法務デューデリジェンスとは|目的、調査項目、手順、費用を解説

法務デューデリジェンス(法務DD)とは、譲受側がM&Aを検討する際に、譲渡企業の法務・労務リスクを詳細に把握するための調査です。この記事では、法務デューデリジェンスについての概要、具体的なチェック項目や手順、実施時の注意点などを詳しく解説します。

法務デューデリジェンスとは

法務デューデリジェンスは、法務の視点で行われるデューデリジェンス(DD)の一つです。DDはM&Aの最終合意に至る前に、譲受企業が譲渡企業(譲渡対象企業)を調査し、リスクの有無を確認することです。その調査結果によって、譲渡価格や譲渡条件、譲渡後の対応、譲渡そのものの可否が変わることがあります。

法務DDでは、株式、資産、債務、契約、労働環境、訴訟、許認可など、幅広い側面から調査を実施します。

法務デューデリジェンスの目的

法務DDは、譲受企業にとって譲受に関わるリスクを回避するための重要な手続となります。大きな法的問題が発見された場合には、M&Aを中止することもあります。また、M&Aを破談にしなくても、それを考慮した譲渡価格や譲渡条件の交渉を行うことがよくあります。

法務デューデリジェンスでの調査項目

法務DDで検討すべきチェック項目は数多くありますが、特に重要度の高い項目を以下の7つに絞って解説します。

法務DDに限りませんが、財務やビジネス等の他の領域のデューデリジェンスと重複する調査項目が少なくありません。そのため、互いに協調しながら進めることが、譲受企業の費用面のみならず、調査を受ける譲渡側にとっても負担が軽くなり望ましいです。

債権・債務(資産・負債)

まず始めに調査する項目は、対象企業の債権・債務状況です。債務の有効性や簿外債務は財務DDの対象ですが、法務DDでは、債権が適切に管理されているか、時効になっていないかといった信憑性チェックを行います。

特に確認すべき内容は、不動産、知的財産、金融資産などです。不動産は、不動産登記簿謄本から所有権の帰属先や担保状況を、特許などの知的財産は特許登録原簿から、実施権者の有無や質権状況を確認します。事前に調査対象を明確にし、財務DDとの役割分担を決めることで、効率的かつ詳細に債務状況を把握することができます。

株主・株式

DDで確認すべき2つ目の項目は、株主及び株式の状況です。

この点に関しては、株主が適切な手続に基づいて株式を所有しているかどうかや、非公開会社における譲渡制限が遵守されているかという事柄を調査します。

加えて、株主構成や転換社債などによる株主数の変動要因もチェックしておくべきです。譲渡に関する決定権者を正確に把握する事は未上場会社のM&Aにおいて重要です。

万一、株主や株式の状況が正確に把握されていない場合、M&Aが完了した後に、見落としていた株主から買取を請求されるなどの無駄な費用が発生することがありますので、早期段階での調査が重要となります。

契約関係

3つ目の調査対象は、契約内容の確認と譲受後の契約存続に関する事項です。

契約状況の調査では、M&Aの実施可否を確かめるだけでなく、譲受後に取引ができなくなるリスクも検証する必要があります。

例えば、対象企業との契約が経営者同士の信頼関係によって結ばれている場合、M&Aによって継続的な取引が困難になる恐れがあります。

また、その取引先が重要な仕入れ先であることもあり得ますので、速やかに対応が必要となる問題が生じることもあります。あくまで法的に取引が継続できるのかどうか、事前に調査する事でそもそもM&Aの実施可否の判断を必要です。継続的な取引が可能かどうかによって、業績も変わってくるため譲渡価格に影響を与えます。

人事・労務

4つ目に確認すべき調査項目は、人事や労務に関する状況であります。

人事・労務の事項は、人事DDの範囲内で調べられ、法務DDでは、従業員の労働条件や職場におけるパワハラ・セクハラ問題、退職や解雇に関する法的リスクをチェックします。譲渡後に過去の労務トラブルが表出した場合、表明保証違反として損害賠償請求を譲渡側にすることが一般的ですが、労働者からの訴訟対象はあくまで譲渡後の対象会社になります。

