株主割当増資とは、既存株主へ持株比率どおりに新株を割り当てる増資です。第三者割当増資との違い、決議機関から登記までの流れ、資本金1億円超で外れる優遇や失権株の贈与税リスクを整理。増資が効く場面と、譲渡を控えた会社で避けたい場面まで具体的に説明します。
株主割当増資とは
資金は入れたい、でも株主構成は動かしたくない。中小企業の増資相談で最も多く出てくる要望が、この2つの両立です。株主割当増資は、その要望にまっすぐ応える手法になります
まずは仕組みと、会社売却を検討するオーナーにとっての位置づけから押さえていきます。
持株比率どおりに新株を割り当てる仕組み
株主割当増資とは、既存の株主に対して、その持株数に応じた新株を引き受ける権利を与える増資です。全員が権利を行使して払い込めば、増資の前後で持株割合は1%も動きません。会社法では「株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合」として、会社法第202条に規定が置かれています。
数字で見る株主割当増資の例
言葉だけでは実感しにくいので、株数で追ってみましょう。
株主Aが50株、株主Bが30株、株主Cが20株を保有する会社が、新たに10株を発行するとします。持株比率どおりに割り当てると、Aに5株、Bに3株、Cに2株。払込み後はAが55株、Bが33株、Cが22株となり、比率は5対3対2のまま変わりません。

資本業務提携やM&Aで使われない理由
割当先が既存株主に閉じている以上、外部の相手を株主として迎える場面には使えません。他社と資本業務提携を組む目的では機能しないわけです。
オーナーが売却対価を手にしたいのであれば、そもそも増資では目的が達せられません。その場合は株式譲渡によって会社そのものを譲り渡す形になります。増資は「会社にお金を入れる」取引、譲渡は「オーナーがお金を受け取る」取引。ここを混同したまま話が進むケースは、意外と多い落とし穴です。
第三者割当増資・公募増資との違い
増資には3つの方式があり、どれを選ぶかで株主構成も税務も変わります。違いを整理しておきましょう。
出資者と調達規模の違い
株主割当増資は既存株主のみが対象となるため、調達できる金額は株主の資力が上限になります。第三者割当増資は取引先・金融機関・ファンドなど特定の相手に、公募増資は不特定多数の投資家に割り当てるため、規模を大きくしやすい方式です。
持株比率と1株当たり価値への影響
比率が動かないのは株主割当増資だけ。公募増資と第三者割当増資では新しい株主が加わるため、既存株主の議決権割合は相対的に下がります。株主総会での影響力がどう変わるかは、M&Aでの株主の権利とあわせて確認しておくと判断を誤りません。
3つの増資方式を比較する
下表に、割当先から中小企業での登場頻度までをまとめました。
| 比較項目 | 株主割当増資 | 第三者割当増資 | 公募増資 |
|---|---|---|---|
| 割当先 | 既存株主(持株比率どおり) | 特定の第三者 (取引先・金融機関・ファンド等) | 不特定多数の投資家 |
| 持株比率 | 全員が引き受ければ不変 | 既存株主は希薄化 | 既存株主は希薄化 |
| 調達規模 | 既存株主の資力が上限 | 相手先の資力次第で大きい | 大きい |
| 有利発行規制 | 適用されない | 適用あり (株主総会の特別決議) | 適用あり |
| 主な使い道 | 財務基盤の補強・欠損の補填 | 資本提携・M&A・救済出資 | 上場会社の大型調達 |
| 中小企業での登場頻度 | ときどき | 多い | ほぼない |
M&Aの現場に出てくるのは第三者割当増資
中小企業のM&Aで実際に使われるのは、ほぼ第三者割当増資のほうです。譲受企業が資本を入れて過半数を握る、あるいは業務提携の裏づけとして少数出資する、といった使い方になります。
株主割当増資のメリットとデメリット
比率を動かさずに自己資本を厚くできる反面、規模と資金負担に制約が残ります。両面を並べて見ておきましょう。
株主割当増資のメリット
利点は3つに整理できます。
持株比率が動かず経営が安定する
全株主が引き受ければ議決権割合は据え置き。少数株主の持分が薄まらないため、増資をきっかけに株主間の摩擦が起きにくくなります。
発行価格の設定に自由度がある
