が含まれます。これらの費用を正確に見積もり、適切な予算配分を行うことが極めて重要です。また、予期せぬ事態に備えて、総予算の10%から15%程度の予備費を確保しておくことを強くお勧めします。これは、万が一の事態に備える「保険」のようなものです。

効果的なコスト削減とモニタリング

コスト管理を効果的に行うためには、予算計画を立てるだけでなく、定期的なモニタリングと報告体制を構築することが不可欠です。具体的には、週に一度または月に一度、コストの進捗状況を報告する会議を実施したり、KPIを設定して定期的に評価したりする仕組みを作るのが有効です。これにより、コストが予算を超過しそうな兆候を早期に発見し、迅速にその原因を特定して対策を立てるための仕組みを構築できます。しかし、コスト削減だけに偏重しすぎると、統合の質が低下し、M&Aの成功そのものが危ぶまれる可能性もあるため、バランスの取れたアプローチが求められます。

予算オーバーを避けるための工夫

PMIは、計画通りに進まないことも多く、予算がオーバーしてしまうリスクも存在します。この予算オーバーを効果的に避けるためには、綿密な計画と、常に状況を把握し続けるモニタリングが不可欠です。まるで家計簿をつけるように、お金の流れを常に意識することが大切です。

リアルタイムな管理システムの導入

PMIの予算オーバーを避けるためには、まずM&A取引の初期段階から、PMIに関連する全てのコストを洗い出し、詳細な予算計画を立てることが重要です。この際、予想外の費用に備えて予備費を設定したり、部門ごとの予算を明確にして責任者を決めたり、統合プロセスの各段階で必要となる費用を細かく分類したりするなどの工夫が必要です。さらに、支出状況を常にリアルタイムで把握し、予算超過の兆候を早期に発見できるよう、クラウドベースの予算管理ツールを活用したり、定期的な予算レビュー会議を開催したり、KPIを設定して進捗を測定したりすることも効果的です。

プロジェクト管理手法の活用

コスト削減策を積極的に検討することも、予算オーバーを避ける上で重要です。例えば、重複する機能や部門を統合したり、外部に委託しているサービスを見直したり、ITシステムを統合することで効率化を図ったりする方法が考えられます。そして、PMIという複雑なプロジェクトを効率的に進めるために、プロジェクト管理の手法を適用することも有効です。アジャイル手法(柔軟で反復的な開発)やリーンマネジメント(無駄をなくす管理)などの手法を取り入れ、柔軟かつ効率的なプロジェクト運営を心がけることで、PMIの予算オーバーを効果的に防ぐことが可能になります。

PMIの成功事例と失敗事例から学ぶ

M&AにおけるPMIは、その成否がM&A全体の成功を大きく左右します。これまでの統合の経験から、成功した事例と残念ながら失敗に終わってしまった事例を分析することは、将来のPMIプロセスをより良くしていく上で非常に重要です。成功事例からは効果的な戦略や最良の取り組み方を学び、自社のPMI計画に取り入れることができます。一方で、失敗事例からは潜在的なリスクや避けるべき落とし穴を特定し、同様の問題を回避するための対策を立てることができます。これらの事例研究は、PMIの複雑さを深く理解し、より効果的な統合プロセスを設計するための貴重な「知恵」となるでしょう。

M&Aの成否を分けるPMI

大手企業におけるPMI成功事例

PMIが成功すると、M&Aによって期待された相乗効果が最大限に発揮され、会社の価値が大きく向上します。ここでは、実際にPMIを成功させた企業の事例を見てみましょう。

サントリーのPMI事例

大手企業のM&A統合における成功事例として、サントリーとビーム社の事例が挙げられます。サントリーは2014年1月にビーム社を譲受しました。両社の強力なブランド力を活用した展開と、技術交流を積極的に実施することで、ウイスキーの販路を世界規模に広げることに成功しています。この事例の特徴は、両社のトップマネジメントが現場目線で活発にコミュニケーションを取り、それによって大きなシナジー効果を生み出した点にあります。

日本電産のPMI事例

日本電産は2019年11月までに、66件ものM&Aを実施している企業です。「高値つかみをしない」「PMIと経営に関与」「シナジー(相乗効果)」といった点に、重きをおいた展開を実現ていることが特徴です。入りの時点では値段を抑えてリスクを下げ、PMIに関与して譲受後のシナジー(相乗効果)を早期発現させることを目指しています。

楽天のPMI事例

楽天は2000年代からM&Aを始め、現在の楽天トラベルや楽天証券になる会社を譲受しています。元々のインターネット基盤を活用し、売上やコスト(費用)に関する点で、シナジー(相乗効果)を生み出して成功を収めています。各分野と既存事業を結びつけ、業務範囲の拡大を進めた点が特徴の事例です。

中小企業におけるPMI成功事例

中小企業のM&Aにおいても、適切なPMIは成功の鍵となります。例えば、ある中小製造業のケースでは、譲受企業(買い手)が譲渡オーナー(売り手)が持つ会社の強みを活かしつつ、非常に効果的な統合を実現しました。この事例の成功要因は主に3つありました。

