敵対的買収とは?同意なき買収の防衛策と日本の事例・中小企業の備え

敵対的買収(同意なき買収)とは、対象会社の取締役会の同意を得ずにTOBで経営権を狙う手法です。TOBの類型と5つの結末、ポイズンピルなど防衛策、日本の最新事例を整理しました。中小企業では株式譲渡制限が盾になる一方、相続や少数株主による支配権リスクは別に存在します。会社売却を検討するオーナーの判断材料としてご覧ください。

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目次
  1. 敵対的買収(同意なき買収)とは経営陣の同意なく仕掛けられる買収
    1. 敵対的買収の定義
    2. 「同意なき買収」へ呼称が変わった背景
    3. 友好的買収との違いは3点に集約される
  2. 敵対的買収がTOBで仕掛けられる理由と5つの類型
    1. 議決権の50%超が支配権の分岐点
    2. 2026年5月の改正で30%ルールへ
    3. 同意なき買収の5つの結末
  3. 敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴
    1. 総資産に比べて株価が割安で持株比率が低い
    2. 特許や独自コンテンツなど模倣しにくい資源を持つ
    3. 防衛策も株主との対話も整っていない
  4. 敵対的買収のメリットとデメリット
    1. 譲受企業側のメリット
    2. 譲受企業側のデメリット
    3. 対象会社の株主と従業員への影響
  5. 敵対的買収に対する防衛策の全体像
    1. 平時に備える事前の防衛策
    2. 有事に打つ対抗策
    3. 防衛策を選ぶときの判断軸
  6. 日本の敵対的買収(同意なき買収)の最新事例
    1. 事例から読み取れる3つの変化
  7. 中小企業に敵対的買収はほぼ起きない理由
    1. 株式譲渡制限が法律上の盾になる
    2. それでも支配権を失う3つの入り口
    3. 支配権の安全度セルフチェック
  8. 支配権リスクが表面化した2つの事例
    1. 株式が7名に分散していた金属加工業のケース
    2. 取引先からの出資提案を受けたサービス業のケース
  9. 会社売却を検討する経営者が敵対的買収から学べること
    1. 譲る相手を自分で選べるうちに動く
    2. 企業価値を高めることが最大の防衛策
    3. 株主構成を整えてから交渉の場に出る
  10. 敵対的買収に関するFAQ
  11. 敵対的買収と中小企業の支配権対策のまとめ

敵対的買収(同意なき買収)とは経営陣の同意なく仕掛けられる買収

「うちの会社も狙われるのでしょうか」と尋ねられることがあります。結論から申し上げると、非上場の中小企業で敵対的買収が成立する場面はほとんどありません。ただ、この手法の構造を知ると、会社の支配権がどこで揺らぐのかが見えてきます。

敵対的買収(同意なき買収)の構造を示す図解。買収者が対象会社の経営陣の同意を得ずに株主から直接株式を取得する流れを説明

敵対的買収の定義

敵対的買収とは、対象会社の取締役会の同意を得ないまま株式を買い集め、経営権の取得を目指す手法です。「敵対的」という語は、相手を攻撃するという意味ではなく、取締役会の賛同がない状態を指しています。M&Aの全体像のなかでは、例外的な位置づけの手法といえます。

「同意なき買収」へ呼称が変わった背景

近年は「同意なき買収」という表現が定着しつつあります。経済産業省が2023年8月31日に策定した企業買収における行動指針が、判断の軸を取締役会の感情ではなく株主共同の利益に置いたことが大きく影響しました。

2026年に指針の解釈が示された

経済産業省は2026年7月30日、指針のポイントとQ&Aを公表しています。指針そのものの改定ではなく、趣旨が十分に理解されていないという指摘を踏まえた解釈の明確化でした。真摯な買収提案には真摯に検討する、という考え方が改めて示されています。

友好的買収との違いは3点に集約される

友好的な取引では、事前にトップ同士が協議し、価格や従業員の処遇をすり合わせます。国内の中小企業M&Aは、そのほぼすべてが友好的M&Aです。同意なき買収との差は、次の3点に表れます。

