セルサイドデューデリジェンスとは?売り手有利にM&Aを進める方法

セルサイドデューデリジェンスとは、譲渡オーナーがM&Aを有利に進めるための事前調査です。本記事では、その目的、メリット、実施プロセス、成功のポイントを解説し、M&Aを成功に導くための実践的な知識を提供します。

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セルサイドデューデリジェンス(DD)とは-主な目的

セルサイドデューデリジェンスとは

セルサイドデューデリジェンスは、M&Aを検討する譲渡オーナーが、自身のM&Aをより有利に進めるために実施する事前の簡易調査を指します。譲渡オーナーが主体的に動くことで、その後のM&Aプロセスを円滑に進めることが可能になります。

通常のDDとの違い

セルサイドDDは、売り手の立場に立って行うデューデリジェンスです。これは、外部の専門家を交え、譲渡価格の最大化、ボトルネックの把握、交渉戦略の立案、交渉の円滑化などを目的として実施されます。一方、買い手が行う通常のデューデリジェンスは、買収の可否、リスクの抽出、企業価値評価、株主や第三者への説明責任を果たすことを目的としています。

セルサイドDDは、売り手が自社の情報を自ら調査・整理し、開示戦略を練る点で、買い手が行うDDとは明確に異なります。

セルサイドDDの主要な目的

セルサイドDDには、大きく分けて主に3つの目的があります。

売却価格の推定と最大化

譲渡オーナーは、セルサイドDDを通じて自社の適正な価値を把握し、潜在的な問題を事前に洗い出すことで、売却価格の向上を目指します。自社の企業価値がいくらになるのかを事前に理解することで、譲受企業との交渉を有利に進めることができます。特に、譲渡後不要となるコストの洗い出しや、通常は認識されていない強みを発見することで、企業価値の正確な評価につながる可能性があります。

問題点の事前把握と対応

価格交渉や条件合意時に問題となる可能性がある課題を事前に特定し、それに対する解決策を検討します。例えば、表明保証の範囲、税務リスク、偶発債務、主要取引先との関係などを確認し、対応を検討することが含まれます。これにより、ディールブレイクのリスクを低減することが期待できます。

M&Aプロセスの円滑化と最適な譲渡スキームの立案

M&Aプロセスを円滑に進めるために、戦略的な準備を行います。株主構成、財務状況、希望売却金額などを総合的に考慮し、最も適した譲渡スキームを立案します。この事前の準備は、譲受企業が安心してM&Aを進めるための重要な要素となります。

セルサイドデューデリジェンスのメリットとデメリット

セルサイドDDの実施は、譲渡企業にとって多くの利点をもたらしますが、同時に留意すべき点も存在します。

セルサイドDDのメリット

セルサイドDDを実施することで、譲渡オーナーには複数のメリットが生じます。

交渉力の向上

譲渡オーナーは、セルサイドDDを通じて自社の強みや将来性を正確に把握し、譲受企業に対して自信を持って説明できます。例えば、詳細な財務プロジェクションを根拠とともに提示することで、将来のキャッシュフローの蓋然性を訴求し、交渉を有利に進めることができます。

ディールブレイクリスクの低減

潜在的な問題点を事前に発見し対処することで、譲受企業によるDDの段階でディールが中断するリスクを低減します。特に法務や会計上の問題は、事前に解決することで譲受企業からの信頼を得られ、M&Aプロセスをスムーズに進めることが可能になります。

情報開示のコントロール

譲渡オーナーが主体となって情報開示の範囲と深度をコントロールできます。譲受企業への情報開示資料(インフォメーションメモランダムなど)の精度が高まり、効率的なDD実施を促します。自社にとって適切でない情報開示や、過度な調査要求を避けることにもつながります。

売却価値の最大化

譲渡後に削減できるコストや、未発見の強みなどを明確にすることで、企業価値の正確な評価につながり、売却価格を最大化できる可能性があります。過去の売上高の分解や解約率などの分析を通じて、企業の本質的な価値を訴求できます。

セルサイドDDのデメリット

セルサイドDDには、いくつかのデメリットも存在します。

コスト負担

外部専門家を起用する場合、会計事務所や法律事務所への費用が発生します。特に中小規模のM&Aでは、費用が数百万円程度になることもあり、コストとメリットのバランスを考慮する必要があります。この費用対効果の判断は重要です。

