近年、ゲーム業界におけるM&Aが活発化しています。本記事では、ゲーム業界でのM&Aを検討している人に向けて、M&Aを行う目的や最近の動向、実施するメリット、成功させるポイント、近年の事例を解説します。

角川アスキー総合研究所「ファミ通ゲーム白書2024」を基に当社加工
ゲーム業界とは
ゲーム業界は、ゲームの開発や企画・製造・販売・配信などを行う業界です。行っている事業は企業によってさまざまで、ゲーム機本体を開発する企業やゲームソフトを開発する企業などがあります。さらに、ゲーム機本体とゲームソフトの両方を製造・開発する企業もあります。ゲーム業界のカテゴリーは、大きく分けて4種類です。詳しくは、以下で解説します。
4つに分類されるゲーム業界
ゲーム業界は、大きく4つの企業に分類されます。各企業の主な事業内容は、下記のとおりです。
- ゲーム機の製造会社:ゲームをプレイするためのハードウェアの企画・開発・販売を行う
- ゲームソフトの開発会社:ゲームのコンテンツ(アクション、ロールプレイング、スポーツなど)の企画・開発・販売を行う
- ソーシャルゲームの開発会社:スマートフォンやタブレット、パソコンで遊べるゲームの企画・開発・リリースを行う
- オンラインゲーム(プラットフォーム)の開発会社:パソコンや家庭用ゲーム機を用いてオンライン上で遊べるゲームの企画・開発・販売を行う
ゲーム業界の市場規模
2023年のゲームコンテンツの市場規模は、全世界ベースで29兆5162億です。この数値は、前年から約3%増加しています。
2023年の日本国内のゲーム市場は、前の年に比べて4.6%成長し、市場全体の大きさは2兆1255億円となりました。この年は、さまざまな物の値段が上昇する状況(インフレ)が続いており、例えば「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の消費者物価指数は4.0%上昇しました。このような物価の上昇と比べても、国内のゲーム市場は順調に伸びていると言えるでしょう。
家庭用ゲーム機のハードウェア市場が好調
特に目立ったのは、家庭で遊ぶためのゲーム機本体(家庭用ゲームハード)の分野です。この分野は、前の年と比較して27.5%も大きく成長しました。この成長の主な理由としては、「プレイステーション5」の販売台数が増えたこと、そして発売から7年目に入った「Nintendo Switch」が長期間にわたり売れ続けていることが挙げられます。
国内オンラインゲームコンテンツ市場規模は慎重
2023年の国内オンラインゲーム市場は、全体で1兆7216億円となり、前の年と比べて3.9%成長しました。このうち、スマートフォンなどで遊ぶゲームアプリの市場は1兆2351億円で、3年続けて少し小さくなりましたが、減少の幅は小さくなっています。一方、パソコンで楽しむPCゲームの市場は、前の年より24.9%も大きく伸びています。

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ゲーム市場の成長と企業価値
このようにゲーム市場が活気づいていることは、ゲーム関連企業の価値評価にも良い影響を与える可能性があります。市場が拡大している分野の企業は、将来の成長も期待されやすいためです。中小企業のオーナー経営者の皆様にとっても、このような市場の動きは、自社の事業戦略や、場合によってはM&Aを考える上で、参考になる情報の一つと言えるかもしれません。
ゲーム業界は転換期
ゲーム業界は現在、大きな転換期を迎えています。この変化の中心にあるのが、マルチプラットフォーム展開するゲームの台頭です。従来、ゲーム開発企業は各プラットフォーム向けに個別のゲームを制作していましたが、業界の特性上、収益の安定化が課題となっていました。そこで、ソフトメーカーは自社IPを多様なプラットフォームに展開し、ソフトの普及と利益拡大を図る傾向が強まっています。さらに、「サブスクリプション型ゲーム」の人気が高まる中、例えばソニーは「アドオンコンテンツゲーム」に注力する方針を打ち出しています。モバイルゲーム市場も変化しています。5Gの普及やスマートフォンの性能向上、新規参入者の増加により、開発コストが家庭用ゲームと同等になるケースも出てきました。
