本コラムでは、廃棄物業界(収集運搬~中間処理~最終処分)の業界情報や外部環境、M&A動向などを解説します。また、実際に行われた廃棄物業界の中小企業M&A事例も併せて解説します。
産業廃棄物の業界情報
業界定義
廃棄物業界は、主に家庭から出る一般廃棄物と、法令で指定されている種別のごみである産業廃棄物に大別されます。(事業所等から出る廃棄物であって産業廃棄物でないものは一般廃棄物になります。また、産業廃棄物も細かく分類されますがここでは割愛します。)
また、廃棄物の処理の流れに着目すると以下の業態に分類できます。
- 収集運搬業:家庭や事業所から廃棄物を回収し、中間処理場や最終処分場まで運搬する工程
- 中間処理業:焼却や脱水、分別・破砕などを行い、廃棄物の量を減らし最終処分する廃棄物を減らす工程
- 最終処分業:これ以上加工・処理できない廃棄物を埋め立てや海洋投入、リサイクルにて固定化する工程
- リサイクル:中間処理により、再利用な可能な状態にすること、再資源化。例えば、家屋を解体した後に、金属・木材・プラスチック等に分別しそれぞれ溶解等の処理を施し再度資源として活用することです。
業界特性
ローカルビジネスであること
廃棄物を車両で運搬するため、商圏が狭いことが特徴。従って、商圏内の経済状況が自社ビジネスに大きく影響を与えています。
市場が細分化されている
取り扱い品目によりノウハウが全く異なり、かつ許認可が必要なため市場が細分化されています。従って、それぞれを専門とする特化型の企業が多いことが特徴です。
新規参入が困難
許認可、ノウハウの問題から0からの新規参入は難しく既存の企業にとって代わる新陳代謝が起きづらい業界です。
固定費負担が大きい
収集運搬であれば特殊な車両、中間処理であれば処理設備、最終処分であればリサイクル設備や最終処分場、への投資が必要であり維持費も含め固定費負担や設備投資が重い業界といえます。
業界課題
最終処分場の不足
残余年数が16.8年であり、首都圏では6.1年しか残っていません。
また、処分場の適地が少なくなりかつ規制が厳しくなった関係上、最終処分場設置の許可数は平成16年度の2,478件から令和元年度の1,603件となっており、年々新規開設数が減少しています。
このままでは近い将来、最終処分場での処理コストが大幅に増加することが見込まれます。
参考:環境省「産業廃棄物処理施設の設置、産業廃棄物処理業の許可等に関する状況」(令和元年度)
産業廃棄物排出量の推移
一方で、産業廃棄物の排出量は年間4億トンほどと減少しておらず、また、2050年(令和32年)までの排出量は横ばいか徐々に増加する予測となっており、一層の中間処理での廃棄物減量化やリサイクルの推進が望まれます。
参考:環境省「産業廃棄物の排出及び処理状況等」(令和2年度速報値)
働き手の確保
特に3Kのイメージが強く、なかなか必要人員の確保ができない事業者が多いです。業界全体の従業員数でみても微減が続いており(図1参照)、一層の自動化・省人化が求められています。また、外国人雇用が多い業界でもあり労務における法令順守に課題を抱える事業者も多くいます。
出典:総務省「サービス産業動向調査」より作成
コンプライアンス強化
年々、廃棄物処分に対し法令による規制が厳しくなっています。また、近隣住民とのトラブルを抱える事業者も一定程度おり、業界全体での清浄化が一層求められていることは間違いないでしょう。
一方で、将来的に温暖化ガス排出規制が強まることが予想されるため、排出権を獲得することができるリサイクルに力を入れている事業者にとってはビジネスチャンスが拡大することが想定されます。
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産業廃棄物業の外部環境
市場規模
増減はあるものの、日本経済が低迷している2000年以降も市場規模は微増で推移しています。また、東日本大震災の影響から2011年・2012年は一時的に市場規模が増加し、今後も起こりえるであろう大規模災害に大きく影響を受けていることが分かります。(図2参照)
一方で、処理施設数をみると微減傾向が見て取られ(特に最終処分場)、中小事業者の淘汰が進み、課題でもある働き手の確保・一層の自動化が進むものと予測されます。
出典:環境省「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」 「産業廃棄物処理施設の設置、産業廃棄物処理業の許可等に関する状況」より作成
競合業態
参入障壁が高いこともあり、基本的に全く他業態からの新規参入は多くありません。一方で、副業や自社の関連事業として産業廃棄物を扱う事業者も多く、一例として以下があげられます。
物流業界+産業廃棄物収集運搬
