会社を売りたいと考え始めたものの、何から着手すべきか分からず一歩を踏み出せない経営者は少なくありません。本記事は初動の準備から相手探し、条件交渉、デューデリジェンス、譲渡益にかかる税金と手取りまでを一気通貫で整理しました。支援現場の視点を交え、譲渡オーナーが後悔しない意思決定へとつなげます。
会社を売りたいと思ったら最初にやる準備
「うちの会社でも売れるのだろうか」。その一言から相談が始まるケースは、本当に多いものです。最初の1か月で土台を整えておくと、その後の交渉がぐっと楽になります。会社を売る決断の背景を落ち着いて棚卸ししたい方は、M&Aを決断した理由もあわせて眺めてみてください。
会社を売る際に特に気をつけたい論点は、下図の5点に整理できます。

秘密保持と社内の情報管理
売却の検討が社内外に漏れると、従業員の動揺や取引先の離反を招きかねません。情報を開示する前に秘密保持契約(NDA)を結び、資料の保管やデータの取り扱いまでルール化しておく。これが後々の毀損リスクを抑える盾になります。
専門家への相談と初回の伝え方
最初の問い合わせは、身構えなくて構いません。会社の事業内容と検討理由、譲渡後の希望を数行で添えれば十分です。細かな条件は初回面談でゆっくり詰めていけます。「売却を検討している」と一報するだけでも、話は前に進みます。
決算書など資料の整備
譲受企業は客観的な数字で会社を評価します。過去3期分の決算書、月次試算表、売上推移、主要契約書といった基本資料を早めに揃えておくと、査定も交渉も滑らかになります。面談前の下準備として、会社売却の基礎知識を押さえておくと理解が早まります。
M&A検討時に揃えたい書類
どの資料をどこまで用意すべきか。下表に主要な書類をカテゴリ別にまとめました。漏れなく準備できれば、デューデリジェンスの負担も軽くなります。
| カテゴリ | 主な必要書類 |
|---|---|
| 会社の基本 | 履歴事項全部証明書、定款、株主名簿、直近3期の株主総会議事録 |
| 人事・労務 | 組織図、役職員名簿、就業規則・各種規程、雇用契約書サンプル、直近3期の賃金台帳 |
| 財務・会計 | 過去3期の決算書一式、直近の月次試算表、借入関連(金銭消費貸借契約書・返済予定表)、リース・保険契約一覧 |
| 事業 | 取引先別・商品別の売上推移、主要取引先との契約書、賃貸借契約書、許認可・特許の証書 |
| 不動産 | 全部事項証明書(土地・建物)、固定資産税納税通知書、施設写真、各種図面 |
希望条件の棚卸し
いくらで売りたいかだけでなく、従業員の雇用、譲渡後の関与度合いも、譲渡オーナーの人生を左右します。譲れない条件と譲歩できる条件を紙に書き出し、優先順位を決めておく。この整理が交渉の軸になります。価格以外の条件を巡っては、家族の反対への向き合い方が壁になることも珍しくありません。
相談先候補のリスト化
M&A仲介会社や会計事務所のほか、公的窓口という選択肢もあります。まずは複数の候補を並べ、無料相談を使って比較する。相性まで含めて見極めれば、任せ先選びで大きく外しません。
会社を売る手順と期間の全体像
売る意思が固まると、次に気になるのは流れと期間ではないでしょうか。準備からクロージングまで、多くは半年から1年ほど。交渉やデューデリジェンスが長引けば、さらに時間を要します。マラソンに近い工程を、段階ごとに追っていきます。
相手探し
譲受企業の探し方は、仲介会社を通じた紹介、マッチングサイトでの横断検索、特定企業への指名打診の3通りが中心です。自社の強みを最も評価してくれる相手を見つけることが肝心。具体的な手法は買い手の探し方で詳しく整理しています。
条件交渉
交渉の核心は、やはり価格と引継ぎ条件です。譲渡価格は時価純資産に営業利益の数年分を上乗せする簡易計算が出発点ですが、最終的には企業価値評価とデューデリジェンスを踏まえて決まります。雇用維持や関与度合いも、会社の未来を決める要素として丁寧にすり合わせます。
