M&Aで会社を売却しても、経営者の個人保証は自動では外れません。株式譲渡後に連帯保証を確実に解除するには、譲受企業と金融機関の合意、契約書への明記、解除手順の理解が欠かせません。借入金の引継ぎルールから金融機関交渉の勘所まで、M&A仲介の現場目線で解説します。
「うちの会社でも売却できるだろうか…」、「何から始めればいいんだろう…」。そのようなオーナー経営者の不安に、中小企業向けM&A仲介会社みつきコンサルティングは、20年間・500件以上の支援実績に基づき、お応えします。本格検討前の情報収集として、まずはお話をお聞かせください。
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M&Aで会社を売却しても個人保証は自動では消えない
「会社さえ売れれば、この保証からも解放される」。そう思い込んでいる経営者は、想像以上に多い。会社の借入に対する連帯保証、いわゆる経営者保証は、長年オーナーの肩に重くのしかかってきた負担です。ところが、その思い込みのまま手続を進めると、引退後に他人の会社の借金を背負い続ける羽目になりかねません。まずは前提を正しておきましょう。M&A仲介の仕組みを押さえたうえで、保証の扱いに踏み込みます。
銀行に保証解除の義務はない
結論から書きます。株式を譲渡して経営権が移っても、経営者の連帯保証は自動的には解除されません。金融機関との金銭消費貸借契約は、会社と連帯保証人が銀行との間で結んだものです。株主が入れ替わったという理由だけで、銀行が保証人を免除しなければならない義務は、どこにもないのです。
譲渡オーナー・譲受企業・銀行の三者調整が要る
連帯保証の解除は、M&Aのクロージング(最終決済)と同時、あるいは直後に進めるのが実務の通例です。確実に外すには、譲受企業・金融機関・譲渡オーナーの三者で綿密に段取りを組む必要があります。手順を一つ飛ばすだけで、保証だけが残るという最悪の事態が起こりうる。本記事では、借入金と個人保証の扱いを、契約書への落とし込み方まで含めて解説します。
スキーム別に見る借入金と個人保証の行方
どのスキームを選ぶかで、借入金と保証債務の引き継がれ方はまるで変わります。中小企業で大半を占める株式譲渡と、事業の一部を切り出す事業譲渡では、法的な効果が別物です。下表で全体像を整理しました。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 会社(法人格) | そのまま存続し、株主が交代する | 譲渡オーナー側に残り、事業のみ移転する |
| 借入金の扱い | 原則、会社に残る(譲受企業が間接的に引き継ぐ) | 原則、引き継がれない(譲渡側に残る) |
| 個人保証の扱い | 別途手続で譲受企業側の代表者などへ変更 | 借入が残るため、譲渡オーナーのまま継続しやすい |
| 解除の難易度 | 比較的スムーズ(譲受企業の信用力次第) | 借入を完済しない限り解除は難しい |
株式譲渡での引継ぎの仕組み
株式譲渡という手法は、会社という「箱」ごと譲受企業に渡す方法です。債務の名義は「会社」のまま動かないので、借入金は新体制の会社へそのまま引き継がれます。雇用契約や許認可も維持され、手続が簡便なため、中小M&Aの9割以上がこの形を採ります。
厄介なのは連帯保証人の扱いです。主債務者である会社は残るのに、保証人だった前社長が経営から抜ける。銀行から見れば、経営に関わらない人物が保証人のまま残るのは管理上好ましくない。一方で、新しい株主の信用力が読めなければ、保証人の差し替えにも慎重になります。だからこそ、譲受企業が新たに連帯保証を差し入れ、それと引き換えに譲渡オーナーの保証を外す、という合意形成が要るわけです。
事業譲渡では借入が手元に残る
これに対して事業譲渡の特徴は、資産や権利義務の一部だけを売買する点にあります。銀行は「事業」ではなく「法人」に貸しているため、借入金は原則として譲渡側に残ります。譲渡代金で借入を一括返済できれば、その瞬間に連帯保証も消えます。
問題は、譲渡代金が借入残高に届かない場合や、一部事業だけを売って会社を残す場合です。借入と一緒に連帯保証も手元に居座る。売却後も返済を続けることになり、解除のハードルは株式譲渡より一段高い。債務超過ぎみの会社では、負債と連帯保証の承継をどう設計するかが出口を左右します。
個人保証を確実に外すための実務プロセス
株式譲渡での連帯保証解除は、契約書に押印すれば終わり、ではありません。金融機関所定の手続を、下表の流れで踏んでいきます。
| 手順 | 実施内容 |
|---|---|
| 1 金融機関への事前打診 | 基本合意の締結後、譲受企業が対象会社の取引銀行へM&Aの事実と経営方針を説明する。新経営陣が連帯保証を引き継ぐ(または法人保証を入れる)旨を申し入れ、銀行の内諾を得ておく。 |
| 2 株式譲渡の実行 | 譲渡代金の決済で経営権が正式に移転する。この時点では、登記上の代表者が譲渡オーナーのままのケースが多い。 |
