M&Aの手法の1つに、TOB(株式公開買付)があります。上場会社を対象会社としたM&Aの一種です。本記事では、TOBの概要や目的、メリット・デメリット、手法などを解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」
そのような漠然とした疑問をお持ちではありませんか? みつきコンサルティングでは、本格的なご検討の前でも、情報収集を目的とした無料相談を随時お受けしています。まずはお話をお聞かせください。

TOBとは
TOBとは、M&Aの手法の1つで、英語では「Take Over Bit」、日本語では「株式公開買付」です。。具体的には、不特定かつ多数の者に対して買付価格や期間などの公告を通じて、取引所外で株券などを買い付ける行為を示しています。
TOBの目的
TOBの目的は、株式の取得による経営権の取得です。対象企業の株式を50%超取得すれば、経営権を取得できます。そのほか、子会社化や自社株を集めることもTBOの目的の1つです。
M&Aとの違い
M&Aには様々な手法が存在しますが、TOBは「株式公開買付」という特定のスキームで、証券取引所を通さずに不特定多数の株主から直接株式を買い付けて経営権を獲得する方法です。つまり、M&Aという目的を達成するための手段の一つがTOBということになります。
証券取引所を通さないで実施する理由
TOBは原則として証券取引所を通さないで実施されるM&A手法です。証券取引所を通さない理由は、通常のM&Aによって証券取引市場内で株式の大量の買い注文が行われると、譲渡側の株価が急上昇する可能性があるためです。株価が急上昇すると、想定していた価格で株式が購入できなくなります。そのため、価格を抑えてM&Aをしたい際はTOBを採用し、証券取引所を介さないで進めることが可能です。
なお、市場内取引でもTOB規制の対象となるケースが存在します。これについては後述します。
▷関連:中小企業M&Aの相談先ランキング|銀行・税理士・仲介会社の違い
LBOとの違い
LBO(Leveraged Buyout)とは、譲渡側の資産や今後期待されるキャッシュフローを担保として、譲受側が金融機関などから資金調達をして買収する手法です。LBOは自己資金が少なくてもM&Aが可能です。そのため、 信用取引投資としての性格が強い傾向にあります。
TOBをする際の買取資金の調達構成として、エクティは少額にとどめ、大部分をローンとする場合には、そのTOBはLBOである、ということになります。
▷関連:LBOとは?金融スキームの流れ・利点と欠点・ローンの注意点・事例
MBOとの違い
MBO(Management Buy Out:経営陣買収)とは、企業の経営陣が投資ファンドや金融機関から資金調達を実施し、既存の株主から自社の株式を買い取る手法です。
現経営陣を買い手として行うのがMBOですが、対象会社が上場企業の場合には、一般にTOB規制に服するため、手法としてはTOBを採用する、ということになります。また、TOBを行うからといって、買い手が現経営陣でない第三者ということがあり得る、という点はMBOとの違いです。
▷関連:MBOとは|事業承継での活用方法・ 流れ・非上場化を解説
TOB手続が必須となる場合
ここでは、TOBを実施する際のルールについて解説します。
5%ルール
TOBのルールの1つに、5%ルールがあります。5%ルールとは、「買付後に発行済みの株式全体の5%以上を保有する場合は、TOBによるM&Aを行う」という義務です。5%を超える株の保有は、経営や株価に与える影響が大きいため、このルールが定められています。
3分の1ルール(30%ルール)
1/3ルールもTOBのルールの1つです。1/3ルールとは、「買付後の株式の所有割合が発行済みの株式全体の1/3を超える場合は、TOBの実施が義務付けられている」というものです。相手方の人数が10人以内の場合などに適用されます。
なお、2024年5月15日に成立した金融商品取引法改正法により、以下に変更することが決まっています。
- 上記「3分の1ルール」が「30%ルール」に改正されます。
- TOB規制の対象取引が市場内取引による買付けにも範囲が拡大されました。具体的には、所有割合の30%超となる市場内取引(立会内)も、原則として公開買付けが強制されることとなりました。従来、市場内取引(立会内)については、時間優先・価格優先という競争売買原則の下、透明性や公正性が確保されているという理由で、限られた局面でのみ公開買付けが強制されていましたが、この改正により大幅に規制が強化されました。
改正法、遅くとも2026年5月15日までには施行されることになりますが、政令・内閣府令案の整備状況を考慮すると、2025年中の施行が見込まれます。
▷関連:中小企業の「M&A仲介」とは?流れ・費用・メリット・選び方を解説
TOBの種類
TOBは、敵対的TOBと友好的TOBの2種類に分けられます。ここでは、それぞれの違いについて解説します。
敵対的TOB(同意なき買収)
敵対的TOBとは、対象会社の取締役会の同意を得ずに買収する手法です。相手方への事前の告知が行われない場合も少なくありません。また、事前の告知があったとしても、条件面で妥結しなければ敵対的TOBに該当します。ただし、株式譲渡を用いる点は、友好的TOBと共通しています。
▷関連:敵対的買収とは?「同意なき買収」への防衛策・M&A事例を紹介
友好的TOB
友好的TOBは、対象会社の取締役会と事前合意がなされている状態で買収する手法です。グループ企業を完全子会社化する際などに用いられます。また、グループ企業以外でも、事前の協議や申し入れなどで対象会社から同意を得られる場合は、友好的TOBとなります。
