電気工事業界では、さまざまな理由でM&Aを検討する企業が増えています。電気工事会社を営む経営者のなかにも、事業の継続や拡大などの目的でM&Aを検討しているケースが、少なくありません。この記事では、業界の動向や課題、M&Aの特徴、メリット、M&A仲介会社を選ぶポイント、事例などを解説しています。自社課題の解決に役立ててください。
電気工事会社とは
電気工事会社とは、一般住宅やマンション、ビルなど、さまざまな場所の電気工事および保守を請け負っている会社です。国土交通省の業種区分によると、電気工事とは「発電設備、変電設備、送配電設備、構内電気設備等を設置する工事」と定義されています。
また、総務省の「日本標準産業分類」によると、電気工事業は「大分類 建設業>中分類 設備工事業 >電気工事業」に含まれています。
参考:業種区分、建設工事の内容、例示、区分の考え方(H29.11.10改正)|国土交通省
参考:統計基準等|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)|総務省
電気工事会社の分類
先ほど紹介した、総務省の「日本標準産業分類」の電気工事業は、さらに「一般電気工事業」と「電気配線工事業」に分けられています。それぞれの業務内容と工事内容をみていきましょう。
一般電気工事業
一般電気工事業とは、送電線や配電線工事、各種の電気設備工事などを営む業種です。事業内容に送配電電線路工事業、電気設備工事業などと書かれている会社が該当します。
具体的には以下のとおりです。
- 送電線・配電線工事(地中線工事を含む)
- 電気鉄道、トロリーカー、ケーブルカーなどの電線路工事
- 海底電線路配線工事
- しゅんせつ船電路工事、およびこれに類する工事
- 水力発電所、火力発電所の電気設備工事
- 設備工事(変電所変電設備工事、開閉所設備工事、変流所設備工事、船内電気設備工事、電気医療装置設備工事など)
電気配線工事業
電気配線工事業とは、電灯照明や電力機器の設備工事、配線工事などを行う業種です。電気配線工事業、ネオン装置工事業、船内配線業などが含まれます。一方、電気機械器具小売業、電気機械器具卸売業、屋外広告業(総合的なサービスを提供するもの)は含まれません。
具体的な業務は以下のとおりです。
- 建築物、建造物の屋内・屋外、および構内外の電灯照明、電力、同機器の配線工事
- 一般工場、事業場、会社、商店、住宅などの電灯照明電力機器の配線工事
- 屋外照明、アーケード、道路照明などの配線工事
- 一般電気使用施設の自家用受変電設備工事、配線工事
- 空港、ネオン広告塔、電気サイン広告塔、ネオン看板、電気看板などの設備工事、配線工事
電気工事会社の特徴
電気工事会社の特徴は以下の3つです。
1つめは労働集約型の事業である点です。施工・監督業務ができるのは有資格者のみで、費用に占める人件費比率が高い特徴があります。
2つめは技術革新のペースが速い点です。例えば近年では再エネ発電と、それに関連するHEMS(Home Energy Management System:ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の普及など、技術進歩が速い傾向があります。このため、施工者の継続的な研鑽が求められます。
3つめは景気の影響を受けやすい点です。後述しますが、コロナ禍によって業界の受注高が大きく減ったことは記憶に新しいところです。
電気工事業界の概況
ここでは電気工事業界全体の景気や、抱えている問題などを解説します。外部要因を把握しておくと、M&Aも検討しやすくなるでしょう。
電気工事業界の景況
日本経済新聞によると、2022年度の設備工事(電気・電設)業界の主要20社の受注高は、1兆8,422億円でした。この受注高は前年比11.4%増で、2年連続の増加となりました。
しかし、業界の景気がよいとはいえません。コロナ禍により、2020年度の受注高が大きく減少したことが、2年連続の受注高増加につながっているからです。電気工事業界の景気は建設業界の景気に影響されるため、コロナ禍によって建設工事中止・延期が増え、電気工事業界の受注高が大きく減少しました。
参考:令和3年3月分(速報)設備工事業に係る受注高調査結果(各工事主要20社)国土交通省総合政策局不動産・建設経済局(2021年3月記者発表資料)
参考:設備工事(電気・電設)業界 市場規模・動向や企業情報 | NIKKEI COMPASS – 日本経済新聞
「2024年問題」「2025年問題」への対応が必要
