会社を売却して株式を手放すと、買い取った譲受企業には支払調書の提出義務が、譲渡オーナーには譲渡益への課税が待っています。誰が・いつ・どこへ出すのか。そして手元にいくら残るのか。M&Aを初めて検討する経営者の素朴な疑問に沿って、税務手続と20.315%課税の手取り計算まで、まとめて解説します。
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株式譲渡の支払調書とは|M&Aで買い手に生じる提出義務
会社売却(株式譲渡)の交渉がまとまり、株式の引渡が済んでひと安心したころ。忘れたタイミングでやってくるのが支払調書の手続です。これは譲渡オーナーではなく、株式を買い取った譲受企業の側に生じる義務です。会社売却の流れを押さえつつ、ここでは取引完了後の税務に絞って見ていきます。
支払調書は税務署が取引を把握するための法定調書
支払調書とは、株式等の譲渡の対価を支払った事実を税務署へ報告する書類です。所得税法第225条にもとづく法定調書の一つにあたります。
「報告」と「申告」を突き合わせる仕組み
税務署はこの調書と、譲渡オーナーが出した確定申告を照合します。支払った側からの報告と、受け取った側の申告。両者を突き合わせて、申告漏れがないかを確認するわけです。
提出義務者は対価を支払う買い手企業
提出義務を負うのは、国内で株式等の譲渡の対価の支払をする法人です。M&Aで非上場株式を買い取った譲受企業が、これにあたります。証券会社や銀行を介さない相対取引でも、原則として上場・非上場を問わず作成・提出が必要です。
譲渡オーナーが自分で出すものではない
支払調書を出すのは譲受企業。譲渡オーナーが行うのは譲渡益の確定申告です。同じ取引でも担い手と書類が分かれている、と理解しておくと混乱しません。様式は国税庁の株式等の譲渡の対価等の支払調書のページから入手できます。
会社売却後に譲渡オーナーが踏む税務手続の全体像
支払調書は譲受企業の手続ですが、譲渡オーナーが本当に気にすべきは「自分の手元にいくら残るか」でしょう。ここからが本題です。会社を売った翌年、どんな税務が待っているのかを順に見ていきます。
譲渡益には申告分離課税で20.315%
非上場株式を売って得た譲渡益、いわゆるキャピタルゲインは、給与など他の所得とは切り離して計算する申告分離課税の対象です。税率は合計20.315%。内訳は下表のとおりです。
| 税目 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 15% |
| 復興特別所得税 | 0.315% |
| 住民税 | 5% |
| 合計 | 20.315% |
譲渡益の計算式
譲渡益は「譲渡価額−取得費−譲渡経費」で求めます。取得費は出資した資本金などが基本ですが、設立が古い会社では資料が見当たらないことも珍しくありません。その場合の扱いは株式譲渡の税金の計算と節税の考え方で詳しく整理しています。
手取りはいくら残るのか(仮例)
数字で見たほうが早いはずです。譲渡価額2億円、取得費2,000万円という仮の前提で計算してみます。下表は経費を考慮しない簡略な試算です。
| 項目 | 金額(仮例) |
|---|---|
| 譲渡価額 | 2億円 |
| 取得費 | 2,000万円 |
| 譲渡益 | 1億8,000万円 |
| 税額(20.315%) | 約3,657万円 |
| 手取りの目安 | 約1億6,343万円 |
譲渡価額の2割前後が税で出ていく、というのが大づかみの感覚です。役員退職金との組み合わせで負担を抑える余地もあるため、契約条件を詰める前の試算が効いてきます。
2027年からのミニマムタックス強化で高額譲渡は手取りが減る
中堅企業がM&Aを考えるなら、見落とせない論点があります。2025年(令和7年)分から、いわゆるミニマムタックス(超富裕層課税)の適用が始まっており、さらに令和8年度税制改正により、2027年(令和9年)1月1日以降の譲渡には課税が大幅に強化されます。特別控除は3.3億円から1.65億円へ半減し、最低税率も22.5%から30%へと引き上げられる方向です。
対象は譲渡益3.5億円超のオーナーへ拡大
ミニマムタックスは、「基準所得金額から特別控除を差し引いた額×所定の率」が通常の所得税額を上回るとき、その超過分を追加で納付する仕組みです。現行は、特別控除3.3億円・率22.5%。改正後は控除が1.65億円と半減し、率も30%へ上がります。株式譲渡益や不動産譲渡益など金融所得の比重が大きい人ほど影響を受けやすく、同じ譲渡益でも「いつ処分するか」で手取りが大きく変わります。
改正で実効税率は最大35%へ
株式譲渡益への通常課税は20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の分離課税です。これに加えて改正後のミニマムタックスが発動すると、所得税分が実質30%へ上振れし、住民税と合わせた実効税率は最大35%程度に達する場面が出てきます。譲渡益が約3.5億円以上に届きそうなオーナーは、譲渡時期の前倒しや年をまたぐ分散、役員退職金との組み合わせなどを含めて、早めに対策しておく必要があります。
支払調書の対象株式・提出先・期限
ここで譲受企業側の手続に話を戻します。何を、どこへ、いつまでに出すのか。基礎をコンパクトに押さえておきましょう。
提出対象となる株式等の範囲