情報漏洩リスク

M&A検討中である情報が社内外に漏洩するリスクがあります。秘密保持契約の締結や情報管理の徹底が不可欠ですが、完全にリスクを排除することは困難です。

時間的制約

簡易的なDDとはいっても、相応に時間と労力がかかります。譲渡企業の経営陣や担当者の負担が増加する可能性もあります。限られた時間の中で効率的に調査を進めることが求められます。

セルサイドデューデリジェンスの実施プロセス

セルサイドDDは、M&Aの成功のための準備手続です。適切なタイミングで開始し、計画的に進めたいものです。

適切な実施タイミング

セルサイドDDは、M&Aプロセスの初期段階、ディールが始まる前に実施されることが多いです。これにより、譲受企業への打診前に自社の情報を整理し、強みと弱みを把握することができます。

譲渡オーナーがM&Aを検討しM&A仲介会社などの専門家に相談する際に、準備期間を設けるべきかどうかが検討されます。成長性向上や特定の問題解決のために、事前準備の期間を設けるケースもあります。

進め方とスコープ設定

セルサイドDDは、譲渡企業のビジネス、財務会計、法務などの多岐にわたる側面から行われます。調査範囲(スコープ)は、目的やコスト、時間的制約を考慮して適切に設定することが重要です。

具体的な調査項目

具体的な調査項目は以下の通りです。

  • ビジネス面:強みの把握、ビジネスフロー、価値源泉、実質的なEBITDAの把握、将来の財務計画(プロジェクション)の作成が重視されます。
  • 財務会計面:譲渡後に不要となるコストの洗い出し、運転資本の変動要因の分析、偶発債務の把握などが行われます。
  • 法務面:契約書の内容確認、法令遵守、チェンジオブコントロール条項の有無などが調査対象となります。

専門家選定のポイント

セルサイドDDの実施には、M&Aプロフェッショナルとの深い議論が重要です。必要に応じて、会計士、税理士、弁護士などの専門家を利用します。

専門家の選定の際には、譲渡企業特有の事情や課題に対応できる専門知識と経験を持つアドバイザーを選ぶことが成功につながります。特に、オーナー経営者が自社の情報を深く把握できていない場合や、複雑な問題が内在している場合は、外部専門家の活用が効果的です。

報告書作成と開示戦略

セルサイドDDで収集した情報や分析結果は、M&A仲介会社等の手により企業概要書(IM)やプロジェクションなどの資料にまとめられます。これらの資料は、いずれ譲受候補企業に情報開示されます。

IMは、譲渡企業のビジネス内容、財務情報、将来のプロジェクション、強み、弱み、リスクなど多岐にわたる項目が記載されます。IMの質は、譲受企業の検討参加意欲や最終的な譲渡条件に大きく影響します。

開示戦略としては、まずノンネームシート(ティザー)で会社名を伏せて打診し、興味を示した譲受候補に秘密保持契約(NDA)締結後、IMなどの詳細資料を開示します。情報の非対称性を解消し、譲受企業からの信頼を得ることが重要です。

セルサイドデューデリジェンスを成功させるポイント

セルサイドDDを成功に導くためには、いくつかの重要なポイントと、実施すべきかどうかの判断基準を理解しておく必要があります。

成功のための重要ポイント

セルサイドDDを成功させるには、以下のポイントが重要です。

詳細な財務プロジェクションの作成

過去の財務データに基づき、将来の収益やキャッシュフローを予測する詳細なプロジェクションを作成します。これは単に数字を並べるだけでなく、その根拠を明確に説明できるものであるべきです。特に売上予測の理論武装は重要であり、譲渡企業にとって交渉上の大きな武器となります。

事業の強みの客観的な把握

経営者自身が気づいていないような強みを外部専門家の視点から発見し、それをM&Aにおける価値訴求に活用します。例えば、解約率の低下要因や大型案件の増加傾向など、具体的なデータに基づいて分析します。客観的な強みを提示することで、譲受企業の評価を高めることができます。

潜在リスクの事前洗い出しと対処

法務、税務、偶発債務など、譲受企業が懸念しそうなリスクを事前に特定し、解決策を準備します。特に株式の変遷の不明瞭さや、過去の法令違反など、致命傷になりかねない問題事項には注意が必要です。事前に対処することで、ディールブレイクのリスクを軽減します。

情報の非対称性の解消

譲受企業との間に存在する情報の非対称性を解消し、透明性のある情報開示を行うことで、信頼関係を構築します。想定問答集の作成などにより、質問に対する迅速かつ正確な回答ができるように準備します。これにより、譲受企業は安心してM&Aを進めることができます。

