中小企業M&Aの財務デューデリジェンス|特有の論点と簡易財務DD

中小企業M&Aにおける財務デューデリジェンスは、譲受側が対象企業の財務状況を深く理解し、適切な意思決定を行うために不可欠な手続です。この記事では、中小企業ならではの財務DDの特有の論点や留意点、さらには費用を抑えた簡易財務DDの進め方について解説いたします。

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中小企業M&Aにおける財務デューデリジェンスの特有の課題

中小企業M&Aにおける財務DDの重要性

M&Aを成功させるためには、譲受対象となる企業の財務状況を正確に把握することが非常に重要です。財務デューデリジェンス(財務DD)は、対象企業に潜在する隠れた問題点やリスクを発見し、企業価値の算定、譲受対価やスキームの決定、最終契約書への反映に役立てることを目的として行われます。

財務DDは、単に過去の財務諸表を確認するだけでなく、将来の収益力やキャッシュフローに影響を与える事項を詳細に調査するものです。特に、中小企業のM&Aにおいては、大企業のM&Aとは異なる特有の論点が存在するため、その重要性が高まります。

中小企業の財務DDの特有の課題

中小企業における財務DDには、その事業規模や経営体制に起因するいくつかの特有の課題があります。これらの課題を事前に理解し、適切なアプローチを取ることが、スムーズなDDの実施と正確な判断につながります。

会計記録の信頼性

中小企業では、会計処理の専門家が常駐していない場合や、内部統制の体制が十分でない場合があります。これにより、会計記録が必ずしも実態を正確に反映していない可能性があります。例えば、過去の売上や費用の計上が不正確である、といったケースも考えられます。

オーナー依存と公私混同リスク

オーナー経営者の影響力が大きく、会社の経費と個人の経費が明確に区別されていない「公私混同」のリスクが考えられます。役員報酬の中に、勤務実態がない親族への支払いが含まれているケースも存在します。これらは、本来の事業の収益力を歪める要因となることがあります。

内部統制の脆弱性

中小企業では、業務プロセスの分業が不十分であったり、チェック体制が確立されていなかったりするケースが少なくありません。これにより、不正や誤謬が発生しやすい環境にある可能性があります。経理手続が適切に整備されていない、などの例が挙げられます。

関連当事者取引の多さ

オーナー経営者の親族企業や関連会社との間で、市場価格とは異なる条件での取引が行われていることがあります。例えば、低金利や無利子でのグループ間融資などです。これらの取引は、事業の実態や企業価値に影響を与える可能性があります。

財務DDにおける情報収集と分析のポイント

中小企業の財務DDを効果的に進めるためには、譲渡企業から適切な情報を収集し、上記の特有の課題を踏まえた分析を行う必要があります。

オーナー経営者へのヒアリングのポイント

財務DDでは、譲渡企業の開示資料を確認するだけでなく、オーナー経営者や主要な担当者へのヒアリング(マネジメントインタビュー)が非常に重要です。特に中小企業の場合、資料だけでは分からない事業の実態や経営者の考え方を直接聞くことで、より深い理解が得られます。

事業構造と収益の源泉

どの製品やサービスが収益の柱となっているのか、顧客はどのような要素を重視して購買しているのか(KBF: Key Buying Factor)、コスト構造の特徴は何かなどを確認します。

会計処理の実態

日々の経理処理がどのように行われているか、月次決算の状況、在庫管理や売掛金の回収手続など、会計記録の背景にある実務について詳しく聞きます。

非経常的な取引の有無

一時的な売上や費用、個人的な支出が会社の経費に含まれていないかなど、通常の事業活動から逸脱する取引がないかを確認します。

関連当事者取引の状況

親族企業や関連会社との取引内容、取引条件、契約書の有無などを詳細に確認します。口頭での合意が多い場合もあるため、実態を丁寧に聞き取る姿勢が重要です。

公私混同した経費の特定と正常収益力への調整

中小企業において、公私混同は財務DDの大きな論点の一つです。譲渡対価の算定においては、対象企業の本来の事業から生じる収益力(正常収益力)を把握することが不可欠です。

PL項目の精査

過去の損益計算書(PL)の推移を分析し、特に販売費及び一般管理費に含まれる人件費や旅費交通費、交際費などの勘定科目に注目します。

個別経費の確認

個人的な使用と疑われる車両費、消耗品費、福利厚生費などを抽出し、領収書や帳票と突き合わせて実態を確認します。

役員報酬の適正化

勤務実態のない役員や過大な役員報酬がないかを確認し、正常な水準に調整します。

調整額の算定

特定された公私混同経費や過大な報酬を、正常な事業活動に必要な費用として再計算し、その差額を正常収益力に反映させる調整を行います。これにより、対象企業の本来の稼ぐ力を適正に評価できます。

