M&Aの進め方には、オークション方式と相対方式の2種類が存在します。M&Aのオークション方式とは、売却案件に対して複数の買収希望会社が入札を行い、最も良い条件を提示した譲受側が独占的な交渉権を得る方法のことを指します。本記事では、M&Aのオークション方式について詳しく解説します。
M&Aのオークション(入札)方式とは?
M&Aにおけるオークション方式とは、譲渡側が複数の企業から買収提案を募り、最適な条件を提示した企業を最終的な譲受企業として選定する手法です。「入札方式」や「ビッド方式」とも呼び方もされます。オークション方式には、広く買い手候補を募るタイプと、限られた数社にのみ入札を依頼するリミテッド・オークション(クローズド・ビッドとも呼ばれます)があります。
これらに対し、特定の1社とのみと交渉を進める手法(1社ずつ進める手法を含む)は相対方式と呼ばれています。
M&Aのオークションでは、譲渡側は単に譲渡価格だけでなく、買収後の経営戦略や社風、譲渡後の役員・従業員の処遇なども含めて総合的に判断します。そのため、必ずしも最高額を提示した企業が選ばれるとは限りません。ただし、競争環境が生まれるため、通常は相対方式と比べて高い価格になりやすい傾向があります。
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M&Aの相対方式とは?
M&Aの相対方式は、特定の買収候補企業と交渉する方法のことです。オークション方式と比較すると交渉先が限定されるため、より詳細な交渉が可能です。また、条件が合わない場合には、別の買収候補企業を選定することができるといった特徴もあります。一般的な中小企業のM&Aはほとんどがこの相対方式で行われます。
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オークション(入札)の特徴
まずは、M&Aのオークション方式の特徴について説明します。
少人数に絞ることが一般的
M&Aでは、対象企業に対して興味を持つ譲受側を最初に絞り込むことが一般的です。もちろん、大規模に企業を募集してM&Aを行うこともありますが、事例はあまり多くはありません。
少人数に絞る理由
M&Aは慎重に選ばなければならず、最初の段階である程度絞ることで、本当に買収を行うべき企業をじっくりと精査できる点で譲渡側にメリットがあるからです。また、入札条件の見落とし、企業に対する理解不足、作業工数の増加といった問題を減らせる点でも少数に絞っておいたほうが良いでしょう。
譲受側が条件を提示する
オークション形式では、入札時に譲受側の条件をもとに譲渡側が精査し、決定を行います。譲受側が提示する条件は、価格だけでなく、支払い方法や契約期間など、さまざまな条件が含まれます。これらを取りまとめた「意向表明書」が譲受企業から提出されます。譲渡側は各社から提出された「意向表明書」を吟味・比較検討して、次のステップ(2次入札)又は最終交渉に進める譲受企業を決定します。
意向表明書とは?
意向表明書とは、譲受候補側の企業がどのような条件で譲り受けたいのかを提案する書類です。法的な書面ではなく形式は決められていませんが、一般的にはM&Aの目的や金額、スキームなどを提示することが多いです。
ちなみに、オークション形式だけでなく、相対方式でも意向証明書は提示されますが、オークション形式の場合はあらかじめ期間中に提出し、相対方式の場合は会談後に提示することが多いという違いがあります。
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オークションでも最高額の相手に譲渡する必要はない
オークション形式と聞くと、一般的なオークションをイメージしてしまい、最高額の譲受先に事業を譲渡しなければならないと考える方もいます。しかし、M&Aのオークション方式では、最高額を提示した企業に必ずしも譲渡する必要はありません。複数の企業からの入札を受け付け、最高額で決めるのではなく、金額以外での条件の良い企業を選択できます。
これは、譲渡する企業が最大限のメリットを得るために、最高額だけでなく企業の条件や文化、戦略的観点など様々な要素を考慮して相手を決定することが重要だからです。かならずしも金額だけでオークションが行われるわけではないことを理解しておきましょう。
譲渡側がオークション(入札)を採用するメリット
次に、M&Aで譲渡側がオークション方式を活用するメリットについて説明します。
好条件の譲受主に当たりやすい
オークション方式は、複数の譲受側が競い合うため、競争原理が働き、譲受条件が向上し、市場価値以上の価格で譲渡できる可能性もある点がまずメリットです。たとえば、多数の譲受希望者から選ぶことができ、最も条件の良い相手を選べます。
希望条件を守ってもらいやすくなる
