休眠会社とは、広義には長期間に企業活動を休止している会社で、狭義には最後に登記があった日から12年を経過した会社です。現在、多くの休眠会社が存在しており、その中には価値が高いものも見受けられます。本稿では、休眠会社を売買できる可能性や関わる注意点について解説します。
休眠会社とは
休眠会社とは、法人は解散することなく営業活動が休眠状態の会社を指します。休眠会社には、2つの定義があり、法律上の定義と一般的な意味が存在しています。
一般的な意味
登記簿上は存在しているにもかかわらず、ある程度の期間、事業活動を停止している会社を「休眠会社」と呼ぶことが多いです。本記事では、休眠会社という言葉を、以下の法律上の休眠会社に限らず、一般的な意味で使用します。
法律上の定義
法律上の定義では、「株式会社で最後の登記から12年経過したもの」とされています(会社法472条)。これは、株式会社の役員任期が最長10年であることから、12年間役員変更登記がない場合に営業の実態が存在しないと考えられるためです。
これらの会社法上の休眠会社に対して、整理作業が法務省によって毎年実施されています。整理作業では、年1回10月頃に官報公告が実施され、その2か月以内に登記または届出を行わなければ、解散したものとみなされます。このみなし解散がなされると、3年以内に特別決議で会社を継続することができ、それを過ぎると清算が必要となります。
合同会社などの持分会社は役員の任期がないため、会社法上の定義では休眠会社には該当しません。一方で、会社法上の休眠会社は、一定の期間を経過すると会社が消滅するケースがあるため注意が必要です。なお、株式会社も持分会社も、税務署や役場等に異動届出書を提出することで、会社が休業状態にあることを明示することができます。
休眠会社とペーパーカンパニーの違い
ペーパーカンパニーとは、設立登記が行われているものの、実態が伴わない名目だけの会社のことを指します。一見、休眠会社と似た意味に感じられるかもしれませんが、実際に言葉として使用される際には、両者に大きな違いが存在します。
- 休眠会社は、会社法で規定された表現です。これは、株式会社の仕組みの一つとして、会社法で明示的に定められているからです。一方で、ペーパーカンパニーには、法律上での明確な定義が存在しないのが特徴です。
- ペーパーカンパニーという言葉は、ネガティブな意味で用いられることがあります。例えば、税金逃れや債務の移転目的で設立される企業といった文脈で使用されることがあるので注意が必要です。
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休眠会社でも売却できる?
休眠会社は、売却しようと思っても、お相手は見つからないことが多いです。譲受企業からすると、事業を停止しているため利益を生み出さないにも拘わらず、簿外債務などのリスクは残っているからです。その一方で、以下のような譲受側のメリットが見いだせる場合には、お話が進む可能性があります。
許認可を得られる
休眠会社が、事業に必要な許認可をすでに取得している場合、譲受企業にとってはメリットとなり得ます。具体期には、宅地建物取引業、旅行業、酒類販売業免許など、取得に時間や手間、費用がかかる許認可が挙げられます。例えば、特定建設業許可であれば、新規取得には、5年以上の経営業務管理責任者の経験や6年以上の経営業務補佐経験が必要で、許認可手数料や行政書士報酬などの費用も掛かります。
そのため、すでに許認可を持っている休眠会社を譲り受けることで、これらの時間とコストを大幅に節約できる可能性があります。これは、早期に事業を開始したい、あるいは拡大したい譲受企業にとって、魅力的な選択肢となり得ます。
割安に購入ができるケースがある
休眠していない会社と比べ、事業価値が下がるため、価格が下がる傾向にあります。その結果、市場価格よりもお得に買収することが可能となるのです。
社歴を引き継げる
新規に会社設立をすると社歴がゼロからのスタートになります。休眠会社であれば、形式上は社歴を引き継げますので、対外的に社歴が大事な業種においては、それなりの価値があります。
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繰越欠損金を利用できる
