事業継承と事業承継の違い|使い分けと事業譲渡・M&Aの関係

「事業継承」と「事業承継」は、どちらを使っても意味は通じます。ただし法律や行政の手続で採用されているのは「承継」の表記。本記事では2つの言葉のニュアンスの差、混同されやすい事業譲渡との関係、後継者が決まらない会社が第三者承継(M&A)を選ぶ際の判断材料までを整理しました。

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事業継承と事業承継はどちらが正しいのか

検索窓に「事業継承」と打ち込んだ方も少なくないはずです。結論を先に申し上げると、法律や行政の手続で使われるのは「事業承継」。ただし「事業継承」が誤りというわけでもありません。事業承継の全体像に入る前に、表記の位置づけを整理しておきます。

公的な文書では「事業承継」に統一されている

制度名を並べてみると分かりやすいところ。経営承継円滑化法、事業承継税制、事業承継・引継ぎ支援センター、事業承継補助金。いずれも「承継」です。中小企業庁の事業承継情報でも表記は揃っており、行政や専門家とやり取りする場面では「承継」の一択と考えて差し支えありません。

「事業継承」も間違いではない

平成の途中までは、両方の表記が混在していました。官民で「承継」へ寄せる流れが強まった結果、いまは「事業承継」が一般化しただけのこと。社内資料や会話で「事業継承」と書いても、意味が通じなくなる場面はまずありません。

用語の揺れそのものより、当社が現場で気にしているのは別の点です。「事業継承」という表記でご相談に来られる会社は、承継の議論が社内でまだ始まっていないケースが多い、という肌感覚があります。

事業「承継」が意味するもの

承継は、経営者の地位や理念、事業そのものを引き継ぐ行為を指します。形のないものまで含めて渡す、というニュアンス。何を渡すのかを分解すると、輪郭がはっきりしてきます。

承継で引き継ぐ3つの要素

中小企業庁『事業承継ガイドライン』は、後継者へ引き継ぐ要素をヒト・資産・知的資産の3つに整理しています。下表のとおり、どれが欠けても承継後につまずきやすくなります。

承継する要素具体的な内容引き継ぎで詰まりやすい点
ヒト(経営)経営者の地位、経営権、後継者の育成後継者本人への意思確認が後回しになる
資産自社株式、事業用不動産、設備、運転資金株式が分散し、議決権をまとめられない
知的資産経営理念、取引先との信頼、技術・ノウハウ、許認可属人化しており、引き継げる形になっていない

資産の承継では、自社株をどう動かすかが中心論点になります。株式譲渡による承継の方法は、相続・贈与・売買のどれを選ぶかで税負担が変わるため、早い段階で押さえておきたいところ。

人的承継と物的承継という分け方

伝統的には、承継を人的承継と物的承継の2つに分ける見方もあります。人的承継は経営そのものと信用・理念の引き継ぎ、物的承継は自社株や事業用資産の移転。実務では、この2つを別々のスケジュールで進める会社が目立ちます。

法律名から見る「承継」の使われ方

法令で「承継」がどう使われているかを見ると、この語が選ばれた理由も見えてきます。地位や権利義務が包括的に移る場面で登場するのが特徴。

たとえば経営承継円滑化法の仕組みは、遺留分の特例や金融支援を定めた法律です。労働契約承継法、事業承継税制も同じ系統。相続や合併で権利義務がまとめて移る相手を指す一般承継人と特定承継人の区別も、会社法や民法の用語として整理されています。

事業「継承」が意味するもの

王位継承、伝統文化の継承、資産の継承。継承という語は、受け継ぐ対象が目に見えやすい場面で好んで使われます。承継との差は、突き詰めればニュアンスの濃淡にすぎません。

継承が使われる典型的な場面

いずれの用例も、受け継ぐ側の営みに焦点があります。2025年10月に閉幕した大阪・関西万博でも、万博宣言でその理念が未来へ継承されることが願われました。理念や精神を対象にするなら、継承のほうが語感になじみます。

大阪・関西万博の会場風景(理念や精神を未来へ継承する例として記述)

承継と継承の使い分けの目安

迷ったときの判断はシンプルです。制度・契約・行政手続に関わるなら「承継」、精神や文化を受け継ぐ文脈なら「継承」でも違和感はありません。M&Aの契約実務で登場する契約上の地位の承継も、当然ながら「承継」の表記になります。