| 3 役員変更登記と証明書取得 | 臨時株主総会で新代表取締役を選任。法務局での変更登記が完了(通常1〜2週間程度)した後、新代表者の印鑑証明書や履歴事項全部証明書を取得する。 |
| 4 保証差し入れ・解除手続 | 新しい登記事項証明書を持参し、銀行窓口で手続。新経営者(または親会社)が連帯保証契約に署名・捺印し、同時に旧経営者の保証を解除する書類を取り交わす。 |
解除までのタイムラグに備える
見落とされがちなのが、株式譲渡日と保証が実際に外れる日の「時差」です。代表者の変更登記には法務局の処理期間がかかり、銀行内部の稟議にも日数を要します。この数週間から数か月の空白に万一会社が傾けば、法的にはまだ旧オーナーが保証人のまま。そこで現場では、クロージングと同時に譲受企業の資金で借入を一括返済する借り換えを選ぶこともあります。旧債務そのものが消えるため、保証も即座に外れる。買い手側の資金調達はM&Aファイナンスの手法とも密接に絡みます。
株式譲渡契約書に盛り込むべき重要条項
譲渡オーナーを守る最大の防具は、最終契約書の要点に保証解除の条項を明記しておくことです。口約束では、「手続が面倒だから」と先延ばしにされるリスクを排除できません。最低限、次の趣旨を必ず盛り込みます。
- 解除努力義務:譲受企業はクロージング後速やかに、譲渡オーナーの連帯保証および担保提供を解除させるため、金融機関と誠実に交渉し必要な手続を行う。
- 代替保証の提供:銀行が保証解除の条件として代替保証を求めた場合、譲受企業が自ら連帯保証人となるか、新たな担保を提供するなどして、譲渡オーナーの負担を免責させる措置を講じる。
- 求償と補償:解除完了前に保証債務の履行を求められた場合、譲受企業が譲渡オーナーへ全額を補償し、一切の損害を与えない。
譲受企業の誠意だけに頼らない
「最大限努力する」と書いてあっても、銀行が首を縦に振らなければ解除は実現しません。当社が支援に入る案件では、契約締結の前に銀行の内諾を書面やメールという確かな形で確認するよう勧めています。さらに、解除できなかった場合のペナルティや、譲受企業が債務を肩代わりする併存的債務引受の具体策まで詰めておく。これがトラブル防止の鉄則です。契約段階の失敗例はM&A仲介のトラブルからも学べます。
金融機関が解除を拒否したら?経営者保証トラブルと対策
M&Aをすれば必ず保証が外れる、とは限りません。銀行は債権保全を最優先します。承継後の会社の信用力に不安があれば、旧オーナーの保証継続を求めてくる。現場で直面する「外れないケース」と打ち手を整理します。
譲受企業の信用力が低い場合
譲受企業が小規模だったり財務内容が芳しくなかったりすると、銀行は「新株主だけでは信用できない」と判断します。個人が買い手となるM&Aや、借入依存度の高い会社同士の組み合わせで起きやすい。対策の本筋は、自社の借入を支えきる信用力を持つ相手をマッチング段階で選ぶことです。あるいは譲受企業主導で他行へ借り換え、既存取引を解消する手も検討します。相手選びでつまずかないために、おすすめの仲介会社の見極め方も参考になります。
担保価値が不足している場合
借入額に対し不動産担保が足りず、経営者の自宅まで含めてようやく融資が成立しているケース。承継後も担保不足が解消されなければ、銀行は自宅の担保設定や保証を外しません。最も確実なのは、譲受企業が別の金融機関から融資を受け、既存借入を全額返済する借り換えです。これで契約が終わり、担保も保証も解ける。借り換えが難しければ追加担保の差し入れを交渉しますが、いずれも譲受企業の資産状況が鍵を握ります。
相談先の専門性で結果が変わる
金融機関交渉や財務分析の精度は、相談する仲介会社の体制で差が出ます。M&A仲介会社は大きく上場会社系・非上場会社系・会計事務所系(士業系)に分かれ、会計事務所系は財務・税務に明るく、借入や保証の論点を読み解く力に強みがあります。みつきコンサルティングはその会計事務所系の代表例です。誰に相談するかで、保証解除の交渉力そのものが変わってくる。仲介会社の比較やM&A仲介会社の一覧で、系統ごとの違いを確かめてください。
経営者保証ガイドラインと公的支援の最新動向
近年は、過度な経営者保証を抑える流れが一気に強まりました。代表格が、全国銀行協会と日本商工会議所がまとめた経営者保証に関するガイドラインです。一定の条件を満たせば、保証なし融資やM&A時の保証解除が認められやすくなります。
ガイドラインが重視する3要件
保証解除を申し出るうえで満たしておきたい要件は、下表の3つに整理できます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 法人と個人の分離 | 会社と社長の財布が明確に分かれていること。会社から社長への貸付金や、公私混同した経費計上がない状態が求められる。 |
| 財務基盤の強化 | 借入の返済が会社のキャッシュフローで十分に賄えること。債務超過でないことに加え、安定した利益計上が望ましい。 |