繰越欠損金とは、過去の事業年度で生じた赤字(欠損金)を、翌年度以降の黒字と相殺できる制度です。繰越期間は原則として10年です。「繰越欠損金を持つ休眠会社を譲り受けて、自社の黒字と相殺すれば節税になる」という話を聞いたことがある経営者は多いでしょう。
しかし、この繰越欠損金の利用には、以下のような厳しい制限があり、注意が必要です。節税目的で事業実態のない休眠会社を譲り受け、名義だけ変えて新しいビジネスを始めても、過去の赤字(繰越欠損金)は使えないということです。
繰越欠損金が利用できない(制限される)主な要件
買い取った休眠会社の繰越欠損金を利用した節税は、利用が制限される可能性があります。繰越欠損金の利用自体を主目的とした買収(租税回避行為)を防ぐためのルールです。参考までに以下に記載しますが、税務に強いM&A仲介会社に相談すると良いでしょう。
休眠期間中の申告
休眠期間中も毎年、欠損金の申告書を提出していない場合
M&A後の期間制限
発行済株式等の50%超を取得するなど(の特定支配関係)が生じた日から5年以内に、以下のいずれかの事由に該当する場合
- 新規事業の開始: 休眠状態だった会社が、買収後に新たに事業を開始した場合
- 旧事業の廃止と大規模な新規事業: 買収前の事業(旧事業)をすべて廃止し、旧事業の規模の概ね5倍を超える資金調達(借入や出資)を行って新規事業を開始した場合
- 特定の資金調達と新規事業: 特定の株主等が半額未満で取得した債権(特定債権)があり、旧事業規模の概ね5倍を超える資金調達を行って新規事業を開始した場合
- 役員・従業員の変更と大規模な新規事業: 買収前の役員が全員退任し、かつ従業員の20%以上が退職した上で、従事していなかった新規事業の規模が旧事業の規模の概ね5倍を超える場合
- 合併・解散: 上記のような状況(旧事業廃止、特定債権取得など)が発生した後、買収した休眠会社が適格合併で消滅したり、残余財産が確定(事実上の清算完了)したりした場合
繰越欠損金が利用できる可能性のあるケース
一方で、以下の条件を満たす場合は、繰越欠損金を利用できる可能性があります。
- 買収後も、休眠会社が元々行っていた既存の事業を継続し、事業再生を図る場合
- 休眠期間中も毎年、欠損金の申告書を継続して提出していた場合
注意点
- 繰越欠損金には繰越期間(原則10年)があり、休眠期間が長い場合は期限切れで使用できない可能性があります。
- 繰越欠損金の利用を目的としたM&Aは租税回避行為とみなされやすく、税務当局から否認されるリスクがあります。
- 繰越欠損金の利用可否の判断は複雑なため、税理士などの専門家に相談することが推奨されます。
安易に繰越欠損金の利用による節税効果を期待して休眠会社を譲り受けることは、リスクを伴います。繰越欠損金の利用を検討する場合は、必ず事前に専門家へ相談し、法的な要件を満たしているかを確認することが重要です。
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休眠会社を譲渡する側のメリット
休眠会社を売却する側のメリットは、主に以下の4つが挙げられます。
- 廃業コストを抑えることができる
- 高値で売却できる可能性がある
- 売却により収益を上げられる
- 節税効果が期待できる
廃業コストを抑えることができる
会社を廃業させる場合、手続きに伴い費用(コスト)が発生します。また、廃業手続きには時間と労力も必要となります。休眠会社を売却することで、こういったコストや労力から解放されます。会社を売却すれば、買収したお相手が事業を継続することが見込まれるため、廃業手続きをする必要がなくなります。
高値で売却できる可能性がある
休眠会社であっても、許認可を取得している場合などには、高値で売却できる可能性があります。業界によっては、許認可取得の難易度が高く、新規取得にあたって時間やコストもかかるため、会社を買収することによって許認可を取得しようと考えている買手もいます。買手にとってはお金を払うことで許認可が取得できるのですから、お相手によっては価値があると判断されるため、高値で売却できるチャンスがあります。
売却により収益を上げられる