提案の起点が譲受企業の側にある

通常のM&Aでは、譲渡オーナーに譲りたいという意向があり、そこから相手探しが始まります。同意なき買収は逆です。譲受企業が一方的に提案を投げ込むところから動き出すため、対象会社の準備が整っていません。

買収提案が公表される

交渉は本来、秘密裏に進めるもの。ところが同意なき買収では、提案内容が対外的に公表されます。取締役会を飛び越えて株主に直接訴えかけるためですが、公表は競合の参戦を招き、結果として自らの取得コストを押し上げることもあります。

デューデリジェンスの機会がない

対象会社の協力が得られないため、買収者は内部資料を閲覧できません。プレミアムを含む価格の見立ても、外部情報と自社の経験値だけで組み立てることになります。難易度が高く、業界構造に精通した企業でなければ踏み込めない領域です。

敵対的買収がTOBで仕掛けられる理由と5つの類型

同意なき買収は、ほぼ例外なくTOB(株式公開買付け)の形をとります。市場でこつこつ買い集めると株価が上昇して総額が読めなくなるため、価格と期間を固定できるTOBが選ばれます。

議決権の50%超が支配権の分岐点

買収者が目指すのは、発行済株式の50%超です。この水準に届けば、株主総会の普通決議で取締役を単独選任でき、経営陣を入れ替えられます。逆に49%では、いくら大株主でも取締役会を動かせません。TOBの仕組みを押さえておくと、報道の見え方が変わります。

2026年5月の改正で30%ルールへ

2024年に成立した改正金融商品取引法が、2026年5月1日に施行されました。従来の「3分の1ルール」は閾値が30%超へ引き下げられ、さらに市場内取引(立会内)で30%超となる場合もTOBが強制されます。制度面の詳細は金融庁の公表資料で確認できます。

市場での買い集めという抜け道が塞がれた

これまでは市場内で買い進めれば公開買付けを回避できました。改正後はその余地が狭まり、支配権に近づく取得は原則として開示を伴います。買収する側にとっては手続の負担が増え、される側にとっては察知が早まる改正です。

同意なき買収の5つの結末

提案が投げ込まれた後、話がどう着地するかは一様ではありません。下表のとおり、大きく5つの類型に整理できます。

「同意なき買収」の5つの類型(同意なきまま成立・後に取締役会が賛同・ホワイトナイト・MBO・買収防衛成功)と買収後の課題を示す図解
結末の類型TOBの成否対象会社に起きること
同意のないまま成立成立買収者が支配権を握り、取締役会が入れ替わる
途中で取締役会が賛同成立条件交渉を経て友好的な取引に転じる
ホワイトナイトが登場成立(第三者)別の譲受企業の傘下に入る
経営陣によるMBO成立(経営陣)非公開化して市場から退出する
防衛に成功不成立独立を保つ代わりに株価向上の責務が残る

防衛できても課題は消えない

見落とされがちなのが最後の類型です。買収者を退けたとしても、株主は提案価格を上回る企業価値の実現を期待し続けます。守り切った瞬間から、自力で株価を引き上げる宿題を背負う構図になります。

敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴

狙われる会社には、いくつかの共通項があります。裏を返せば、この3つが揃っていない会社は仕掛けにくい会社です。

総資産に比べて株価が割安で持株比率が低い

保有資産の価値に対して時価総額が小さい企業は、少ない資金で支配権を取得できます。加えて安定株主の比率が低ければ、抵抗する力も弱い。取得コストと成功確率の両面で有利になるため、真っ先に候補に挙がります。

特許や独自コンテンツなど模倣しにくい資源を持つ

他社が容易に再現できない技術やブランドは、それ自体が買収の動機になります。自前で開発すれば10年かかるものを、株式の取得だけで手に入れられるからです。シナジー効果の見立てが立てやすい対象ほど、提案は現実味を帯びます。

防衛策も株主との対話も整っていない

買収者は事前に防衛策の有無を調べます。何も備えがない会社は、常に先手を取られる立場です。もっとも、形式的な防衛策より効くのは平時の株主対話でしょう。説明を尽くしてきた会社は、いざというとき株主が動きません。

