優先株とは、配当や残余財産を普通株より優先して受け取れる種類株です。本記事では優先株の仕組み、普通株との違い、具体的な種類、M&A・事業承継・スタートアップでの活用法、付加できる権利までをわかりやすく解説します。
優先株とは
優先株とは、普通株よりも配当金や会社清算時の残余財産の分配で優先的な取り扱いを受ける株式で、種類株の一種です。英語ではPreferred StockまたはPreferred Sharesと呼ばれます。優先的な地位を得る一方で、株主総会での議決権が制限される場合があるため、投資家は「リターンの優先」と「経営への関与制限」を秤に掛けて投資判断を行います。
普通株よりも権利が劣る株式は「劣後株」と呼ばれ、「劣後株<普通株<優先株」と順に権利の内容が異なりますので、基礎知識として理解しておくと良いでしょう。
普通株との違い
普通株は配当・残余財産請求・議決権の三つの権利が制限なく与えられる標準的な株式です。これに対し優先株は、一般に次の2点で普通株と異なります。
受取順位
配当金や残余財産を普通株より先に受け取れるため、投資リスクを一定程度抑えられます。
議決権の制限
議決権を持たない、または限定的にしか持たない設計が一般的です。経営方針に対する発言力は普通株より小さくなります。
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優先株の種類
優先株には配当の受取り方や権利設計に応じて複数のバリエーションがあります。
参加型優先株式:
- 優先株としての配当を受け取った後、普通株と同様の配当にも参加できます。
- 配当総額が大きくなる分、市場価格は高くなる傾向があり、長期保有で安定したリターンを狙う投資家向けです。
非参加型優先株式:
- 優先株としての配当のみを受け取り、普通株としての配当には参加しません。
- 参加型より価格が抑えられるため、購入コストを低くしたい投資家に選択肢が生まれます。
制限参加型優先株式:
- 優先株配当後、普通株配当の一部(比率や上限を設定)だけを受け取れます。
- 参加型と非参加型の中間的な位置づけで、配当の上限や比率設計により柔軟な資本政策が可能です。
累積型と非累積型:
- 累積型:ある年度に満額配当を受け取れなかった場合、不足分が翌年度以降に繰り越されます。
- 非累積型:繰り越しが行われず、その年度に受け取れなかった配当は消滅します。
累積型の方が投資家保護が厚く、企業側の配当負担は大きくなります。
優先株は長期保有に向いている
優先株の値動きは緩やかで、配当重視の設計が多いため、短期売買より長期保有に適しています。特に参加型・累積型の優先株は、配当を二重に受け取れるうえ未払配当が翌期に繰り越される可能性があるため、複利的にインカムゲインを拡大できます。こうした特徴は、譲受企業の成長を腰を据えて見守りたい投資家や、相続対策として安定収益を確保したい株主に適合します。
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優先株に付加できる権利
優先株は株主間で合意すれば、配当や議決に関するさまざまな特別条項を設定できます。代表的なものを見てみましょう。
オプション条項 | 説明 |
---|---|
譲渡制限 | 株式を譲渡する際、会社の承認を要件とすることができます。 |
優先配当 | 普通株より高率・優先順位で配当を受け取る権利です。一定額や利率を保証する設計も可能です。 |
優先残余財産分配 | 会社清算時に残った資産を普通株より先に分配される権利で、投資回収リスクを下げられます。 |
役員選任権 | 種類株主総会で取締役や監査役を選任する権利です。議決権を制限する一方で経営監督機能を補う設計として用いられます。 |
議決権の制限 | 株主総会で議決権を行使することができる事項を制限できます。 |
拒否権 | 株主総会や取締役会の特定決議事項に対して、種類株主総会の承認を要件とできる権利です。重要事項での発行会社の行動を抑制できます。 |
取得請求権 | 株主が会社に対して種類株式の取得(転換)を請求することができるます。 |
取得条項 | 一定の事由の発生を条件に、会社が株主から種類株式を取得することができるます。 |
全部取得条項 | 会社が株主総会の決議により当該種類株式全てを取得することができます |
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優先株の利用方法
優先株は、利用頻度は多くはありませんが、様々な場面で利用されることがあります。
M&Aでの優先株の利用
オーナー経営者とは別に資本参加した投資家がいる場合に、その投資家の出資持分を優先株とすることで、その後M&Aした際の売却収入(キャピタルゲイン)を投資家に優先的に配分する設計が検討されることがあります。
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事業承継での優先株の利用
