M&A後の会社の末路は?買収されたら社員・役員・社長はどうなるか解説

M&Aによる会社買収が実現した際には、買収された側の会社の社員や社長がどのような待遇を受けることになるのでしょうか。その後の運命はどのような可能性があるのでしょうか。これから、買収された側の社員や社長の待遇や将来の展望についてお伝えいたします。

買収された会社に影響を及ぼすポイント

買収された会社の将来に影響を及ぼす要素は、M&Aの手法、買収企業との関係、最終的な契約内容です。具体的には以下のような点が考慮されます。

  • 買収された会社の社長の選択肢として、引退・退職・残留などがある
  • 役員は引き続き役員職に就くか、一般社員になるか、退職することがある
  • 社員の待遇は変わることがあり、悪化した場合には退職する可能性もある
  • 生き残るためには、新しい体制に適応し、スキルアップが重要である

買収後の社員や役員の処遇について経営者として気になるのは当然です。M&Aの形態によって、買収後の状況は異なりますが、社員や役員に変化が訪れることは確かです。

この記事では、買収された会社に起こる変化や左右する要因や、社員・役員・社長それぞれの将来について、また社員・役員がうまく立ち回る方法について詳しく解説していきます。

買収された会社の運命は買収相手によって決まる

過去に敵対的買収が注目されたことから、M&Aによって買収されると厳しい状況になるという印象を持っている方もいるでしょう。

しかし、近年増加している友好的買収では、想像以上に悪い事態に陥ることはないと考えられます。買収相手としても、劇的な変化を起こし社員や役員が退職するリスクを考える為です。ただし、すべての買収相手がそうとは限らないので、買収相手を慎重に選ぶことが重要です。

待遇が悪化し、社員が退職する

M&Aを行う際、譲渡側の企業の社員が最も関心を持つのが「待遇」です。特に給与や福利厚生などに対する変化は敏感に捉えます。待遇が以前より悪化すると、退職する社員が出ることもあります。

社員のためにM&Aを決断したのに退職者が出ると、本末転倒です。場合によっては、M&Aの条件交渉に影響が出るかもしれません。

社員に不安を与えないためにも、十分な説明ができる状況になってから、M&Aの実施を伝えることが大切です。

待遇を変更する場合も、M&A実行直ぐではなく一定期間(待遇維持の条件)を設けるなど、緩やかは変化にする方が望ましいと言えます。

買収相手の選び方が重要

社員の待遇は買収相手によって異なります。譲渡は経営権を移動させる行為であり、M&Aの実施後、買収相手がどのように社員を扱っても、法律の範囲内であれば問題ありません。

一方で、待遇改悪による社員の離職は買収側にとっても相当な不利益であり、望んで行われることは殆どないと言えます。

「買収相手の選び方」は慎重に進めるべきです。社員が働き続けられる環境を整えてくれる買収相手かどうかを見極めることが必要です。

良好な関係で交渉するためには、自社の状況を隠さず伝えることが大切です。自社にとってネガティブな事であっても、買収相手によっては改善できることも多くあり、事前にお話しいただくことで問題とならないケースも多々あります。M&Aの実施目的や今後の計画・考え方を総合的に判断して、最善の選択を行いましょう。

買収された会社(譲渡側)の一般的な状況

会社や事業の譲渡には多くのメリットが存在しますが、多くの経営者は従業員の雇用が維持されるか、会社が消滅してしまうかといった不安を抱えています。買収された会社の将来は、様々な要素によって左右されます。

まず、買収された会社の在り方は『M&Aのスキーム』によって異なります。中小企業におけるM&Aのスキームはいくつか存在し、『2018年版 中小企業白書』によれば、事業譲渡が41.0%、株式譲渡が40.8%を占めています。

株式譲渡とは、株式を他者(他社)に譲渡し、対価と引き換えに経営権を移転させるスキームです。株式の半数以上が買収者に譲渡されることで、経営権が譲渡者から買収者へ移動します。一方、事業譲渡は、事業部門の一部または全部を他者(他社)に譲渡する手法で、経営権の移動を伴いません。