事業継承(具体的な権利・財産等の引き継ぎ)と事業承継(抽象的な理念・想い等の引き継ぎ)の違いを示す比較図

事業譲渡は「承継」「継承」と何が違うのか

3つ目の混同しやすい言葉が事業譲渡です。承継や継承が「誰に引き継ぐか」の話であるのに対し、事業譲渡は「何を売買するか」を指すM&A手法。土俵がそもそも違います。

事業譲渡で移るもの

事業譲渡の手続と流れでは、会社が営む事業の全部または一部を個別に移転します。資産、負債、契約、従業員、ノウハウを1つずつ選んで引き渡す形。会社の法人格そのものは、譲渡オーナー側に残ります。

株式譲渡との違い

中小企業のM&Aで実際に多いのは株式譲渡というスキームのほうで、当社の支援案件でも9割前後を占めます。会社ごと譲受企業へ移るため、許認可や契約はそのまま残り、手続の負担も軽くなります。両手法の選び方は、簿外債務の有無や譲渡益への課税で判断が分かれるところ。

事業承継・事業継承・事業譲渡の違いを比較

3つの言葉を並べると、重なる部分とずれる部分がはっきりします。下表に、定義から使用場面までまとめました。

比較項目事業承継事業継承事業譲渡
位置づけ法令・行政で使われる正式な表記一般的な慣用表記M&A手法の名称
引き継ぐもの経営権、自社株、理念やノウハウまで包括的に財産や権利など形のあるもの選んだ事業に属する資産・負債・契約・従業員
引き継ぐ相手親族、役員・従業員、第三者(M&A)同左譲受企業(第三者)
会社の法人格そのまま存続そのまま存続存続し、譲渡オーナー側に残る
制度・税制での扱い事業承継税制や補助金の対象
経営承継円滑化法の対象
制度名としては存在しない消費税や不動産取得税の課税対象になり得る
主な使用場面行政手続、専門家への相談、社内の承継計画日常会話、検索キーワードM&Aの契約実務、事業の選択と集中

「誰に引き継ぐか」と「何を渡すか」で整理する

承継と継承がニュアンスの差にとどまるのに対し、事業譲渡は別の階層にある言葉です。事業承継という目的があり、それを実現する手段として株式譲渡や事業譲渡が選ばれる。この構造で捉えると、もう混乱しません。

事業承継の3つの類型と後継者不在の現実

誰に引き継ぐかで、承継は3つに分かれます。それぞれ資金負担も税務も別物。順に見ていきます。

親族内承継

子や配偶者へ引き継ぐ方法です。関係者の理解を得やすい半面、親族内承継の進め方では株式の集約と贈与税・相続税の手当てが避けて通れない論点になります。後継者候補の意思確認を後回しにしたまま、直前で頓挫する例も見てきました。

従業員承継(社内承継)

役員や従業員が引き継ぐ形。事業への理解が深く、取引先の納得も得やすいという利点があります。ネックになるのは資金。従業員承継の資金対策では、株式の取得資金と個人保証の引き受けをどう組むかが最大の関門になります。

第三者承継(M&A)

社外の譲受企業へ株式を譲渡する方法です。後継者を社内外に探し回る必要がなく、譲渡オーナーは創業者利益を手にできます。事業承継とM&Aの関係を整理すると、M&Aが承継の対立概念ではなく、承継先の選択肢の1つだと分かります。親族外への承継と呼ばれることも。

後継者不在率50.1%が示す変化

帝国データバンクの全国の後継者不在率調査によると、2025年の全国の後継者不在率は50.1%。7年連続で改善しているとはいえ、いまだ2社に1社は後継者が決まっていません。

注目したいのは中身の変化です。後継者候補として最も多いのは「非同族」の41.0%となり、初めて4割を超えました。子どもへの承継は29.7%まで低下。後継者不足への対応策として、第三者承継を前提に動く会社が確実に増えています。

事業承継の進め方は5つのステップ

用語を押さえたら、次は手順です。中小企業庁『事業承継ガイドライン』が示す5つのステップを、下表に実務目線で整理しました。

ステップやること現場で詰まりやすい点
1 準備の必要性を認識するおおまかな時期と選択肢を自分の中で決める健康なうちは先送りしがち
2 経営状況を見える化する決算書、株主構成、借入と個人保証、業界動向を棚卸しする株式が親族に分散していると判明する
3 磨き上げを行う収益力と管理体制を改善し、引き継ぎやすい会社にする属人的な取引を整理しきれない
4 計画策定またはマッチング親族・従業員なら承継計画を、第三者ならお相手探しを進める後継者候補の意思確認が甘いまま進む
5 承継またはM&Aの実行株式と経営を引き渡し、引き継ぎ後の体制を固める個人保証の解除交渉が残ったままになる

