株式譲渡の税金|非上場株の源泉徴収・税率・計算方法・ミニマム税

株式譲渡は、M&Aの手法の1つです。本記事では、非上場の自社株を譲渡する際の税金について解説します。税金の種類や計算方法、注意点などについてもまとめていますので、株式譲渡を検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。

株式譲渡にかかる税金とは

株式譲渡を行うことで、譲渡側に対し税金が課せられます。個人の場合は所得税(と住民税)、法人の場合は法人税(と住民税・事業税)が発生します。さらに、2037年までは、株式の取引に「復興特別所得税」も課せられるため、注意が必要です。「復興特別所得税」とは、2013年~2037年までの間、東日本大震災の復興財源に充てることを目的としています。

株式譲渡にかかる税金は、翌年の3月15日までに確定申告を行い、復興特別所得税とともに所得税を納税します。所得税と併せて課せられる住民税は、翌年の4月~5月頃に送付される納付書で納税します。

個人と法人による株式譲渡の税率の違い

株式譲渡において、個人と法人のどちらでも課税されますが、税率に違いがあります。ここでは、個人と法人による株式譲渡の税率の違いについて解説します。

個人が譲渡する場合

個人が株式譲渡を行う場合、譲渡所得に対して所得税と住民税が課せられます。さらに、2037年までは、復興特別所得税も課せられる点に注意が必要です。所得税は譲渡所得の15%、住民税は譲渡所得の5%となっており、復興特別所得税の税率0.315%と合わせて、合計20.315%の税率となります。

法人が譲渡する場合

法人が株式譲渡を行う場合、譲渡所得に対して法人税と復興特別所得税、法人住民税などが課税されるため、税率は企業によって異なる点に注意してください。法人税の税率は企業により幅がありますが、30%であることが多いです。また、法人の場合、事業により発生した全ての損益と合算して課税するため、合算損益が赤字の場合は課税されないという特徴があります。

個人株主人株主
税金の種類所得税、住民税法人税、住民税、事業税
税率20.315% (所得税15.315%、住民税5%)実効税率は30~35%程度
課税方式分離課税(他の所得と区分して、株式譲渡所得に対して課税)総合課税(他の損益と合算した所得に対して課税)
株式譲渡益にかかる税金

株式譲渡にかかる税金の計算方法

株式譲渡を行う際にかかる税金は、いくつかの計算方法があります。ここでは、株式譲渡に関わる税金の計算方法について解説します。

譲渡所得の計算

個人株主による株式譲渡の場合、譲渡収入金額から、取得費と譲渡費用を差し引いた額(譲渡所得)に対して税金がかかります。

譲渡所得=譲渡収入-(取得費+譲渡費用)
譲渡所得の計算式

取得費

株式の取得費とは、購入した株式であれば、購入価額になります。創業者などで設立時に資本金として払い込んだ状態のままなら、払込金額になります。相続・贈与で取得した場合には、旧株主の取得費を引き継ぎます。

取得費が不明の場合には、概算取得費といって譲渡収入×5%とすることができます。

譲渡費用

株式の譲渡に要した費用は、印紙税、名義書換料などですが、微々たる金額です。M&Aで自社株を譲渡する場合の、M&A仲介社会社への手数料が最大の金額になります。

税金の計算

株式譲渡の税金は、譲渡者が個人か法人かにより、種類や税率が変わるのがポイントです。個人の場合は、「譲渡所得などの金額×20.315%」となっています。一方、法人の場合は、「譲渡所得などの金額×税率(企業により異なる)」であり、税率が一律となっている個人と違って、法人は企業によって異なる点に注意が必要です。

計算方法の例

株式譲渡を行う際の税金について、以下のケースで個人、法人のそれぞれの立場で計算してみましょう。

  • 株式の譲渡価格:5000万円
  • 株式の取得費用:1000万円
  • 譲渡の各手数料(必要経費):500万円
  • 譲渡所得:5000万円(譲渡価格)ー1500万円(取得費用+必要経費)=3500万円
  • 税率:個人20.315%、法人30%