次に、譲渡側の役員・社員に対する待遇は、買収者の経営方針や考え方、両者の経営者間の関係性などによって左右されます。買収後に自社ブランドに変更し、会社の方針に従ってもらうという買収者も多くいます。しかし、経営者間の関係性が良好であれば、譲渡側の社員が不利益を被ることは少ないでしょう。むしろ譲渡側の役員や社員の協力無くして買収後の運営は難しいため、協力的な関係を築けるよう意識し待遇を決定するケースがほとんどです。

一方で、買収者が敵対的買収を行うこともあります。これは、経営陣の同意なしに買収を強行するケースで、経営陣や役員は退陣を迫られることが多いです。買収者が友好的か敵対的かによって、譲渡側の将来が変わる点に注意が必要です。未上場企業の株式は譲渡制限がかけられていることが殆どで、株主の意志無くして敵対的買収が起こる事は無いといえます。

最後に、買収後の譲渡側の待遇は、契約内容に基づくため、慎重な交渉が求められます。株式譲渡では「株式譲渡契約書」が、事業譲渡では「事業譲渡契約書」が締結されることになります。M&Aのスキームによっては、従業員の働き方が大きく変わることがあるため、有利な条件が得られるように交渉を進めることが重要です。専門家のサポートを活用することで、より適切な条件で契約を結ぶことができるでしょう。

買収された企業の社員の運命は?

買収後の社員にどのような影響があるのか、以下の3つのシナリオで考察していきましょう。

  • 勤務先に変化がない場合
  • 勤務先が変更される場合
  • 退職する場合

M&Aの違いによる社員への影響について、株式譲渡・株式交換・株式移転・第三者割当増資の場合、買収された会社は子会社となります。一方、合併・会社分割・事業譲渡の場合、買収された会社の社員は買収企業へ転籍することになります。

勤務先に変化がない場合

子会社化された場合、当初は雇用契約や待遇に変化はなく、従業員はこれまで通り業務を行います。ただし、ほとんどの場合、親会社はPMI(Post Merger Integration)を実施し、人事評価制度や給与規定などが徐々に変わっていきます。

また、システムの統合や組織再編が行われ、社員の配置が変更されるケースもあります。ただし、子会社化の場合、会社統合が合併のようには進まないため、PMIが比較的ゆっくり進むでしょう。

  • 給与・福利厚生の変化

前述の通り、PMIは必ず実施されますが、それが必ずしも社員にマイナス影響を与えるわけではありません。子会社であっても、親会社の影響で人事評価制度や給与規定が変わることがありますが、買収企業が上場企業の場合、基準が高くなり、給与が上がることもあります。また、大企業になることで福利厚生が充実することもあります。買収後の社員には活躍してほしい為、待遇を改善する親会社が多いといえます。

  • 社風の変化

子会社化の場合、独立性が保たれ、社風が維持されるケースがほとんどですが、恒常的な赤字経営の会社が買収された場合など、場合によっては買収後、新しい社風に馴染むことが求められることもあります。

勤務先が変わる場合

合併・会社分割・事業譲渡などの場合、買収後の業務環境や勤務環境が大きく変わります。例えば、規模の大きな買収企業の営業エリアが広かったり、多くの事業所や支店、工場があった場合、転勤が発生する可能性があります。

また、部署の組織再編により、業務内容が変わる社員も出てくるでしょう。待遇が向上した場合でも、大企業では異動が避けられないことがあります。M&A実行前に買収企業から雇用条件の提示があり社員が同意することが前提になる為、社員の意志関係なく決定する事がありません。

退職する場合

買収を機に退職を選ぶ社員もいます。主な理由としては、以下が挙げられます。

  • 買収を身売りのように捉え、不安を感じる
  • 社長が変わることに対する反発心
  • 待遇が変わることへの恐れ
  • 新しい環境で働くことにストレスを感じる
  • 転勤を受け入れられない事情がある
  • 買収企業への悪いイメージ

