M&Aにおける表明保証とデューデリジェンスは、譲受企業のリスクを低減し、取引を円滑に進める上で不可欠な要素です。この記事では、M&A取引における表明保証とDDの密接な関係性を解説し、これらの機能を最大限に活用するための実用的な知識を提供いたします。
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表明保証とデューデリジェンスの関係性
M&A取引において、表明保証とデューデリジェンス(DD)は相互に補完的な関係にあります。DDは譲受企業が事前調査を通じて対象企業のリスクを特定するプロセスですが、表明保証は、DDで発見できなかったリスクや、提供された情報が真実であることを売主が保証する役割を果たすものです。これにより、譲受企業は安心してM&A取引を進めることが可能になります。
デューデリジェンスの役割と限界
デューデリジェンスは、対象企業の事業、財務、税務、法務、労務、環境など、多岐にわたる側面を調査する重要なプロセスです。DDを通じて、譲受企業は対象企業に関する詳細な情報収集を行い、リスクの洗い出し、企業の価値評価に影響を与える可能性のある要因を特定します。 しかし、DDには時間や費用の制約があるため、対象企業のすべての情報を網羅的に把握することは困難です。例えば、財務DDでは簿外債務や偶発債務など、財務諸表に現れないリスクが存在する可能性があります。また、法務DDでは過去の訴訟や法令違反など、完全に把握することが難しいリスクも存在します。
表明保証の重要性とDDとの補完関係
DDの限界を補完し、譲受企業のリスクを軽減する役割を担うのが表明保証です。表明保証条項を設けることで、売主は虚偽の情報開示による責任を負うことを恐れ、自主的な情報開示が促進される効果も期待できます。 これにより、譲受企業と売主の間の情報格差が解消され、円滑な取引の実現に貢献します。表明保証違反があった場合、譲受企業は売主に対して損害賠償請求や契約解除を求めることができ、リスクが軽減されます。
M&A契約における表明保証の機能
M&A契約における表明保証条項の主な機能は以下の通りです。
リスク分担
取引を中止したり、補償条項と併せて金銭的な条件を修正したりすることで、売主と譲受企業の間のリスク分担を図ります。
情報開示の補完
ネガティブ情報の開示を促し、デューデリジェンスを補完する役割があります。
契約解除権の根拠
表明保証違反があった場合、譲受企業は契約解除を求めることができます。
デューデリジェンス結果と表明保証の連動
DDで得られた情報をM&A契約の表明保証条項に適切に反映させることは、リスク管理において非常に重要です。DDで明らかになった事項を表明保証の対象から除外することで、売主の過度な負担を避け、双方にとって公平なリスク分担を実現します。

DD結果をM&A契約に反映させる方法
DDを通じて得られた情報は、最終的な株式譲渡契約や事業譲渡契約の交渉に直接影響を与えます。例えば、会計処理の誤りや未払金など、DDで発見された問題点は、譲渡価格の調整や表明保証条項の内容に反映されることがあります。 DDで検出された事項については、通常、表明保証の対象外とすることで、売主のリスクを軽減します。
これは、譲受企業が既に情報を得ており、その情報が譲渡価格に織り込まれていると考えるため、売主が改めて保証する必要がないという論理に基づいています。
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DDで検出された事項と表明保証
売主の立場からすると、DDで譲受企業が検出した事項について、重ねて保証をすることは二重のリスクを負うことになります。しかし、譲受企業から見れば、DDで検出された事項であっても、その影響額が不明確な場合や、将来のリスクの不確実性が高い場合には、表明保証に含めることを求めることがあります。
このような場合、売主と譲受企業の間で十分な議論を行い、特定の事項について限定的な保証を設ける、あるいは特別補償条項として別途設定するといった柔軟な対応が求められます。これにより、DDで得られた知見をM&A契約に適切に反映させ、予期せぬトラブルを回避することが可能になります。
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表明保証の対象項目と交渉ポイント
表明保証の対象は多岐にわたり、M&A契約の目的物である株式や事業の内容、売主と対象会社の状況に関する重要な事実について、真実かつ正確であることを売主が表明し、保証するものです。
表明保証の主な対象項目
表明保証の対象となる主な項目は以下の通りです。