これらの変化に対応するため、企業は開発体制の強化や他社IPの活用によるマーケティングの効率化を進めています。また、新規IP創出のリスクを軽減するため、他社とのコラボレーションも活発化しています。このような環境下では、高い競争優位性を築くための効果的な手段としてM&Aが注目されており、ゲーム業界における主要な戦略の一つとなることが予想されます。
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ゲーム業界のM&A動向
ここでは、ゲーム会社の最近のM&A動向について解説します。
大手事業者によるコンテンツ拡充のためのM&A
大手のプラットフォーム開発会社が、コンテンツの充実を目的として、M&Aを実施する例も増えています。具体的には、ソーシャルゲームの開発会社を次々と譲受することで、自社コンテンツの多様化を図っています。充実したコンテンツを持つことができれば、より多くのユーザーを引き付け、ユーザー基盤の拡大にもつなげることができるでしょう。近年急成長を遂げているモバイルゲーム分野でのM&Aも多いです。
マルチプラットフォーム化、サブスクリプション型への転換
ゲーム産業において、多様なプラットフォームに対応する戦略が活発化しています。こうした潮流を背景に、大手ゲーム企業による戦略的な企業買収が増加しています。特に目立つのは、サブスクリプション型ビジネスに秀でた企業の取得です。さらに、自社が今後注力したいプラットフォームを強化する目的で、関連するゲーム企業を買収するケースも多く見受けられます。
海外展開を見越したM&A
近年は、海外展開を目的として、国内と海外のゲーム会社間でM&Aを実施する例が増加しています。日本の人口は減っている一方で、世界の人口は徐々に増えています。ゲームのユーザー数も、今後ますます増加することが予想できるでしょう。そのため、海外の開発業者との提携をはじめとする、海外進出を見据えた戦略は、今後さらに重要なものとなると考えられます。
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M&Aが行われる目的
ここでは、ゲーム業界でM&Aを実施する譲渡側の目的について解説します。
売り手の目的
ゲーム会社の譲渡オーナーにとっての目的(メリット)は以下のようなものです。
創業者利益を得られる
他の業界と同様に、ゲーム会社を譲渡すると、譲渡側の創業者は利益を得られます。特に、多くの株式を持っている場合、より大きな額の金銭を得られるでしょう。ゲーム事業単独の譲渡でも同様に、事業の売却による直接的な収益を得られます。得られた利益は、新たな投資や事業への再投資などに有効活用することも可能です。
短期間での投資回収が行える
ゲーム機やゲームソフトを開発するには、多額の費用が必要です。このような投資資金の回収には通常、長い時間がかかります。しかし、ゲーム会社や事業を譲渡すれば、投資資金を短期間で回収できる可能性が生まれます。早めに手持ちの資金を増やしたい場合には大きなメリットとなるでしょう。
経営基盤の安定化が図れる
ゲーム会社が大手企業の傘下に入ることで、大手企業の資金力をはじめ、知名度やブランド力を活用できるようになるでしょう。これにより、市場での競争力が高まり、長期的なビジネスの安定が見込めます。
従業員の雇用を確保できる
経営難に陥り廃業すれば、従業員は失業してしまいます。しかし、大手のゲーム会社に譲渡すれば、廃業をしても従業員の雇用を維持できるため、従業員が就職難などに悩むリスクを防げるでしょう。
後継者問題を解決できる
ゲーム業界では、後継者不足を抱えているゲーム会社が多い傾向です。経営者の勇退時に適切な後継者が見つからない場合、企業の将来は不透明になります。M&Aを実施すれば、後継者を見つけられなくても、事業やゲームブランドの存続が可能です。
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買い手の目的
次に、ゲーム業界でM&Aを実施する譲受企業の目的(メリット)を紹介します。
優秀な人材を獲得できる
人気が高いゲームの開発には、優秀な人材が不可欠です。一方で、人材の育成には、多くの時間や費用がかかります。M&Aを通じて、ゲーム開発に実績のある優秀な人材を確保できれば、即戦力として活用可能です。新たなプロジェクトの立ち上げが迅速に行えるようになり、市場での競争力を高められるでしょう。
