同意なき買収(敵対的買収)とは|防衛策・デメリット・事例を解説

同意なき買収(敵対的買収)とはM&A戦略の1つで、譲渡側の合意なく仕掛けられます。国内M&Aは友好的買収がほとんどですが、敵対的買収の成功も報告されています。この記事では、事業の継続・継承や中長期的な成長を目指す経営者に向けて、敵対的買収について解説します。事業の健全な持続と成長の戦略を立てるヒントにしてください。

敵対的買収とはM&A戦略の1つ

同意なき買収(敵対的買収)とは、M&Aを実現する手法の1つです。「敵対的」とは譲渡側企業の経営陣の合意を得ずに、という意味を持ちます。譲渡側の取締役会の同意なく買収を仕掛けるために、こう呼ばれます。

敵対的買収は、一般的にTOB(株式公開買い付け)で仕掛けられます。買収成功には、譲渡側企業の発行済み株式を50%以上保有しなければなりません。50%を超える株式を保有できれば、株主総会の普通決議で取締役の選任を単独で可決できるためです。

友好的買収との違い

友好的買収は、譲渡側企業の取締役会の合意を得た上で進む買収です。事前にトップ同士、あるいは経営陣同士が協議を行い、譲渡価格の交渉や従業員の処遇をすり合わせます。

事前協議があるゆえに成功確率が高く、国内の中小企業で行われているM&Aのほとんどが友好的買収です。事前協議のない敵対的買収では、譲渡側による買収防衛策のために、手続きが円滑に進まないことがあります。

中小企業のM&Aにおいて敵対的買収はほとんど行われない

日本の中小企業のM&Aでは、敵対的買収はほとんど行われません。要因は、中小企業のほとんどが株式譲渡制限会社であることです。株式譲渡制限がある企業の株式を譲渡する際は、発行企業の承認が必要だと会社法により定められています。中小企業に敵対的買収を仕掛けても、基本的に成立しないのは法律の盾があるからです。

敵対的買収に対する防衛策

同意なき買収(敵対的買収)を阻止したい場合、譲渡側はどのような対策がとれるのでしょうか。譲渡側が知っておきたい防衛策を4つ解説します。

ポイズンピル

ポイズンピル(ライツプラン)とは、譲受側の持ち株比率を下げる目的で行う防衛策です。TOB(株式公開買い付け)による譲受側の持ち株数が一定水準を超えた時点で、譲渡側は既存株主に対し「条件付き新株予約権」を発行します。

新株予約権とは、株主に対する新株購入権利です。株式の総数が増え、相対的に譲受側の持ち株比率が下落します。

ホワイトナイト

ホワイトナイトは「友好的な買収者」という意味です。敵対的買収を仕掛けられた譲渡側が、敵対的買収が成立する前に、友好的な関係にある第三者に自社を譲受・合併してもらいます。ホワイトナイトが株式を取得することで、敵対的買収を目指す譲受側による株式取得を防ぎます。敵対的買収は防げますが、ホワイトナイトの傘下に入ることになります。

焦土作戦

焦土作戦(クラウン・ジュエル)とは、買収前に譲渡側が自社の事業・資産などを第三者に譲渡し、譲受側の買収意欲を減退させる方法です。譲受側の買収目的が、譲渡側が持つ経営資源にある場合に有効とされます。

経営資源の譲渡は、会社の価値下落を意味します。そのため、焦土作戦はホワイトナイトに譲渡し、事態終息後に資源を元に戻すこともあります。

ゴールデンパラシュート

ゴールデンパラシュートは譲受側のコスト(費用)を増やし、買収意欲を減退させる防衛策です。譲渡側は、買収成功により役員が解任された場合、多額の退職金を支払う契約を締結します。敵対的買収の成功時は経営陣が一新されるのが一般的です。よって譲受側は、多額の現金を用意しなければなりません。

譲受側の経営資本を流出させ、企業価値を下げる狙いもあります。

敵対的買収のメリット

同意なき買収(敵対的買収)は譲渡側の取締役会、つまり経営陣にとってはメリットがありません。一方、譲渡側の株主にとっては、一定のメリットがあります。手持ちの株式を、プレミアムがついた高い株価で買い取ってもらえる可能性があるためです。

では、譲受側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。敵対的買収の譲受側にとってのメリットを、4つ解説します。

企業規模が拡大する

敵対的買収が成功すると、譲渡側が持っていた市場シェアや顧客を引き継げます。まだ進出していない分野の企業を買収できれば、販路拡大・新規顧客開拓のチャンスが手に入ります。競合他社の買収なら、市場シェアの急拡大も見込めます。敵対的買収は事業の拡大や事業構造の転換を進め、企業規模を拡大させられます。