デューデリジェンス
譲受企業は財務・法務・労務の各面から詳細な調査を実施します。収益性やキャッシュフロー、契約関係や許認可、潜在的な労務リスクまでチェックされる。ここでの誠実な情報開示が、価格と最終条件を左右します。信頼関係を壊さない開示が何より大切です。
最終契約書の主要ポイント
最終契約書は、譲渡後の関係を決定づける集大成です。譲渡対象、価格、支払い方法に加え、表明保証、前提条件、誓約事項、補償条項が細かく定められます。とりわけ表明保証は開示情報の真実性を保証するもの。範囲と上限を理解しないまま捺印するのは避けたいところです。
クロージング後の引継ぎ
クロージングを終えても事業は続きます。従業員への説明、取引先との関係維持、業務移行を計画的に進めるPMI(経営統合)が、シナジーの成否を分けます。経営者自身の残り方については、社長の役割と譲渡後の関与や元オーナーの残留期間が参考になります。譲受後に社員や役員がどうなるかは、M&A後の会社の実像で確認できます。
会社を売る費用と報酬体系
M&Aにいくらかかるのか。着手前に費用構造を把握しておけば、安心して手続を進められます。仲介会社の報酬は、体系によって負担のタイミングが変わります。
見積の読み方
見積には成功報酬のほか、着手金、月額報酬、実費などが並びます。成立時に支払う成功報酬が大きな割合を占めるのが一般的。項目ごとに発生条件を確認し、不明点は契約前に必ず質問しておきましょう。
着手金と完全成功報酬
成立するまで報酬が発生しない完全成功報酬を採る仲介会社もあります。初期費用を抑えたい譲渡オーナーには有力な選択肢。ただし高額案件を優先しがちな傾向もあるため、体制や実績とあわせて見比べるのが賢明です。
節約すべきでない工程
費用を抑えたい気持ちは当然ですが、削ってはいけない工程もあります。表明保証や補償条項の検討、譲渡オーナー側のリスク対応には専門的な知見が要ります。ここは専門性の高い仲介会社を起用し、助言を受けながら固めていく領域です。
会社を売るときの税金と手取り
結局いくら手元に残るのか。これはほぼ全員が気にする論点です。譲渡の形態や譲渡オーナーが個人か法人かで、税目も税率も変わります。株式の譲渡益への課税は、国税庁のタックスアンサーNo.1463に整理されています。
株式譲渡の税金と申告
個人オーナーが自社株を譲渡した場合、譲渡益に所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて約20.315%が課されます。譲渡益は譲渡価格から取得費や仲介手数料などの必要経費を差し引いて算出。いずれも確定申告が必要なので、税理士と段取りを組んでおくと安心です。
事業譲渡の税金と資産区分
事業譲渡を選ぶと、譲渡益に法人税がかかります。譲渡益は譲渡価格から資産の簿価を控除して計算。建物や機械、棚卸資産など課税対象が含まれれば消費税の納付も生じ、譲受企業側には印紙税や不動産取得税が発生します。
退職金の活用と受取方法
売却に合わせて役員退職金を受け取る形もあります。退職金は譲渡益と税務上の扱いが異なり、優遇を受けられる場合があるため、対価配分を工夫する余地が生まれる。分割受取にも留意点があり、ライフプランに沿って税務に強い専門家と練るのが得策です。
いくらで売れるかを見極める
「自分の会社はいくらになるのか」。この見立ては、その後の人生設計を大きく左右します。まずは簡易的な算定で目安をつかむところから始めましょう。相場の実像は、会社売却の相場と事例が具体的です。
簡易評価の考え方
相場の目安は「時価純資産+営業利益の2年から5年分」で語られます。年買法(年倍法)と呼ばれる方式で、上乗せ部分が将来性を映す「のれん」です。あくまで出発点であり、精緻な評価は企業価値評価の手法で確認します。
価値を高める短期施策