開発力を強化できる
人気ゲームを生み出した企業を譲受できれば、他社が持つ技術やノウハウを自社のプロジェクトに活かせるでしょう。ひいては、より優れたコンテンツの開発につながり、ゲーム市場での競争力を一層強化できます。
人気コンテンツを獲得できる
M&Aを通じて人気コンテンツを獲得できれば、継続的な収入源となります。既存の人気コンテンツを活用すれば、新規開発に伴うリスクを減らしつつ、安定した業績を見込めるようになるでしょう。
コスト(費用)削減が図れる
ゲーム会社同士がM&Aを実施することで、コスト削減も期待できます。例えば、営業所の統合によって賃料を削減できるでしょう。
ゲーム業界に新規参入できる
ゲームの開発には、専門的な人材や技術力が必要です。ゼロからゲーム事業を始めるのは容易ではありません。しかし、既存のゲーム会社を譲受すれば、異業種からでもゲーム業界への新規参入が可能です。
ゲーム業界における最近のトレンドとして、IT企業やメディア企業などの本業がゲーム関連でない異業種からの新規参入が目立つようになってきています。この動向を受け、ゲーム関連企業の売却においては、買収側が必ずしもゲーム業界内に限定されないケースが増えてきました。
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ゲーム業界のM&A成功のポイント
ここでは、ゲーム業界のM&Aを成功させるためのポイントについて解説します。
シナジー(相乗効果)が期待できる相手企業を選ぶ
ゲーム業界のM&Aを成功させるためには、シナジー(相乗効果)が期待できる相手企業を選びましょう。M&Aにより、それ以前より大きな成果を出せるかどうか、シナジー(相乗効果)が得られるかを見極めることが大切です。そのためにも、相手企業との相性や得意・不得意などを事前に確認しましょう。
最適なタイミングを見極める
M&Aの最適なタイミングを見極めることも、М&Aを成功させるためには欠かせません。譲渡側は、自社の企業価値が高くなったときに譲渡するよう意識しましょう。ゲーム業界は流行の移り変わりが激しいため、最適なタイミングを逃さないことが重要です。
自社のコンテンツの優位性をアピールする
自社コンテンツの優位性をアピールすることも、ゲーム業界のM&Aを成功させるためには重要です。譲渡側は、自社コンテンツの市場における優位性を、譲受側に対して具体的に伝えられるよう意識しましょう。人気ゲームを保有していれば、継続的な収益が得られるため、譲受側の企業が見つかりやすくなります。
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ゲーム業界のM&A事例
ここでは、ゲーム業界の成約事例について解説します。
GホールディングスのGunosyへの譲渡
確認済み:Gunosyは2025年5月13日、Gホールディングスの全株式を取得し、完全子会社化することを発表しました。取得価額は約11億1000万円で、Gホールディングスは「進撃の巨人」や「ハイキュー‼」などのIPを活用したスマホゲームアプリを開発しています 。Gunosyが掲げるIR方針「資本効率の向上と株主還元力の強化」に沿った初のM&A案件であり、ゲームエイトが持つユーザー基盤や攻略情報、アプリ外決済ソリューションとの連携によるシナジーを目指しています。
あまたのジーゼへの譲渡
株式会社ジーゼは2025年4月初め、あまた株式会社の発行済株式すべてを取得し、完全子会社化しました。あまたはゲーム事業を中心にVR・XR、映像など多様なエンタテインメントコンテンツを提供しており、本買収によりジーゼの開発体制は総勢250名となります。両社のシナジーを活かして、従来のソーシャルゲーム領域にとどまらず、VR・XRやコンソールゲーム等の新たなタイトル開発に注力していく方針です 。
ニトロプラスのサイバーエージェントへの譲渡
サイバーエージェントは2024年6月26日、ニトロプラスの株式を取得し、連結子会社化することを決議し、7月1日付で実行しました。個人株主4人より発行済み株式の72.5%に相当する140株を167億0400万円で取得しています 。ニトロプラスは「刀剣乱舞」「STEINS;GATE」などで知られる会社で、株式取得後もニトロプラスの社名および組織は現体制を維持し、小坂崇氣氏が継続して社長を務めています。サイバーエージェントはIPビジネスの強化および画期的なコンテンツ制作に取り組み、さらなる事業拡大を目指しています 。