M&Aが完了した後も従業員の雇用が継続されますので、対象会社での人事・労務事項をできるだけ把握しておくことが大切です。

さらに、長時間労働や未払い残業代などがある場合、法令違反に該当する可能性がありますので、充分に注意して調査する必要があります。

法令の遵守状況

5つ目の調査項目は、法令遵守についてです。

対象会社が事業運営の過程で法令に違反している場合、譲渡後の影響は経済的リスクだけでなく、さらに大きな問題が生じることがあります。これが、法務DDにおいて重要な位置付けとなっています。

業務に関する法令はもちろんのこと、以下の事項にも留意が必要です。

  • 無許可・無認可の事業展開
  • 反社会的勢力との関与
  • 会社法
  • 税法
  • 労働関係法令
  • 個人情報保護法
  • 下請法等

対象企業の事業内容によっては、許認可の取得が必須となることもあります。

しかし、許認可が継承や更新できない場合もありますので、十分に確認しておくことが大切です。各業界ごとで許認可は複雑な要件であるため、業界に精通したコンサルタントに確認をすることが望ましいといえます。

もし許認可を継承できない場合には、再取得が必要となります。

ただし、再取得には一定の期間がかかりますので、事業をシームレスに継続できるよう、M&A後には速やかに申請手続ができるよう準備する必要があります。

紛争

6つ目の調査項目は、訴訟紛争に関する事項です。対象となる企業が訴訟や紛争の当事者である場合、その内容次第では大きなリスク要因となり得ます。従って、細部まで入念にチェックすることが肝心です。

すでに裁判が進行中のケースでは、請求金額や勝敗の可能性などの情報も合わせて確認します。さらに現時点では表面化していないものの、将来、訴訟や紛争が勃発する潜在リスクや過去に審理された件についてもリサーチします。

過去に遭遇した訴訟に関しては、再度関連する問題が発生する可能性があるため、特に慎重に調査が求められます。例えば、以下の法的リスクが潜んでいた場合、M&A実行後に賠償責任が発生し、企業価値が毀損するリスクが高まります。

  • 時間外労働
  • 未払い賃金
  • 従業員による不祥事
  • 知的財産権の侵害
  • 顧客との契約違反
  • 第三者への不法行為

訴訟があることで、ディールブレイクに至らない場合でも、訴訟が長引くと大幅な支出が発生し、企業価値に影響を及ぼす可能性があります。M&A成功のためだけでなく、M&A実施後の費用を抑制する観点からも、訴訟紛争への適切な対処・解決が重要です。

環境汚染

7つ目の調査対象は、環境汚染への対応です。M&Aに伴って不動産を引き継ぐ場合、対象となる工場や土地の汚染状況に留意する必要があります。

もし、大気汚染防止法や土壌汚染対策法などの環境関連法規に違反していたとしたら、該当する工場や土地を使用することができません。また、引き継ぎ後に浄化措置を実施することになった場合、譲受側がその費用を負担しなければならず、大きな負担となります。

このため、法務DDにおいては、環境汚染の有無を慎重に確認することが必要です。

法務デューデリジェンスの手順

法務DD(法務DD)はM&Aにおいて安全性を高めるための重要な手続ですが、実際にはどのような流れや方法でそれがもたらされるのでしょうか。

この章では、法務DD(法務DD)の方法と手続の流れについて詳しく解説していきます。

調査体制・範囲の検討

M&Aで法務デューデリジェンス(法務DD)を実施する際にはまず、調査体制を整え、範囲を検討します。調査に時間がかかれば費用も増加するため、調査範囲を明確にし、かかる時間や費用も適切に検討しましょう。また、調査時間などのコストを削減する目的で、M&Aコンサルタントや弁護士に相談するのも効果的な方法です。