個人株主の場合

3500万円(譲渡所得)×20.315%=711万250円

法人株主の場合

3500万円(譲渡所得)×30%=1050万円

今回の株式譲渡において、個人の場合は711万250円、法人の場合は1050万円の所得税が課せられるということになります。

非上場株式の譲渡における源泉徴収

非上場株式を譲渡した際に、源泉徴収は生じるのでしょうか。

原則として源泉徴収しない

個人株主・法人株主ともに、非上場株式を譲渡した際において、譲受側における源泉徴収は、原則として必要ありません。例えばM&Aの場合、譲受企業は、譲渡側(オーナー経営者など)に対して、譲渡価格から何ら控除せず、譲渡価格と同額の対価を支払います。

なお、その後、譲渡側において確定申告をします。

例外的に源泉徴収する場合がある

個人株主・法人株主ともに、非上場株式を譲渡したことにより税務上の「みなし配当」が生じる場合には、その発行法人において源泉徴収義務が生じます。典型的には、株式をその発行法人に譲渡して、自己株式(金庫株)とする場合です。

源泉税率は20.42%です。源泉徴収した所得税は「みなし配当」の発生の翌月10日までに発行法人が納付します。

個人株主は確定申告が必要

株式譲渡を行ったことで利益が発生する場合、確定申告が必要になります。M&Aによる株式譲渡は、譲渡所得が20万円を超えるケースがほとんどのため、大体の人にとって確定申告が必要です。なお、外国株式の場合には、外国税額控除を受けられるケースもあります。

確定申告の申告期間

1月1日~12月31日までの譲渡に対して、原則として翌年の2月16日から3月15日の間に所轄税務署へ申告が必要です。

参考:株式を売却した方へ|令和4年分 確定申告特集(本番編)

確定申告に必要なアイテム

確定申告の際に必要なアイテムは、次のとおりです。

  • マイナンバーカードもしくは、本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)
  • 給与所得、公的年金などの源泉徴収票
  • 還付先の口座番号(本人名義のみ)
  • 認め印

また、確定申告に必要な書類は、次のとおりです。

  • 確定申告書B
  • 分離課税用の申告書
  • 譲渡所得などの金額の計算明細書
  • 年間取引報告書
  • 特定口座以外での株式譲渡収入や取得費などの計算資料

確定申告が不要な場合とは

株式譲渡を行った場合でも、確定申告が不要なケースがあります。確定申告が不要な場合は、次のとおりです。

  • 上場株式を譲渡した場合(株式譲渡に源泉徴収ありの特定口座を利用することで確定申告が不要となる。)
  • 特定口座を利用している場合(銀行などの口座開設時に選択することで、1年間の株式による損益を自動計算してくれる。)
  • 株式売買の損失が、利益を上回っている場合
  • 譲渡益が20万円以下で、売却した方のその年の収入が給与収入しかなく、かつ、給与収入が2,000万円以下の場合

株式譲渡課税の特例と節税方法

株式譲渡を行う際に課せられる税金には、いくつかの特例制度が存在します。ここからは、株式譲渡に関わる税金の特例制度について解説します。

事業承継税制

株式譲渡に関わる税金の特例制度として、事業承継税制があります。事業承継税制とは、非上場会社の株式などを前経営者から贈与または、相続により後継者が取得した場合、都道府県知事による経営承継円滑化法の認定を受けることで、贈与税・相続税の納税が免除・猶予される制度です。

事業承継税制の適用には、「会社」「前経営者」「後継者」「制度適用後」の4項目にある要件を満たす必要があります。事業承継税制を受ける場合、事務手続きが複雑なため、専門家への相談をおすすめします。

取得費加算の特例

次の特例制度は、取得費加算の特例です。取得費加算の特例とは、譲渡した株式に対する相続税額を取得費に加算できる制度です。取得費加算の特例を受けるには、相続税の申告期日の翌日から3年以内に株式譲渡を行わなければなりません。さらに、確定申告も必要となるため、注意が必要です。

株式譲渡での節税

株式譲渡で課せられる税金は高額ですが、節税方法を知っておくことで節税することが可能です。節税方法の1つは、退職金の活用です。株式を譲渡する金額の一部を、退職金として受け取ることで節税が期待できます。ただし、節税できるのは、一定の条件を満たした場合のみであり、逆に税金が増額するケースもあるため注意が必要です。