オークション形式であれば、複数の企業からのオファーを受けることができ、譲渡側が設定した条件を守ってもらいやすくなります。その構造の結果、希望条件に沿った譲渡が成立しやすくなります。
ただし、オークション方式には入札者による情報公開が必要となるため、譲渡側にとって情報開示に伴うリスクが存在する点には注意が必要です。
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譲渡側がオークション(入札)を採用するデメリット
一方、M&Aでオークション方式を活用する譲渡側のデメリットにはなにがあるのでしょうか。
相対方式よりも作業工数がかかる
複数の譲受側と交渉する必要があるため、調整・対応に時間がかかる点はオークション方式のデメリットです。これは、複数の譲受側からの要望を吟味し、回答を作成する必要があるためです。
作業工数をかけられる社内体制をもっているなら問題はありませんが、特に中小企業でリソースが割けない場合には工数に悩まされることもあるでしょう。
M&Aの情報が広まりやすい
オークション方式は、多数の譲受側候補が参加します。最初に数社に絞ったとしても、相対方式よりも多くの会社が目にすることになります。そのため、譲受側の内部情報が公開され、情報漏洩のリスクが高まることも考えられるでしょう。
また、譲受側の情報収集が容易になるため、譲渡側が秘匿したい事情や機密情報が漏洩する可能性も考えられます。
対応できる専門家が少ない
M&Aにおいて、オークション方式を活用する場合、譲渡側において対応できる専門家が限られる点にも注意が必要です。現状サービスを提供しているアドバイザーの中でも、相対方式と比較するとオークション形式のアドバイザーは圧倒的に少ないからです。
そういった構造であり、専門家の手数料が高くつく可能性があるばかりか、譲渡側の手続きが増えてしまうことも考えられるため、注意しましょう。
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入札と相対は、どちらがおすすめ?
相対方式は、アドバイザーを通じて譲受側と譲渡側をつなぎ、交渉を進める方法のことを指します。そのため、譲渡主と譲受主の意向や希望を考慮したマッチングにつながる可能性が高いです。
一方で、入札方式は透明性が高く、譲受候補を比較しやすいというメリットがあります。また、競争原理が働き、高値で取引ができる場合があるため、うまく活用することで企業の価値を高めることができます。
どちらがおすすめかは、取引の目的や条件、業界などによって異なるため一概には言えませんが、取引条件や目的に応じて入札方式と相対方式の長所を比較し、どちらが適しているかを事前に検討することが重要となります。また、次項で相対方式での注意点について解説するので、参考にしてみてください。
相対方式を採用する際の注意点
次に、M&Aの相対方式を活用する際の譲渡側の注意点について確認しましょう。
M&Aの専門家に頼ることが大切
相対方式は、譲渡側、譲受側、M&A専門家の3者が協力することで適切な譲受取引が行えます。中でもM&Aの専門家はM&Aの知識や経験を持ち、適切なアドバイスを提供してくれる存在として重要な役割を担っています。
しかし、M&A専門家をあまり考えずに選んでしまうと、後ほどさまざまな問題が発生してしまうケースもあります。そのため、M&Aを任せられる信頼できる会社を選択し、事前にその専門家のアドバイスを仰いでおくとよいでしょう。
M&Aに適したタイミングを検討すること
M&Aには市場環境や企業業績など外部要因だけでなく、内部要因も影響します。たとえば、譲渡側は自社の財務状況や事業計画、経営者の退任時期など内部要因を十分考慮したうえでタイミングを検討する必要があります。
同様に、譲受側も企業が全盛期を迎えているときを見定めたり、後継者を探さなければならないときを判断したりする必要があります。タイミングによって適切な相手を見つけられなくなってしまう場合もあるため、どのタイミングが良いか迷うなら、専門家へ依頼することをおすすめします。
M&Aのオークション(入札)のまとめ
本記事では、M&Aのオークション方式(入札方式)や相対方式について解説しました。それぞれの方式にメリット・デメリットがあり、方式の選択がM&Aの成功に大きく寄与しているといっても過言ではありません。本記事の内容も参考に、どのようなM&Aの方式が適しているか考えてみてください。
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著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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