特に、役員や幹部社員の退職が明らかになると、それに続く社員が出ることがあります。買収を行う企業としては、人材の獲得が目的の場合もあるため、退職者を出さないよう工夫が必要です。一般的には役員や幹部社員には一定期間残留(もしくは期限を設けない継続)してもらい、その間に新体制と社員の融和を行い、可能な限り離職を防止します。

買収された会社の役員の待遇

企業が他社によって買収される際には、役員の待遇が変わることが一般的です。役員の立場や状況によって、待遇の変更が異なるケースが多くあります。

  • 非常勤役員の場合:非常勤役員は、M&Aが成立した後に退任することが多いです。その理由は、非常勤役員が親族や、実質的な業務を行っていない役員であることが多いためです。
  • 常勤役員の場合:常勤役員の待遇は、買収する企業の事情や役員自身の能力によって変わります。買収される企業の企業風土を理解している既存役員は、買収後も引き続き勤務することを要請されることがよくあります。むしろ、今後の業績維持の為、継続を希望される買収企業がほとんどといえます。

ただし、買収する企業が買収される企業の状況を十分に理解したり、既存の役員の能力が不十分と判断された場合、役員が退任することもあります。

また、役員の報酬や退職金に関しては、株主が株主総会で決定する権利を持っています。これは、役員が引き続き役員として在任していても、報酬や退職金が維持される保証がないことを意味します。報酬や退職金が減額される場合も、株主総会の決議によって決まります。

報酬や退職金を確保するためには、買収した企業の株主やオーナーから、自分の能力を役員として認められることが重要です。役員が買収後も影響力を持つためには、努力し続けて結果を出すことが大切です。

または、M&A実行時に退職金の金額を条件として契約書に明記しておくべきです。どのようなケースでも、譲渡後が買収企業、譲渡企業双方の方々が協力し、業績向上に寄与する事で、M&A実行後の支払いもスムーズになるとえいます。

買収された会社の社長はどうなる?

このセクションでは、企業買収が行われた際、買収された会社の社長がどのような運命をたどるのか、具体的なケースを元に解説していきます。以下に示す4つのシナリオが考えられます。

  • 買収直後に引退
  • 引き継ぎを行った後に引退
  • 買収後すぐに退職
  • 買収後も会社に残る

社長の立場は、役員や社員とは異なる点があります。それは、社長が買収交渉の当事者であり、買収に至るまでの目的を持って交渉に臨んでいるはずだからです。一般的に、M&A(株式の売買)の目的としては、以下のような事が挙げられます。

  • 事業承継
  • 経営の安定化
  • オーナー利益の最大化
  • 経営者保証からの解放

例えば、後継者不在の中小企業の場合、社長が引退を迎えると廃業せざるを得なくなります。それに伴い、社員は解雇され、取引先は仕事を失うことになります。しかし、会社を譲渡し、買収されることによって新たな経営者が後継者となり、事業承継が実現することで、社員や取引先に迷惑をかけることがなくなります。

また、買収される側が大企業であれば、その傘下に入ることで買収側の経営資源を利用できるようになり、業績の安定化が期待できます。さらに株式譲渡によって自社株式を譲渡することで、オーナー社長には譲渡益が入ります。株式譲渡には、第三者(M&A)、親族承継、社内承継など複数パターンがある中で、第三者への譲渡は株式価額が高くなる傾向があり、オーナーにとって経済的対価が大きくなる傾向があるといえます。また、この場合、会社の債務は基本的に買収側に移るため、金融機関との交渉によって社長個人が連帯保証している経営者保証や個人資産の担保差し入れなどから解放されるでしょう。

それでは、以下に示す4つのシナリオをもとに、買収された会社の社長の運命を考察していきましょう。

買収後すぐに引退

買収された会社の社長が高齢である場合や、経営面で役員が残留したり、現場の業務を幹部社員が引き継いだりすることで引き継ぎ業務が発生しないようなケースでは、買収直後に社長が引退することもあります。ご自身やご親族のご体調が悪く業務が遂行出来ないケースなどもすぐ引退となりますが、その際は速やかな引退が出来るように事前の準備(現場への権限移譲など)が必要となります。