関連当事者取引の精査

関連当事者取引は、対象企業の事業構造を理解し、その収益のメカニズムを明らかにする上で欠かせない分析項目です。譲渡企業と譲受企業の関連会社やオーナーとの取引は、通常の商取引とは異なる条件で行われることが多く、財務数値の歪みの原因となることがあります。

取引内容の把握

どのようなサービスや商品が、誰との間で取引されているかを明確にします。

取引条件の確認

取引価格、決済条件、契約期間などが、市場の一般的な条件(独立企業間価格)から乖離していないかを確認します。契約書がない場合もあるため、ヒアリングを通じて実態を把握することが重要です。

解消可能性の評価

M&A後にこれらの取引を継続する必要があるのか、または解消することが可能かを検討します。解消する場合に、事業運営に支障がないか、代替手段の確保が可能か、追加コストが発生しないかなどを評価します。

企業価値への影響

関連当事者取引の条件が変更されたり解消されたりした場合に、対象企業の収益や費用にどのような影響が生じるかを定量的に評価し、企業価値算定に反映させます。

税理士作成資料のレビューと限界、追加で確認すべき事項

中小企業では、譲渡企業の顧問税理士が財務資料を作成しているケースが多く見られます。これらの資料は財務DDの基礎となりますが、M&Aの視点からレビューする際には限界があるため、追加での確認が重要です。

M&Aの視点との違い

顧問税理士は、税務申告や月次・年次決算書の作成を主な業務としており、M&Aにおける企業価値評価やリスク把握の視点とは異なる場合があります。税務申告書は税法に準拠して作成されているため、必ずしも企業の実態や将来の収益力を適切に示しているとは限りません。

会計基準の調整

譲渡企業の会計処理が、譲受企業の評価基準や一般的にM&Aで用いられる会計基準(例えば、正常収益力に基づくEBITDAの算出)と異なる場合があります。税理士作成資料を基に、譲受側の評価に必要な調整項目(非経常的な損益、公私混同経費など)を識別し、調整を加える必要があります。

簿外債務の確認

財務諸表に計上されていない偶発債務や簿外債務(未払残業代、訴訟リスク、環境問題関連債務など)がないかを徹底的に確認します。税理士作成資料だけでは把握できないため、追加のヒアリングや資料請求が不可欠です。

事業計画の蓋然性

譲渡企業が作成した事業計画の前提条件や、その達成可能性を多角的に検証します。税理士作成資料は過去の実績に基づくものが多いですが、将来の成長戦略や市場環境の変化が適切に織り込まれているかを確認します。

簡易財務DD(限定的スコープDD)の進め方

中小企業のM&Aでは、譲受側がDDにかけられる時間や予算に制約がある場合があります。このような場合、全ての項目を詳細に調査するのではなく、リスクの優先順位をつけて調査範囲を絞る「簡易財務DD(限定的スコープDD)」を検討することも可能です。

簡易財務DDの実施方法

簡易財務DDでは、費用対効果を考慮し、重要度の高い項目に焦点を絞って調査を進めます。

リスクの特定と優先順位付け

譲受企業が最も懸念するリスク(例えば、簿外債務、特定の公私混同経費など)を事前に特定し、それらの項目を優先的に調査対象とします。

限定的な資料請求

全ての財務資料ではなく、優先度の高い項目に関連する会計帳簿、契約書、管理資料などに絞って資料を請求します。

効率的なヒアリング

経営者や主要担当者へのヒアリングも、事前に絞り込んだ論点に集中して行い、効率的に情報を収集します。

外部専門家の活用

譲受企業の社内リソースだけで対応が難しい専門性の高い分野(例えば、複雑な税務リスクや特定の偶発債務)については、外部の公認会計士や税理士、弁護士などの専門家に限定的に依頼することを検討します。

簡易財務DDのメリット・デメリット

簡易財務DDには、以下のメリットとデメリットがあります。

メリット

  • 費用と時間の削減:調査範囲を絞ることで、DDにかかる費用と時間を大幅に削減できます。
  • 迅速な意思決定:限られた時間で主要なリスクを把握し、M&Aの可否を迅速に判断できます。
  • 重点的なリスク把握:譲受企業が最も懸念するリスクに焦点を当てるため、重要な問題を見落とす可能性を低減できます。

