表明保証保険とは、M&Aにおける表明保証の違反により当事者が被る損害をカバーする保険です。M&Aを行う際には、リスクを低減させるために「表明保証保険」を利用することが考えられます。また、M&Aにおける表明保証保険はメリットばかりではないため、事前に注意点などを把握することも必要です。
表明保証保険の概要
M&Aにおいて「表明保証保険」を活用するには、まずその意味を把握する必要があります。以下では、M&Aにおける表明保証保険の基本について解説します。
表明保証とは
表明保証とは、契約における「真実性と正確性を表明・保証すること」を意味します。表明保証に関する内容を契約する保険が「表明保証」です。M&Aの譲渡側と譲受側双方において、契約における事実や法律関係の事情について真実であることを保証するものです。お互いに信頼した上でM&Aを進めるために、表明保証が重要視されるケースが増えています。
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表明保証保険とは
表明保証保険とは、M&A取引において譲渡側が行う表明保証 に違反があった場合に、その違反によって譲受側又は譲渡側に生じた経済的損害を補償することを目的とする保険です。M&A契約において表明保証違反があった結果、経済的な被害を受けた場合に保険金の請求が可能となります。アメリカでは表明保証保険が広く活用され、リスクに備えるのが一般的となっています。なお、主にM&Aの譲受側が、譲渡側の表明保証違反に備えるものとして利用されています。
表明保証保険の仕組み
表明保証保険では、表明保証の違反があった際に、経済的な損失を保険会社が補償します。M&Aの実施後に、契約と異なる内容が判明しても、経済的な損失をスムーズにカバーできる仕組みです。M&Aにおいては、信頼関係を築いていない企業・個人と契約することも珍しくありません。特に短期間でM&Aの成約を目指す際には、相手について詳しく調べる時間が作れないケースも考えられます。そのため、万が一の事態に備える表明保証保険に注目が集まっています。
表明保証保険の必要性
表明保証保険は、M&Aにおいて重要視されつつあります。以下では、M&Aにおける表明保証保険の必要性について解説します。
公平なM&Aを実現できる
表明保証保険は、公平なM&Aの実現につながります。表明保証保険によって譲渡側と譲受側の双方が真実性を保証できれば、スムーズかつ安心できる契約が可能です。不安や不信感を抱えたままでは、M&Aの成約に踏み切れない可能性もあります。そこで表明保証保険を活用し、契約における不安や不信感を払拭するケースが増加しています。
近年は表明保証保険の重要性が認知されつつある
前述したように、近年はM&A件数が増加していることもあり、表明保証保険の重要性が認知されつつあります。不慣れなM&A契約において、少しでもリスクを下げたいと考える企業は多いです。そこでリスクヘッジの一環として、表明保証保険を採用するケースが増えています。表明保証保険によるリスク対策が、今後も重要性される可能性は高いと考えられるでしょう。
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表明保証保険のメリット・デメリット
表明保証保険の利用を検討する際には、具体的にどのようなシーンで役立つのかを把握しておきましょう。また、注意点についても把握しておきましょう
メリット
損害を補償できる
表明保証保険は、契約書で取り交わした表明保証事項と異なる実態内容など、契約違反があった場合に補償されます。被保険者の経済損失が、M&Aの契約相手ではなく保険会社によって補償される点が特徴です。表明保証保険には譲渡側の「売主用表明保証保険」と、譲受側の「買主用表明保証保険」の2種類があり、どちらかが加入することが多いです。
訴訟などの手間を省略できる
万が一、相手企業の違反行為によって損害が発生した場合には、訴訟などで問題を解決する必要があります。しかし、訴訟には手間がかかるため、余計な時間がかかることで事業展開が遅れてしまうケースが懸念されます。しかし、表明保証保険を利用することで損害が補償されるため、訴訟の手間を削減できます。訴訟に時間をかけられない状況でも、損失の問題を解決に導けます。
クリーンエグジットを実現できる
クリーンエグジットとは、M&A後に責任を残さず、事業から完全に撤退することを意味します。M&Aでは誠実に対応したつもりでも、予想外の瑕疵がみつかる可能性もあります。トラブルが発生するとそのケアに追われてしまい、M&A後に計画していたことが頓挫するリスクが懸念されます。表明保証保険を利用することで、問題が発生しても補償の不安がなくなるため、クリーンエグジットが実現しやすくなります。
譲受側の企業と信頼関係を築きやすい
表明保証保険を利用することで、譲受側の企業と信頼関係を築きやすくなる点もメリットです。譲受企業が損失を被る可能性が低くなるため、トラブルを未然に防げます。表明保証保険を利用していることが、M&Aにおける契約を決める理由になるケースもあります。譲受企業から信頼されるために、表明保証保険を活用することも検討されます。