親族内承継(または社内承継)を進める場合に、後継者には議決権のある普通株式を承継し、非後継者には優先株を承継する方法です。これにより、後継者による会社の経営に支障をきたすおそれがなくなります。後継者でない者には、財産としての自社株を一部残してあげることができます。
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スタートアップでの優先株の利用
VCやCVC等の投資家からすると、スタートアップ企業への投資は大きなリスクを伴います。優先株に投資することで残余財産の分配の面で有利になり、幾分投資しやすくなります。
また、ベンチャー企業やスタートアップ企業においては、役員・従業員に対する報酬の一部にストックオプションを付与することは多いです。そのストックオプションの対象を優先株とすることで、権利行使価格を幾分低く抑え、役員・従業員のインセンティブに繋げる設計が検討されることがあります。
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優先株のメリット・デメリット
優先株式を発行・取得するメリットとデメリットを紹介します。
優先株のメリット
優先株には、投資家と発行企業の双方にとって魅力となるポイントがあります。ここでは立場別に整理し、具体的な場面を交えながら解説します。
投資家にとってのメリット
投資家が優先株を取得する最大の利点は、剰余金配当と残余財産の優先順位です。配当が普通株より高率で保証される設計であれば、景気変動に左右されにくい安定的なキャッシュフローを期待できます。また、参加型や制限参加型の場合は普通配当にも参加できるため、長期保有で配当総額が膨らみやすい点が魅力です。さらに、累積型であれば未払配当が翌期に繰り越されるため、配当水準の平準化効果が生まれます。これらの仕組みは投資家のダウンサイドリスクを抑制し、インカムゲイン志向の資金を呼び込みやすくします。
発行企業にとってのメリット
企業側のメリットは、大きく資金調達面とガバナンス面に分かれます。まず資金調達面では、普通株より高い株価で発行できるため、同じ払込金額でも発行株数を抑制できます。これにより既存株主の希薄化が小さくなるほか、自己資本比率の改善効果も期待できます。ガバナンス面では、議決権制限や拒否権を組み合わせることで、経営権を後継者や創業者に集中させつつ、投資家に財産的メリットを提供できる点が特に事業承継局面で有効です。
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優先株のデメリット
一方で優先株には留意すべきデメリットも存在します。導入前に必ず確認しておきましょう。
投資家にとってのデメリット
優先株は一般市場での流通量が少なく、特に非上場企業の場合は売却先を探しにくいという流動性リスクがあります。株価が急騰しづらいため短期売買でキャピタルゲインを狙う投資家には不向きです。また、議決権制限型の場合、経営方針に影響を及ぼしづらい点をデメリットと感じる投資家もいます。
発行企業にとってのデメリット
企業側では、優先株の発行手続に定款変更や種類株主総会が必要となるため、時間とコストが発生します。さらに「資金繰りに窮しているのではないか」という市場の先入観がつきまとうケースもあり、発行時期や発行条件を誤ると企業イメージが毀損するリスクがあります。
優先株のメリット・デメリット一覧
普通株式 | 優先株式 | |
---|---|---|
企業側のメリット | 定款変更が不要 契約内容が公開されない | 株価が高くなる 資金調達の可能性が高まる ストックオプション実効性担保 |
企業側のデメリット | 株価が低くなる 資金調達の可能性は低くなる | M&A時の分配額が減る 定款の変更が必要 種類株式総会の開催が必要 |
投資家のメリット | 契約自体は簡単 契約内容は公開されない 自由に条件を設計可能 | ダウンサイドリスク軽減 モニタリング強化 |
投資家のデメリット | 創業者フリーライドの可能性 | 契約レビューコストが高い |
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優先株を活用したM&A・事業承継の実務ポイント
M&Aや事業承継では、経営権と財産権の分離がしばしば課題となります。優先株はこの課題を解決する有効なツールです。
M&Aで投資家のリターンを確定させる
投資家を優先株主とし、譲渡オーナーが持ち株を譲渡した際のキャピタルゲインを優先配分する条項を設けることで、投資家のリターンを確実にしつつ、経営権を譲受企業側に集中させることが可能です。
親族内承継で後継者以外の相続人に財産的価値を残す
後継者が議決権付きの普通株を承継し、非後継者が議決権に制限のある優先株を保有するスキームは、経営の一元化と相続人間の公平性を両立できます。
ストックオプションとの組み合わせ
スタートアップでは、役員や従業員に付与するストックオプションの対象株式を優先株とすることで、行使価格を抑えつつ、残余財産分配順位を高め、インセンティブ効果を高める事例もあります。
一度発行すると次回以降の資金調達に影響するので注意