検討開始前に打てる手もあります。不要在庫の処分や回収見込みの薄い売掛金の整理は、貸借対照表をスリムにし、財務を見やすくします。主要取引先との契約を見直して収益の安定性を示すことも、評価の底上げにつながります。売り時の判断は最適なM&Aのタイミングで補えます。
小規模・赤字・債務超過でも売れるか
規模が小さいから、赤字だからと諦めてしまう相談者は少なくありません。ですが、魅力ある事業や将来性があれば、売却は十分に成立します。具体的なケースで見ていきます。
100万円規模でも成立するケース
数百万円に満たない価格で会社が引き継がれる例も現実にあります。譲受企業が特定のノウハウや商圏、職人の技術に価値を見出せば、金額だけでは測れない意義が生まれる。小規模でも諦める必要はありません。詳しくは零細企業の事業承継で触れています。
廃業との比較
対極にある廃業と比べる視点も欠かせません。廃業には設備処分や清算の費用がかかり、従業員の雇用も守れません。M&Aなら譲渡益を得られる可能性があり、雇用も残せる。手続の時間と労力も含め、総合的に天秤にかけたいところです。
赤字・債務超過での売却可能性
赤字や債務超過でも、売却を諦めるのは早計です。将来の黒字化が描ける事業計画、優れた技術や人材、固有の顧客基盤があれば、譲受企業は「自社の資源で再生できる」と判断します。実務の勘所は債務超過でのM&Aにまとめています。
許認可・個人情報の取扱い
許認可業種や個人情報を多く扱う会社では、その取り回しがM&Aの進行を大きく左右します。早い段階での確認が肝心です。
承継に許可が必要な業種
建設業や医療、介護などでは、譲渡後に許認可を承継できるかの確認が欠かせません。許認可は法人格に紐づくため、株式譲渡なら比較的スムーズ。一方、事業譲渡では取り直しが必要になる場合があります。事前に規制当局へ確認しておきましょう。
顧客同意とデータ移転の実務
M&Aでは顧客情報の移転を伴うことがほとんどです。個人情報保護法に基づき同意が要る場面もあり、事業譲渡での個別契約承継や利用目的の変更には注意が要ります。専門家と組み、法令に沿った形で厳重に進める姿勢が求められます。
相談先の選び方
誰に託すか。この選択が、M&Aの成否を大きく分けます。公的窓口として、中小企業庁が全国47都道府県に設ける事業承継・引継ぎ支援センターが原則無料で相談に応じています。民間と公的、双方を見比べるのが出発点です。
仲介会社が向く案件・向かない案件
仲介モデルは売り手と買い手の双方と契約し、中立的に橋渡しする形が中心で、中小企業の会社売却に馴染みます。大規模案件や上場企業の非公開化ではFAが適する場合も。仲介の全体像はM&A仲介の仕組みで確認できます。
面談で確認したい主な質問
担当者を見極めるには、実績や業界経験、会計・税務の有資格者の在籍、報酬体系、マッチング手法、デューデリジェンスや契約書作成の支援範囲を尋ねるのが有効です。相談先の比較には相談先ランキングや仲介会社の一覧が役立ちます。
早期成約につなげる進め方
業績が好調なうちに、あるいは承継を急ぎたい。そう考える経営者もいます。無駄な時間を削り、着実に前へ進めるための現実的な工夫を挙げます。
資料整備と決裁の短縮
スピードの鍵は、まず資料整備の速さです。決算書や契約書を先回りで揃えれば、デューデリジェンスの時間を圧縮できます。社内の意思決定プロセスを簡素にし、主要な決裁を短期で回せる体制にしておくことも効きます。
買い手候補の選定と打診戦略
会社を売りたい焦りから手当たり次第に声をかけると、かえって遠回りになりがちです。本当に関心を持つ相手へ集中したほうが、誠意が伝わり交渉も進みます。
やみくもな打診は逆効果
一斉打診は情報の拡散や交渉の複雑化を招きます。本命に絞って腰を据えて話す。そのほうが真剣な検討を引き出せます。
相性の良い相手から順に
経験豊富な仲介会社は、自社の強みを最も必要とする相手を選び出します。技術を活かして新製品を生み出せる、といった具体的な相乗効果を描ける相手が理想。本命から一社ずつ当たるのが基本です。