物流単価の低迷に課題を抱えている物流会社が新たに収集運搬免許を取得し産業廃棄物業界に進出することはよくあります。
自然エネルギー業界+中間処理・リサイクル
バイオマス発電を行っている事業者が、発電動力源を取得することを目的に中間処理業態に進出し、木材チップや廃プラスチックの処理を行います。
土木・建設業界+中間処理
土木・建設業界は日々廃棄物を排出します。近年、処理単価が右肩上がりのため自社の工事から排出される廃棄物の処理を目的に進出することはよくあります。
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産業廃棄物業界の中小企業M&A動向
廃棄物業界の近年の動向や成約事例を紹介します。
M&A動向
環境省によると、廃棄物業界は4人以下の小規模事業者が多い業界です(収集運搬業に限ると約半数)。 廃棄物業界のM&Aの特徴としては、同業の中堅規模~大手事業者による小規模~中堅規模買収によりエリア拡大・取扱品目の拡大を目的としていることにあります。 これは参入障壁が高い業界のため、中堅・大手といえども新たなエリアに進出することは難しく、M&Aによりその目的を達成させるためです。
また、近年ではファンドによる買収も増加しています。これは、省力化・自動化が進んでいない業界のため、ファンドの経営関与による改善度が大きく、企業価値の向上度が他業界より大きいためと思われます。
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M&A事例
廃棄物業界のM&Aによる買収・譲渡・経営関与の事例を4件紹介します。
ニューホライズンズキャピタルによる黒姫へ出資
ニューホライズンズキャピタル(NHC)が黒姫に出資しました。実際の出資はNHCが管理運営するファンドから行われたものです。 2022年10月11日に投資ファンドであるNHCが建設廃材リサイクル事業を行っている株式会社黒姫の親会社へ一部出資を行いました。 黒姫グループはコンクリートガラの収集運搬と中間処理に特化し、首都圏の解体工事現場で発生するコンクリートガラを自社処分場へ運搬・破砕処理を施し再生砕石として販売しています。
NHCはドライバーの採用強化等で黒姫グループの収集運搬能力向上を支援し企業価値の向上を目指しています。
富士興産による環境開発工業の買収
富士興産による環境開発工業の買収です。 富士興産は燃料卸売業を行っている上場企業であり、2022年9月28日に廃油・廃プラスチックの再資源化を行っている環境開発工業を買収しました。
環境開発工業は汚染土壌浄化分野にも事業を拡大しており、富士興産はグループ内での相互連携により総合エネルギー企業としての成長を目指しています。
リファインバースグループによるコネクションの買収
リファインバースグループによる株式会社コネクションの買収です。 2022年5月30日、廃棄物の再資源化を行っているリファインバースグループは東京に本社がある産業廃棄物収集運搬・中間処理を行う株式会社コネクションを中間処理の能力向上を目的に買収しました。
リファインバースグループが保有している廃棄物処理事業のマネジメント手法を活用することでコネクションの企業価値を向上させる狙いです。 また、リファインバースグループが現在扱っていない品目の再資源化を推進することで、高収益体質への改善も目指しています。
日本成長投資アライアンスによるエネルフホールディングスの買収
廃棄物業界の中小企業M&A事例の4件目は、日本成長投資アライアンスによるエネルフホールディングスの買収です。 日本の中小企業にフォーカスして投資を行っている日本成長投資アライアンスは、2022年1月1日に、環境エネルギー企業であるエネルフホールディングスを買収しました。エネルフホールディングスは廃プラスチックを中心に収集運搬・中間処理を行い、再資源化した製品を製造・販売しています。愛知県ではトップクラスの業容を誇る廃プラスチック処理会社です。
日本成長投資アライアンスは経営人材を提供することで経営基盤の強化を行い、企業価値の向上を目指しています。
産業廃棄物業界でのM&Aのまとめ
(産業・一般)廃棄物業界におけるM&Aの将来的な見通しとしては増加が見込まれることは間違いないと思われます。 その背景には、
- 静脈産業として欠かせない産業である
- 小規模事業者が多く生産性の向上が進んでいない
- 事業承継適齢期のオーナー様が多い
があげられます。 今後の少子化・人口減少社会においても一定程度の業界規模が維持されることが想定され、M&Aもより一層活発化するものと思われます。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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