会社を売却することで譲渡代金を得ることができます。売却により得た現金は、将来の支出に備えるなど、新しい事業や既存事業への再投資が可能になります。休眠会社を保有していてもキャッシュは生まれませんし、廃業するにしてもコストがかかります。売却を通じてキャッシュを獲得し、有効な投資につなげていくことが可能となります。
節税効果が期待できる
会社を売却する際、高く売れることに越したことはありませんが、低い価格で売却された場合でも、メリットはあります。安く売却されたとしても、前述の廃業コストを考慮すればプラスになる場合がありますし、結果として譲渡損が発生した場合でも、他の所得と通算し税金計算の基準となる所得が減少できる可能性があります。このように、会社を売却することで節税効果が得られることメリットと言えます。
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休眠会社のM&Aの流れ
休眠会社の売買を進める際は、重要な一連のプロセスが存在します。以下では、その基本的な流れを紹介しますので、参考としてください。

1.売買目的の明確化
最初に、休眠会社の売買目的を明確に整理しておくことが重要となります。売買の目的がはっきりとしていることで、お互いの条件に合ったお相手を選びやすくなります。具体的には、購入目的が明確であれば、譲れない条件が明確化され、お相手探しがスムーズになるでしょう。売り手側も、単に手放したいだけなのか、高く売りたいのかなど、状況に応じて対応が変わります。そのため、休眠会社の売買に取り組む際は、売買の目的をしっかりと整理することが重要となります。
2.専門家への相談
実際に売買を開始する前には、専門家に相談することをお勧めします。M&A仲介会社やM&Aを専業とする会計事務所やコンサルティング会社などが相談相手として適切です。休眠会社の売買取引では、法律、税金、契約書など、多岐にわたる専門知識が求められます。経営者だけの知識では対応しきれないケースも多く、交渉が円滑に進むよう、専門家に相談し、協力を仰ぐことが重要となります。
3.マッチする案件の探索
自社の人脈だけでは、理想的な相手を見つけることが難しいかもしれません。専門家の紹介を利用して、条件に合った案件を探すことが重要です。具体的には、M&A仲介会社は、独自のネットワークとお相手の情報を多く有しているため、自社の希望条件に合うお相手を探索することを得意としています。M&A仲介会社を利用することで、マッチングを成功に導くことが可能となります。
4.トップ面談の実施
トップ面談前に譲渡側から基本的な希望条件(譲渡価額や譲受側に必ず守ってもらいたい事項なと)を伝えます。この譲渡側の希望条件については通常、企業概要書などに記載することが多く、トップ面談(経営者同士の面談)の場においては、具体的な交渉は行われません。トップ面談が終了してから具体的な交渉が開始されることが一般的です。
トップ面談は、譲渡側と譲受側の経営方針やお人柄の確認、商流や今後の事業計画の確認、M&A後のシナジーなどの話題が主となり、譲渡側と譲受側双方が今後の交渉相手として相応しい相手かどうかを確認することが最大の目的となりますので、条件交渉は極力行われないように実施します。
5.基本合意契約の締結
基本合意契約は、譲渡側企業と譲受側企業が基本的事項の合意を書面で確認するものです。M&Aの交渉を進めていくなかで、想定される買収価格や買収の条件等の基本的な内容について記載し、譲渡側と譲受側の合意できている事項についての確認書としての機能が強く、法的拘束力を持たせない場合がほとんどです。
基本合意契約を締結することでスケジュールが明確になり、交渉がスムーズになります。さらに、譲渡側は譲渡価格の下限を理解することができ、譲受側は買収価格の上限の設定が設定することができるというメリットもあります。
6.デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは、譲渡対象企業に対する調査手続きの総称で買収監査と呼ばれたりします。譲渡対価が適正か、譲渡企業に潜在的なリスクがないかを様々な角度から、それぞれの専門家が検証・調査することです。デューデリジェンスの目的の一つに、譲渡企業の企業価値評価が適正であるか最終条件を決定するための調査の場でもあります。
