M&Aでの譲渡先(買い手)|同業・非同業のメリット・デメリット

1.M&A譲渡先の業種

事業承継M&Aの目的として、譲渡企業のオーナー様の想いやご要望を実現していただくことといえますが、その目的が「お相手の業種は関係なく、1円でも譲渡代金が高い先へ譲渡したい」といったご希望もあれば、「自社とシナジー効果(相乗効果)が生まれそうな異業種に譲りたい」といったご希望もあるでしょう。 

ここでは、どんな譲受企業(買い手)が候補の選択肢として挙げられるかをふまえ、自社にとって最適な譲渡先企業を選定するポイントを整理します 

売却候補先の分類 

M&Aの売却先というと、自社より大きな同業の事業会社をイメージされる方が多いかも知れません。しかし、実際の売却候補先としは、「同業」「非同業」「投資ファンド」に大きく分けることができ、お相手のそれぞれの業態によって、譲渡前後のメリット・デメリットが変わってきます。 

売却先業種の実態について 

下図は、M&A実施意向別に希望する相手先企業の業種を確認したものです。買い手として意向のある企業では「同業種」が54.2%、「異業種・業種関連あり」が37.6%となっており、自社と関連する業種を希望する割合が高くなっております。一方で、売り手として意向のある企業では「異業種・業種関連なし」が30.7%となっており、買い手として意向のある企業と比較すると、幅広い業種で相手先企業を検討している様子がうかがえます。 

M&A実施意向別、希望する相手先企業の業種
M&A実施意向別、希望する相手先企業の業種

2.M&A譲渡先|業種毎のメリット・デメリット 

同業

同業へ譲渡する場合は、下記のようなメリット・デメリットが挙げられます。業界的に見ると、調剤薬局、医療機器卸、食品卸、食品小売、運送業等、いわゆる「スケールメリット(同種の物が多く集まることにより、単体よりも大きな効果を得られる)」が効果的な業種では、M&Aを通じた大手企業による業界再編が加速しています。これらの業種の場合、同業への譲渡が多いというのが現場での感覚です。このような場合、売手の譲渡の動機が「後継者問題による事業承継」よりも、大手との提携や統合による効率化、スケールメリットの獲得であることも多いからです・ 

「同業」へ譲渡する場合のメリット 

・スケールメリットが得られる 

・事業や業界への理解が深い 

・M&A後の引継ぎや後任管理者の派遣がスムース 

・事業シナジーが発揮しやすい 

「同業」へ譲渡する場合のデメリット 

・経営方針や社風、営業手法などが「買手流」になってしまうこともある 

・M&A後、合併の可能性が高まる 

・経営陣残留の可能性が低くなる 

・特徴や強みがない場合、評価が低くなることもある 

非同業 

非同業へ譲渡する場合は、以下のようなメリット・デメリットが挙げられます。特に大きいと考えられるメリットは、「売り手企業の経営理念、社風、商売スタンス等や自主性が尊重されやすい」点です。買い手は、売り手事業の経営経験がないため、売り手の経営理念や商売スタンス等が継続されるケースが多いです。 

一方で、非同業のM&Aでは、後任経営者(業界経験、経営経験のある人材)を派遣してもらえない可能性もあります。売り手企業の社内に後継経営者として適切な人材がおらず、後継社長を買い手企業から派遣してもらいたいという場合には、その旨をしっかり伝えた上で、買い手企業と認識のズレがないようにする必要があります。 

「非同業」へ譲渡する場合のメリット 

・売り手企業の経営理念、社風、営業手法などが継続されやすい 

・同業とは異なるシナジー効果が期待できる(クロスセル等) 

・カニバリゼーションが少ない 

「非同業」へ譲渡する場合のデメリット 

・後継管理者の人選が難航する場合がある 

・スケールメリットは期待しがたい 

・経営続投の場合は、任せっぱなしにされることがある 

投資ファンド 

ファンドの種類 

M&Aにおける投資ファンドは、投資先などによって、複数の種類に分かれます。主要なファンドである、ベンチャーキャピタル、バイアウトファンド、MBOファンド、企業再生ファンドについて、以下説明します。

a.ベンチャーキャピタル 

ベンチャーピタルは、投資家・一般企業・金融機関から資金を集め、高い成長性が見込まれるベンチャー企業の株式に投資し、資金を提供します。創業間もないベンチャー企業にとっては、ベンチャーキャピタルは資金を提供してくれる重要な存在です。 

出資先が株式公開(IPO)を行なったり、M&Aを受けたりした際に、株式を売却することでベンチャーキャピタルは利益をあげます。ベンチャーキャピタルは出資を行なうだけではなく、経営助言や役員派遣をはじめとした、企業価値を高めるための活動も行ないます。

b.バイアウトファンド 

バイアウトファンドは、キャッシュを安定的に創出できる成熟した企業の株式に投資を行なうファンドです。 

企業の議決権の過半数を取得して、投資後に投資先の経営に関与し、株式価値を向上させてから、保有する株式を売却することによって収益を得て、投資家にキャッシュを還元します。

c.MBOファンド

MBOファンドは、MBOを目指す企業経営者に資金を提供するファンドです。 

MBOとは、「Management Buy-out」(マネジメント・バイアウト)の略称で、経営陣による企業買収を意味します。言い換えると、現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として企業の株式を購入することです。 

d.企業再生ファンド 

企業再生ファンドは、経営不振の企業へ投資をします。 

本業の収益力が高い企業や、優れた技術やノウハウを持っている企業が投資の対象となるケースが多いです。設備投資などを必要としているにもかかわらず、資金調達ができない企業に対し、債権の買い取りや出資などを行ないます。 

企業再生ファンドは、人員削減・リストラや資金調達の見直しをはじめとしたコストの削減、不採算事業の切り離し・事業停止、経営方法の大幅な改善などにより、企業の再生を支援します。その後、株式公開や株式譲渡を行なうことによって、収益をあげることを目的にするファンドです。 

「投資ファンド」へ譲渡する場合のメリット 

・資金が調達できる 

・適正な譲渡価格で評価してもらいやすい 

・売り手企業の経営理念、社風、営業手法などが継続されやすい 

・引き続き、経営に携わることができるケースが多い 

「投資ファンド」へ譲渡する場合のデメリット 

・資本面以外でのシナジー効果が薄いケースが多い 

・経営者が不在になるリスクがある 

・経営が不安定になることもある 

・従業員の賛同を得られないケースもある 

3.M&A譲渡先の業種のまとめ 

同業・異業種・投資ファンドへ譲渡する場合のメリット・デメリット(まとめ)

同業」、「非同業」、「投資ファンド」いずれに売却するにしても、売却する側としては、会社が将来に向かって発展していくことを望むでしょうから、買い手候補先の将来のビジョンや当該M&Aの目的について、きちんと説明を受けた上で、売却する相手先を決めることが必要となります。 

また同時に、いずれの買手企業も自社及び譲受会社の成長に繋がらない譲渡は実行しませんので、M&A仲介会社やお相手企業とよくよく相談し、幅広にお相手と交渉するのも一策といえます。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人