セルサイドDDを実施すべきケース・しないケース

セルサイドDDは、全てのケースで外部専門家を起用して大々的に実施すべきとは限りません。状況に応じた適切な判断が求められます。

実施を検討すべきケース

以下のケースでは、セルサイドDDの実施を強く検討すべきです。

  • 事業の一部を売却するカーブアウトや事業譲渡の場合。切り出しによって生じるスタンドアローン問題などのリスク評価が重要になります。
  • 譲渡オーナーと譲受企業の間に情報の非対称性が大きい場合、特に譲渡オーナー自身が自社の情報を深く把握できていない場合。
  • 譲渡企業の企業価値を正確に評価し、売却価格を最大化したい場合。
  • 将来的なトラブルや交渉の長期化を避け、M&Aプロセスをスムーズに進めたい場合。
  • 譲受企業候補が複数存在し、各候補者からの個別のDD実施による負担を軽減したい場合。

実施しない方が良いケース

以下のケースでは、セルサイドDDを実施しないか、実施するとしても(外部専門家を起用せず)譲渡オーナー自身が最低限の範囲で実施する方が良い場合があります。

  • M&Aの規模が小さく、外部専門家へのコスト負担が大きい場合。費用対効果を慎重に判断する必要があります。
  • 譲渡企業の経営陣が自社の事業内容や財務状況を十分に把握しており、複雑な問題が少ないと判断される場合。
  • 譲渡オーナー自身ががセルサイドDDの重要性を理解し、適切に準備できる場合。
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よくある質問|セルサイドデューデリジェンスに関するよくある質問(FAQ)

セルサイドデューデリジェンスは、売り手がM&Aを有利に進めるための重要な手続です。ここでは、セルサイドDDに関するよくある質問にお答えします。

Q:セルサイドデューデリジェンスとは?買い手がやるDDと違うの?

セルサイドデューデリジェンスは、売り手が自身のM&Aを有利に進めるために、自社の事業や財務、法務状況などを事前に調査・分析する手続です。これに対し、買い手が行うデューデリジェンスは、買収の可否やリスク評価を目的として実施されます。セルサイドDDは、売り手が自社の情報を整理し、交渉に備える点で、買い手のDDとは視点が異なります。

Q:売り手がわざわざDDをやるメリットは?

売り手がセルサイドDDを実施する主なメリットは、売却価格の最大化、交渉力の向上、ディールブレイクリスクの低減です。事前に自社の強みや潜在的な問題点を把握し、対応策を準備することで、買い手への説明の信頼性が高まり、スムーズなM&Aを実現しやすくなります。特にカーブアウトや事業譲渡など、事業の一部を売却するケースでは重要とされています。

Q:セルサイドDDはどうやって進めるの?費用は?

セルサイドDDは通常、M&Aプロセスの初期段階で開始されます。まず、調査範囲(スコープ)を設定し、ビジネス、財務会計、法務などの側面を調査します。必要に応じて、M&Aアドバイザーや会計士、弁護士などの専門家をアサインします。費用はM&Aの規模や複雑性によって異なりますが、外部専門家を起用する場合、数百万円程度のコストが発生する可能性もあります。

Q:セルサイドDDの結果は買い手にどう見せるの?

セルサイドDDの結果は、インフォメーションメモランダム(IM)や詳細な財務プロジェクションなどの資料にまとめられます。これらの資料は、買い手候補企業に開示され、売り手の強みや事業の将来性、潜在的なリスクなどを正確に伝えるために活用されます。情報開示の順序として、まず匿名で概要を伝えるノンネームシート(ティザー)を使用し、興味を示した買い手候補に対して秘密保持契約(NDA)締結後にIMなどの詳細資料を開示するのが一般的です。

セルサイドデューデリジェンスまとめ

セルサイドデューデリジェンスは、M&Aにおける譲渡オーナーの準備手続であり、譲渡価格の最大化、M&Aプロセスの円滑化、そして潜在的リスクの事前把握と対応を目的とします。譲渡オーナーが主体的に関与し、自社の強みと将来性を客観的に示すことで、譲受企業との交渉を有利に進めることが可能です。適切なタイミングでの実施と専門家の活用が、M&A成功の鍵となります。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しています。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

著者

綿引 征典
綿引 征典
国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士

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