配当還元方式とは?計算例と適用要件、相続・事業承継・M&A対策

配当還元方式は、税務上の株式算定方式の1つで、一般に低い株価として算出されます。本記事では、その計算式や計算例、他の自社株評価方式などについて解説します。また、相続・事業承継対策での配当還元方式の利用方法についても合わせて紹介します。

非上場株式の「配当還元方式」とは

上場されていない会社の株式(非上場株式や取引相場のない株式とも呼ばれる)の相続税評価を行う場合、原則的評価方式という方法が用いられます。この原則的評価方法では、会社の資産や利益の大小に基づいて評価額が算出されます。

しかしながら、株式をほんのわずかしか保有していない少数株主(従業員など)にとっては、取引市場が無いことから換金が難しく、また経営に参画する機会も少ないため、「配当を受け取ること」が株式を保有する主なメリットとなります。

そのような背景から、非上場株式を少数株主から相続(または贈与)によって取得する場合には、配当金を基に算定する配当還元方式という評価方法を使用できます。この配当還元方式による評価額は、通常、原則的評価方法に比べて評価額が低くなるという特徴があります。

配当還元方式の計算

配当還元方式による非上場株式の評価は、以下の数式を用いて行われます。

配当還元方式の計算方法
配当還元方式の計算式

計算例

具体的に計算してみましょう。

前提条件

資本金等の額:3,000万円
発行済株式数:1,500株
1株あたり資本金等の額:2万円
前期配当金総額:150万円
前々期配当金総額:120万円

計算過程

まず、年間の配当金額を算出します。

(150万円+120万円)÷2÷(3,000万円÷50円)=2.25円

次に、配当還元価額を算出します。

(2.25円÷10%)×(2万円÷50円)=9,000円

この会社の場合、配当還元方式で算出した1株あたりの評価額は9,000円となります。

配当還元方式の注意事項

配当還元方式を利用するにあたり、「年間配当金額」の算出や、原則的評価方式に比べ評価額が高くなる場合の対処法など、いくつかの注意事項が存在します。

無配(配当なし)の場合でも株価はゼロにならない

上記の計算式ですと、配当が無い場合は評価がゼロ円となってしまいます。そこで、配当金が無配または2.5円未満の場合でも、年間配当金額を2.5円として、配当還元価額を算出します。

事業年度が1年でない場合の計算

配当還元方式で使用する「年間配当金額」は、遡って2年間の配当金額を基に算出しますが、会社法では事業年度を1年以内の期間と規定しているため、6か月や9か月を事業年度とすることも許されます。この場合、1事業年度=1年間とは限らず、例えば事業年度が6か月であれば2年間(=4事業年度)の配当金額の合計を用いる必要がありますので、注意が必要です。

期末配当以外に配当が存在する場合の計算

中間配当がある場合は、期末配当と合算して1年間の配当金額となります。ただし、臨時に支払われる「特別配当」や「記念配当」は、1年間の配当金額には含めません。

原則的評価方式の株価が低い場合がある

通常、原則的評価方式よりも配当還元方式の評価額が低くなることが多いですが、業績に比べて高額な配当を実施している場合など、配当還元方式の方が原則的評価方式よりも高くなることもあります。このような状況においては、原則的評価方式の採用が可能となります。

配当還元方式とその他の方式の違い

非上場株式の株式評価には、配当還元方式以外にも次のような評価方法が存在します。

原則的評価方式

原則的評価方式とは、後に紹介する「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の総称です。これらの評価方法は、非上場株式の評価において、配当還元方式とは異なる観点で株価を評価します。

純資産価額方式

純資産価額方式は、企業の1株式当たりにどれだけの純資産が割り当てられるかという観点で株式の価値を判断する方法です。

会社の資産と負債を相続税評価額に洗い替えをし、評価後の資産と負債の差額から純資産を算出します。相続税評価によって算出された純資産が、帳簿上の純資産を上回る部分が評価差額(含み益)に相当し、これに税率37%をかけた金額を、相続税評価額に基づく純資産から差し引きます。

純資産方式は自社の決算書を基に計算されるため、時価評価できる資産を保有している場合、時価が上昇することで株価が大きく算定される可能性もあります。

類似業種比準方式

類似業種比準方式は、同じ業界の上場企業の株価を参考にして、非上場企業の株価を算定する方法です。この方式を使うと、上場企業の株価に影響を受けやすく、利益を上げている企業ほど評価額が高くなる傾向があります。類似業種比準方式は、特に大企業の株式評価でよく用いられる評価方法です。

特例的評価方式

特例評価方式は、本記事で説明している配当金還元方式が該当します。

配当還元方式が適用できる要件

配当還元方式を採用する際には、株式の取得者が「同族株主等以外の者」であることが要件となっております。同族株主等以外に該当するか否かは、下の図表をご参考にしてください。また、図表に記載されている「同族株主」「中心的な同族株主」「中心的な株主」の定義についても解説します。

同族株主とは

同族株主とは、課税時期(相続の場合は相続開始時)において、評価会社の株主のうち、1人の株主とその同族関係者が保有する議決権の合計数が、評価会社全体の議決権総数の30%以上(株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多く議決権を保有するグループが50%を超える会社の場合は、50%超)である場合において、その株主と同族関係者を指します。

なお、同族関係者とは、個人や法人のうち、同族関係にある者を指します。具体的には、以下のような人が該当します。

  1. 株主の親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)
  2. 株主と内縁関係にある人
  3. 株主の使用人
  4. 株主からの金銭その他の資産により生計を立てている人
  5. 上記1から4の人と共に生計を立てている親族

中心的同族株主とは

課税時期において、同族株主のうち1人及び次の者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主を指します。

