会社や事業を手放した直後、経理やITシステムを急に切り離すと現場が止まりかねません。TSAは、譲受企業が自前の体制を整えるまで譲渡側が業務を代行する取り決めです。対象業務の線引き、いつまで・いくらで引き受けるかの決め方、税務や個人情報の落とし穴まで、会社売却の各段階で譲渡オーナーが押さえる実務を、税理士法人グループのM&A仲介会社が解説します。

M&AにおけるTSAとは
会社を売った翌日に、給与計算や受注処理が止まったらどうなるでしょうか。グループの経理部や共通システムに頼ってきた会社ほど、こうした業務の空白は起こりやすいもの。それを防ぐための取り決めがTSAです。M&Aの流れのなかでは、クロージングから統合作業へ移る境目を支える役割を担います。
TSAの意味と正式名称
TSAはTransition Services Agreementの略で、Transition Service Agreementと書かれることもあります。日本語では移行サービス契約、移行期間サービス契約などと訳される言葉。譲渡側がクロージング後の一定期間、経理や人事、ITシステムなどの業務を対象会社や譲受企業へ提供し続ける約束で、通常は有償です。期間が来れば提供も終わる、期限付きの支援契約です。
TSAが必要になるスタンドアローン問題
TSAが求められる背景には、スタンドアローン問題と呼ばれる課題があります。グループの一員として動いてきた会社や事業が、切り離された途端に単独では回らなくなる状態のこと。平時はグループ内で当たり前に融通し合っているため、売却を考えるまで依存の大きさに気づかないケースも珍しくありません。
グループに頼りがちな主な機能
中小企業でも、次のような機能をグループ会社やオーナーの別会社に頼っていることがよくあります。
- 経理・決算、給与計算、社会保険の手続などのバックオフィス業務
- 基幹システム、会計ソフト、メールやドメインなどのIT環境
- 倉庫や配送などの物流機能
- 共同購買や仕入先との一括契約
- オフィス、工場、設備の賃借
- 商標、特許、ソフトウェアのライセンス
譲受企業がこれらを自前でそろえるまでの時間を、TSAで確保するイメージです。
中小企業の会社売却でTSAが必要になる場面
TSAは大企業のカーブアウトだけの話、と思われがちです。けれども支援現場では、中小企業の会社売却でも同じ構図に何度も出会います。典型的なのは次の3つの場面。
オーナーが複数の会社を経営している
よくある相談が、本業の会社のほかに販売会社や不動産管理会社を持ち、経理担当者と会計ソフトを1社に集約しているケースです。そのうち1社だけを譲り渡すと、売る会社の記帳や給与計算をクロージング後に誰がいつまで担うのか、という問題が生じます。
売る会社が残る会社の業務を支えている
見落とされやすいのが、逆向きの依存。売却する会社に経理のベテランが在籍し、残る会社の記帳まで引き受けていたというパターンです。この場合、クロージング後は対象会社から残る会社へサービスを提供してもらう必要があり、これをリバースTSAと呼びます。止まるのは、譲渡オーナーが手元に残す会社の業務。他人事では済まない問題です。
事業譲渡で一部の事業だけを手放す
事業譲渡で会社の一部門だけを譲り渡すときも、TSAの出番です。手放す事業と残る事業が同じ経理部門や同じシステムを使っていれば、切り分けが終わるまで譲渡側が支え続けることになります。
売却スキーム別に見るTSAの必要性
売却スキームによって、TSAが必要になる度合いは変わります。目安を下表にまとめました。
| 売却スキーム | TSAの必要性 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 株式譲渡(独立した1社を売る) | 低い | 会社の機能がそのまま残るため。兄弟会社に頼る業務があれば必要 |
| 株式譲渡(グループの1社を売る) | 高い | 経理やIT、物流をグループで共有していることが多い |
| 事業譲渡 | 高い | 手放す事業と残る事業が同じ管理部門を使っている |
| 会社分割による切り出し | 高い | 切り出した事業に管理部門が付いてこないことが多い |
独立した1社を丸ごと譲り渡す株式譲渡なら、TSAを結ばずに済むケースも多いはず。ただし表のとおり、グループ内の依存が1つでもあれば話は別。
TSAで取り決める主な項目
TSAの契約書の雛形を探す方は多いのですが、出来を左右するのは書式よりも中身の具体性です。主な取り決め事項と、譲渡オーナー側から見た押さえどころを下表に整理しました。
