株主割当増資とは、既存株主に対して持株比率と同じ割合で新株を割り当てる増資手法です。この記事では、株主割当増資に類似する手法やメリット・デメリット、手続について詳しく解説いたします。
株主割当増資とは
株主割当増資とは、増資の一種で、既存の株主に対して、持株比率に応じた新株を発行し、出資を引き受けてもらう資金調達方法です。この方法の特徴は、既存の株主が持分比率に応じて新株を購入することにより、個別の調整が最小限に抑えられることが挙げられます。
例えば、1,000株を保有している株主Aと、500株を保有している株主Bがいる場合、新たに発行される株式は2:1という比率で割り当てられます。株主Aに100株、株主Bに50株が割り当てられ、増資後の保有株数は株主Aが1,100株、株主Bが550株となります。
このような方法であるため、第三者割当増資とは違って、他社との資本業務提携(M&A)に利用されることはありません。
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他方で、第三者割当増資と呼ばれる方法では、新株を任意の既存株主や新規株主候補に発行します。これにより機動的に増資ができますが、株価の算定や企業価値・時価総額の調整、既存株主の持ち分の希釈化など多くの調整が必要となります。
これに対し、株主割当増資では、既存株主が同じ条件で新株を引き受けるため、調整の手間を軽減することが期待できます。
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株主割当増資のメリットとデメリット
株主割当増資にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。以下にその特徴をまとめました。
メリット
デメリット
以上のように、株主割当増資は既存株主の持ち分比率を維持しながら資金調達ができるメリットがある一方で、大規模な資金調達が難しいというデメリットがあります。企業は、自身の状況やニーズに応じて適切な増資方法を検討することが重要です。
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株主割当増資の注意点
株主割当増資においては、新株の発行に伴って経営に様々な影響が及ぶ可能性があるため、注意が必要です。主な注意点を以下にまとめます。
発行可能株式総数の把握が重要
会社を設立する際には、定款に「発行可能株式総数」を定め記載する必要があります。この数字は、取締役会の決議によって発行できる株式数の最大限度を表しています。
先に述べた「株主割当増資の手順」にて説明した通り、株式譲渡制限会社且つ定款に特別な規定がない場合を除き、全ての会社で、取締役会だけで株主割当増資を決定できます。これは、企業の資金需要が急に生じる場合があるため、株主総会よりも迅速に開催できる取締役会に株式発行の権限を付与しているという理由があります。しかし、株式発行は株主の権利に密接に関連しているため、限界を設けずに取締役会に権限を与えることによる問題が起こる可能性が考えられます。それゆえ、会社法では取締役会が発行できる株式数の上限として、「発行可能株式総数」を設定することが求められています。
一部の企業では、会社設立時に発行済株式数と発行可能株式総数を同一に設定していたり、あるいは発行可能株式総数が非常に少なかったりすることがあります。その結果、必要な株式数に達する新株発行の決議が取締役会でできない可能性が生じます。このような場合は、株主総会を開く必要があります。
増資を計画する際には、発行可能株式総数を確認し、もし必要であれば定款の変更を事前に行いましょう。
資本金1億円を超える場合の注意点
株主割当増資を実行することのメリットとして、資本金が増加し、財務基盤が安定し信用力が向上することが挙げられます。ただし、資本金が1億円を超える場合は、税務上のデメリットが発生することに注意が必要です。
法人税法において、資本金1億円以下の企業は「中小企業」と定義されています。国の産業政策により、資本金1億円以下の中小企業へは、税務上の恒久的、または一時的な優遇措置が提供されています。主な特典として、法人税の軽減税率の適用があります。資本金1億円以下の法人は以下の通り、税率が軽減され優遇されています。
また、「交際費等」が全額損金不算入とされる原則に対して、資本金1億円以下の企業では年間800万円までの損金が算入され、接待飲食費特例措置(50%損金算入措置)の適用が可能です。
さらに他にも、少額減価償却資産における一括償却特例など、期間は限定されますが、中小企業だけが利用できる有利な税制が時々設けられています。
増資を検討する場合は、これらの観点も十分に考慮しましょう。
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第三者割当増資・公募増資との違い
新株の発行によって資金調達を行う際、主に株主割当増資、公募増資、第三者割当増資の3つの方法があります。ここではこれらの増資方法の違いについて詳しく説明します。
出資者の違い
まず、出資者の違いについて見てみましょう。
資金調達範囲の違い
次に、資金調達範囲の違いについて解説します。
持株比率の変動
最後に、持株比率の変動について説明します。
株主割当増資は、既存株主に新株を割り当てることから、持株比率に変動は生じません。しかし、公募増資や第三者割当増資は新規株主にも新株を割り当てるため、既存株主の持株比率が相対的に低下します。これに伴い、株主総会の議決権や配当など、既存株主が享受していた利益も減少することがあります。
したがって、増資方法を選択する際には、既存株主への影響の程度を考慮する必要があります。
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株主割当増資のスケジュール
ここでは、第三者割当増資を実施する際の手続の流れについて解説します。
募集要項を決定する
募集要項を決定する際、公開会社の場合は取締役会にて決定します。非公開会社(株式譲渡制限会社)の場合は、原則として株主総会による特別決議となりますが、定款で募集要項の決定に関して、取締役会あるいは取締役が定めるという規定を設けている場合、取締役会や取締役での決定が可能です。
募集要項は、会社法によって以下の通り定められています。
株主への通知・公告を行う
続いて、取締役会で募集要項を決定した場合は、募集要項を株主に向けて、払込期日の2週間前までに通知、または公告を行います(会社法第201条第3項および第4項)。
引受け申込み希望者へ通知を行う
次のステップでは、募集する株式の引受け申込みを希望する人に対して、以下の項目を通知する必要があります(会社法第203条第1項)。
引受け書面を交付する
引き続き、募集株式の引受け申込者は、以下の内容を記載した書面を交付する必要があります(会社法第203条第2項)。
- 申込み者の氏名・名称および住所
- 引き受ける募集株式の数
割当先の決定と申込者への通知を行う
その後、割当先を決定し、割当募集株式の株式数を確定させます。なお、取締役会設置会社の場合は、取締役会決議で割当先を決定することが可能です(会社法第204条第1項、会社法204条第2項)。
出資の履行を行う
最終段階として、募集株式の引受人は払込日または払込期間内に、募集株式のすべての払込金額を会社が指定した金融機関の払込取扱場所に振り込む必要があります(会社法第208条)。
株主割当増資のまとめ
本記事では、株主割当増資について詳しく解説しました。株主割当増資は手続きが比較的簡便な増資方法ですが、株主に影響を及ぼすことから、メリット・デメリットを理解した上で適切な判断を行いましょう。
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著者
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
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