フリーキャッシュフローの定義|計算式やマイナス時の要因を説明

この記事では、フリーキャッシュフローに関する計算方法やポイントを詳しく解説します。フリーキャッシュフローとは、事業活動を通じて生み出されるキャッシュフローから事業活動に必要な設備投資等を引いたものであり、配当、利息などの形で株主および債権者に分配可能なもの、すなわち企業が自由に使えるキャッシュを指します。ファイナンスの知識を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。

1.フリーキャッシュフローの概要

フリーキャッシュフローは、事業活動を通じて生み出されるキャッシュフローから事業活動に必要な設備投資額等を引いたものであり、配当、利息、返済などの形で株主および債権者に分配可能なものを指します。フリーキャッシュフローがプラスであり、資金面で余裕がある場合には、借入金の返済、株主への分配、自社株買いなどに使われます。

企業は貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成しますが、これらの資料では実際に使える現金が表示されていません。持続的で競争力のある安定した経営を実現するためには、自由に使える現金がどれだけ存在するかを適切に把握することが大切です。これがフリーキャッシュフローの考え方の基本となります。

フリーキャッシュフローを理解するためには、以下の3つの要素を把握する必要があります。

  • 営業キャッシュフロー
  • 投資キャッシュフロー
  • 財務キャッシュフロー

営業キャッシュフロー

営業キャッシュフローは、企業の本業活動から創出されるキャッシュフローを指します。一般的に、営業キャッシュフローを構成する重要な項目は、純利益、減価償却費などの非資金費用、運転資本の増減です。

営業キャッシュフローを大きくするためには、商品販売やサービス提供による収益を増やし、販売管理費などの費用を適切に管理し、純利益を増やすことが重要です。非資金費用には、減価償却費だけでなく、有形固定資産の減損、のれんの減損、貸倒引当金繰入なども含まれます。

運転資本の増減は、売上債権、棚卸資産、仕入債務などの構成要素の増減によって決まります。営業キャッシュフローがプラスであることが、原則として、事業継続の必須条件です。設備投資が先行し、運転資本需要が増加する時期には営業キャッシュフローがマイナスに陥ることもありますが、将来的にプラスになるという見通しが立っているかが重要です。もし、複数年にわたってマイナスが続いている場合には、速やかに対策を講じる必要があります。

投資キャッシュフロー

投資キャッシュフローは、有形固定資産、無形資産の取得・売却、有価証券の売買、グループ会社への貸付・返済など投資活動に関連するキャッシュフローを指します。

成長途上にある企業の場合には、事業拡大のために積極的な投資が行われることが多いことから投資キャッシュフローがマイナスになるケースがあります。その場合、短期的にキャッシュフローがマイナスであっても、長期的にはプラスへ転じることが期待できます。投資が適切な収益を生むかどうか検討することが必要です。

また、遊休資産や不活用設備がある場合には、積極的に売却をして資産をスリム化、投資キャッシュフローをプラスにしていくことも重要です。投資活動は、新たな営業キャッシュフローの創出のためになされるものであることから、営業キャッシュフローが改善していない場合には、過剰投資と判断することもできます。したがって、企業の経営戦略、事業計画などから総合的に判断することが大切といえます。

財務キャッシュフロー

財務キャッシュフローは、金融機関からの借り入れや返済、社債発行による資金調達と償還、増資と減資、配当支払いなどの財務活動に関連したキャッシュフローを指します。企業の資本政策、財務状況によっても、その活動は大きく異なりますので、プラスが良くてマイナスが悪いと一概に判断できるものではありません。

既に借入過多の状況であれば、利息負担軽減のための積極的な有利子負債返済により財務キャッシュフローはマイナスになります。一方で、自己資本比率が高い企業の場合には、資金調達コストを考慮して、自己資金ではなく、金融機関からの調達や社債発行による調達を選択することもありえます。財務キャッシュフローの場合には、プラスマイナスどちらが良いかは企業の状況次第ですので、財務キャッシュフローが増減する理由を把握し、財務状況を分析することが大切です。

2.フリーキャッシュフローの意味

フリーキャッシュフローとは、一般的には、営業キャッシュフローと投資キャッシュフロー合計したものを指します。簡単に言うと、企業が自由に使える現金です。

フリーキャッシュフローがプラスであれば、そのキャッシュを使って配当、自社株買い、利息などの形で株主と債権者へ分配することができます。企業にとっては、柔軟な経営のためにフリーキャッシュフローをできるだけ増やすことが重要です。

逆に、フリーキャッシュフローがゼロまたはマイナスだと、企業には自由に使えるキャッシュが殆どなく、事業維持のために金融機関からのからの借入や社債の発行、資産売却などを通じての資金調達が必要となります。

フリーキャッシュフローを増加させるためには、営業キャッシュフローを上げるか、投資キャッシュフローのマイナスを減らす努力が必要です。企業は事業継続のための投資をゼロにすることはできませんが、過剰な投資を避けることも時に重要です。

3.フリーキャッシュフローの算出方法

基本的なフリーキャッシュフローの計算式

フリーキャッシュフロー = 営業キャッシュフロー + 投資キャッシュフロー(固定資産への設備投資など)

フリーキャッシュフロー計算の具体例

たとえば、ある企業が1年間で1,000万円の営業キャッシュフローを得て、そのうち500万円を設備投資などの投資キャッシュフローに充てた場合、フリーキャッシュフローは1,000万円-500万円=500万円になります。