| 取り決める項目 | 主な内容 | 譲渡オーナー側の押さえどころ |
|---|---|---|
| 対象サービス | 提供する業務の範囲、作業内容、処理件数 | 範囲外の依頼を断れる書き方にする |
| サービスレベル | 品質、納期、対応時間 | 売却前の社内水準を上限にする |
| 提供期間 | 開始日、終了日、延長と早期終了の条件 | 延長の回数と上限を決める |
| 対価 | 料金の算定方法、支払時期、消費税の扱い | 人件費と外部費用を漏れなく回収する |
| 責任と免責 | 障害時の責任、損害賠償の上限 | 賠償額の上限を対価の範囲に収める |
| 情報管理 | アクセス権、秘密保持、個人情報の取扱い | 期間終了時の権限削除まで決める |
| 移行の進め方 | 移行計画、窓口担当者、定例会 | 譲受企業側の移行遅れに備える |
対象サービスの範囲と提供水準
トラブルになりやすいのは、範囲と水準の書き方です。ここが曖昧なままだと、TSAの期間中ずっと「それも含まれるはず」という押し問答が続きます。
従前どおりという書き方に頼らない
TSAの条文では、従前と同等の水準で提供するという書き方がよく使われます。便利な一方で、これだけでは解釈が分かれる原因に。月次決算は何営業日で締めるのか、給与計算は何人分か、問い合わせには平日の何時まで応じるのか。作業内容と件数まで別紙のサービス明細に書き出しておくと、認識のずれを防げます。
サービスレベルは売却前の水準を上限にする
SLA(サービスレベル合意)は、提供する品質や対応時間を数値で約束する取り決めです。譲渡側にとって避けたいのは、売却前の社内水準を上回る約束をしてしまうこと。人手の減った譲渡側が以前より高い水準を求められては、身が持ちません。
提供期間と延長・早期終了のルール
期間は、業務ごとの移行の難しさで決めます。給与計算や経費精算のように数か月で切り替えられる業務もあれば、基幹システムの入れ替えのように1年近くかかる業務も。全業務を一律の期間で縛るより、業務ごとに終了日を置くほうが現実的です。
延長は回数と料金を先に決める
移行が遅れたときの延長条件も、あらかじめ決めておきます。延長は1回まで、延長後の料金は段階的に引き上げる、といった定めは、譲受企業に早めの移行を促す効果もあるもの。延長の申し入れ期限を入れておけば、終了間際の駆け込み要請も防げます。
早期終了できる仕組みも用意する
反対に、譲受企業の移行が早く進めば、業務単位でTSAを打ち切れるようにしておくと双方の無駄な費用が減ります。打ち切りの予告期間を何日前とするかも、条文に落としておきたいところです。
対価の決め方
TSAの料金には、主に下表のような算定方法があります。
| 算定方法 | 内容 | 向いている業務 |
|---|---|---|
| 実費精算 | 実際にかかった人件費や外部費用を請求する | 作業量が読みにくい業務 |
| 実費に上乗せ | 実費に管理費や一定の利益を加えて請求する | 譲渡側の手間が大きい業務 |
| 月額固定 | 業務ごとに毎月の定額を決める | 給与計算など作業量が安定した業務 |
中小企業のM&Aでは、管理の手間が少ない月額固定がなじみやすい印象。ただし外部ベンダーのシステム利用料のように譲渡側が立て替える費用は、実費で別に精算する形にしておくと取りこぼしを防げます。
責任範囲と免責
TSAの提供者は、あくまでつなぎ役です。システム障害や担当者の病欠でサービスが止まったとき、譲渡側がどこまで責任を負うのかを決めておきます。故意や重大な過失がある場合を除き、損害賠償の上限をTSA対価の総額までとする定めは、譲渡側を守る代表的な条項の1つ。
情報管理とアクセス権
移行期間中は、譲渡側と対象会社が同じシステムを使い続けることがあります。譲受企業が同業者であれば、顧客情報や価格情報が相手に見えてしまう心配も。閲覧できる範囲を業務単位で区切る情報隔壁を設け、期間終了日にアクセス権を削除する手順まで決めておくと安心です。
給与データは個人情報の委託として扱う
譲渡側が対象会社の給与計算を代行すれば、従業員の個人データの取扱いを委託する関係に。個人情報保護法上、委託に伴う個人データの提供は第三者提供にあたりません(第27条第5項第1号)。その代わり、委託元となる対象会社には、委託先を監督する義務が生じます(第25条)。安全管理の方法、再委託の可否、終了時のデータの返却や消去まで、TSAで取り決めておくのが基本。
移行計画と窓口・定例会
TSAは、結んで終わりの契約ではありません。双方で窓口担当者を1名ずつ決め、月1回程度の定例会で移行の進み具合を確かめます。大企業のように専任の推進組織(PMO)を置くまではしなくても、誰がいつまでに何を引き取るのかを一覧にした移行計画表だけは作っておきたいところ。