また、高齢ではない社長でも、十分なオーナー利益を得ている場合には、アーリーリタイアメントを選択し、買収直後に引退することがあります。しかし、いずれの場合も、社長が引き継ぎを行わない環境にするために(つまり、役員や幹部社員が退職しないようにするために)、最終契約書にその条件が明記されることが一般的です。

ある程度の期間、引継ぎした後に引退

買収後、社長が引き継ぎを行った後に引退するケースが一般的です。特に、オーナー社長がワンマン経営を行っていた会社では、役員が残留しても、完全な引き継ぎは難しい場合が多いです。引き継ぎに要する期間は業種や業態、会社の経営状況によって異なります。

買収側にとっては、買収後の経営統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)が重要です。引き継ぎだけでなく、スムーズな経営統合が進められるように、一定期間社長に残ってもらうことを求めるケースが多いです。その際、最終契約書にはロックアップ条項(キーマン条項)が設けられることがあります。

買収後も会社に残る

若い経営者や起業家の中には、会社が買収された後もそのまま会社に残るケースがあります。子会社化された場合は社長のまま、統合された場合は部門長など、買収の方法によって残留する立場が異なります。いずれの場合も、自分が経営してきた会社や事業の成長が見込めるという理由で残ることが多いです。親会社の資本力や販売力など、買収後に会社を伸ばせるイメージがあるなど、前向きな理由がほとんどである為、買収企業からも喜ばれるケースが多いです。

M&Aに伴う従業員に対する影響の詳細

本節ではM&Aを行った際に従業員にどのような影響が及ぶか、具体的な事例を含めて詳しく解説していきます。M&Aの形態によっては異なる影響があるため、それらも注意して説明していきます。

雇用契約の扱い

まず、雇用契約に関しては、事業譲渡の形態を取るか、それ以外の形態を取るかで大きく異なる点があります。

  • 事業譲渡の場合:従業員の個別の雇用契約が引き継がれるかどうかを決める必要があり、それに伴って新たな契約を結ぶことが求められます。
  • それ以外の場合:個別の雇用契約の引き継ぎの可否は問題とならず、基本的には全ての契約が引き継がれることになります。

いずれにせよ、大前提として雇用契約が継続されることを期待してM&Aが進められますが、事業譲渡の場合には契約の更新が必要なことから、その点で若干異なる影響があることが分かります。

給与や福利厚生など、待遇面の影響

給与や福利厚生などの待遇に関しては、基本的にはM&Aの前後で変更されることはありません。これはM&Aの形態に関わらず、事前の交渉段階で同じ条件で引き継がれることが前提とされているためです。

ただし、先述の雇用契約の話にもあったように、事業譲渡のケースでは契約の更新が求められることから、待遇面での変更がもたらされる可能性も完全には否定できません。どちらのケースであろうと、従業員が今後も継続して働いてもらえるよう取り計らいがある待遇になる事がほとんどです。

退職金の取り扱いに関する懸念点

退職金についても、事業譲渡の場合には個別の契約が更新されることから、退職金の条件が変わる可能性が存在します。基本的には従業員に不利益が発生しないように交渉が行われますが、変更のリスクはゼロではありません。

なお、事業譲渡の場合には退職金が譲渡前に精算され、引き継ぎ先企業の規定に従う形となることもあれば、引き継ぎ先がそのまま退職金を引き継ぐ形となる場合もあります。

一方で、株式譲渡などの場合は、会社そのものが引き継がれることから、退職金についてもそのまま引き継がれることになります。

買収後に会社の業績が低迷する4つの主要な理由

買収が成功し、業績が安定・向上する企業も多いですが、一方で買収後に業績が低迷する企業も存在します。そうした企業が直面する共通の問題点として、以下の4つが挙げられます。