  1. 配偶者
  2. 直系血族
  3. 兄弟姉妹
  4. 一親等の姻族
  5. 上記1から4までの者の同族関係者が保有する議決権の合計が議決権総数の25%以上の会社

直系血族には、親や祖父母、子や孫などが含まれます。さらに、祖父母よりも上の世代や孫よりも下の世代も直系血族とされます。

中心的な株主とは

中心的な株主とは、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計議決権割合が15%以上であり、かつ1人で10%以上の議決権を所有している株主を指します。

配当還元方式を用いた自社株対策

配当還元方式を事業承継対策や相続対策に活用する方法を紹介します。

相続税対策

会社の経営支配力を持っている「同族株主」以外の少数株主が株式を取得する場合、税務上は配当を得ることが主たる目的とみなされます。そのため、自社株の評価額は、会社の純資産や業績に関係なく、配当還元方式にて計算され、一般に低く評価されます。

このことを逆手に取った相続対策が存在します。「同族株主」以外の少数株主に、低い株価で自社株を持ってもらうことができれば、残された「同族株主」が保有する自社株の相続税評価額が下がり、相続税の節税に繋がるというわけです。理屈上はそのとおりなのですが、いったん少数株主に譲渡(または贈与)した自社株を後になって取り戻したいと思っても、その時の税務上の株価は原則的評価額(純資産価額、類似業種比準価額などの高い株価)となるため、難しくなります。税務専門家を交えた長期視点に立った検討が必要です。

従業員持株会による活用

従業員持株会の社員株主への譲渡は、同族株主以外のため、配当還元方式の選択が可能です。また、従業員持株会を組織することには、以下のような利点があります。

  • 従業員は自社の株式の一部を取得でき、財産形成につながる。
  • 株式の保有を通じて、従業員の会社への意識が高まる。
  • 経営者にとって、福利厚生のアピールポイントとなる。
  • 従業員が退職する際に株式を売却することにより、自社株の社外流出を防ぐ。

従業員持株会の存在は、相続税を抑えるための有効な手段となるだけでなく、会社の経営にもプラスの効果をもたらします。

一方で、従業員持ち株会に譲渡する株式数が増えすぎると、経営者側の実権がおびやかされるおそれがあります。また退会する人が一時期に集中する場合、株式の買い戻しに多額の資金となる可能性があります。

役員持株会による活用

血族関係のない役員を後継者として指定する場合に、役員持ち株会を設立して株式を譲渡する方法です。役員として任命された従業員が経営者との血縁関係がなく、また大株主でもない場合、役員持ち株会を設立し、配当還元方式を活用した株式譲渡が選択できます。

M&Aを選択する場合の注意点

上記のような相続・事業承継対策を過去に行った非上場会社が、その後に第三者承継(M&A)で自社株を譲渡するケースが増えています。親族が跡継ぎを辞退した、後継者に適性がなかった、業界の先行きが不安など、その事情は様々です。

このような場合に、M&Aを検討するオーナー経営者が直面するのが株式集約の問題です。譲受企業は通常、株式の全部取得(100%)を望みます。譲受後の経営の意思決定をスムーズに行うためには当然の要求といえます。

なぜ事前の株式集約が重要なのか

譲受企業との交渉を円滑に進めるためには、株式の分散状況を整理しておく必要があります。少数株主が残ったままM&Aを進めると、以下のような問題が発生します。

  • 少数株主から株式集約に応じてもらえない可能性
  • 少数株主が高額な買取りを要求する可能性
  • 交渉の長期化によるM&A自体の頓挫リスク

株式買取価額の決定方法

株式集約における最大のポイントは、適切な買取価額の設定です。買取りの主体によって、税務上認められる価額が大きく異なってきます。極めて税務専門的になりますので、検討に際しては税務に強いM&A会社に相談すると良いでしょう。

同族株主による買取り

オーナー経営者(やその親族)が買い取る場合、一般に議決権の50%超(もしくは30%以上)を保有することになるため、原則的評価額での株価設定が必要です。これより低い価額での取引は贈与税の課税リスクがあります。

自己株式として買取り

会社による自己株式取得の場合は、以下の点に注意が必要です。

  • 配当還元方式による価額以上での取引が一般的
  • 時価との著しい乖離は避ける必要性
  • みなし譲渡課税・みなし贈与税のリスクへの対応
配当還元方式が適用できるケース

配当還元方式が適用できる場合、株価を比較的低く抑えることが可能です。できるだけオーナー家に株式を集約したい場面ではありますが、もしも以下のような株式移動でも有効なシチュエーションであれば、配当還元価額での株価設定が可能になります。

  • 従業員持株会による買取り
  • 少数株主間での売買
  • 議決権の50%超(30%以上)に達しないオーナー関係者による買取り

M&Aのタイミングと株式集約

株式集約は、M&A手続の開始前に完了させることが望ましいです。基本合意後などの遅いタイミングでの集約は、以下のようなリスクがあります。

  • M&A価格と集約価格の乖離による贈与税課税リスク
  • 手続の遅延によるM&A全体のスケジュール遅延、取引破談の可能性
  • 買収価格への影響

実務上の留意点

株式集約には予想以上の時間とコストがかかることを念頭に置く必要があります。早期の計画立案と、専門家への相談が成功のカギとなります。特に配当還元方式の活用を検討する場合は、適用要件の充足性を事前に確認することが大切です。

配当還元方式のまとめ

本記事では、配当還元方式における種類や特徴、利用シーン、企業価値評価における配当還元方式の計算方法などを詳しく解説いたしました。配当還元方式は、同族会社や同族株主が存在する会社において、少数株主が保有する株価を評価する際に活用されることが多いです。ただし、企業価値評価には様々な手法がありますので、株主の状況や会社の規模によって適切な方法を選択することが重要です。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

田原聖治
田原聖治事業法人第一部長
みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人

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