会社を売却するとき、株主が分散していると譲受企業の100%取得が難航します。タグアロングは少数株主を守る売却参加権、ドラッグアロングは全株売却を実現する強制売却権です。両者の違いと、中小企業のM&Aで少数株主を整理する実務、株主間契約の設計、会社法による代替手段まで、譲渡オーナーの視点で整理します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。
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タグアロング・ドラッグアロングが会社売却で問題になる理由
株主間契約の専門用語に見えて、いざ会社を売る段になると、この2つの条項がオーナーの足元を揺さぶります。譲受企業は株式をまるごと手に入れたい。ところが株式が分散していると、それが進みません。中小企業の会社売却の全体像と、出口を比べたIPOとM&Aの選び方を踏まえ、少数株主の論点を整理します。
譲受企業は会社の株式を100%そろえたい
買い手が中小企業を譲受する場合、発行済株式の100%取得を望むのが通例です。一部でも外部に残ると、後の意思決定に他人が口を挟む余地が生まれます。少数株でも、株主総会の特別決議や登記の場面では無視できません。M&A時の株主の権利と影響は、想像以上に大きいのです。
株主が分散していると売却が止まる
オーナーが7〜8割を持ち、残りを配偶者や子、昔の役員が少しずつ持つ。中小企業ではよくある株主構成です。全員が同じ方向を向けばよいのですが、連絡が取れない、条件に納得しない、そんな相手が一人いるだけで交渉は止まります。珍しい話ではありません。
少数株主の整理が売却の前提になる
だからこそ、株式をオーナーに集約し、少数株主を整理しておく作業が、売却の前提条件になります。タグアロングとドラッグアロングは、この整理を契約の段階で先回りして設計するための道具立てです。条項の意味を一つずつほどいていきましょう。
タグアロングとは|少数株主を守る売却参加権
タグアロング(Tag-along right)は、日本語で「売却参加権」と呼ばれます。直訳すれば「ついて行く権利」。大株主が株式を売るとき、少数株主も同じ条件で一緒に売れる、という権利です。
タグアロング条項の仕組み
大株主が第三者へ株式を譲渡する。そのとき少数株主が「自分の株も同じ価格で買ってほしい」と求められる。これがタグアロングの中身です。大株主だけが有利な条件で抜け、少数株主が取り残される事態を防ぎます。株主間契約や投資契約で定められるのが一般的です。
少数株主にとっての意味
非上場株式は売り先を見つけにくく、流動性が低いものです。タグアロングがあれば、大株主の売却に相乗りして現金化の機会を確保できます。少数株主が安心して出資できる、いわば保険のような役割を果たします。
ドラッグアロングとは|全株売却を実現する強制売却権
ドラッグアロング(Drag-along right)は「強制売却権」と訳されます。こちらは権利というより、少数株主に課される義務に近い。大株主が売るとき、他の株主も同条件での売却を強制される仕組みです。
ドラッグアロング条項の仕組み
タグアロングが少数株主の手にある権利なら、ドラッグアロングは大株主が握る権利です。大株主が全員まとめて売ると決めれば、少数株主は拒めません。複数株主がいる会社で、利害調整に手間取らず一括売却を実現するための条項です。
M&Aを円滑に進める役割
譲受企業が100%取得を望む以上、反対する少数株主が一人でもいると取引は座礁します。ドラッグアロングは、その座礁を未然に防ぐ装置です。出口戦略の設計段階で組み込んでおくと、いざという局面で効きます。M&Aによる出口戦略の進め方とあわせて検討する論点です。
タグアロングとドラッグアロングの違い
両者は名前も似ていて混同されがちです。決定的な違いは「誰が行使するか」にあります。下表で対比してみます。
| 比較項目 | タグアロング(売却参加権) | ドラッグアロング(強制売却権) |
|---|---|---|
| 主な行使者 | 少数株主 | 大株主・ファンド等 |
| 権利の性質 | 一緒に売るよう求められる権利 | 一緒に売るよう強制できる権利 |
| 主な目的 | 少数株主の保護 | 100%株式譲渡の円滑な実現 |
| 主なメリット | 大株主に相乗りして売却益を得られる | 少数株主の反対でM&Aが頓挫するのを防ぐ |
行使する主体が逆になる
タグアロングを使うのは少数株主、ドラッグアロングを使うのは大株主。守る側と進める側、立場が正反対です。同じ株主間契約の中で両方を定めておけば、少数株主の保護と大株主のエグジットを同時に設計できます。
目的は保護とエグジットで分かれる
タグアロングの主眼は少数株主の保護、ドラッグアロングの主眼は大株主の利益確定にあります。どちらも、株主同士の利害をあらかじめ調整しておくための仕掛けです。協力関係を保ちながら出口を見据える、その両立を狙った設計です。
中小企業の会社売却で実際に効いてくる場面
ここまでは投資の世界で語られがちな条項でした。けれど中小企業のM&Aでも、同じ発想が現場で生きてきます。よくある相談から、典型的な場面を取り上げます。
株主名簿に眠った株式が残っているケース
地方で部品加工を営む年商15億円ほどの製造業。譲渡の相談で株主名簿を開くと、20年前に退いた元役員が数%を保有したままでした。本人も忘れかけている。こうした眠った株式は、買い手のデューデリジェンスで必ず浮かびます。早めの確認が要ります。
株主間契約を売却前に整える
株式が分散している会社では、売却を本格化させる前に株主間契約を見直す価値があります。種類株式を併用して議決権を整理する手もあります。事業承継での種類株式の活用は、少数株主対策と相性のよい論点です。
当社の支援現場で確認する株主整理のチェックリスト
譲渡の初期段階で、当社が株主まわりを点検する観点は、おおむね次のとおりです。
- 株主名簿と実際の所有者が一致しているか
- 連絡の取れない株主や、所在不明の相続人がいないか
- 過去の株式の移動に、承認手続の漏れがないか