対象は上場株式だけではありません。新株予約権や合同会社の社員持分、公社債、投資信託の受益権なども含まれます。中小企業のM&Aで中心となる非上場の発行済株式も、当然この範囲に入ります。
提出先と提出期限
提出先は、譲受企業の納税地を所轄する税務署です。期限は、対価の支払が確定した日の属する年の翌年1月31日まで。決算や所得税の申告とは別スケジュールで動くため、年末年始に慌てやすいところです。
期限を過ぎた場合の罰則
法定調書は、期限後でも延滞税や加算税はかかりません。ただし所得税法第242条により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。延滞税がないから後回し、という発想は危険です。
支払調書の作成手順|2種類の書類をセットで提出
実際の作成は、2つの書類を組み合わせて行います。明細にあたる調書と、その表紙となる合計表です。手続の根拠は所得税法第225条第1項第10号・第11号に置かれています。
株式等の譲渡の対価等の支払調書(明細書)
譲渡株主ごとに作る明細書です。記載するのは、対価を受け取る者の氏名・住所、個人番号または法人番号、銘柄、株数、支払金額、源泉徴収税額など。取引当事者の情報を正確に書き込みます。
個人番号が取得できないときの実務対応
つまずきやすいのがマイナンバーです。2016年以降、譲渡株主の個人番号の記載が求められています。提供を拒まれた場合は、依頼の経緯を記録したうえで空欄で提出することも認められます。ただし税務署提出用と、支払先へ渡す控えとでは扱いが違い、控えに個人番号は記載しません。ここは現場でよく取り違える点です。
支払調書合計表(表紙)
明細書には合計表を添えます。提出者の所在地と法人番号、代表者氏名、区分ごとの支払金額・件数・源泉徴収額などを記す集計表です。明細書だけ作って合計表を忘れる、という抜けがときどき起きます。
税務署への提出方法
提出はe-Taxソフトを使ったオンラインが便利です。税務署への持参や郵送も選べます。会計処理まで含めて整理したい場合は、株式譲渡の仕訳と勘定科目の処理もあわせて見ておくと、経理側の段取りが組みやすくなります。
M&A実務で支払調書がつまずきやすい場面
支払調書そのものは難しい書類ではありません。トラブルになるのは、たいてい「段取り」のほうです。支援現場で実際によく見る論点を挙げます。
マイナンバーの収集はクロージング前に
よくある相談として、年商10億円規模の製造業の譲渡で、譲受企業がマイナンバーの取得を後回しにし、翌年1月になって譲渡オーナーへ連絡が取れず慌てた、という例があります。クロージング後は当事者の関係が薄れ、収集が一気に難しくなります。最終契約の段階で、番号提供への協力を条件に織り込んでおくのが現場の知恵です。
譲渡オーナー側が確認すべきチェックリスト
支払調書は譲受企業の手続ですが、譲渡オーナーも無関係ではありません。引渡前に下記を確認しておくと、翌年の申告でつまずきにくくなります。
- 取得費を裏づける資料(出資の記録・過去の異動関係書類)が揃っているか
- 譲渡価額・取得費・経費の3点が整理され、譲渡益の概算が出せているか
- 譲渡所得の確定申告と、譲受企業が出す支払調書の内容が食い違わないか
- 譲渡益が大きい場合に、ミニマムタックスの対象になり得るか
- 納税資金を、入金スケジュールに合わせて確保できているか
譲渡益の申告書の具体的な書き方は株式譲渡益が出た際の確定申告書の書き方に、損益の状況によって申告が不要になる条件は確定申告が不要になる株式譲渡のケースにまとめています。
株式譲渡の支払調書に関するFAQ
最後に、よく出る疑問に答えます。条件によって結論が変わるものも多いので、自社の状況に読み替えてください。
買い手が提出します。対価を支払った法人に義務がある、と覚えておけば迷いません。売り手が行うのは、譲渡益についての確定申告のほうです。
提出は買い手の義務なので、売り手が直接罰せられることはありません。ただ調書と申告が食い違うと、売り手に税務署からの問い合わせが入ることがあります。現場では両者の数字をそろえます。
協力を求めたうえで、それでも得られなければ空欄で提出できます。経緯の記録は残しておきます。提出しない、虚偽を書く、という対応だけは避けてください。罰則の対象です。
会社売却の支払調書と税務手続のまとめ
株式譲渡の支払調書は、対価を支払った譲受企業が翌年1月31日までに税務署へ出す法定調書です。譲渡オーナーが向き合うのは譲渡益の申告で、税率は原則20.315%、高額譲渡ではミニマムタックスにも目配りが要ります。手元にいくら残るのか、その不安は売却を考える誰もが通る道です。
当社は税理士法人グループのM&A仲介会社として、譲渡の交渉から会社売却後の税務手続までを一気通貫で支援しています。中小企業M&Aの実績と経験を重ねてきた強みを生かし、手取りの試算や納税資金の段取りまで具体的にお手伝いします。会社売却を少しでも検討されているなら、早い段階でご相談ください。
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著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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