  • 新たな組織体制への適応が難しいため
  • 買収後に経営陣として加わった役員が現場に慣れないため
  • 社員のモチベーション低下による業績悪化
  • 給与体系などに不公平が生じることによる不満

それぞれの問題点について、具体的な内容を検証していきましょう。

新しい経営体制に適応困難な場合がある

企業が買収されることによって、その会社の社員や役員は、全く新しい環境に適応しなければならなくなることがあります。これには経営方針の変更だけでなく、職場の雰囲気や業務手順、社内ルール、待遇など、多くの変化が伴います。従来の環境に慣れ親しんでいた人々にとっては、これらの変更がストレスとなり、適応が困難であることがあるのです。

個人が転職を選んだ場合、新しい環境に適応する意欲があるはずですが、買収の際には、同じ職場の同僚たちも同じ状況に置かれるため、不満や批判が相互に共有されることがあります。これが長期化すると、企業全体の業績や士気に悪影響を与えることもあります。

元役員が現場業務に適応できないことがある

買収後、買収先企業の役員が役職を失い、一般社員となることがあります。この場合、引き続き同じ会社で働くことを選択するか、転職を考慮するかの選択があります。しかし、年齢や経歴などの理由で転職が難しいと判断すれば、会社に留まることが一番でしょう。

しかし現場業務から離れていた元役員が、新たなポジションで業務に従事することは容易ではありません。場合によっては、新人社員よりも業務遂行能力が低いことがあります。また、周囲の社員も元役員に対して遠慮がちであり、注意が言いにくい状況となるかもしれません。その結果、チーム力が低下し、企業の業績に負担がかかることがあります。

社員のモチベーション低下が影響する

会社が買収されることは、社員が元々描いていたキャリアプランや人生設計に大きな影響を与えることがあります。買収元が自分にとって魅力的な企業であれば問題は少ないですが、そうではない場合もあります。買収対象となる企業は中小企業も多く、独特な社風や文化があります。勤続年数が長く、戦力である社員こそ文化に慣れている為、新たな社風を受け入れ辛いことも想定されます。

買収の結果、環境の変化によるストレスが加わり、買収元の経営方針や業務内容を理解し、受け入れる意欲が低下することがあります。こうした状況下では、モチベーションの低下が企業の業績に悪影響を与えることは避けられません。

給与体系の不公平感が影響する

買収後、買収元企業と買収先企業の給与体系に大きな差がある場合、統合が難航することがあります。例えば、同じ業務を担当しているにも関わらず、買収元企業の社員の給与が買収先企業の社員よりも高い場合などです。

このような状況が明らかになったとき、買収先企業の社員のモチベーションは低下し、退職を考慮することもあります。給与体系の統合を適切に行わないことは、買収元企業にとってもマイナスの影響を与えることとなります。

買収された会社で役員・社員が生き残るための3つの戦略

買収された会社の役員や社員が、買収後も安定した職を維持するためには、いくつかの効果的な方法があります。以下では、主に3つの戦略をご紹介します。

  • 新しい体制に素早く適応する
  • スキルアップを積極的に行う
  • 買収された立場という劣等感を持たない

それぞれの戦略について詳しく解説していきます。

新しい体制に素早く適応する

買収された会社の役員・社員が、新しい体制や環境になかなか適応できないと、会社全体の業績が低下する可能性があると以前述べました。そのため、役員・社員が買収後に安定した立場を維持するためには、新しい体制や環境に素早く適応することが重要です。

買収側の経営方針や組織文化を理解し、不安や不慣れな状況に対する抵抗感を克服しながら、柔軟に業務に取り組むことが求められます。新しい体制に早期に適応することで、自身の業務の成果向上や周囲からの信頼獲得につながります。

スキルアップを積極的に行う

買収後の組織で自身の価値を高めるためには、スキルアップが欠かせません。資格取得をはじめとする明確なスキル向上策も効果的ですが、それにとどまらず、現在の業務に対する専門性や精度を高めることもスキルアップに含まれます。