フリーキャッシュフローの計算における注意点

フリーキャッシュフローを計算する際には、一過性の収入を考慮することが重要です。例えば、資産の売却で得た一過性の収入によってフリーキャッシュフローが増加したとしても、それが安定的な経営に直結するわけではありません。そのため、一過性の収入を適切に評価することが求められます。一方で、毎期営業外収益に含まれる賃貸用不動産に関する賃料等が継続して見込まれる場合には、毎期の収入・支出をフリーキャッシュフローの算定として含めることもあります。

4.フリーキャッシュフローの評価基準

フリーキャッシュフローは、上場企業の場合には、公開されているキャッシュフロー計算書などの財務諸表を確認することで把握することができます。フリーキャッシュフローは、プラスの場合とマイナスの場合の二つに分類されますが、それぞれのケースにおいて企業の評価は大きく異なります。

フリーキャッシュフローがプラスのケース

フリーキャッシュフローがプラスだと、そのプラス分が大きいほど企業の事業活動が健全であり、採算性の高い安定した企業であることを示す評価指標となります。プラスのフリーキャッシュフローがあるということは、十分な営業利益を上げており、その余剰資金を様々な用途に投資する余裕があることを意味します。新規事業への投資に資金を投入することが可能であり、経営戦略の選択肢が多く、柔軟な経営が出来る状態とも言えます。

企業が投資を実行したいと判断した場合に、速やかに必要な分の資金を自由に投入できることは、その企業にとって大きなアドバンテージとなります。もちろん、企業の価値は資金面だけで評価できるものではありませんが、フリーキャッシュフローがプラスであることやそのプラスがどれだけ大きいかを確認することで、営利企業としての健全性や競合優位性のあるビジネスモデルが確立されているかなどを効率的に評価することができます。

フリーキャッシュフローがマイナスのケース

フリーキャッシュフローがマイナスであり、かつそれが複数年継続している場合は、その企業の健全性やビジネスモデルに問題がある可能性が高いと言えます。フリーキャッシュフローは、営業活動のキャッシュフローと投資活動のキャッシュフローの合計であることから、一般的に、マイナスのフリーキャッシュフローは営業利益が低いことが主な原因です。

投資活動によるキャッシュフローは多くの場合にマイナスになるので、フリーキャッシュフローをプラスにするには営業利益を十分に大きくすることが重要です。そのため、投資活動によるキャッシュフローを補えない程度の営業利益しか確保できていないということは、その企業の採算性や競争優位性、ビジネスモデル自体に問題があると考えられます。

5.フリーキャッシュフローの活用

フリーキャッシュフローは、企業が自由に使えるキャッシュであり、それゆえにフリーキャッシュフローには様々な使い道があります。フリーキャッシュフローがどのような用途に使われるかというと、一般的に以下のような活用方法が考えられます。

借入金の返済や配当

まず、フリーキャッシュフローは配当、自社株買い、利息返済などに使われることがあります。新規事業への参入などを行う際には、企業は多額の資金を調達する必要があります。社債の発行や金融機関からの借り入れによって資金を調達するのが一般的ですが、それに伴って配当、償還や利息の支払いも発生します。

フリーキャッシュフローは、有利子負債の繰り上げ返済を可能にし、利息の支払い額を抑えることができます。これにより、利息負担が企業の利益を圧迫することを防ぎます。また、フリーキャッシュフローの蓄積は株主への配当原資にもなります。安定した高配当が株主から良い評価を受けるため、企業は蓄積したフリーキャッシュフローを使って株主との関係を強化することができます。

自社株買い

フリーキャッシュフローは自己株買いにも使われます。企業は、市場に流通している自社株を、資金面に余裕がある場合には、自社で買い取ることができます。

自社株買いする理由は、取得後に株価が上昇することが期待できるからです。自社株を買い取った場合、買い取られた株式は市場に流通していませんので計算上ゼロ扱いになり、結果として1株あたりの株式価値が上昇します。企業は、自社株買いにより株価対策を行うことができます。

自社株買いは、株主に対するアピールの手段として非常に有効です。株主とっては、保有している株の価格が上昇することにより含み益が出るため、投資先している企業が株主還元策のひとつとして自社株買いを実施することに対して肯定的に評価します。また何より資金面に余裕がないと自社株買いは出来ませんので、健全な経営を行っていることの表れでもあります。

企業は株主と良好な関係を築くことが重要であり、フリーキャッシュフローを用いて自社株買いを行うことは、この目的を達成するための有効な手段となります。

投資

フリーキャッシュフローがプラスであり、それがある程度蓄積されていれば、企業が積極的な投資に資金を回すことが可能になります。あらゆるビジネスシーンにおいて、企業は資金を必要とします。営利企業の根幹的な目標は利益を上げることですが、そのためには資金を活用した投資が必要不可欠です。

例えば、商品販売したり、サービスを提供したりして利益を上げている場合でも、商品開発、原材料調達、製造設備の導入、従業員の採用、教育など、多くの局面で資金投入が求められます。

安定的にフリーキャッシュフローがプラスであれば、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大のために必要な投資を実行することができます。借入金で資金を調達することもできますが、借入金であれば利息返済が求められますし、必ずしも有利な条件で融資が得られるとは限りません。フリーキャッシュフローは、企業が自由に使えるお金であるため、迅速かつ確実に実行ができ、事業投資をスムーズに進められるという利点があります。

6.フリーキャッシュフローの総括

フリーキャッシュフローは、多ければ多いほど自由に使える現金が増えることから、企業の持続的成長を図るためには適切なキャッシュフロー管理が重要です。そのため、フリーキャッシュフローについての正確な理解が必要です。

もしフリーキャッシュフローに関する分析が難しい場合は、専門家にアドバイスを求めるのもひとつの選択肢です。分析のみならず改善策も提案してもらえることがあるため、早めに相談することをおすすめします。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人