- 基本情報: 売主が契約を締結する権利や能力、必要な届出、法律違反の有無、反社会的勢力との関係性などです。株主が正しいことの保証も含まれます。
- 財務: 損益計算書や貸借対照表の正確性、簿外債務や偶発債務の不存在などです。月次試算表の正確性を保証することもあります。
- 税務: 適切な税務申告と納税、未納税金がないことなどです。
- 法務: 訴訟の有無、法令遵守、許認可の取得状況、重要な契約の存在とその内容、競業避止義務の有無、独占権の有無などです。
- 事業・労務: 従業員に対する適切な賃金支払い、未払賃金の不存在、重要な事業計画の正確性などです。
- 知的財産: 対象会社が保有する知的財産権の有効性や権利侵害がないことなどです。
表明保証の具体的な交渉ポイントと文例
売主は、表明保証の範囲を限定することでリスクを軽減しようとします。
- 限定列挙: 特定の項目のみを保証対象とする方法です。例えば、「貸借対照表はXX年XX月XX日現在の重要な点において正確である」のように、重要な点に限定する表現が用いられることがあります。
- 期間の限定: 例えば、決算書について「過去3年分」ではなく「直前期のみ」を保証対象とする交渉が可能です。
- 「売主の知る限り」: 売主が事実を知り得た範囲でのみ保証するという表現です。これにより、売主が認識していなかったリスクに対する責任を軽減できます。例えば、「売主の知る限り、重要な契約は解除されるような事態が生じていない」といった文言です。
- 「重要な点に限定して」: 「提出した管理会計資料は、重要な点において真実かつ正確である」のように、重要性に限定して保証する文言です。
- 除外事項の明記: DDで検出された特定の事項や、売主が不安に思うような資料(例:社内管理資料)については、表明保証の対象から明確に除外することを交渉します。
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表明保証によるリスクヘッジのポイント
表明保証はM&A契約におけるリスクヘッジの重要なツールです。特に売主は、表明保証による将来のリスクを管理するために、補償の範囲や期間を制限する交渉を行うことが一般的です。
補償期間による制限
補償期間とは、表明保証違反が判明した場合に、譲受企業が売主に対して損害賠償請求できる期間のことです。一般的に、クロージングから6ヶ月程度の期間が設定されることが多いです。ただし、税務に関する事項であれば5年、労務関連の債務であれば2年など、対象となる事項の性質に応じた期間が設定されることもあります。
補償上限(キャップ)による制限
補償上限(キャップ)とは、売主が表明保証違反により負う損害賠償額の最大額を定めるものです。例えば、取引額の20%から30%程度が上限となることが多いです。これにより、売主は支払う可能性のある損害賠償額を事前に把握し、リスクを限定できます。ただし、株主構成や反社会的勢力との関係など、M&A取引の根幹に関わる重要な表明保証については、上限が設けられない場合もあります。
補償下限(バスケット/ミニマム)による制限
補償下限(バスケット/ミニマム)とは、売主が軽微な表明保証違反による損害に対して賠償責任を負わないようにするものです。例えば、500万円以下の損害は補償対象外とする、または複数の軽微な損害の合計が一定額を超えた場合にのみ補償するといった設定があります。これは、些細なトラブルによる交渉コストを避ける目的で設定されます。
免責事由の活用
特定の状況下では売主が補償責任を負わないとする免責事由を契約に盛り込むこともあります。
DDで検出された事項
DDで譲受企業が既に認識している事項については、売主の表明保証義務から除外することが可能です。これは、当該情報が既に譲渡価格に織り込まれているという考えに基づきます。
譲受企業が知っていた・知るべきであった事項
譲受企業が表明保証違反の事実を知っていた場合や、知ることができた場合(重過失があった場合)には、売主の補償責任を免除する旨を規定することもあります。
その他の交渉戦略
売主は、リスクヘッジのために以下の交渉戦略を検討することが可能です。
開示資料の限定
売主が提供する資料の正確性に自信がない場合、その旨を譲受企業に伝え、資料の開示を控える、または不正確である可能性を伝えた上で開示するという方法があります。この場合、不正確な資料が後で問題となることを避けるため、経緯を記録しておくことが重要です。
キャッチオール条項の修正
「譲受企業の判断に影響を及ぼす重要な事実すべて」といった広範囲な表明保証条項(キャッチオール条項)が入る場合、売主にとってはリスクが高まります。この場合、具体的な項目を明記させるよう交渉する、または「重要な点において」や「売主の知る限りにおいて」といった限定的な文言を追加することが重要です。