株主割当の場合、有利発行の規制が適用されません(会社法第202条第5項)。時価より低い価格で発行しても既存株主の間で不公平が生じにくいためです。額面に近い価格で機動的に増資できるのは、実務上の大きな利点でしょう。
自己資本が厚くなり金融機関の評価が上がる
自己資本比率が改善すると、格付けや金利条件が動くことがあります。事業承継融資を検討している局面では、この効果を狙って増資を打診されることも珍しくありません。
株主割当増資のデメリット
制約は、金額と人の2方向から効いてきます。
調達できる金額に上限がある
出資者が既存株主に限られるため、数億円規模の資金需要には応えられません。事業拡大の資金を外部から入れたいなら、別の方式を検討することになります。
株主に払込資金がなければ成立しない
株主としての権利は変わらないまま、追加の出資だけを求められる形になります。配偶者や子が名義上の株主になっている会社では、そもそも払込資金がないという事態が起こりがちです。
増資しても手取りは増えない
ここは支援現場で必ず補足する論点です。増資は、オーナーの財布から会社へ資金を移す取引にすぎません。払い込んだ現預金が純資産に乗るため企業価値評価上の株価は上がりますが、増えた分はもともと自分のお金。
しかも譲渡対価には株式譲渡の税金がかかります。「増資すれば高く売れる」という発想で相談に来られる方には、この点をいちばん最初にお伝えしています。
株主割当増資の法務上の注意点
手続そのものは重くありませんが、定款と登記で足止めを食うことがあります。順に見ていきます。
募集事項を決める機関は定款次第
公開会社であれば取締役会の決議で決定できます。非公開会社は原則として株主総会の特別決議ですが、定款に定めがあれば取締役会(取締役会を置かない会社なら取締役)の決定でも足ります(会社法第202条第3項)。中小企業の大半は株式譲渡制限会社なので、まず定款を開くところからです。
発行可能株式総数の枠を確認する
定款で定めた授権枠を超える発行はできません。設立時に発行済株式総数と同数に設定したままの会社では、増資の直前に枠切れが判明します。
定款変更が必要になる場合
枠を広げるには株主総会の特別決議による定款変更が要ります。公開会社では、変更後の発行可能株式総数を発行済株式総数の4倍以内に収める制限があり、非公開会社にこの上限はありません。効力発生から2週間以内に変更登記を行い、登録免許税は3万円です。
特例有限会社は枠が発行済と同数
旧有限会社から移行した特例有限会社は、発行可能株式総数と発行済株式総数が同数のまま。増資のたびに定款変更が発生します。スケジュールを引くときは、この分の期間を先に確保しておきましょう。
失権株が出たときの扱い
申込期日までに申込みをしなかった株主は、割当てを受ける権利を失います(会社法第204条第4項)。失権株を再募集しなければ、払い込んだ株主の比率だけが上がる結果に。
意図せず少数株主の持分が薄まると、将来のスクイーズアウトやタグアロング条項の交渉で蒸し返される火種になります。比率の維持が目的なら、種類株式や譲渡制限株式の設計と合わせて考えるほうが確実でしょう。
株主割当増資の税務上の注意点
資本金が増えることの副作用と、失権株から生じる課税。この2つが実務での主戦場です。
資本金1億円超で外れる中小企業向けの優遇
法人税法では資本金1億円以下の法人を中小法人として扱い、複数の優遇措置を用意しています。増資でこの線を越えると、優遇が一斉に外れます。
法人税の軽減税率
資本金1億円以下の法人は、年800万円以下の所得部分に15%(本則19%)の軽減税率が適用されます。適用期限は2027年3月31日までに開始する事業年度で、所得が年10億円を超える事業年度は17%です。1億円を超えると一律23.2%となります(国税庁タックスアンサーNo.5759)。
交際費の損金算入
資本金1億円以下なら年800万円までの定額控除が使えます。1億円を超えると、接待飲食費の50%のみが損金算入の対象に。取引先との会食が多い業種ほど、この差は効いてきます。
少額減価償却資産の特例
中小企業者等であれば、取得価額30万円未満の資産を年間300万円まで即時に損金算入できます。設備更新の多い製造業では、償却スケジュールが大きく変わる論点です。
法人事業税の外形標準課税