TSAの対象となる主な業務領域
TSAの対象は、経理や総務といった管理部門の仕事に限りません。物流や仕入のように、売上や利益に直結する機能が含まれることも。中小企業のM&Aで対象になりやすい業務領域と、移行時の注意点を下表にまとめました。
| 業務領域 | TSAで提供する主な内容 | 移行時の注意点 |
|---|---|---|
| 経理・財務 | 記帳、月次決算、支払処理、決算書の作成補助 | 会計ソフトの契約名義と過去データの移し替え |
| 給与・人事労務 | 給与計算、社会保険の手続、勤怠管理 | 従業員の個人データの取扱いルール |
| ITシステム | 基幹システム、メール、ドメイン、パソコンの保守 | ソフトウェアの利用許諾の条件とベンダーの同意 |
| 物流・倉庫 | 保管、出荷、配送の手配 | 運送会社との契約名義と料金体系 |
| 購買・仕入 | グループでの一括購買、仕入先との価格条件 | 単独になった後の仕入価格の上昇 |
| 施設・設備 | オフィスや工場の一部の使用 | 賃貸借契約上の転貸の可否 |
施設の使用や商標の使用許諾は、TSAから切り離して賃貸借契約やライセンス契約にするやり方もあります。数年単位で続きそうなものほど、最初から独立した契約にしておくと管理しやすくなるはず。
会社売却の各フェーズで進めるTSAの実務
最終契約の直前になってTSAの必要性に気づき、日程を組み直す羽目に。支援現場でときどき見かける光景です。慌てて洗い出すと、譲渡価格の交渉にまで影響が及ぶことも。TSAの検討は、売却を決めた直後から始めるのが理想です。会社売却の流れに沿って、TSAに関わる作業を下表に整理しました。
| 売却のフェーズ | TSAに関わる主な作業 | 譲渡オーナーが用意するもの |
|---|---|---|
| 準備段階 | グループに依存している業務の棚卸し | 業務と担当者の一覧、契約名義の一覧 |
| 交渉・基本合意 | TSAが必要になりそうな業務と期間の共有 | 移行に要する期間の見込み |
| デューデリジェンス | 対象業務と移行方法の特定 | 業務の流れ、システム構成、利用許諾の契約書 |
| 最終契約 | 範囲・期間・対価の大枠の合意 | サービス明細と料金案 |
| クロージング後 | サービスの提供と移行状況の確認 | 窓口担当者と移行計画表 |
準備段階で切り離しの棚卸しをする
M&A仲介会社と契約し、企業概要書の作成に入る頃には、グループに頼っている業務を書き出しておきたいところです。譲受企業から指摘される前に自ら整理しておけば、管理体制が見えている会社として評価されやすくなります。譲渡側が自ら事前調査を行うセルサイドデューデリジェンスの項目に組み込むのも一案。
スタンドアローン確認のチェックリスト
当社が売却準備の初期に譲渡オーナーと確認している項目です。1つでも当てはまれば、TSAかそれに代わる手当てが必要になる可能性があります。
業務と担当者に関する項目
- 経理や給与計算の担当者は、売る会社と残る会社のどちらに在籍しているか
- 倉庫、配送、仕入をグループ会社にまとめて任せていないか
- 兄弟会社との間に、契約書のない取引や立替えが残っていないか
契約と資産に関する項目
- 会計ソフトや基幹システムの契約名義は、どの会社になっているか
- メールアドレスやドメインをグループで共用していないか
- 本社や工場の土地建物を、オーナー個人や別会社が所有していないか
- 損害保険やリース契約をグループで一括して結んでいないか
交渉・基本合意の段階で論点を共有する
TSAが必要になりそうなら、トップ面談から基本合意までの間に譲受企業へ伝えておきます。後出しは、隠していたと受け取られる原因に。TSAの有無は譲受企業が見込む統合費用や体制づくりの計画にも響くため、早めに共有したほうが交渉は円滑に進みます。
デューデリジェンスで対象業務を特定する
譲受企業によるデューデリジェンスでは、財務や法務の調査に加えて、必要に応じて人事労務やITの観点からもスタンドアローン問題が洗い出されます。システムの構成や利用許諾の移し替えの可否は、ITデューデリジェンスで詳しく調べられる項目。ここで見つかった論点が、そのままTSAの対象業務の候補になります。
最終契約でTSAの大枠を固める
最終契約書には、TSAの対象業務、期間、対価の考え方を少なくとも大枠で書き込みます。対価の支払いはクロージング後に発生するため、口約束のままにしておくと、譲渡代金の精算とは別のところで揉める火種に。サービス明細を別紙として添付しておくのが確実です。
