M&Aの成功率は一般に36%ともいわれます。本記事では、譲渡企業と譲受企業それぞれの視点から成功の定義を整理し、失敗要因と成功率を上げる具体策をわかりやすく解説します。

M&Aの成功とは
M&Aにおける「成功」の定義は、譲渡側と譲受側によって異なります。譲渡側にとっての成功は、納得できる価格で譲渡できること、譲渡後に取引先や従業員から後ろ指を指されないこと等です。一方、譲受側にとってのの成功は、経営戦略において期待した効果を得られること、新たな企業価値を創出することなど多岐にわたります。双方が満足するためには、価格だけでなく、買収後の統合プロセスや事業ビジョンの共有まで踏まえた総合的な設計が不可欠です。
M&Aの成功率は36%?
古い調査ですが、2013年のデロイトトーマツコンサルティングの調査によると、「M&Aの目標達成率が80%を超えること」を成功とするなら、M&Aの成功率は36%、というデータがあります。「M&Aの成功確率は1/3」という俗説も、このあたりからきているのかもしれません。
譲受企業にとってのM&Aは、成約をもって完了するのではありません。成約後に両者のシナジー効果を発現する等して、買収投資額を上回る果実を得てはじめて成功したと言え、それは容易なことではありません。
売主にとっての成功率は高い
以上は、譲受企業側の話です。譲渡側については、信頼できる調査データは存在しませんが、体感的には、殆どの売主にとってM&Aは成功しているように思います。売主にとってのM&Aは、基本的には譲渡すれば完了で、それは譲渡条件について(100点満点ではないにせよ)全体としては納得したからこそ成約しているからです。
M&A支援機関・制度の充実化により成功率の上昇傾向も
M&A支援機関の増加や制度の充実化によって、M&Aの成功率は上昇傾向となっています。1990年代後半〜2000年代前半は、M&A支援機関も少なくサポートが受けにくいことから、成功率はより低くなっていました。しかし、現在ではM&A仲介会社やアドバイザリーの登場によって、成功率が上昇傾向にあります。また、やむを得ずに行うM&Aだけではなく、事業拡大など前向きな目的によるM&Aも増えているのが現状です。
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譲受企業が直面する失敗要因
譲受側の典型的な失敗要因は以下のようなものです。
デューデリジェンスが不十分
契約締結前のデューデリジェンスは、財務・税務・法務・ビジネス・人事・ITなど多面的にリスクを洗い出す工程です。ここが不十分だと、買収後に簿外債務の発見や訴訟リスクが顕在化し、想定外のコストが発生して投資回収が困難になります。
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企業価値を過大評価する
譲受企業が譲渡企業の価値を高く見積もりすぎると、買収金額が適正水準を超えてしまいます。特に売上シナジーを楽観的に算定すると、想定どおりのリターンを得られずPMIの途中で資金繰りが逼迫する恐れがあります。
PMIの失敗
PMI(Post-Merger Integration)は経営統合・業務統合・意識統合の三段階で進める長期プロジェクトです。ここで退職者が続出したりキーマンが流出すると、期待したシナジーは生まれません。PMIを成功させるには、文化の違いを事前に把握し、統合シナリオと進捗管理体制を明確にする必要があります。
経営戦略の欠如
M&Aを実行する前に、取得後の事業計画と数値目標を裏付ける定量分析が甘いと、買収後に方向性を見失います。「とりあえず買えば何とかなる」という発想は禁物で、シナリオごとのリスクとリターンを具体的に可視化したうえで意思決定を行うことが肝要です。
クロスボーダーM&Aの難易度
海外企業を対象とした案件では、文化・言語・商習慣のギャップが大きく、コミュニケーション不足や過剰入札による価格高騰が失敗率を押し上げます。過去調査では日本企業の海外M&A成功率は非常に低く、国内案件以上に慎重な調査と価格交渉が求められています。
その他の失敗要因
債務の引継ぎや人材流出も譲受企業のリスクです。デューデリジェンスで潜在債務を特定できなければ、買収後に財務負担が重くのしかかります。また、譲受企業が発表されることで優秀な従業員が他社へ転職し、知見の空洞化が起きるケースもあります。
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譲渡企業が直面する失敗要因
譲渡オーナー自身というより、譲渡企業としての失敗は、以下のような要因により成長可能性を逃してしまうことです。
不誠実な対応
マイナス情報を隠したり、交渉中に情報漏洩を起こすと譲受企業の信頼を失い、取引は破談になりがちです。誠実な情報開示と守秘義務の徹底が大前提となります。
社内外の調整難航
特に他の株主や取引金融機関の同意を得られない場合、プロセスが停滞します。譲渡オーナーはM&Aの目的とメリットを慎重に説明し、合意形成を図る必要があります。
業績悪化その他のリスク
交渉が長期化する間に業績が急落すると、譲渡価格の見直しや買収撤退を招く可能性があります。また、譲受企業への過度な譲歩や機密情報の外部流出は、譲渡企業にとって大きな損失となります。