資本金1億円超の法人には、付加価値割と資本割が課されます。赤字でも負担が生じる仕組みなので、業績が振れやすい会社では注意が要ります。増資後に資本金を戻すのであれば、減資の手続を別途踏むことになります。
失権株から生じるみなし贈与
同族会社で失権株が発生し、再募集を行わなかった場合。結果として比率を高めた株主が失権株主の親族等であるときは、その利益を失権株主から贈与により取得したものとして取り扱われます(相続税法基本通達9-7)。
親子・兄弟で株式を分け合っている会社では、まさにこの類型に当たります。資金繰りの都合で1人だけ払い込めなかった、という程度の話が贈与税の課税につながる。みなし譲渡・みなし贈与の論点は、増資の設計段階で潰しておきたいところです。
株価と相続税評価への影響
純資産価額方式では、払い込んだ資金がそのまま評価額に加算されます。類似業種比準方式でも1株当たり資本金等の額が変わるため、比準要素の計算に影響が及びます。非上場株式の評価は相続対策とM&Aで見る角度が違うので、両方の物差しで確認しておきましょう。
株主割当増資の手続の流れ
決議から登記まで、実務上は1か月から1か月半を見ておけば足ります。下表が全体像です。
| 順序 | 手続の内容 | 根拠・期限 |
|---|---|---|
| 1 | 募集事項と株主割当ての決定 (株主総会または取締役会) | 会社法第202条第1項・第3項 |
| 2 | 株主への通知 (募集事項・割当株式数・申込期日) | 申込期日の2週間前まで 会社法第202条第4項 |
| 3 | 株主からの引受けの申込み | 申込期日までに申込み しなければ失権(第204条第4項) |
| 4 | 出資の履行 (払込取扱金融機関へ入金) | 払込期日または払込期間内 会社法第208条 |
| 5 | 資本金の額と発行済株式総数の変更登記 | 払込期日等から2週間以内 |
募集事項の決定でつまずきやすい点
募集株式の数、払込金額またはその算定方法、金銭以外の財産を出資する場合はその内容と価額、払込みの期日または期間、増加する資本金と資本準備金に関する事項。この5点に加えて、株主割当ての場合は「割当てを受ける権利を与える旨」と「申込期日」を必ず定めます。
通知は申込期日の2週間前まで
第三者割当や公募の通知期限とは根拠条文が異なります。株主割当では会社法第202条第4項が適用され、申込期日の2週間前が期限。全株主が同意していれば期間短縮の実務もありますが、書面の残し方は司法書士と詰めておくのが安全です。
払込みと登記で必要になる書類
株主総会議事録または取締役会議事録、募集株式の引受けの申込みを証する書面、払込みがあったことを証する書面、資本金の額の計上に関する証明書。定款変更を伴う場合は、その議事録も添付します。
登録免許税の計算
増加した資本金の額の0.7%で、3万円に満たないときは3万円。発行可能株式総数の変更登記を同時に行う場合は、別途3万円が加わります。増資額の半分までを資本準備金に計上すれば、資本金の増加額と登録免許税の両方を抑えられます。
会社売却を見据えた資本政策での使いどころ
譲渡を数年内に考えている会社では、増資の判断軸が平時とは変わります。当社の支援現場で実際に使っている整理を共有します。
増資が有効に働く場面
自己資本の薄さが譲受企業の評価を押し下げているケースでは、増資が効きます。債務超過でのM&Aを避けたい場合や、オーナーからの役員借入金が膨らんでいて貸借対照表の見栄えを整えたい場合も候補になります。
譲渡を控えた会社で避けたい場面
逆に、次の3つに当てはまるなら見送るほうが賢明です。
- 増資後の資本金が1億円を超えてしまう場合。優遇が外れ、譲受企業から見た税負担も増えます。
- 株主が分散していて、全員分の払込資金が揃う見込みがない場合。失権と課税の二重の問題を招きます。
- 少数株主の影響力を薄めたい、という動機で増資を考えている場合。それは自己株式の取得や自己株式の消却で扱うべき論点です。
株主整理を資本政策として組み立てるなら、自社株買いの活用のほうが筋のよい選択になることが多いという印象です。
支援現場で見た2つの事例
いずれも規模と業種を伏せたうえで、判断のポイントだけを抜き出しています。
兄弟株主の失権で比率が崩れた金属加工業