TSAの締結をクロージング条件に加える
最終契約からクロージングまで期間がある案件では、TSAの締結をクロージング条件の1つに加えることがあります。TSAが整わないまま株式が移れば、譲受企業は業務の継続に不安を抱えたまま経営を引き継ぐことになるためです。
最終契約とクロージングが同日の場合
中小企業のM&Aでは、最終契約の締結とクロージングを同じ日に行うことも少なくありません。その場合は、業務を止めないために欠かせない事項だけを最終契約や覚書に盛り込み、細かな運用はクロージング後の協議に回す進め方が現実的です。
クロージング後はPMIと並走させる
クロージング後のTSAは、譲受企業が進めるPMI(経営統合)と並走します。中小企業庁の中小PMIガイドラインは、M&A成立後おおむね1年を集中実施期と位置づけ、統合する管理機能として人事・労務、会計・財務、法務、ITシステムを挙げています。TSAの終了日は、この統合計画から逆算して決めるのが近道。
売り手が押さえておきたいTSAの注意点
会社を売ったら、あとは譲受企業の問題。そう考えていると、TSAで思わぬ負担を抱えることになります。2024年8月に改訂された中小M&Aガイドライン(第3版)では、最終契約やクロージングの後に当事者間のトラブルとなりうるリスク事項の解説が加わり、仲介者・FAには依頼者への具体的な説明が求められるようになりました。TSAの負担も、クロージング後に残る論点の1つ。
残る社員の負担を見積もる
TSAの業務を実際に担うのは、譲渡側に残る社員です。売却で人数が減ったうえに相手先の業務まで抱えると、本来の仕事が回らなくなります。対応が後回しになり、譲受企業の不満が募っていくのもありがちな流れ。担当者ごとの工数を見積もり、対価と期間に反映させておくことが大切です。
第三者の同意が必要なサービスに注意する
ソフトウェアの利用許諾、リース契約、物流の委託契約などは、グループ外の会社に使わせることを契約で禁じている場合があります。貸主やベンダーの同意がないまま提供すれば、TSAで約束した提供そのものが契約違反になりかねない点に要注意。デューデリジェンスの段階で条項を確かめ、同意の取得をクロージングまでの作業に組み込んでおきましょう。
許認可の空白はTSAでは埋められない
事業譲渡では、許認可を譲受企業が取り直す必要がある業種も少なくありません。新しい許可が下りるまで譲渡側の許可で事業を続けてもらう形は、業種によっては名義貸しと判断されるおそれも。事業譲渡で許認可を承継できるかを早めに確かめ、空白はTSAではなくクロージング日の設定で解消するのが原則です。
従業員の出向・転籍は同意を前提に組み立てる
事業譲渡で従業員を移すには、本人の同意が前提です。そのため、TSAの期間中は社員に出向の形で関わってもらい、期間の終了後に転籍してもらう組み立てがよく使われます。
審議会で紹介された移行期間の運用
厚生労働省の審議会のヒアリングでは、使用者側の団体から、移行期間中は社員を在籍出向とし、期間の終了後に本人の同意を得て転籍させる運用が紹介されました。社員の籍の移し替えまで見据え、2〜3年程度の移行期間を置く例も示されています(労働政策審議会の部会第3回議事要旨)。
業務委託のつもりが派遣にならないように
譲渡側の社員が、譲受企業から直接指示を受けて働く形には注意が必要です。業務委託ではなく労働者派遣と判断されるおそれがあるため、人を出すなら出向契約として整理し、事業譲渡での従業員の処遇の説明とあわせて進めるのが無難。
TSAの対価と税金を切り分けて考える
税理士法人グループとして、特に注意を促しているのが税金の論点です。TSAの対価は、株式の譲渡代金とは税務上の性格がまったく異なります。
TSA対価には消費税がかかる
株式の譲渡は消費税の非課税取引なので、株式譲渡による会社売却の対価に消費税はかかりません。一方、TSAの対価は役務の提供に対する代金なので、原則として課税取引。譲受企業が仕入税額控除を受けるには適格請求書(インボイス)などの保存が要件となるため、提供する側の会社がインボイスを発行できるかも確かめておきます。
価格の付け替えは税務リスクを生む
交渉の終盤に、譲渡価格は据え置く代わりにTSAの料金をサービスする、といった調整が持ちかけられることがあります。第三者間で決めた条件は基本的に尊重されますが、相場から大きく外れた対価で差額が実質的な贈与と認められれば、寄附金として扱われる余地が生じます。
譲渡価格とTSA対価は別々に決める
