繰越欠損金とは、前期以前の赤字の累積が繰り越されてきたものです。企業が赤字を計上してしまった場合、その欠損金を繰り越せる繰越欠損金は、節税のために多くの企業で用いられています。本記事では、繰越欠損金の内容や節税効果、使用制限や特例などに関する概要を解説します。
繰越欠損金とは
繰越欠損金とは、法人が翌期以降に繰り越せる税務上の赤字のことです。繰り越した赤字(欠損金)は、翌期以降の黒字(所得)と相殺できます。
繰越欠損金は古い赤字から利用
例えば、前年度に欠損金を1億円計上し、翌期に1億円の当期利益を計上して全額を繰越欠損金と相殺した場合、法人税は課税されず、繰越欠損金は解消されます。しかし、実際には1年間で繰越欠損金を解消することはまれで、複数年かけて解消されるのが一般的です。繰越欠損金が複数の事業年度において発生している場合は、古い事業年度にて発生した繰越欠損金から相殺していきます。
なお、無償減資によって利益剰余金のマイナスを解消させることがあります。この場合、会計上の累積赤字は解消されますが、税務上の繰越欠損金は残ります。
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繰越できる期限(期間)
青色申告の承認を受けた企業が前提ですが、以下の期間に渡り、繰越欠損金を繰り越すことができます。
2018年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金:10年間
上記以前に生じた欠損金:9年間
繰越欠損金の控除限度額
繰越欠損金は、資本金1億円以下の「中小法人等」は、黒字(所得)全額との相殺が認められています。「中小法人等」の範囲は以下のとおりです。
「中小法人」とは
- 資本金または出資金が1億円以下の普通法人(ただし100%親会社が存在する法人は対象外)
- 公益法人など
- 協同組合など
- 人格のない社団法人など
「等」とは
中小法人に限らず、以下の条件を満たす法人は、所得の全額まで繰越欠損金を利用できます。この特例は、新設法人や再建中の法人に対して、財務や経営再建への影響を最小限に抑えるために設けられました。
- 新設法人(設立から7年間の事業年度に利用可能)
- 事業再生や更生手続きを行っている法人(開始日から7年間の事業年度に利用可能)
大法人の控除限度額
上記の「中小法人等」以外の場合は、繰越欠損金と相談できる黒字(所得)は、2018年4月1日以降に開始する事業年度からは、その50%とされます。それ以前の年度は55~80%です。
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M&Aで繰越欠損金を利用した節税方法
M&Aにおける繰越欠損金を用いた節税方法には、例えば以下のようなケースが考えられます。
買収企業の業績を立て直し、黒字化した場合
赤字企業を買収し、その企業の事業を継続する場合、原則として繰越欠損金を利用することができます。これにより、買収企業が計上する利益に対し、売却企業が持っていた繰越欠損金を適用することで、課税対象額が減少し、法人税の額も低く抑えられ、大幅な節税効果が期待できます。ただし、法人税法が定める一定の要件を満たす必要があります。
買収企業を清算させる場合
買収後100%出資の支配関係が5年経過してから清算すれば、繰越欠損金を全額引き継ぐことができます。ただし、5年以内に清算すると引継制限がかかります。
繰越欠損金がある子会社を合併する場合
繰越欠損金がある買収子会社を合併するケースでは、引き継げることがあります。ただし、繰越欠損金の不正利用を防止するため、一定の要件が定められています。
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繰越欠損金の会計処理
少々専門的ですが、繰越欠損金に係る会計処理を、税効果会計に焦点をあてて説明します。
繰越欠損金の税効果会計とは
課税所得から控除する繰越欠損金は、税務上では損金と見なされますが、会計上の費用ではありません。そのため、繰越欠損金によって企業会計と税務会計にズレが生じた場合は、「税効果会計」という会計処理を行います。
税効果会計の詳しい解説は本稿では避けますが、会計上の利益と税務上の課税所得は、必ずしも一致せず、会計上は収益や費用として計上できても、税務上は益金や損金として認められないものもあります。このような会計上と税務上の異なるルールによるズレを調整し、企業の税金費用を適切に期間配分する手続きが税効果会計です。
翌期以降の黒字と相殺される繰越欠損金は、将来的には解消されることが見込まれます。このような場合、税効果会計では、繰越欠損金の金額に実効税率を掛けて、「繰延税金資産」という勘定科目で計上します。法定実効税率とは、税務会計上の所得に対する法人税、住民税、事業税の表面税率を使って、所定の方法で計算される総合的な税率のことです。
法人税の繰越欠損金の仕訳
まず、税効果会計を行うタイミングは決算時です。仕訳作成時には、繰越欠損金の金額をそのまま使用するのではなく、法定実効税率を適用して事業年度の法人税額を算出します。
例えば1,500,000円の欠損金が発生し、それを繰越欠損金として計上する場合、次のような仕訳例が考えられます。ただし、法定実効税率は30%とします。
借方:繰延税金資産 450,000円/貸方:法人税等調整額 450,000円
(※1,500,000円 × 30% = 450,000円)
続いて、欠損金が発生した翌事業年度に1,000,000円の黒字となり、上記の欠損金を繰越控除した場合、次のような仕訳例が考えられます。
借方:法人税等調整額 300,000円/貸方:繰延税金資産 300,000円
(※1,000,000円 × 30% = 300,000円)
さらに、次の事業年度に500,000円の黒字となり、繰越欠損金の残り500,000円分を計上した場合、次のような仕訳例が考えられます
借方:法人税等調整額 150,000円/貸方:繰延税金資産 150,000円
(※500,000円 × 30% = 150,000円)
これにより、繰越欠損金は全て相殺され、解消されます。
最後に、繰越欠損金の回収可能性がなくなった場合について説明します。翌期以降が黒字でないと、繰越欠損金を適用することができず、計上した繰延税金資産が回収できないと判断される場合、次のような仕訳例が考えられます。
借方:法人税等調整額 450,000円/貸方:繰延税金資産 450,000円
(※1,500,000円 × 30% = 450,000円)
以上が、繰越欠損金に関する会計処理・仕訳の内容です。
繰越欠損金のまとめ
繰越欠損金は、創業直後で業績がまだ安定していない企業や、一時的に赤字に陥った企業のための利用しやすい制度です。繰越欠損金を計上するためには、確定申告時に所定の別表へ詳細を記載する必要があります。欠損金が発生した期と、繰越欠損金を利用する際には、記載する書類や手続きが異なるため注意が必要です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
著者
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
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