自分の得意分野や課題を明確に把握し、適切な方法でスキルアップを実践することで、他者からの評価向上や適切なポジションでの活躍が可能となります。

また役員や社員が望む場合はグループ内での配置転換などもキャリア形成にプラスであり、よく聞くメリットです。同業同士のM&Aの場合、買収側の企業に入社を希望していたが、採用面接で落ちてしまった社員が再度入社のチャンスを得たケースもありました。

買収された立場という劣等感を持たない

買収された会社の役員・社員が陥りがちなのが、買収側の社員や組織に対するコンプレックスです。この態度は、自身の実力を発揮できない原因となることがあります。

買収側の社員と対立するのではなく、競争意識を持ちながら互いに切磋琢磨する姿勢を取ることで、業績評価やキャリア形成の面で公平な評価が受けられるでしょう。あくまで友好的資本提携であり、社員同士の優劣を決めるものではありません。これを機に自身の成長につなげる方向性に説明をするべきです。

社員を不幸にしないコツ

買収後、社員にとって最良の状況を追求するためには、「選ばれた買い手を社員が理解し、安心できる状態にする」ことが重要です。

もちろん、社員を安心させる役割は主に譲受側が担うべきですが、譲渡オーナーとしても社員の幸せを重視する場合、譲受側をサポートすることが大切です。積極的に譲受側と連携し、社員が安心できる環境作りを進めましょう。なぜ、この譲受企業にしたのか?会社の成長性、従業員への考え方などをしっかりと理解し、社員へ説明できるようにすべきです。その為、譲受企業は複数社と面談するなど様々な方向性を模索し、熟考の結果選択すべきです。

安心感を与える方法:M&A後も社員に積極的に顔を見せ、存在感を示す

M&Aが成立した後も、譲渡オーナーは積極的に社員に顔を見せて交流を持ちましょう。特に最初の数カ月間は、譲受企業から「顧問」やその他の役職として出社することを求められることが多いため、その要請に応じることが重要です。

会社譲渡後、顔を出すことに抵抗感を感じる経営者もいますが、社員たちは往々にして「前社長は追い出されたのではないか?」「何か問題があって譲渡したのではないか?」という不安を抱くことがあります。

仕事内容は特に重要ではなく、ただ出社し顔を見せるだけでも、社員たちに「見捨てられていない」という安心感を与えることができるでしょう。

後ろめたさや罪悪感があるかもしれませんが、それゆえに余計に、元気な顔を見せてあげることが大切です。

安心感を与える方法:譲受側への事業承継は丁寧に行う

M&A成立後、譲渡企業の経営者は、社員に顔を見せるだけでなく、新しい社長に対して自社の経営を引き継ぐという重要な役割があります。引継ぎを適切に行うことで、社員たちの安心感も高まります。

これは、経営上のミスが現場にダイレクトに影響を与えることに起因します。社員たちは、意思伝達の不足や取引先への支払いの遅れがあると、現場でクレームが発生することを知っています。敏感な時期にある社員たちに対して、できるだけストレスを与えないように心掛けましょう。

「立つ鳥後を濁さず」ということわざがありますが、そのためにはやるべきことは多くあります。社員たちに迷惑をかけないためにも、最後まで責任を持ってサポートしましょう。譲受側企業と社員の間に自身が入る方が違和感を覚えたとき、はじめて事業承継が完結したといえ、本当の意味での勇退といえるのではないでしょうか。

11.まとめ

M&Aを受け入れた企業の行く末は、いくつかの要因に大きく左右されます。

  • 買収企業との関係
  • 合意書の内容
  • M&Aの手法

買収による事例では、従業員の生活環境や給与などが大きく変わることがしばしばあります。重要なポイントを押さえつつ、相手企業と十分に交渉しましょう。

買収後、社員が新会社に所属するかどうかは本人たち次第ですが、雇用関係を維持するために専門家に相談することも非常に重要です。すべての関係者がより良い生活を送れるよう、経営者として最善を尽くしましょう。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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