オーナー個人が受け取る株式の譲渡益と、会社が受け取るTSA対価とでは、課税のされ方も別物。価格の調整は価格交渉で、TSAは実費に見合う対価で。そう切り分けるのが、当社の基本スタンスです。
長引くTSAは双方の負担になる
TSAが長引くと、譲受企業は自前の体制づくりの費用とTSAの料金を二重に負担し、M&Aの効果が出るのも遅れます。譲渡側にとっても、売ったはずの事業に人手を取られ続ける状態。延長が続くようなら、業務を外部の専門業者へ切り替える選択肢も含めて、早めに話し合うのが得策です。
TSAと関係するM&Aの契約
会社売却では、秘密保持契約から最終契約までM&Aの契約書を段階的に交わします。時系列に並べると、TSAはその最後尾。ほかの契約と役割を分け合う関係にあります。
最終契約書との役割分担
株式譲渡契約や事業譲渡契約は、何を、いくらで、いつ譲り渡すかを決める契約です。これに対してTSAは、譲り渡した後の業務をどう支えるかを決める契約。最終契約の表明保証は契約時点やクロージング時点の会社の状態を保証するものなので、クロージング後のサービス品質の約束はTSA側に書きます。
業務委託契約との違い
TSAの中身は、法律上は業務委託や出向、賃貸借などの組み合わせです。違いは目的と終わり方。通常の業務委託契約が継続を前提にするのに対し、TSAは譲受企業の自立を目的とし、終了時期があらかじめ決まっている点に特徴があります。
オーナー個人の引継ぎ支援は別の取り決めにする
中小企業の会社売却では、譲渡オーナー自身が顧問や役員として一定期間残り、取引先や社員への引継ぎを担うことがよくあります。これは会社同士のTSAではなく、オーナー個人と対象会社との顧問契約や役員の任期として決める事項。会社売却後の社長の役割と会社として提供するTSAは、報酬の性格も税金の扱いも違うため、契約を分けておくと後々の混乱を防げます。
M&AのTSAに関するFAQ
TSAについて、会社売却を検討している経営者から寄せられることの多い質問をまとめました。
決まりはなく、案件ごとに買い手側が用意することも、売り手側が主導することもあります。どちらが作るにせよ、サービス明細は業務を知る売り手側でなければ書けない部分。現場の担当者に早めに声をかけ、作業内容と件数を洗い出してもらうのが第一歩です。
対象サービスが明細で特定されていれば、断ることは可能です。もっとも現場では、善意で引き受けてしまいがち。範囲外の依頼は窓口担当者を通し、TSAの変更として書面で合意してから受けるのが原則です。最初にこの運用を決めておくと、負担だけが増えていく事態を防げます。
代わりの担当者を手配する義務を負うのか、提供水準を下げてよいのかは、契約の書き方次第です。1人しか分からない業務は、退職や病欠に備えて手順書の作成をTSAの作業に含めておくと安心。現場ではまず、属人化している業務がどれかを確認します。
契約に定めがなければ、TSAの終了後に対応する義務は原則としてありません。とはいえ、データの移し替えの誤りなどは終了直後に見つかりやすいもの。終了後の一定期間は問い合わせに応じる、といった引継ぎの条項を入れるかどうかで対応が変わります。売り手と買い手の双方にとって、終わり方まで決めておくのが安全です。
M&AのTSAは準備段階からの設計が鍵
TSAは、会社や事業を手放した後の業務の空白を埋める期限付きの契約です。対象業務、期間、対価、責任の範囲を早めに具体化し、税務や個人情報の扱いまで整理しておけば、クロージング後の負担は抑えられます。売った後まで迷惑をかけたくないと考える責任感の強いオーナーほど、準備で差がつく論点。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業M&Aの支援実績が豊富で、TSAの範囲設計から税務の確認まで、会計・税務の専門家とともにお手伝いします。売却を決める前の段階でも、お気軽にご相談ください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >

著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
最近書いた記事
2026年11月5日M&Aのトレンド2026|7つの変化と業界別予測・会社売却の視点
2026年11月5日M&AのPMIとは?100日プランの進め方と売り手の役割
2026年11月5日水平統合と垂直統合の違いとは?メリット・事例と会社売却の視点
2026年11月5日事業承継と相続・M&Aの関係とは?継がせるか売るかの判断と税金