2024年問題とは、建設業、運送業で実施が猶予されてきた「残業上限規制」(原則月45時間・年360時間まで)が、2024年4月から実施され、事業に支障が出るリスクをいいます。つまり、2024年3月末までに、電気工事会社も働き方改革関連法に完全対応しなければなりません。違反した場合は罰則もあるため、事業主は準備を進めていく必要があります。
2025年になると、団塊の世代のおよそ800万人が75歳を超えることになります。また、全国的に2010年と比較して人口が減少すると予測されています。
日本の社会基盤や民間の建物は、経年劣化だけでなく、地震などの自然災害による損傷も積み重なっており、今後、保守や修理の工事が年々増加していくことが予想されています。さらに、2025年には電気工事業界を含む建設業界においても、熟練工の大規模な退職に伴う労働力不足が発生するのではないかと懸念されています。加えて、建設事業の許可を持つ事業者の数も、1999年には60万者を数えましたが、2021年末には約47万者にまで減少しています。このことから、そもそも建設業を営む事業者自体が減少傾向にあることがわかります。
電気工事会社が抱える課題
電気工事業界の会社は、事業継続についてどのような課題を抱えているのでしょうか。3つの大きな課題を解説します。
後継者が不足している
電気工事業界に限った話ではないですが、後継者不足に悩んでいる電気工事会社は少なくありません。特に、親族に事業承継してきた中小企業の場合、子どもがいない、引き継ぐ意志がないなどで、後継者がいない状態になっています。事業で利益が出ているのにもかかわらず廃業する「黒字廃業」は、日本社会の大きな問題になっています。
人材不足と高齢化が進んでいる
施工・監督業務ができる有資格者の確保に、悩む電気工事会社も多くあります。経済産業省の資料によると、2045年には第3種電気主任技術者が4,000人、第2種電気工事士が3,000人不足する見通しです。
電気工事業界を含む建設業界全体で特徴的な人材不足の原因は、若者離れと離職率の高さです。年功序列で賃金が上がりにくいため、就職先として魅力を持てない若者も少なくありません。また、労働量や危険性に比べて給与が安いため、離職する若者が多く、結果的として従業員の高齢化につながっています。
参考:電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について|経済産業省
競争力が必要とされる
技術的な競争力を確保できない電気工事会社もあります。すでに述べたように、電気工事業界は技術革新のペースが速いため、常に技術をアップデートすることが競争力強化のカギです。
しかし、離職によって人が育たなかったり、知見やノウハウを持っていない技術分野があったりで、競合他社に勝てないケースも少なくありません。このような場合、後ほど紹介しますがM&Aによって技術融合を図る事例もあります。
▷関連:事業承継とは?引き継ぐ3つの資源や事業承継の手順、税金について解説
電気工事会社におけるM&Aの特徴
電気工事会社では、どのようなM&Aが行われているのでしょうか。代表的なM&Aのパターンを2つ解説します。
人材不足・後継者不足対策としてのM&Aが多い
親族内に後継者がいない場合や、人材不足で従業員承継が難しい企業は、承継先を外部に求める「事業承継型M&A」を実施しています。第三者に事業を譲り渡すことで、事業を存続、発展できることがメリットです。
反対に、有資格者・経験者が多く在籍する企業をM&Aで統合、買収して、人材不足を解消する方法もあります。対象会社に適切な人材がいれば、後継者不足も同時に解消できます。
異業種・他業種とのM&Aが増加している
異業種間のM&Aを行い、多角化戦略を取る企業が増えています。例えば、風力発電を行う事業者を買収して再エネ事業をはじめるなど、他業種に参入するケースが急増中です。
特に脱炭素・カーボンニュートラル業界は市場拡大の傾向があり、なおかつ電気工事業の周辺業界であることから、異業種間M&Aが今後も増えていくと予想されています。一から新規参入すると、技術力やノウハウの点で不利になりがちですが、M&Aであれば参入時点で競争力を確保しやすいことがメリットです。
▷関連:M&Aとは|2024年も増加!目的・メリット・流れ・方法を解説
電気工事会社におけるM&Aのメリット
ここではM&Aのメリットについて、譲渡側・譲受側に分けて解説します。自社側のメリットに加えて、相手側のメリットも理解しておくと、交渉の際に役立つでしょう。
譲渡側のメリット
事業承継型M&Aの場合、譲渡側のメリットとしては後継者問題を解消して、廃業を回避できる点が挙げられます。あわせて、譲渡先企業に従業員を雇用してもらい、生活を守れることもメリットです。