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成功率を高めるためのポイント(譲受企業編)
譲受側の成功ポイントは多岐に渡りますが、例えば以下のような点は必須でしょう。
デューデリジェンスを徹底する
会計・税務・法務だけでなく、人事やIT、環境に至るまでリスクを多角的に検証し、大きな懸念が判明した場合は撤退も選択肢に含めます。
M&Aの目的を明確にする
新規市場進出、販路拡大、技術取得など目的を具体的に定義すると、対象企業選定の精度が上がり、不必要な価格競争を避けられます。
シナリオプランニングを共有する
初回の交渉段階から、統合後3〜5年の事業シナリオを双方で共有し、数値指標と責任範囲を明示しておくと、成約後のPMIがスムーズに進みます。特にキーマンの処遇や投資計画の資金源など、実行段階で揉めやすい論点を前倒しで合意形成することが重要です。
コミュニケーションプランを立案する
従業員、取引先、金融機関に対する情報開示の範囲と時期を明確にし、風説による不安が広がるのを防ぐことも成功率に直結します。クロスボーダー案件では、組織文化の違いに配慮した二重言語での社内通知や研修を実施することで、人材流出を抑制できます。
ガバナンス体制を設計する
統合後の意思決定プロセスが二重化すると、現場の混乱とコスト増を招きます。取締役会の構成や決裁権限をどのタイミングで一本化するか、あらかじめロードマップを描いておくと、PMIに伴う時間ロスを短縮できます。
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成功率を高めるためのポイント(譲渡オーナー編)
譲渡オーナーが望む条件でクロージングに至るためには、譲受企業の期待を的確に理解し、それに応え得る準備を行うことが欠かせません。
譲受企業の意向を把握する
譲受企業が真に求めるのは、価格だけでなく事業継続性や人材の定着です。譲受企業のニーズを把握し、それに沿った説明資料を用意することで、お互いに納得できる合意形成が早まります。事実と異なる情報を提示すると信頼が損なわれ、交渉決裂の確率が著しく減少します。
希望価格が高過ぎない
譲渡オーナーにとって、希望する譲渡価格は非常に重要な要素です。しかし、その価格設定がM&Aの成約に大きな影響を与えることを理解いただくことが大切です。M&Aを進める過程で、譲受企業候補は提示された条件、特に希望価格に対して慎重に検討を行います。もし希望する譲渡価格が、会社の価値や相場と比べて高すぎる場合、その後の手続に進む譲受企業候補は大きく絞られていく傾向があります。
たとえ譲渡企業自体に魅力があったとしても、希望価格が高すぎると、秘密保持契約を結んで企業概要書を確認する企業や、さらに本格的な検討や交渉に進む意向表明書を提出する企業は、かなり限られてしまいます。結果として、最終的に譲渡契約の締結に至る可能性が低くなってしまうのです。適切な価格設定は、より多くの譲受企業候補に関心を持ってもらい、M&Aを成功に導くための重要な要素と言えます。
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税務ストラクチャーの最適化
M&Aの成功率を高めるには、譲渡形態(株式譲渡・事業譲渡・会社分割など)を税務面から検証し、最適なスキームを選択する必要があります。譲渡オーナーのキャピタルゲイン課税を最小化しつつ、役員退職慰労金やストックオプション制度などを併用することで手取り額を最大化できます。
M&Aの専門家に相談する
実力のあるM&A仲介会社は、市場動向の把握と買手ネットワークを通じて最適な候補を選定し、交渉過程で発生する契約条件のリスクを最小化します。専門家に早期相談すれば、財務資料の整備や株主調整のタイミングなど、プロジェクト全体の工程管理がスムーズになります。
専門家はM&A成功率を飛躍的に高める一方で、報酬体系や情報管理が不透明だと軋轢の原因になります。以下の論点を事前に確認しましょう。
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報酬体系を確認する
成功報酬(レーマン方式)が主流ですが、着手金や月額報酬が発生する場合もあります。費用対効果を吟味し、契約内容をしっかり把握しましょう。
分からないことは訊く
M&Aアドバイザーは多数の取引実績を有しますが、譲渡オーナーはM&Aは未経験のため、両者に情報格差が生まれがちです。専門用語や評価手法については遠慮せず質問し、納得の上で歩を進めていきましょう。
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M&Aの成功率のまとめ
本記事では、M&Aの成功率や失敗要因、成功率を上げるためのポイントを解説しました。あらかじめ成功率を上げる方法を把握しておき、スムーズにM&Aを進めていきましょう。
当社は、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した実績経験が豊富なM&Aアドバイザー・公認会計士・税理士が多く在籍しております。M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、経験年数10年以上
監修:みつき税理士法人
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