決まった順番どおりに進まないことも多く、行きつ戻りつが前提だと考えてください。

事業承継に向けた5つのステップとポスト事業承継の流れを示す図解

計画に落とすと関係者が動きやすくなる

頭の中にある構想は、書き出した瞬間に共有できるものへ変わります。承継計画書の作り方を参考に、時期・後継者・株式の移転方法を1枚にまとめておくと、金融機関や取引先への説明も通しやすくなるはずです。

用語の違いよりも期限が判断を左右する

ここまで表記の話をしてきましたが、経営判断として効いてくるのは別の要素です。制度の期限と、後継者の有無。この2つが選択肢の幅を決めます。

事業承継税制の特例措置は2027年が節目

自社株の贈与・相続にかかる税を全額猶予する特例措置には、期限が設けられています。法人版事業承継税制の要件によると、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日。贈与または相続そのものを実行する期限は、2027年12月31日です。

計画を出したあと、実際の承継までに残された時間は決して長くありません。承継税制とM&Aの比較を早めに済ませておけば、親族内で進めるか会社売却に切り替えるかの判断が後手に回らずに済みます。

後継者がいないときに現場で起きていること

当社へのご相談は、「事業継承」と検索したところから始まった、という方が珍しくありません。そして話を伺うと、言葉の意味より先に片づけるべき論点が見つかります。年商10億円台・従業員数十名の製造業では、株式の一部が疎遠な親族の手元に残っているパターンが典型的。

用語を調べる段階で立ち止まらず、株主名簿と個人保証の状況を先に確認する。この順番を入れ替えるだけで、選べる打ち手の幅は変わります。

相談前に確認しておきたい4項目

  • 株主名簿の記載と、実際の株主が一致しているか
  • 自社株のほかに、社長個人が保有する事業用不動産があるか
  • 借入に対する個人保証と担保の範囲
  • 後継者候補へ、継ぐ意思を直接確認できているか

この4点が揃っていれば、初回の面談で話が一気に進みます。承継の相談先の選び方を検討する前に、手元の資料から整えておくのが近道です。

事業継承と事業承継の違いに関するFAQ

相談の場で実際に聞かれることの多い質問をまとめました。

Q:契約書や登記では「承継」と「継承」のどちらを使いますか?

契約書も登記も「承継」です。会社法や民法が「承継」で統一されているため、法務局や税務署へ出す書類で「継承」を使う場面はありません。社内文書であれば、どちらを使っても実害はないと考えて差し支えないでしょう。

Q:「事業引継ぎ」という言葉も見かけますが、事業承継と違いますか?

ほぼ同義で使われています。公的窓口の名称が「事業承継・引継ぎ支援センター」であるとおり、第三者への引き渡しを指すときに引継ぎという語が添えられる程度の差。制度上の区別を気にする必要はありません。

Q:事業継承で検索しても、税制や補助金の情報にたどり着けますか?

たどり着けます。検索エンジンは両方の表記をほぼ同義として扱うためです。ただし申請書類そのものは「事業承継税制」「特例承継計画」といった正式名称で探すほうが確実。制度名で調べるのが結局は早道になります。

Q:売り手が第三者承継を検討する場合、最初に何を用意しますか?

現場ではまず直近3期分の決算書と株主名簿を確認します。加えて、借入残高と個人保証の状況。この3点が揃えば、おおよその企業価値と手取りの見通しが立てられます。詳細な株価算定は、そのあとの工程です。

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事業継承と事業承継の違いのまとめ

「事業承継」は法令や行政で使われる正式な表記、「事業継承」は慣用表記であり、意味に大きな差はありません。事業譲渡は、承継を実現する手法の1つ。表記に迷う時間よりも、株式の分散や後継者の有無を確かめる時間のほうが、はるかに大きな差を生みます。先送りへの後ろめたさは、多くの経営者が抱えているものです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の事業承継・会社売却を数多く支援してきました。みつき税理士法人と連携し、株式の集約から譲渡後の税務まで一貫してご相談いただけます。後継者が決まらないまま時間だけが過ぎている方こそ、早めにお声がけください。

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著者

野口 慎矢
野口 慎矢事業法人第四部長/M&A担当ディレクター
国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士

みつきコンサルティングは、中小企業の会社売却・事業承継に特化した譲渡企業様に完全成功報酬制のM&A仲介会社です。売り手と買い手企業の最適なマッチングを、経験豊富なM&Aコンサルタントが初期相談から成約まで一貫してフルサポートします。

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