7.最終条件の交渉
デューデリジェンス実施後、トップ面談・基本合意・デューデリジェンスで得た情報をもとに最終条件に向けた交渉をします。このフェーズで論点となりやすい事項としては、買収価格、M&Aのスキーム、クロージング後の譲渡側の義務(譲渡側に対する表明保証の設定・リスクの低減施策実行の提案を要求)、クロージング後の譲受側の義務(役員・従業員の処遇、事業の継続性)などがあります。
8.最終契約書の締結
最終契約書は、譲渡側と譲受側の最終交渉を経て合意した条件を落とし込んだM&Aにおける最後の契約書のことを言います。最終交渉は、デューデリジェンスの結果を踏まえ、M&A実行の為の諸条件やM&A取引金額の交渉が行われます。最終交渉により合意に至った条件を最終契約書にまとめ、譲渡側と譲受側で締結します。最終契約書締結後、M&A取引対価の資金決済となりM&Aが成約となります。
9.クロージングの実施
クロージング期間とは、契約締結から譲渡実行日までの期間を指します。この期間中に、クロージング(譲渡代金決済)の前提条件を充足させるために必要な各種手続きを行います。クロージングの前提条件が全て充足されたのを確認し、クロージング日に株式の移転とその対価の支払いが実行されます。クロージング日にクロージングの前提条件を満たすために必要な手続きが未了状態であると、クロージングできない原因となりますので、注意が必要です。
10.登記変更の実施
クロージングが実行された後は、代表者変更や役員変更、定款変更などの登記変更手続きを実施する必要があります。この登記手続きは、会社法上必要な手続きですので、確実に手続きを行うことが必要となります。
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休眠会社売買における専門家への相談方法
休眠会社の売買に関して専門家に相談を行う際、どのような専門家に助言を求めると適切でしょうか。本章では、休眠会社の売買に対応可能な専門家をいくつかご紹介いたします。
- M&A仲介会社
- 弁護士
- 税理士
休眠会社の売買を行う際には、M&A仲介会社が効果的です。休眠会社の売買もM&Aと同様であり、安心してサポートを受けられるでしょう。M&A仲介会社の特徴は、休眠会社の売買相手を探す段階から、契約が成立するまで一貫してサポートを受けられる点です。法律や税金面の確認はもちろん、デューデリジェンスなどにも対応しています。休眠会社の売買について何も知らない場合でも、M&A仲介会社にサポートを依頼すると良いでしょう。
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弁護士を利用すると、休眠会社の売買における法律面でのサポートが得られます。例えば、隠れた債務が発見された場合や金融機関のブラックリスト入りが判明した際など、弁護士の介入が有効です。自社で交渉するよりも、専門家がいることで円滑に進行するケースがあります。休眠会社の売買の際、法務面で懸念が多い案件の場合には、弁護士への相談も一つの方法となります。
税金に関する問題は、税理士に依頼することが適切です。休眠会社の売買では、消費税や法人税などの税金が発生することがあります。税理士に相談すれば、税金の軽減に関するアドバイスも受けられます。節税目的の場合は、税理士に任せると安全です。
休眠会社の売買方法のまとめ
休眠会社のM&Aにはメリットがありますが、リスクも多く存在し手続も一人で行うには大変です。リスクを最小限に抑えるためにも、専門家への相談を行いながら売買を進めることが結果的にコストを抑える結果に繋がります。休眠会社の売買を検討している方は、まずは専門家に相談してみてください。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しています。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングにご相談ください。
著者

- 事業法人第三部長
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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