敵対的買収のメリットとデメリット

対象会社の経営陣にとって、この手法にメリットはほとんどありません。一方、株主には買収プレミアムが乗った価格で売却できる機会が生まれます。立場によって評価が真逆になる点が、この論点の難しさです。

譲受企業側のメリット

仕掛ける側から見ると、合意形成の手間を省いて時間を買う手法といえます。主な利点は3つです。

事業規模と市場シェアを一気に広げられる

対象会社の顧客基盤と販路をそのまま引き継げます。未進出の領域なら参入時間の短縮、競合なら市場シェアの一括取得。自力の成長では届かない規模に、数か月で到達できる可能性があります。

経営資源をまとめて取得できる

人材、設備、技術、取引関係。個別に集めれば長い年月を要するものが、株式の取得によって一括で移転します。とくに人材難の業界では、この点が最大の動機になっているケースも見受けられます。

統合後の改革を速く進められる

支配権を握った後は、旧経営陣の了解を都度取り付ける必要がありません。組織再編も事業の取捨選択も、自社の判断だけで進められます。スピードは確かに上がるものの、それが裏目に出る場面もあります。

譲受企業側のデメリット

成功例が目立つ一方で、頓挫した案件のほうが実は多いのが実情。想定されるリスクを3つ挙げます。

防衛策の発動で失敗するリスク

新株予約権を使ったポイズンピルを発動されると、持株比率が希薄化して50%超の取得が難しくなります。しかも失敗しても、アドバイザーへの報酬や公表準備の費用は戻ってきません。

期待したシナジーが出ないリスク

対象会社の従業員が、買収前と同じ働きをしてくれる保証はありません。友好的な取引に比べて心理的な抵抗は強く、中核人材の退職も起こりえます。人が抜けた後の技術やノウハウは、看板だけが残った状態です。

ブランドと取引関係を損なうリスク

強引な印象は、仕掛けた側にも跳ね返ります。対象会社の取引先が反発して離れれば、買い取った売上そのものが目減りする。企業買収の失敗要因を見ても、統合後の離反は繰り返し現れるパターンです。

対象会社の株主と従業員への影響

株主は短期的な利益を得やすい立場にあります。従業員は逆で、方針転換や人事制度の変更に直面します。M&Aで株価が動く理由を押さえておくと、報道されている数字の意味を読み解けます。

敵対的買収に対する防衛策の全体像

防衛策は、平時に仕込む事前策と、動き出してから打つ対抗策に分かれます。下表で全体像を整理しました。

防衛策の名称発動の時期主な効果
ポイズン・ピル平時に導入新株予約権で買収者の持株比率を希薄化する
ゴールデンパラシュート平時に契約高額退職金で取得後のコストを引き上げる
プット・オプション平時に付与買戻請求権や一括返済請求権で資金負担を増やす
焦土作戦有事に実行中核資産を切り離し対象としての魅力を下げる
パックマン・ディフェンス有事に実行買収者へ逆に買収を仕掛けて議決権を封じる
MBO有事に実行経営陣が買い取り非公開化する
ホワイトナイト有事に実行友好的な第三者に支援を求める

平時に備える事前の防衛策

実際に効くのは、提案が来る前に仕込んだ仕掛けです。導入自体が抑止力として働きます。

新株予約権で希薄化させるポイズン・ピル

買収の兆候が現れた段階で、既存株主へ市場価格より安く株式を取得できる新株予約権を割り当てます。行使が進めば買収者の持株比率は下がり、支配権の獲得が遠のく仕組み。ただし既存株主の持分価値も薄まり、差止請求を受ける可能性が残ります。

高額退職金で取得コストを押し上げるゴールデンパラシュート

支配権が移った場合に、役員へ通常を大きく上回る退職金を支払う契約を結んでおきます。買収総額が膨らむため、投資利回りの観点から思いとどまらせる効果を狙う手法です。もっとも成立してしまえば、経営陣だけが報われたと見られかねません。

買戻請求権を付与するプット・オプション

株主には一定価格で株式を会社へ売り戻す権利を、債権者には一括返済を求める権利を与えておきます。支配権が移った瞬間に多額の資金需要が発生する設計です。買収者は取得後の資金繰りまで織り込まざるをえません。