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デメリット
表明補償保険のデメリット、というより注意点を説明します。
保険料が生じる
表明保証保険を利用するには、保険会社への保険料支払が発生します。保険の補償内容を広げれば、保険料も比例して大きくなります。
保険料の水準は、補償極度額の1~3%程度となることが一般的です。料率の設定については、譲渡企業の事業内容・想定成約価額・免責金額・保険期間等を総合的に勘案して決まります。最低保険料の相場は、500万円~1,000万円程度です。
このような費用負担の存在から、スモールM&Aにおいては殆ど利用されていないのが現状です。もっとも、近年は、小規模なM&Aが増えているため、最低保険料を引き下げた商品も登場しているようです。
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保険でカバーできる上限がある
表明保証保険の補償金額には、上限が設定されています。企業価値評価の10%〜20%程度が、一般的な上限額となります。補償しきれなかった分に関しては、相手側に請求する必要があります。事前に上限額の目安を立てた上で、表明保証保険を利用することがポイントです。
保険でカバーできない範囲がある
表明保証保険では、状況次第で補償対象外になるケースもあります。例えば「クロージング(成約)以前に表明保証違反を把握していた場合」、「年金や退職金の積立不足によるトラブル」、「業績予想における見解の違い」などが、対象外となる可能性があります。
保険でカバーされないことが多い範囲(保険会社の免責事由)は、以下のようなものです。
- 保険契約締結時に既知の損失要因
- デューデリジェンスが不十分
- 計画など将来事項についての予測誤り
- 贈収賄、反社会勢力関係等との取引
- 確定給付型の年金・退職金など従業員福利厚生制度の積立不足
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表明保証保険を利用する方法
M&Aで表明保証保険を利用するには、事前の準備も必要になります。以下で、M&Aの実行時に表明保証保険を利用する方法を解説します。
保険会社やM&A仲介企業に相談する
まずは保険会社やM&A仲介企業に、表明保証保険について相談します。M&A仲介企業は保険会社や金融機関とつながりがあり、財務状況などを確認した上で適切な契約先を紹介してくれます。M&Aにおけるサポート全般も依頼できるため、スムーズなクロージング(成約)が実現しやすい点も、M&A仲介企業に依頼するメリットです。M&Aに関する悩みや不安がある場合には、M&A仲介企業への相談がおすすめです。
引受審査を受けて保険契約を締結する
保険会社から引受審査を受けて、保険契約を締結します。開示資料やデューデリジェンス(買収監査・企業調査)・レポートなどを提示すると、保険会社が質問書を作成するため、その内容に回答します。その後、保険契約における詳細が送付され、内容を確認して契約を締結することで表明保証保険が利用できます。
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M&Aの計画は「みつきコンサルティング」にご相談ください
M&Aの計画を立てる際には、1からサポートができる「みつきコンサルティング」にご相談ください。「みつきコンサルティング」は、税理士、会計士、経営コンサルタントがチームを組み、お客様のM&A計画を支援します。
M&Aでは候補先から、事業分析や企業価値算定のために「事業計画書」の提出を求められることも増えています。「みつきコンサルティング」では経営コンサルティング経験者が精緻な計画を策定でき、M&Aの実現に向けてスムーズに必要な準備を整えられます。
M&Aの表明保証保険のまとめ
M&Aの実施時には、万が一の損害を考慮して表明保証保険を利用するケースが増えています。表明保証保険を活用することで、経済的な損失が保険会社によって補償されるため安心です。トラブルを避けられれば、時間を節約して次の行動に移ることも可能になります。M&Aを行う際には表明保証保険を活用し、トラブルに備えておくことがおすすめです。
「みつきコンサルティング」は、表明保証保険の契約の支援に加えて、M&A全般におけるサポートを実施しています。経営コンサルティング経験者によって、企業の詳細な事業分析を実施し、シナジー(相乗効果)を導けるM&Aの交渉先を提案できます。M&Aを検討するなら「みつきコンサルティング」にお気軽にご相談ください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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