みつきコンサルティングの会社売却支援事例
当社が支援してきた成約から、「会社を売りたい」というテーマに近い2件を、規模と課題が伝わる範囲で紹介します。いずれも公認会計士・税理士を含むチームが、完全成功報酬制で伴走しました。
| 事例 | 概要 |
|---|---|
| 施設介護(株式譲渡) | 売上約3億円の介護事業者が、売上約100億円の同業へ譲渡。創業30年、後継者問題と業界再編が背景。太陽光発電やBCP対策が評価され、技術とノウハウの融合で新サービス創出につながった。 |
| 建設コンサル(株式譲渡) | 売上約1.5億円の測量会社が、売上約30億円の同業へ譲渡。創業40年、経営者の高齢化と技術革新への対応が課題。社内に後継候補がいながらも資本業務提携を選び、グループ連携で成長基盤を固めた。 |
ここに挙げたのは支援実績の一部です。業種や規模の異なる成約は、オーナーの体験談でご覧いただけます。
業界再編の波に乗り、技術革新で新たな価値創造

譲渡企業:施設介護(売上約3億円)
譲受企業:施設介護(売上約100億円)
スキーム:株式譲渡
創業30年の介護事業者が後継者問題と業界再編を背景にM&Aを決断。太陽光発電・BCP対策を評価され、技術とノウハウ融合による新サービス創出を実現。
創業40年の測量会社、技術革新と後継者問題を解決

譲渡企業:建設コンサル(売上約1.5億円)
譲受企業:建設コンサル(売上約30億円)
スキーム:株式譲渡
経営者の高齢化と業界の技術革新への対応課題を背景に、後継者候補がいながらも大手企業との資本業務提携を選択。グループ連携により成長基盤を強化。
会社売却に関するFAQ
会社を売りたいと考える経営者から、実際によく寄せられる質問に答えます。
現場ではまず、売却の目的と希望条件の整理から入ります。並行してM&A仲介会社に相談し、自社の状況を見てもらうのが近道です。決算書などの基本資料も早めに揃えておくと、その後がスムーズに運びます。
可能です。ただし情報管理の徹底が前提になります。秘密保持契約を結び、社内では信頼できる幹部だけに共有し、コードネームで扱うといった運用が有効です。誰にいつ伝えるかは、専門家と計画を組んで決めます。
準備からクロージングまで、目安は半年から1年です。交渉やデューデリジェンスが長引けば、さらに延びることもあります。焦らず、しかし資料を先回りで整えておくと、無用な待ち時間を減らせます。
売れる余地は十分にあります。買い手が赤字要因の解消や将来の黒字化を見込めたり、技術・人材・顧客基盤に価値を感じたりすれば成立します。今の数字だけで判断せず、潜在的な価値を専門家に洗い出してもらうのが第一歩です。
実績の豊富さ、会計士・税理士の在籍、報酬体系の明確さ、担当者との相性を見ます。複数社の無料相談を使って比較するのが確実です。公的な事業承継・引継ぎ支援センターも、あわせて検討したい窓口です。
会社を売りたい経営者のためのまとめ
会社を売る決断は、後継者問題の解決にも、事業の新たな成長にもつながる大きな一歩です。準備、相手探し、交渉、税金と、押さえる論点は多いものの、順を追えば必ず整理できます。一人で抱え込まず、信頼できる専門家と歩めば、迷いはきっと軽くなります。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業の会社売却・事業承継に特化し、実績経験の豊富なアドバイザーと公認会計士・税理士が在籍しています。会社を売ることをお考えの際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >
著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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