有事に打つ対抗策

提案が公表された後でも、打てる手は残っています。ただしどれも代償を伴う選択です。

中核資産を切り離す焦土作戦

買収者が狙う優良事業や資産を、あらかじめ売却・分離してしまう手法。侵略者に何も残さないという古代の戦術が語源です。実行は速いものの、会社の価値そのものを削るため、焦土作戦は株主利益を損なう副作用が避けられません。

逆襲に転じるパックマン・ディフェンス

仕掛けてきた企業の株式を4分の1以上取得すると、相手は自社株主総会での議決権を失います。会社法の規定を利用した反撃です。とはいえ相手を上回る資金力が前提となるため、実行できる場面は限られます。

経営陣が買い取るMBO

金融機関やファンドの協力を得て経営陣が自社株式を取得し、非公開化する道もあります。市場から退けば市場での買い集めは成立しません。MBOは確実性が高い反面、大規模な資金調達と株主が納得する価格提示が必要になります。

友好的な第三者を招くホワイトナイト

取引関係が長い企業や理念に共感してくれる企業に支援を求め、より良い条件での譲受や第三者割当増資を引き受けてもらいます。ホワイトナイトを迎えれば、企業文化や雇用は守りやすくなります。

ホワイトナイト戦術の功罪

厄介なのは、白馬の騎士を探す行為そのものが「売り物」の宣言になってしまう点です。一度そのレッテルが貼られると、独立経営の維持は難しくなります。最初の買収者を退けたのに、結局は別の相手の傘下に入る。この展開は珍しくありません。

交渉可能な相手にはスタンドスティル条項

秘密保持契約を結ぶ際、一定期間の買い増しや委任状勧誘を禁じる条項を入れておく方法もあります。スタンドスティル条項は、相手に敵対的な意図がないことを示す意思表明としても機能します。

株主総会で票を争うプロキシーファイト

買収者が委任状を集めて取締役の交代を狙う場面では、会社側も株主への説明を尽くして票を取り返すことになります。委任状争奪戦は、日頃の株主対話の成果がそのまま結果に出る局面です。

防衛策を選ぶときの判断軸

自社の規模、財務体力、株主構成。この3つを照らし合わせて選ぶことになります。株主の利益を損ないうる策を採るなら、十分な説明が欠かせません。種類別の比較は買収防衛策の一覧で整理しています。

日本の敵対的買収(同意なき買収)の最新事例

2023年以降、日本でも同意なき提案が続きました。成立したものと退けられたもの、その両方に学びがあります。下表は主要な案件の経緯と結果です。

買収者と対象会社時期と結果経緯と結末
ニデック × TAKISAWA2023年11月・成立市場株価を大きく上回る価格でTOBを実施し、成立条件の50%超を大幅に超える応募を集めた。経済産業省の行動指針公表後、最初の成功例として注目される
第一生命HD × ベネフィット・ワン2023〜2024年・成立先行していた他社のTOBに対抗し、上回る価格を提示して完全子会社化。顧客基盤を活かした共同商品開発を狙う
ブラザー工業 × ローランドDG2024年・不成立MBOに対する対抗提案として、より高い価格を提示。対象会社がディスシナジーを主張し、2024年5月に提案を取り下げ
AZ-COM丸和HD × C&Fロジホールディングス2024年・不成立同意を得ないままTOBを開始。対象会社が複数の対抗提案を確保し、価格を引き上げなかった買収者側が不成立に終わる
ニデック × 牧野フライス製作所2024年末〜2025年5月・撤回対象会社が対抗策を導入。買収者の差止め仮処分を東京地裁が却下し、2025年5月8日にTOBを撤回
アリマンタシォン・クシュタール × セブン&アイHD2024年8月〜2025年7月・撤回約1年にわたる協議の末、2025年7月16日に買収者が提案を撤回。対象会社は自力での企業価値向上へ舵を切る

事例から読み取れる3つの変化

並べてみると、この数年で実務の空気が変わったことが分かります。

時間の確保が正当な対抗として認められた

牧野フライスの案件では、対抗策が買収阻止ではなく「競合提案を検討する合理的な時間の確保」にとどまると判断され、差止めが認められませんでした。防衛の目的が株主の選択肢を広げることであれば、司法も一定の理解を示す。この点は転換点でした。