▷関連:「中小企業には友好的M&A」の理由・敵対的買収との違い・手法とは
TOBのメリット・デメリット
TOBのメリット・デメリットは以下のとおりです。
譲渡側
TOBの譲渡側のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
TOBの実施による譲渡側のメリットは、経営改善や事業拡大が見込める点です。TOBが実施されると、譲受側の安定した経営基盤や潤沢な資金が投入されるため、経営上のリスクを抑えて事業を広げていけます。資金不足によって実現していなかった事業拡大などにも取り組めるようになるため、譲渡側にとってTOBは大きなメリットがあるといえるでしょう。
デメリット
TOBの実施による譲渡側のデメリットは、経営権がなくなることです。経営権の喪失は、M&Aを実施するうえで必然的に起こり得ます。それに加えて、元々の経営陣はTOB後に経営に口を挟めなくなる可能性がある点にも留意しましょう。TOBの実施後に役員が留任するケースであっても、多くの場合、影響力は低下します。
譲受側
ここからは、TOBの譲受側のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
譲受側のメリットは、 買収成立までの見通しが立ちやすい点です。株価が想定外に急上昇する可能性が少ないため、TOBを実施するリスクを最小限に抑えられます。目標株式数に満たなかった場合はキャンセルできるため、効率的な株式の取得も可能です。
デメリット
譲受側のデメリットは、取引市場を介して買収するよりも高い費用がかかる点です。TOBは、市場価格に金額を上乗せしての実施が一般的であるため、通常のM&Aよりも多くの費用が発生します。加えて、敵対的TOBの場合は買収の成功率が低い点もデメリットの1つです。
▷関連:M&Aで買収プレミアムを支払う理由やメリットとは?計算方法や注意点、リスクを解説
TOBの手続・進め方
会社の譲渡を検討する際には、譲受側との交渉を進めつつ株主の理解を得ることが必要です。事前に、株主にTOBにいたる背景などをしっかり説明する機会を持ちましょう。
また、TOBに関するルールや事例について、あらかじめ理解しておくことも必須です。基本的な事柄を押さえておけば、失敗する可能性を低くできるでしょう。専門家に相談すると、失敗のリスクをさらに軽減できます。以下では、TOBのスキーム(枠組み)について解説します。
1.公開買付開始公告の公開・公開買付届出書の提出
TOBを行うためには、公開買付開始公告でTOBを行う予定であることを公開する必要があります。公開完了後は、公開買付届出書を内閣総理大臣へ提出します。公開買付開始公告と公開買付届出書を提出すると、既存株主による売付け申込みの勧誘が可能になります。
2.意見表明報告書の提出
公開買付開始公告と公開買付届出書を提出した後は、対象会社による意見表明報告書の提出が行われます。対象会社は、意見表明報告書を内閣総理大臣に提出し、TOBに同意するか反対するかを表明します。
意見表明報告書には、同意・反対の記載とあわせて、公開買い付けに関する意見や質問などの記載も可能です。意見表明報告書の提出は、公開買付開始公告が行われてから10営業日以内に行う必要があります。
3.対質問回答報告書の提出
対象会社が意見表明報告書に質問を記載した場合、譲受側は対質問回答報告書を5営業日以内に内閣総理大臣に提出しなければなりません。また、譲受側は対質問回答報告書の写しを作成する必要もあります。作成した写しは、譲受側や金融商品取引所などに送付します。
4.公開買付報告書の提出
公開買い付けが終了したら、譲受側は公開買い付けに係る応募株式等の数など内閣府令で定める事項を公表します。あわせて、公開買付報告書を内閣総理大臣に提出します。公開買付報告書の提出をもって、TOBの手続きは完了です。
▷関連:2025年版【M&A仲介会社一覧】上場・非上場・会計系を紹介
TOBの事例:永谷園がMBOで上場廃止(2024年6月公表)
永谷園ホールディングス(HD)は2024年6月に、現経営陣が参加するMBOを実施することを発表しました。三菱商事系の投資ファンドである丸の内キャピタルと連携し、TOBを行います。永谷園HDの経営陣はこのTOBに賛同しており、上場廃止の見通しです。
国内市場では人口減少により売上高の成長が難しい一方、コストの上昇が大きな課題となっています。非上場化することで、海外進出などの意思決定を迅速に行い、成長を目指す方針のようです。
▷関連:M&A仲介会社の比較|信頼できるアドバイザーを選ぶポイント
TOBとM&Aのまとめ
本記事では、TOBの概要や目的、メリット・デメリット、スキーム(枠組み)などを解説しました。上場企業の買収や非公開化を検討する際にはTOBも1つの選択肢に入れつつ、他の手法との違いや特徴などに関する理解を深めておきましょう。
M&Aに関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施したうえでシナジー(相乗効果)創出を見込める候補先を紹介できる点も強みです。
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
2025年7月1日敵対的買収とは?中小企業に防衛策は不要・M&A事例も紹介
2025年6月30日人材派遣業界のM&A動向|業界再編・利点と欠点・注意点・売却相場
2025年6月30日設備工事業のM&A動向・利点と欠点・成功ポイント・成約事例を紹介
2025年6月30日MBOとは?事業承継での活用方法・ 流れ・非上場化を簡単に解説