デメリット

  • リスクの見落とし:調査範囲を絞るため、想定外の潜在的なリスクや問題点が見落とされる可能性があります。特に、財務諸表上は問題に見えなくても、事業構造に起因する課題や、隠れた公私混同など、詳細な調査がなければ把握しにくい事項もあります。
  • 企業価値評価の不確実性:網羅的な情報がないため、企業価値算定の精度が低下する可能性があります。
  • 契約条件への影響:リスクを十分に把握できない場合、最終契約書の表明保証や補償条項で譲受企業が負うリスクが増加する可能性があります。

対象範囲の絞り方

簡易財務DDを実施する際、調査対象を絞る上での考慮事項は以下の通りです。

金額的な重要性

金額的なインパクトが大きい項目や、譲受対価に大きく影響する可能性のある項目を優先します。

ディール・ブレーカー要素

M&Aの中止につながる可能性のある致命的なリスク(例えば、多額の簿外債務や重大な法的・税務リスク)がないかを確認します。

事業の特性

譲渡企業の事業内容や業界特性に応じて、特にリスクが高いと想定される領域に焦点を当てます。例えば、在庫が多い事業であれば棚卸資産の評価、労働集約型であれば未払残業代のリスクなどです。

譲渡企業の開示姿勢

譲渡企業が情報開示に積極的かどうか、マネジメント層がDDに協力的かどうかを評価し、情報の入手のしやすさも考慮します。

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よくある質問|中小企業財務デューデリジェンス(FAQ)

財務DDはM&Aの成功に欠かせない手続ですが、特に中小企業では様々な疑問が生じるものです。ここでは、中小企業の財務DDに関してよくある質問とその回答をまとめました。

Q:中小企業の財務DDで特に気をつけることは何ですか。

中小企業の財務DDでは、会計記録の信頼性が低い可能性、オーナー経営者による公私混同、内部統制の脆弱性、関連当事者取引の多さに特に注意が必要です。これらは大企業のDDではあまり見られない特有の論点であり、譲渡企業の本来の収益力やリスクを正確に把握するために、資料確認だけでなく、オーナー経営者への丁寧なヒアリングや個別経費の精査が重要になります。

Q:社長の個人的な経費が会社に入ってないか心配です。どうやって確認できますか。

社長の個人的な経費(公私混同経費)の確認は、財務DDの重要なポイントの一つです。まず、旅費交通費、交際費、福利厚生費など、個人的利用の可能性のある勘定科目を詳細に分析します。その上で、高額な支出や継続的な支出について、領収書や請求書の内容を個別に確認し、事業との関連性を慎重に判断します。オーナー経営者へのヒアリングで、これらの支出の背景や実態について詳しく聞き取ることも有効です。

Q:会計処理が正確かどうか、どうやって確かめるのですか。

会計処理の正確性を確かめるためには、会計帳簿のレビュー、主要勘定科目の残高確認、内部統制手続の確認を行います。具体的には、売掛金や買掛金、棚卸資産などの残高が実態と合致しているか、取引の証拠書類が適切に保管されているか、会計処理のルールが従業員に周知されているかなどを確認します。また、税理士作成資料だけではなく、必要に応じて現物確認やキーパーソンへの複数回のヒアリングを行うことで、実態との乖離がないかを確認します。

Q:費用を抑えて財務DDをやる方法はありますか。

費用を抑える方法として、簡易財務DD(限定的スコープDD)が挙げられます。これは、譲受企業が最も懸念するリスクや譲受対価に大きな影響を与える可能性のある項目に焦点を絞り、調査範囲を限定して実施するものです。譲受企業のニーズに合わせて、優先順位の高い項目に絞った資料請求やヒアリング、外部専門家の限定的な活用を行うことで、費用を抑えつつも効率的に主要なリスクを把握することが可能になります。

まとめ

中小企業の財務デューデリジェンスは、譲受側が譲渡企業の特有の課題を理解し、適切な情報収集と分析を行うことで、譲受対価の決定や譲受後の事業運営を成功に導く重要な手続です。公私混同や関連当事者取引など、中小企業ならではの論点に注意し、限られたリソースの中で効率的にDDを進めることが求められます。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しています。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

著者

綿引 征典
綿引 征典
国内大手証券会社にて顧客のお金や人生に関わる財産運用を助言。相続・事業承継専門の会計事務所を経て、当社では法人顧客の税務対策・申告、M&Aに係る財務・税務のアドバイザリーに従事。税理士

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