対抗提案の存在が価格を動かす

ベネフィット・ワンでもC&Fロジでも、勝敗を分けたのは競合の登場です。提案が公表された瞬間から、対象会社は複数の相手を比べられる立場に変わります。皮肉なことに、公表という手法の特徴が買収者自身を不利にしています。

撤回されても市場の視線は残る

クシュタールが撤回した後も、セブン&アイには企業価値向上の圧力が残りました。一度「割安」と名指しされた事実は消えません。守り切った会社ほど、その後の実績で応える必要に迫られます。

中小企業に敵対的買収はほぼ起きない理由

ここまで上場企業の話が続きました。では非上場の中小企業はどうか。結論として、同じ形の買収はまず成立しません。理由は法律の構造にあります。

株式譲渡制限が法律上の盾になる

上場企業以外のほとんどの会社は、発行する全株式に譲渡制限を付けています。株式を譲り渡すには会社の承認が必要で、承認機関は取締役会または株主総会(会社法107条1項1号、139条)。条文はe-Gov法令検索の会社法で確認できます。

外部から勝手に株主になることはできない

つまり、見知らぬ第三者が既存株主から株式を買い集めても、会社が承認しなければ株主名簿には載りません。議決権も行使できない。譲渡承認の手続が、そのまま防波堤として機能しています。

定款と登記簿の確認だけは済ませておく

ごく稀に、設立時の事情で譲渡制限が付いていない会社があります。支援の現場で定款と登記簿を最初に確認するのは、この抜けを潰すためです。数分で終わる作業ですが、見落とすと前提が崩れます。

それでも支配権を失う3つの入り口

とはいえ、中小企業に支配権のリスクがないわけではありません。会社の乗っ取りと呼ばれる事態は、外からではなく内側から始まります。

相続による株式の分散

譲渡制限株式であっても、相続による移転に会社の承認は要りません。先代の株式が複数の相続人に分かれ、経営に関わらない親族が議決権を持つ。10年、20年と繰り返されるうちに、社長の持分が過半を割っている会社は実在します。

少数株主の存在と株主間の対立

3分の1超を握る少数株主がいると、定款変更や組織再編といった特別決議を単独で止められます。日常の経営には支障がなくとも、いざ会社を譲るときに全株式を揃えられません。少数株主の整理が交渉の前提条件になる場面は多いものです。

取引先や金融機関からの出資受け入れ

資金支援と引き換えに株式を渡す判断が、後に効いてくることがあります。比率が小さくても、株主間契約に拒否権や事前承諾条項が入っていれば実質的な支配は移りかねません。タグアロング条項の有無も含め、契約書は締結時に読み込んでおくべきものです。

支配権の安全度セルフチェック

当社が初回面談で使っている確認項目を、下表に整理しました。1つでも「いいえ」があれば、会社売却の前に手当てが要る可能性があります。

確認項目望ましい状態
定款の譲渡制限全株式に譲渡制限が付され、登記簿にも記載がある
社長の議決権比率単独で3分の2以上を保有している
株主名簿の正確性実在の株主と名簿が一致し、名義株が残っていない
所在不明株主の有無連絡が取れない株主がいない
株主間契約の内容少数株主に拒否権や事前承諾権を与えていない
相続時の想定相続で議決権が分散しない設計になっている
種類株式の活用必要に応じて議決権制限株式などを検討済み

種類株式は使い方を誤らない

拒否権付株式、いわゆる黄金株は承継期の安全装置として有効です。ただ、発行したまま放置すると譲受企業側が嫌がる材料に変わります。導入と同時に、いつ消すのかまで決めておくのが実務の作法でしょう。

支配権リスクが表面化した2つの事例

実際にあった相談を、規模と業種が特定されない形で紹介します。どちらも敵対的買収ではなく、内側から支配権が揺らいだ例です。

株式が7名に分散していた金属加工業のケース

年商20億円、従業員60名。創業から3代を経るなかで相続が重なり、株式は7名に分かれていました。社長の持分は52%。過半は保てていたものの、疎遠な親族2名が合計で35%を握っている状態でした。