資料開示請求

法務DDの調査範囲や体制が確立されたら、次に対象企業に対して必要書類の開示請求を行います。

資料漏れを防ぐため、専門家にチェックリストを作成・点検してもらうことがおすすめです。資料の開示は「データルーム」と呼ばれる専用の部屋を使用し、情報漏洩を防止しましょう。昨今はヴァーチャルデータルームというインターネット上でのデータルームを活用する事が一般的で、同時に同じファイルを閲覧したり、資料の出し入れ、管理などがし易いメリットがあります。

開示資料の確認

資料開示請求が完了したら、次に提供された資料を確認しましょう。

法務DDでは確認しなければならない資料が多岐にわたるため、弁護士や専門家と協力して手分けして確認作業を進めます。確認した後にさらなる資料が必要と判断されれば、追加資料の確認も行わなければいけません。

経営陣への質疑応答・現地調査

開示資料確認後に、経営陣への質疑応答や現地調査を行います。

この段階では、資料監査の際に抽出した問題点や疑問点を解決するための方法として、的確なヒアリングが重要になります。特に、M&Aの責任者である経営者へのマネジメントインタビューは大切です。

さらに対象会社を訪問し、現地でしか確認できない機密書類を見つけることがあります。この段階で資料開示請求の段階で開示されなかった情報を確認した際に、新たなリスクを発見することもあるため、非常に重要です。

質疑において回答したものは、最終的な株式譲渡契約書にも虚偽がない事の記載があるため、誠心誠意を以て回答するべきです。

法律上の問題点の検討

現地調査が完了したら、次に法律上の問題点の検討に進みます。

問題点を検討する方法として、開示資料やインタビューで得た情報を法律と照らし合わせて問題がないかを検討します。その際に問題点を発見した場合、速やかに対策や解決策を検討しなければいけません。

報告書作成・最終報告会

法律上の問題点を検討し、問題がなければ結果を報告書にまとめて最終報告会を行います。

報告書の量は企業の規模や手掛ける事業の範囲によっても異なりますが、規模の大きいM&Aであれば数百ページにも及ぶことがあります。

作成した報告書を譲受企業に提出し、法務DDの結果報告を行います。

法務デューデリジェンスの相場

法務DDは、弁護士への依頼が不可欠であり、M&Aの規模が大きくなるほど、リスクを見逃した際の損失も大きくなるため、自社だけで対応することはお勧めできません。

法務DDの費用、つまり弁護士費用の相場は、おおよそ100万円〜500万円程度とされています。ただし、実務ではタイムチャージで計算されることが多く、法務DDの対象(スコープ)を適切に区切らなければ、影響の小さい調査に時間を要し、費用が無駄にかかってしまう可能性があります。M&Aで狙う目的や利益との兼ね合いから、事前に調査範囲を設定し、効率良く法務DDを進めるポイントになります。

近年、事業単位やウェブサイト単位などの小規模なM&Aも増えています。このような場合には、買収価格に応じて、リスクが高そうな領域に限定して法務DDを実施することも検討しましょう。

法務デューデリジェンスにおける注意点

法務DDを行う時には、いくつかの注意点があります。

  • 対象会社から得た情報を漏洩しないこと。情報漏洩があった場合、M&A交渉が破談になる可能性があり、信頼を失ったり損害賠償請求されたりするリスクがあります。
  • 対象会社から提出された資料だけで法的リスクの有無を判断しない。売却価格の下落を懸念し、有利な情報しか提供しない可能性があるため、マネジメントインタビューなどの内容も考慮する必要があります。
  • 法務DD以外のDDも実施し、M&Aの展開に対しては複数の角度から判断する。わからないことがあれば早めに専門家に相談しましょう。

法務デューデリジェンスのまとめ

法務DDは、M&Aが最終合意に至る前の段階で、譲受企業が買収対象会社の法的リスクを調査し、問題がないか確認する重要なプロセスです。このため、高度な専門性が求められる作業ですので、確かな知識と経験を持つ専門家に依頼することが大切です。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。  みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

野口慎矢
野口慎矢熊本支店長 兼 事業法人第四部長
国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。
監修:みつき税理士法人

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