アプシィのIMAGICA GROUPへの譲渡
IMAGICA GROUPは2024年2月6日、ゲームソフトの開発をグローバルに提供しているアプシィ株式会社の全株式を取得したことを発表しました。アプシィは良質な子供向け・ファミリー向けのゲームを中心に開発を手掛け、国内大手ゲームでの開発実績だけでなく、北米で根強い人気を誇るゲームソフトの開発も手掛けています。この買収はIMAGICA GROUPが中期経営計画で掲げる「ゲーム関連事業の拡大」戦略の一環であり、ゲーム制作・サービスE2E体制の構築と事業拡大を推進しています。
ソードケインズスタジオのカプコンへの譲渡
カプコンは2023年7月26日、ソードケインズスタジオの全株式を取得し、完全子会社化したことを発表しました。ソードケインズスタジオはゲーム関連開発での3DCG・2DCGパートの制作業務を行っており、カプコンの大型作品においても制作実績のあるスタジオです 。同社は「ストリートファイター6」のアニメーションや「ファイナルファンタジーXVI」のキャラモデル制作も担当しており、カプコンは本買収により開発力・技術力の持続的強化を図っています 。
任天堂とネクスト・レベル・ゲームズのM&A
2021年、日本の大手ゲーム会社である任天堂は、ネクスト・レベル・ゲームズの全株式を取得し子会社化するため、株式譲渡に関する契約を締結しました。結果として、ネクスト・レベル・ゲームズの全株式取得に成功しています。「ルイージマンション」シリーズをはじめ、Nintendo Switch やニンテンドー3DS向けのソフトを開発するネクスト・レベル・ゲームズを子会社化することで、開発ノウハウを含む開発リソースの安定確保を目指しています。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントとFiresprite LimitedのM&A
2021年、ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、最先端ハードウェア向けのソフトを開発するFiresprite Limitedの買収のため、株式譲渡を行いました。Firesprite Limitedは、ソニー・インタラクティブエンタテインメント出身者によって設立された企業です。両企業は、8年以上にわたってゲームの開発を共同で行っており、さらなる体制強化のために買収が行われました。
サイバーステップとネッチのM&A
2022年、サイバーステップは、株式譲渡によってネッチの全株式を取得し、子会社化しました。サイバーステップは、ネットワーク・エンターテイメントソフトウェアの開発や分散ネットワークライブラリ・3Dグラフィックエンジンの研究開発を手掛けている企業です。インターネットゲームの配信事業を行っているネッチを子会社化することにより、より優れた運営の体制構築や収益機会の拡大などを図っています。
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ゲーム業界のM&Aのまとめ
他の業界と同様に、ゲーム業界においてもM&Aが活発に行われています。M&Aを検討する際には、業界の動きやM&Aによって得られるメリットを十分に押さえておきましょう。
M&Aに関することは、みつきコンサルティングにお任せください。みつきコンサルティングは、税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、社内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して選択可能です。ゲーム業界においてM&Aを検討している場合は、気軽にお問い合わせください。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、経験年数10年以上
監修:みつき税理士法人
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