譲渡の話が具体化した段階で止まった

譲受企業は100%の取得を希望します。連絡を取ってみると、片方の親族から想定を大きく上回る買取価格を求められました。交渉は半年停滞。最終的には自己株式の取得と価格の見直しで決着しましたが、着手が5年早ければ穏当に済んだはずです。

取引先からの出資提案を受けたサービス業のケース

年商8億円、社長は68歳。主要取引先から「関係強化のため15%の出資をしたい」と持ちかけられた段階でご相談をいただきました。金額としては悪い条件ではありません。

契約書の条項に将来の足かせがあった

提示された株主間契約には、株式の譲渡には出資者の事前承諾を要する旨が入っていました。15%の株主が、将来の会社売却に事実上の拒否権を持つ設計です。条項の修正を求めたところ協議は流れ、2年後に別の相手へ譲渡されました。

会社売却を検討する経営者が敵対的買収から学べること

同意なき買収の教訓は、上場企業だけのものではありません。オーナー経営者の立場に置き換えると、3つの示唆が残ります。

譲る相手を自分で選べるうちに動く

敵対的買収が突きつけるのは、選択権を失った経営者の姿です。中小企業でも、体調を崩してから、あるいは業績が傾いてから動くと、条件も相手も選べません。会社売却を検討するなら、余力があるうちが最も有利な時期になります。

企業価値を高めることが最大の防衛策

行動指針が繰り返し述べているのも、突き詰めれば同じ話です。割安に放置された会社が狙われ、価値を高めた会社は選ばれる側に立つ。自社の企業価値の考え方を知ることが、守りにも攻めにも効きます。

株主構成を整えてから交渉の場に出る

譲受企業が最初に見るのは、決算書と株主名簿です。名簿が整っていない会社は、それだけで価格交渉が不利になります。整理には時間もかかる。だからこそ、買い手の選び方を考える前に、自社側の準備を終えておきたいところです。

準備期間の目安は2年から3年

株式の集約、少数株主との合意形成、決算内容の整備。当社が関わる案件では、これらに2年から3年をかけるケースが目立ちます。急ぐと足元を見られる。ゆっくり進めた会社ほど、結果的に良い条件で着地しています。

敵対的買収に関するFAQ

ご相談の場でよく出る質問をまとめました。

Q:中小企業でも敵対的買収を受けることはありますか?

株式に譲渡制限が付いていれば、外部の買い手が勝手に株主になることはできません。現場でまず確認するのは、定款と登記簿の譲渡制限の記載です。ごく一部に制限を付けていない会社もあるため、そこだけは早めにご確認ください。

Q:買収防衛策は中小企業でも導入すべきですか?

上場企業向けの防衛策をそのまま入れる必要はありません。中小企業で効くのは、株式を分散させない資本政策と議決権を集約しておく設計です。相続で株が散る見込みがあるなら、そちらの手当てが先になります。

Q:敵対的買収を受けた会社の株主は得をしますか?

買付価格にプレミアムが乗るため、応募した株主が短期的な利益を得る場面はあります。ただ、成立後に企業価値が伸びるかは別の話です。上場か非上場か、応募契約の有無によっても見え方が変わります。

Q:取引先から出資したいと言われたら断るべきですか?

金額と議決権比率、株主間契約の中身次第としか申し上げられません。少数でも拒否権が付く設計だと、将来の会社売却で足かせになります。出資比率と契約条項は、必ずセットでご確認ください。

税理士法人を母体とするM&A仲介会社|みつきコンサルティングが選ばれる理由

敵対的買収と中小企業の支配権対策のまとめ

敵対的買収は取締役会の同意なくTOBで経営権を狙う手法で、株式譲渡制限のある中小企業では原則として成立しません。現実的な論点は、相続や少数株主による支配権の揺らぎです。誰に会社を託すかを自分で決められるうちに動くことが、最も確かな備えになります。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の事業承継と会社売却を数多く支援してきました。株主構成の整理や譲渡価格の見立てなど、資本政策の段階からご相談いただけます。本格的なご検討の前でも、無料相談を受け付けています。

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著者

西尾 崇
西尾 崇事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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