- 少数株主との間に、文書化していない口約束が残っていないか
ドラッグアロングがないときの代替手段
既存の中小企業には、そもそも株主間契約もドラッグアロング条項もない、というケースがほとんどです。では条項がなければ全株は集められないのか。そんなことはありません。会社法が用意した手当てを使えます。
会社法のスクイーズアウト
議決権の90%以上を一人の株主が握ると、残る少数株主に株式の売渡しを請求できます。会社法が定める特別支配株主の株式等売渡請求で、少数株主の締め出しを認める仕組みです(会社法・e-Gov法令検索第179条)。手続の流れはスクイーズアウトの手法と流れで確認できます。
株式併合などその他の方法
スクイーズアウトには、株式併合を使う方法や、全部取得条項付種類株式を用いる方法もあります。どれを選ぶかは、議決権の保有割合や少数株主との関係、コストで変わります。買い手と相談しながら決める領域です。
条項に頼るか、法律の手当てを使うかの判断
教科書には載りにくい実務の勘どころを一つ。事前に株主間契約で縛れるなら、そのほうが交渉も価格も穏やかに収まります。一方、すでに分散してしまった会社では、会社法の手続を選ぶほうが現実的です。時間とコスト、そして人間関係の摩擦。この三つを天秤にかけて決めます。
投資契約・スタートアップでのタグアロング・ドラッグアロング
もともとこの2つの条項が広まったのは、ベンチャー投資の世界です。旧来の検索でたどり着いた読者のために、その背景も押さえておきます。
投資ファンド・VCが重視する理由
ファンドやVCは、創業者が大株主として残る会社に少数株主として出資します。創業者が勝手に株を売って経営から抜ければ、投資の前提が崩れる。タグアロングは、その不意打ちから自らを守る盾になります。PEファンドのM&Aでの役割を知ると、投資側の発想が見えてきます。
スタートアップ投資での使われ方
スタートアップは複数の投資家から資金を集めて成長を目指します。独自の売却ルートを持たない少数の投資家にとって、出口の確保は切実です。タグアロングがあれば相乗りで売却でき、結果として資金が集まりやすくなります。スタートアップのM&Aとエグジットでも触れる構図です。
新株予約権やストックオプションとの関係
投資契約では、株式だけでなく新株予約権の扱いもあわせて設計します。役員や社員に付与したストックオプションが残っていると、売却時に処理が必要です。M&A後のストックオプションの扱いは、株主整理と並んで見落とされやすい論点です。
条項を設計するときの留意点
いざ条項を入れるとなると、文言の細部で揉めるのが常です。設計段階でつまずきやすい点を挙げておきます。
ドラッグアロングの発動時期を縛る
発動できる時期を決めずにドラッグアロングを入れると、大株主がいつでも会社を売れる状態になります。これでは経営に集中したい創業者がたまりません。「効力は〇年〇月以降」といった時期制限を設けるのが定石です。ファンドの満期も踏まえ、双方で詰めておきます。
価格と条件の公平性をどう担保するか
大株主と同じ条件で、というだけでは足りません。少数株主への分配方法、優先株があるときの清算順位、表明保証の負担。こうした条件をそろえないと、後で不公平の火種になります。文言の一語一句が効いてくる場面です。
株式の譲渡制限との整合をとる
非上場の中小企業は、定款で株式に譲渡制限をかけているのが普通です。条項と定款の規定がぶつかると、いざ実行する段で手続が止まります。中小企業の株式譲渡の基本を踏まえ、定款・契約・会社法の三者を矛盾なくそろえておくことが肝心です。
タグアロング・ドラッグアロングに関するFAQ
会社売却を検討する売り手から、現場で実際に寄せられる疑問をまとめました。条項の有無で対応が変わる論点ばかりです。
現場ではドラッグアロングのほうを先に確認します。買い手は100%取得を望むため、少数株主の反対をどう抑えるかが売却の成否に直結するからです。タグアロングは少数株主側の保護策で、出資を受ける局面で意味を持ちます。立場によって優先順位は変わります。
入れられます。株主全員の合意があれば、後付けで株主間契約を結べます。ただし、少数株主が応じない場合は別の手当てが要ります。合意が難しいなら、会社法のスクイーズアウトに切り替える、という判断になります。
必ずとは言い切れません。条項の発動要件や価格条件を満たしているか、定款の譲渡制限と整合しているかで結論が変わります。文言の作り込みが甘いと、いざというとき機能しないこともあります。契約条項の精度次第です。
まず価格の根拠を丁寧に説明します。それでも折り合わなければ、株式の評価をめぐる協議や、会社法上の価格決定の手続に進むこともあります。感情的なもつれが背景にある例も多く、税理士や弁護士を交えて整理するのが現実的です。
まとめ|会社売却での少数株主整理と権利条項の要点
タグアロングは少数株主を守る売却参加権、ドラッグアロングは全株売却を実現する強制売却権です。譲受企業が望む100%取得を叶えるには、売却前の株主整理と条項設計、必要なら会社法の手当てが欠かせません。株主名簿に眠る一株が交渉を止めることもあり、不安を感じるのは当然です。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。中小企業のM&Aを数多く支援してきた経験から、株主整理や条項設計の勘どころも踏まえて伴走します。会社売却を考え始めた段階で、お気軽にご相談ください。
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著者

- 事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
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ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
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