| 経営の透明性 | 試算表や決算書が適時に作られ、金融機関へ包み隠さず開示されていること。 |
M&Aは、資本力のある会社の傘下に入ることで「財務基盤の強化」が一気に達成されるイベントでもあります。譲受企業が上場企業や有力企業なら、ガイドラインを根拠に「親会社の信用力があるのだから、旧代表者の個人保証は不要のはず」と強く主張できる。
2023年以降は「保証を求める理由」の説明が必須に
政府は2022年12月、金融庁・財務省と連携して経営者保証改革プログラムを公表しました。これを受け、2023年4月には金融機関向けの監督指針が改定され、銀行が経営者保証を求める場合には、どの部分が足りないために保証が必要なのかを具体的に説明し、その内容を記録に残す運用が求められるようになりました。裏を返せば、譲渡オーナー側も「なぜ外せないのか」を銀行に問い、説明を引き出せる立場にあるということです。現場でも、この改定以降、保証解除の交渉が以前より通りやすくなった実感があります。漫然と引き下がらず、根拠を求める姿勢が効きます。
事業承継特別保証制度の活用
M&Aを含む承継時に経営者保証を不要とする公的な保証制度として、事業承継特別保証制度も整備されています。信用保証協会が通常枠とは別枠で用意するもので、資産超過・法人個人の分離といった要件を満たせば、経営者保証付きの既存借入を保証なしへ借り換えられる。中小企業活性化協議会などの専門家の確認を受けると、保証料率の軽減も受けられます。買い手側の資金調達と組み合わせれば、新旧経営者双方の負担を抑えるスキームも描けます。あわせて事業承継の融資制度も確認しておくと選択肢が広がります。
現場で使う保証解除チェックリスト
交渉に臨む前に、当社が譲渡オーナーと一緒に潰しておく確認項目を挙げます。下のリストに一つでも穴があると、銀行は解除をためらいます。
- 会社から社長への貸付金・社長からの役員借入の残高を把握しているか
- 直近3期が黒字で、借入をキャッシュフローで返済できる水準か
- 自宅など個人資産への担保設定の有無と、その評価額を確認したか
- 譲受企業の信用力で銀行の内諾が見込めるか、事前打診をしたか
- 契約書に解除努力義務・代替保証・補償の3条項を盛り込んだか
- 解除完了までのタイムラグと、その間の倒産リスクへの手当てがあるか
M&Aの個人保証に関するFAQ
連帯保証の扱いは、引退後の生活設計に直結する切実な論点です。相談現場で売り手の経営者からよく寄せられる質問に、実務目線でお答えします。
原則は保証解除と同じタイミングで外れます。ただし自宅が会社名義だったり店舗併用住宅だったりすると扱いが複雑になる。個人の自宅に抵当権が付いている場合は、クロージング時に借入を完済するか、買い手が別の担保を差し入れて「担保の交換」を交渉する必要があります。契約条件の詰めが勝負どころです。
株式の対価とは別に、会社から社長へ返済するか、買い手が買い取るのが一般的です。返済原資がなければ、実行時に債務免除を求められるケースもある。最終的な手取りに直結するため、株価交渉とセットで、返済か免除か譲渡かを明確に決めておきましょう。
解除手続が完了していれば請求は来ません。ただし正式な解除証書や変更契約書が取り交わされていなければ、法的には保証人のまま。契約書には「請求が来たら買い手が全額補償する」条項を入れますが、買い手自体が倒れると補償も受けられない。だからクロージング後すぐに銀行手続を終えることが何より重要です。
まとめ|M&Aで個人保証を解除するために
M&Aによる個人保証の解除は、株式譲渡で自動的に手に入る権利ではありません。譲受企業との契約交渉と、金融機関への誠実な働きかけで勝ち取るものです。スキームの選択、契約書への条項、解除手順の段取りまで、一つずつ確実に押さえれば、第二の人生を不安なく踏み出せます。借入があるからと、売却そのものを諦める必要はありません。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社であり、会計事務所系・士業系の代表的な存在として中小企業の事業承継を数多く支援してきました。公認会計士・税理士が在籍し、財務・税務の見地から個人保証の解除を含む安全なスキームをご提案します。「自社の借入状況でM&Aができるのか」とお悩みなら、当社の無料相談をご活用ください。
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著者

- 名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
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人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
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