年商12億円、従業員45名。発行済1,000株のうち社長が800株、弟が200株を保有していました。設備更新資金3,000万円を株主割当増資でまかなう方針を立て、500株を追加発行。社長に400株、弟に100株を割り当てます。
ところが弟は600万円を用意できず失権。再募集をしなかった結果、社長の持株比率は約86%、弟は約14%に。増えた比率の分だけ弟から社長へ利益が移ったとみなされ、贈与税の検討が必要になりました。数年後の会社売却では、弟への説明と親族間の株式集約に半年を要しています。払込資金の当てを株主ごとに確認していれば、避けられた回り道でした。
増資しても譲渡価額が動かなかった食品製造業
年商8億円、オーナーが100%保有。取引金融機関から自己資本の増強を求められ、株主割当増資で資本金を1,500万円から3,000万円へ引き上げました。格付けは改善し、追加融資も通っています。
一方で2年後の会社売却では、払い込んだ1,500万円はすでに運転資金として事業に溶け込んでおり、譲渡価額に上乗せされた実感はなかったとのこと。会社売却の相場を決めるのは収益力です。増資は財務指標を整える手段であって、譲渡価額を押し上げる手段ではない、というのが現場の感覚になります。
会社売却前に確認したいチェックリスト
増資を実行する前に、次の6点を潰しておくと事故が起きにくくなります。
- 増資後の資本金が1億円を超えないか。資本準備金への振り分けで調整できないか
- 全株主が払込資金を用意できるか。失権が出る可能性のある株主はいないか
- 失権が起きた場合、相続税法基本通達9-7の関係に該当する親族が含まれていないか
- 発行可能株式総数に余裕があるか。定款変更と登記の期間を工程表に織り込んだか
- 借入や役員借入金の据置きでは代替できないか。増資でなければならない理由が説明できるか
- 増資で上がるのは評価上の株価であって手取りではない点を、家族株主にも共有できているか
譲渡の時期が見えているなら、会社売却の流れと突き合わせて、増資が工程のどこに収まるかまで確認しておきましょう。
株主割当増資に関するFAQ
相談の場でよく出る質問を、実務の答え方でまとめました。
割当先が既存株主に限られるため、外部の買い手を迎える手段にはなりません。買い手に資本を入れてもらうなら第三者割当増資、オーナーが対価を受け取るなら株式譲渡です。「資金が欲しいのか、対価が欲しいのか」で入口が分かれます。
申込みをしなかった株主は権利を失い、払い込んだ株主の比率だけが上がります。再募集するかは会社の判断です。同族会社では贈与とみなされる場面があるため、失権が見込まれた時点で顧問税理士に確認するのが実務の順序になります。
現場ではまず1億円を超えないかを確認します。超えると軽減税率、交際費、外形標準課税の扱いが一度に変わるためです。増資額の2分の1までを資本準備金に計上すれば、資本金の増加を半分に抑えられます。
時価純資産をベースに評価するなら、払い込んだ分だけ計算上の株価は上がります。ただし原資はオーナー自身の資金です。買い手が収益力で評価する場合は価額に反映されにくく、評価方法と資金の使い道次第、というのが正直なところです。
株主割当増資の要点と会社売却に向けた次の一手
株主割当増資は、既存株主に持株比率どおり新株を割り当て、株主構成を動かさずに自己資本を厚くする手法です。外部の相手を迎えるM&Aには向かず、資本金1億円の壁や失権株の贈与税といった落とし穴も残ります。増資で株価は上がっても手取りが増えるわけではない。この点に戸惑われるオーナーは、決して少なくありません。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の会社売却・事業承継を数多く支援してきました。資本政策と譲渡スキームを税務の視点から一体で組み立てられる点が強みです。増資が先か譲渡が先かで迷われたら、判断材料をそろえるところからお手伝いします。
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著者

- 事業法人第一部長/M&A担当ディレクター
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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