優先株を導入すると、その優先順位を考慮して以後の株式設計を行う必要があります。例えば、将来の増資で普通株のみを発行しようとしても、優先順位の関係で新規投資家が不利になるケースがあり、調達が難航する恐れがあります。中長期の資本政策を見据えたうえで、優先株の発行規模や権利内容を決定することが重要です。
優先株式の設計は専門家と協議する
配当率、議決権制限、拒否権、取得請求権などの条項は、発行企業と投資家の利害を精緻に調整する必要があります。条項設計を誤ると、資金調達が進まない、将来のM&Aで株主間調整が難航する、といった問題が生じます。公認会計士・税理士・弁護士など専門家のサポートを受けながら、会社の事業計画と資本政策に合致した設計を行うことが望ましいです。
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よくある質問|優先株
以下は、優先株式に関連するFAQになります。ご参考ください。
優先株主は、常に投資額を最初に回収できるのですか
必ず最初に投資額を回収できるとは限りません。一般的には、まず優先株主が投資した金額またはその何倍かの金額を優先的に受け取り、その後で残りの財産を普通株主と一緒に分けるケースが多いです。これを「参加型優先株式」と呼びます。一方、最初に決められた金額だけを受け取って、残った財産を受け取れない「非参加型優先株式」というタイプもあります。
優先株は最終的に普通株に転換されることはありますか
はい、優先株は最終的に普通株に転換される仕組みになっていることがほとんどです。この転換には、株主が自分で普通株に変えることを決める「任意転換(Optional Conversion)」と、IPOなど一定の条件が整ったときに自動的に普通株に変わる「強制転換(Mandatory Conversion)」の2種類があります。
優先株にはどのような種類があり、M&A時の分配に影響を与えますか
優先株には、優先して分配される金額を超えた部分も普通株主と一緒に分配を受けられる「参加型優先株式」と、最初に決めた優先金額しか受け取れない「非参加型優先株式」があります。また、「参加型」の中にも、受け取れる上限が決められている「キャップ付き参加型優先株式」というタイプもあります。どの種類の優先株を持っているかによって、M&Aで受け取れる金額が変わります。また、優先株同士でもどちらを先に分けるか、優先順位を決めることもできます。
優先株における残余財産優先分配権とは何ですか
残余財産優先分配権とは、会社が解散して残った財産を分けるときに、普通株主より先に優先株主が財産を受け取れる権利のことです。ベンチャーキャピタル(VC)などが会社に投資するときに、投資契約や株主間契約によく入れられています。
M&Aの際に、残余財産優先分配権はどのように機能しますか
M&Aが起きると「みなし清算条項」が働き、会社の売却で得られるお金が、解散したときの財産とみなされます。この売却で得られたお金は、まず残余財産優先分配権を持つ優先株主に契約で決めた条件(投資した金額の何倍かなど)に従って分けられ、そのあとで普通株主などほかの株主に残った分が配られる流れになります。
みなし清算条項とはどのようなものですか
みなし清算条項(Deemed Liquidation)とは、会社が合併したり、事業を他社に売ったりするM&Aなどのときに、会社が解散(清算)したものとして扱い、そのときの売却代金などを優先株主に分配することを決めている規定のことです。
みなし清算条項はどのような目的で規定されることが多いですか
みなし清算条項は主に、ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家が、投資したお金を確実に回収するために作られます。M&Aなど会社を売ることで投資資金を回収するときに役立つもので、受け取るのは現金であることが多いですが、上場株式など後から市場で売れるものの場合は現金でなくてもよいです。
みなし清算条項が規定されることによるVC側のメリットは何ですか
みなし清算条項があると、VCは会社が途中でM&Aされてしまったときに損失を防ぐことができます。もし投資したときより安い価格で売却される場合でも、最低限の利益を受け取れる仕組みになるためです。また、将来のM&AやIPO(株式公開)のどちらでも利益を出しやすくなり、投資しやすくなるというメリットもあります。
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優先株のまとめ
優先株は、配当や残余財産の受取順位を高める一方で議決権を制限することで、投資家の安定収益と発行企業の経営権集中を両立できる柔軟な資本政策ツールです。M&Aや事業承継、スタートアップ投資での活用場面を理解し、自社の状況に合わせた設計を行いましょう。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しています。 みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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