特別補償条項の設定
一般的な表明保証とは別に、特定の高リスク事項について、上限や下限を設けずに補償する特別補償条項を設ける場合があります。
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表明保証違反時の救済措置と実務上の留意点
売主の表明保証違反があった場合、譲受企業は売主に対して損害賠償請求や契約解除などの救済措置を求めることができます。
表明保証違反時の主な救済措置
表明保証違反があった場合の主な救済措置は以下の通りです。
損害賠償請求
譲受企業が表明保証違反により被った損害について、売主に対して金銭的な賠償を請求します。
損害賠償請求の具体的な考え方
損害賠償の範囲は、M&A契約に定められた補償条項に従って決定されます。
補償条項の有無
補償条項が定められていれば、第一次的にはその条項に従って賠償の対象となる損害や費用が特定されます。
因果関係の範囲
補償条項に「表明保証違反に起因又は関連して」損害等を被った場合の補償が定められている場合、表明保証違反それ自体との相当因果関係に限定されない損害も賠償対象となることがあります。補償条項がない場合、表明保証違反それ自体と相当因果関係のある損害のみが賠償対象となります。
損害額の算定
原則として、譲受企業や対象会社に発生した実損害額が基礎とされます。将来収益を見込んだ企業価値の差額を基礎に損害額を算定するには、M&A契約交渉でDCF法などにより企業価値が算定され、それを基礎に株式譲渡価格が定められたことをM&A契約上で明確にし、表明保証違反時の補償額の算定に企業価値の変動額を基準とすることを補償条項の中で合意しておくことが重要です。
立証責任
損害が発生した場合、譲受企業がその損害額を立証する必要があります。
契約解除権
重大な表明保証違反があった場合、譲受企業は株式譲渡契約または事業譲渡契約を解除することができます。
代金減額請求
民法改正により、契約の内容に適合しない目的物の引渡しがあった場合、譲受企業は代金減額を請求できるよう明文化されました。
ただし、M&A契約では、契約書に定められた補償責任以外の請求権を排除する旨を明記することが一般的です。
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民法改正がM&A契約に与える影響
2020年4月1日に施行された改正民法により、売買に関する売主の担保責任の規定が見直されました。
「隠れた瑕疵」から「契約不適合」へ
現行民法で使用されていた「隠れた瑕疵」という用語が廃止され、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」に売主の担保責任が生じることになりました。
売主の帰責事由
改正民法では、売主の担保責任が債務不履行責任の一場面として整理されたため、譲受企業が売主に対して損害賠償請求を行うためには、目的物が契約の内容に適合していないことについて売主の責に帰すべき事由が必要となりました。
ただし、契約書に「売主の故意・過失の有無にかかわらず補償責任を負う」旨を明示的に規定することで、売主の帰責事由を要件としない補償を求めることが可能です。
譲受企業の認識
譲受企業が表明保証違反の事実を知っていた、または重過失によって知らなかった場合でも、原則として売主の担保責任は否定されません。しかし、売主としては、譲受企業が知っていた、または重過失によって知らなかった場合には補償請求ができない旨を契約書に明記することで、リスクを限定できます。
救済手段の明文化
損害賠償請求や契約解除に加えて、修補や代替物の引渡し、代金減額請求などの履行の追完請求も請求できる旨が明文化されました。
M&A契約書では、これらの民法上の請求権を排除し、契約書に明記された補償責任等に限定する旨を規定することが引き続き重要です。
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実務上の留意点と契約書作成
表明保証違反に基づく補償責任について、訴訟になった場合の裁判所の判断は不透明さが残ります。したがって、M&A契約書を作成する際には、将来の紛争を見越した綿密な条項作成が求められます。
補償条項の明記
表明保証条項と並んで補償条項を定め、賠償の対象となる損害の範囲を明確に特定することが重要です。
売主の故意・過失の明記