  • 一つは、譲受企業が譲渡オーナー側の会社の強みや課題を詳細に分析し、統合後のビジョンを明確にした綿密な事前調査と準備を行ったことです。これにより、PMIの方向性が明確になり、効率的な統合が可能となりました。
  • 二つ目は、統合プロセスを段階的に進めたことです。急激な変化による従業員のストレスを軽減するため、まず経営陣の統合、次に業務プロセスの統合、そして最後に企業文化の融合という手順を踏みました。この段階的アプローチにより、従業員が新しい環境に順応する時間を十分に確保できました。
  • 三つ目は、従業員のモチベーション維持に注力したことです。統合後の新しい組織体制や各従業員の役割を明確に伝え、将来のキャリアパスの見通しを示すことで、従業員の不安を払拭し、前向きな姿勢を引き出すことに成功しました。両社の強みを活かした新製品開発プロジェクトを立ち上げ、シナジー効果を実感できる機会を創出したことも、従業員の一体感醸成に繋がりました。

PMI失敗から得られる教訓

PMIは非常に複雑なプロセスであり、残念ながら失敗に終わるケースも存在します。これらの失敗事例から学ぶことは、将来のM&Aにおける統合プロセスを最適化する上で、非常に価値ある教訓となります。失敗の原因を理解することで、同じ過ちを繰り返さないための対策を立てることができます。

経営の方向性不明瞭による失敗

M&Aが成立した後、新しい会社の経営の方向性が不明瞭だったために、従業員の不安が募り、結果的に大切な人材の離職が増加してしまったケースがあります。また、譲渡オーナー(売り手)が長年築き上げてきたものを否定するような経営方針を一方的に提示してしまったことで、譲渡オーナーや従業員からの信頼を失い、PMIがうまくいかなかった事例も存在します。綿密な経営方針の策定と、それを従業員に対して明確に伝えることが、PMIの成功には不可欠です。

引継ぎ不足による事業停滞

M&A後、譲渡オーナー(売り手側の経営者)が退任したことで、その方が持っていた知識やノウハウ、顧客との関係性などが十分に引き継がれず、業務が滞ってしまうケースも少なくありません。特に、事業を継続するために必要な許認可の要件を満たせなくなってしまい、事業そのものの継続が困難になるという、大変残念な事態に至ることもあります。このような失敗の主な要因として、譲受企業(買い手)と譲渡オーナー、そして従業員や関係者との間で、円滑な信頼関係が構築できていなかったことが考えられます。

h4:文化の不一致とコミュニケーション不足

M&A後の企業文化の違いを軽視してしまうと、従業員の士気が低下したり、生産性が落ちたりといった問題につながることがあります。また、統合プロセスの途中経過や今後の展望について、従業員や関係者に対する情報共有が不足していると、不安や抵抗が生まれ、PMIがスムーズに進まなくなってしまいます。例えば、異なる企業文化を持つ組織の統合に失敗した有名な事例として、ダイムラーとクライスラーの合併が挙げられます。両社の企業文化の違いが統合の大きな障害となり、最終的には分割という結果に至りました。

統合計画の不備とデューデリジェンスの限界

詳細な統合計画が十分に立てられていないと、PMIのプロセス全体が混乱し、M&Aで期待されたシナジー効果がなかなか得られない状況に陥ることがあります。さらに、M&A前のデューデリジェンス(詳細調査)が不十分だった場合、取引完了後に予期せぬ問題や、これまで隠れていたリスクが表面化し、PMIを阻害する要因となることもあります。これらの失敗要因を避けるためには、文化統合を最優先課題とし、全ての関係者に対して情報を透明性高く共有し、詳細なPMI計画を立てて、包括的なデューデリジェンスを実施することが極めて重要です。

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M&A後のPMIは外部機関の活用も検討する

中小企業の場合、M&A後のPMIにおいて、統合プロセスを専門に担当する人材を社内に配置することが難しいケースも少なくありません。PMIは多岐にわたる専門知識と経験を必要とするため、統合前の戦略策定から、各部門に必要な統合計画の実行まで、非常に大きな負担がかかります。そのような状況では、第三者であるM&Aの支援サービスや外部機関の専門家を利用することが非常に有効です。専門家が持つ豊富な経験と知見によるサポートを受けることで、統合プロセスを円滑に進めることが可能になり、M&Aの成功確率を大きく高めることができるでしょう。

M&A後の経営統合(PMI)のまとめ

M&AにおけるPMIは、その成否がM&A全体の成功を握る非常に重要なプロセスです。適切なPMIの実施により、M&Aで期待されるシナジー効果を最大限に引き出し、企業の価値を大きく向上させることが可能です。

PMIを成功させるためには、綿密な準備と計画、効果的な実行、そして継続的な評価が不可欠です。特に、企業文化の融合や人材管理、コミュニケーション戦略は、PMIの成否を左右する重要な要素となります。当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。

著者

西尾 崇
西尾 崇事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

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