株式譲渡の税金における注意点

株式譲渡に関わる税金には、いくつかの注意が必要です。

譲受側に税金が生じる場合がある

親族内承継の場合、相続による移転であれば、相続税が親族に対して生じます。贈与であれば、承継した方に贈与税が生じます。また、売買であっても、不当に安い株価でなされた場合には、時価との差額に対して贈与税が生じる可能性があります。

税金の計算にはさまざまな要素が影響を与える

法人が株式譲渡する際は、株式取得時の譲渡価格や譲渡時における法人の財務状況などの要素が、税金の計算に影響を与えます。また、上場株式の場合は、譲渡益が出ていれば源泉徴収によって納税が可能です。しかし、損失が出る場合は、確定申告をしないと納税額が多くなってしまうケースがあります。

外国株式の譲渡も課税対象になる

国内株式だけでなく、外国株式の譲渡であっても課税対象になります。外国株式の譲渡の場合、国内株式同様の税率で扱われますが、確定申告の際に外国税額控除を受けられる場合があるため、事前に確認しておくことが重要です。

2025年からのミニマム税の導入により所得税率が上がる?

上述したように、現行の税制では、M&Aによる株式譲渡時の個人課税は、所得税と住民税を合わせて20%(厳密には20.315%)となっています。これは所得税が15%、住民税が5%という内訳です。しかし、2025年以降に自社株を譲渡する場合、所得税の増税により、最大で27.5%(所得税22.5%、住民税5%)に引き上げられる可能性があります。「ミニマム税」と呼ばれる税制改正が、2025年1月1日以降の株式譲渡から適用される可能性があるからです。

ミニマム税とは

税制改正の具体的な計算方法についてご説明しましょう。
簡単に言えば、各種の所得を合計した「基準所得金額」を算出します。そこから3.3億円の特別控除を差し引いた後、残った金額に22.5%の税率を掛けます。この計算結果が、通常の方法で算出された所得税額を上回る場合、その差額分を追加で納税する制度です。

  • (基準所得金額-3億3,000万円)×22.5% > 基準所得税額
  • 追加納付する税額=基準所得税額との差額を申告納税

高額所得者であっても、主な収入源が給与所得である場合は、すでに所得税の累進課税(最高税率45%)が適用されているため、今回の改正の影響をほとんど受けないと考えられます。一方、所得の大半が株式や不動産の譲渡所得である高額所得者は、これらの所得に対する税率が15%(別途、住民税)であるため、今回の改正により追加の納税が発生する可能性が高いでしょう。
財務省のh発表によれば、合計所得金額が約30億円以上の納税者がミニマム課税の対象になるとされていますが、実際には個々の納税者の所得の構成によって異なりますので、株式や不動産の売却による数十億円規模の収入を得る可能性のある方は、慎重な検討が必要です。

M&Aなら早めの検討を

以上の税制改正は2025年から予定されています。そのため、M&Aで会社売却を検討中のオーナー経営者は、無理なく可能であれば、2024年12月31日までに譲渡を完了すれば、この新制度の影響を受けずに済みます。

一方で、M&Aの実施には通常6ヶ月以上の期間を要します。これは買い手候補の探索、デューデリジェンス、契約交渉などの過程があるためです。近い将来M&Aを検討している株主、特にオーナー経営者にとっては、年内にM&Aを実行するかどうかで手取り額が大きく変わる可能性があります。そのため、早急に検討を始めることをお勧めします。

株式譲渡にかかる税金のまとめ

株式譲渡を行う際は、個人と法人のそれぞれの税率に従って、税金が課せられます。個人の場合の税率は一律となっていますが、法人の場合は企業によって異なるため注意が必要です。また、株式譲渡に関わる税金には、いくつかの特例措置が存在します。しかし、手続きや書類の準備が複雑なため、専門家への相談をおすすめします。

税金や特例措置など、株式譲渡に関するお悩みは、「みつきコンサルティング」にお任せください。「みつきコンサルティング」は、税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較した提案をしております。経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上でシナジー創出を見込める候補先をご紹介しておりますので、ぜひ一度ご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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