譲受企業として、売主の故意・過失にかかわらず補償責任を問えるようにしたい場合は、「売主の表明保証違反について、売主が本契約締結時点において認識し、又は認識することができた事由その他売主の責に帰すべき事由の有無は、これに基づく補償責任の有効性、範囲及び効果その他の事項にいかなる影響も及ぼさないものとする」といった条項を明記することが重要です。
譲受企業の認識に関する規定
売主として、表明保証違反を知っていた、又は重過失によって知らなかった譲受企業からの補償請求を受けないようにしたい場合は、「売手の表明保証違反について、(i)株式譲渡契約締結時点において買手が認識し、又は認識することができた事項、及び、(ⅱ)売手又は対象会社が本契約締結時点までに買手に対して直接又は間接的に開示した事項は、売手による表明保証の対象外とする」といった条項を設けることがより一層重要です。
救済手段の限定
民法上の新たな救済手段を排除し、契約書に明記された補償責任等に救済手段を限定したい場合は、「買手又は売手の本契約に基づく義務違反又は表明保証違反につき、当該買手又は売手は、本条に定める補償責任以外には、相手方に対し、代金減額、損害賠償、補償その他方法の如何を問わず、担保責任、債務不履行責任、不法行為責任その他いかなる責任も負わず、相手方は、本条に基づく請求以外には、補償及び賠償その他の請求をすることはできないものとする」といった条項を置くことが引き続き重要です。
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よくある質問|表明保証とデューデリジェンスの関係(FAQ)
ここでは、M&A取引における表明保証とデューデリジェンスの関係について、よくある質問にお答えします。
Q:表明保証ってDDとどう関係があるの?
表明保証とDD(デューデリジェンス)は、M&A取引において相互に補完する関係にあります。DDは譲受企業が対象企業の情報を詳細に調査し、リスクを特定するプロセスですが、時間や費用に限界があります。表明保証は、DDで完全に把握しきれなかったリスクや、売主が提供した情報が真実であることを保証する役割を果たすことで、譲受企業のリスクを軽減し、安心感を高めます。
Q:DDで見つからなかったリスクはどうするの?
DDで見つからなかったリスクについては、表明保証条項が重要な役割を担います。売主は、特定の情報が真実かつ正確であることを表明し、保証することで、DDの限界を補完します。もし表明保証に違反する事実が後に判明した場合、譲受企業は売主に対して損害賠償請求や契約解除を求めることが可能となり、これにより予期せぬリスクから守られます。
Q:表明保証の内容はどうやって決めるの?
表明保証の内容は、M&A契約の交渉を通じて、売主と譲受企業の双方が合意して決定されます。売主は、自身のリスクを限定するために、表明保証の対象項目を限定したり、「売主の知る限り」といった限定的な表現を使用したり、補償の上限や下限を設定したりする交渉を行います。譲受企業は、対象企業に関する重要な情報を網羅的に保証することを求めるため、双方の交渉力とバランスによって最終的な内容が決まります。
Q:表明保証に違反したらときの責任は?
表明保証に違反した場合、違反した売主は、譲受企業に対して損害賠償責任を負うことが一般的です。M&A契約には、表明保証違反があった際の補償範囲、補償上限(キャップ)、補償下限(バスケット/ミニマム)などが詳細に規定されており、これに基づいて損害賠償額が決定されます。また、重大な違反の場合には、契約解除の対象となることもあります。損害額の立証責任は譲受企業側にあります。
表明保証とデューデリジェンスの関係まとめ
M&A取引における表明保証とデューデリジェンスは、譲受企業のリスクを管理し、円滑な取引を実現するために不可欠な要素です。DDでリスクを特定し、表明保証でDDの限界を補完することで、譲受企業は安心してM&Aを進めることができます。表明保証の内容や補償条件の交渉は、売主と譲受企業の双方にとって、適切なリスク分担と取引の安定性確保に直結する重要なプロセスです。
みつきコンサルティングは、譲受企業・売主様の双方にとって最適なM&Aを実現するために、高度な専門知識と豊富な経験に基づいたサポートを提供しています。M&Aの各プロセスにおけるデューデリジェンスの実施から、契約交渉における表明保証条項の策定、そして最終契約に至るまで、お客様のニーズに合わせたきめ細やかなアドバイスと実務支援をいたします。
著者

- 国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士
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