さらに譲受企業との連携によって新たな事業が増えれば、サービス拡充にもつながります。自社の技術やノウハウが、譲受企業の事業に好ましい影響を与えるケースも多いでしょう。結果として顧客が増え、経営が安定するケースがあります。
譲受側のメリット
譲受側のメリットとしては、施工・監督業務ができる有資格者をまとめて確保できる点が挙げられます。このため、短期間で事業エリアを拡大したい場合や取引先を増やしたい場合に、M&Aがよく用いられます。
また、異業種間のM&Aの場合、新規事業への参入に必要なノウハウを会社単位で得られることがメリットです。技術的なノウハウのほか、営業基盤やマーケティング戦略の引き継ぎなども見込めます。
▷関連:株式譲渡とは|M&Aでの従業員の扱い、メリット・デメリットを解説
電気工事会社におけるM&A仲介会社の選び方
自社だけでM&Aを実行することは難しいため、専門的な知識を持ったM&A仲介会社によるサポートが欠かせません。ここでは自社に合ったM&A仲介会社を選ぶポイントを解説します。
電気工事業界での実績がある
電気工事業界でのM&Aの実績があるかチェックしておきましょう。M&A自体の専門知識とノウハウだけでなく、電気工事業界のM&Aの動向や業界特有の業務、ビジネスの住み分けなどの知見を持っていると、自社の希望を理解してもらいやすいからです。業界に詳しい仲介会社ならば、互いの利害関係を調整しながら、自社に有利な交渉を進めてくれるでしょう。
自社と同規模のM&A案件について実績がある
M&A仲介会社には、得意としている企業規模があります。したがって、自社と同規模のM&A案件の実績があるかどうかが重要なポイントです。
M&A仲介会社の得意とする会社規模と自社の規模に隔たりがあると、交渉相手をみつけてもらうのに時間がかかる場合があります。また、交渉相手との力関係に偏りが生じてしまい、不利な条件で契約しなければならない可能性もあるでしょう。
専門家が在籍している
M&Aにおいては、さまざまな専門知識が必要になります。担当者となるM&Aアドバイザーには、必ずしも資格は要りませんが、M&Aスペシャリスト、エキスパートなどの資格を持っていると安心です。
また、M&Aでは法務や会計、税務などの専門知識も求められます。弁護士、税理士、公認会計士がM&A仲介会社に在籍しているかどうかを確認しておくとよいでしょう。
▷関連:M&Aの相談先はどこが良い?税理士・銀行・仲介会社等の違いを解説
電気工事業界におけるM&Aの事例
ここからは実際にあったM&Aをみてみましょう。電気工事業界においても、さまざまな目的でM&Aが活用されています。
フジクラエンジニアリングの事例
電力会社・通信事業者を主な顧客として、電力設備・通信設備の設計、加工などを請け負うフジクラエンジニアリングは、M&Aで事業を譲渡し、きんでんの完全子会社になりました。きんでんは電力インフラ設備などに強みを持つ企業で、M&Aによって経営資源を相互に補い合い、再エネ事業と通信関連の工事事業のビジネスを、拡大できると考えたからです。
親和電気の事例
建設機械レンタルや発電機・受変電機器などの販売、レンタル事業を営むサスコは、電気工事や電気設備、資材の販売を営む親和電気を連結子会社化するM&Aを実施しました。親和電気とのタイアップによって、サスコの主業務の一つである発電機レンタル事業で、新たな需要を創造できるからです。サスコによると、M&Aによってグループの成長戦略の達成と、中長期的な企業価値向上が達成できると述べています。
中央電機工事の事例
ガス供給事業、住宅販売・リフォーム、空調・衛生設備工事業などを手掛ける株式会社TOKAIは、電気設備工事業を営む中央電機工事の全株式を取得し、子会社化しました。愛知県に本拠地を持つ中央電機工事を子会社化することで、中京圏での受注拡大を目指す狙いです。
プレスリリースのなかで、TOKAIは電設業界全体で高齢化に伴う技術労働者が不足していると述べており、同社も同じ課題を抱えていたと推測されます。
電気工事会社のM&Aのまとめ
電気工事業界においては、人手不足や後継者不足の解決、事業拡大、異業種への参入などを目的にM&Aが増えています。譲渡側、譲受側それぞれにメリットがあるため、電気工事会社を営んでいる経営者にとっては、課題解決の手段の1つとなるでしょう。
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著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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