シナジー(相乗効果)の発生が見込める

シナジー(相乗効果)とは、協力によって得られる効果のことです。自社だけでは発揮できなかった力を、買収が生み出す相乗効果で得られる場合があります。

シナジー(相乗効果)の例は主に2つです。

  • 売上シナジー(相乗効果):売上アップにつながる効果。営業ノウハウの活性化、商品・サービスの開発など
  • コストシナジー:コスト(費用)削減につながる効果。物流費用、調達費用の削減など

経営資源を獲得できる

経営資源とは、ヒト・モノ・カネ、さらに情報やノウハウです。他社が持つ会社は独自のノウハウや人的財産、権利は、競合企業にとって魅力的な資源です。買収が成功すると、譲渡側が持つ経営資源を譲受側が獲得でき、企業の成長に活用できます。

企業改革を速やかに実施できる

敵対的買収は、譲渡側と譲受側双方の対立を乗り越えて成立します。買収後は、譲渡側の取締役会に逐一お伺いを立てる必要なく、企業改革をスピーディーに進められます。譲受側の経営戦略に基づき、思い切った組織改革や構造変革を進められる点もメリットです。

敵対的買収のデメリット

同意なき買収(敵対的買収)には、デメリットもあります。おもなデメリットを3つ、解説します。

失敗するリスクがある

敵対的買収を仕掛けても、譲渡側が防衛策を発動すれば失敗に終わる可能性があります。敵対的買収は、譲渡側の発行済み株式の50%超を取得できれば成功です。しかしポイズンピルを発動されると50%超の株式取得が困難になり、買収が失敗します。買収が失敗しても、アドバイザーに支払った手数料は戻りません。結果、経費多くして利なしとなる可能性があります。

シナジー(相乗効果)を享受できないリスクがある

敵対的買収に成功したとしても、譲渡側の従業員が変わらないパフォーマンスを発揮してくれるとは限りません。友好的買収に比べ、役員・従業員の心理的抵抗が強めになることが予想され、買収に納得できず、協力を拒むケースもあるためです。高いスキルを持つ従業員が退職してしまう展開も考えられます。

人的な経営統合がうまくいかず組織体制に不安が残れば、技術やノウハウの活用は進みません。期待通りのシナジー(相乗効果)を享受できないリスクがあります。

ブランドイメージや伝統を壊す恐れがある

敵対的買収は、譲渡側・譲受側ともに企業イメージや伝統を壊すおそれがあります。一般的に、敵対的買収は世間から良い目では見られません。敵対的買収を仕掛けた譲受側は、悪いブランドイメージを持たれるリスクがあります。譲渡側の取引先や顧客が買収に抵抗して離れ、取引が減少することも考えられます。

敵対的買収の標的となりやすい企業の3つの特徴

同意なき買収(敵対的買収)の標的にされやすい企業には、3つの特徴があります。それぞれを詳しく解説します。

総資産額に対して株価が割安かつ持ち株比率が低い

総資産額に対して株価が割安な企業は、敵対的買収を狙われます。買収に必要な資金が少なく済み、さらに集めやすいためです。持ち株比率が低いと、さらに狙われやすくなります。主要な株主や、取引先、メインバンクによる敵対的買収に抵抗する力が小さくなるためです。相対的に失敗リスクが抑えられ、敵対的買収を仕掛けられやすくなります。

特許や独自性の強いコンテンツを有している

特許や独自コンテンツなど、他者が容易にはまねできない資源を持っている企業も、敵対的買収のターゲットになります。市場において他の追随を許さない優位性を持ち、高い収益性が期待できるためです。譲受側は買収を成功させれば、研究開発の手間と費用をかけず、その分野に参入できます。

防衛策が備わっていない

買収防衛策を講じていない企業は、譲受側が常に先手を取れることを意味します。譲受側は、譲渡側が防衛策を講じているかをチェックしてから買収を仕掛けます。当然、防衛策を講じている企業の方が買収にかかる費用が上がるため、簡単には仕掛けません。防衛策を備えていない企業は、ある日突然、敵対的買収のターゲットにされる可能性があります。

同意なき買収の最新事例(2023~2024年)

近年の同意なき買収(敵対的買収)の事例を紹介します。

ニデックによるTAKISAWAの買収(2023年、成立)

ニデックは、2023年11月に、工作機械メーカーのTAKISAWAに対するTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表しました。議決権ベースで86.14%の応募があり、成立条件としていた50%超を上回りました。TOBに応じなかった株式については、その所定の手続を経て完全子会社化されます。ニデックにとって国内工作機械メーカーの買収はこれが3社目となります。TAKISAWAは東証スタンダード市場から上場廃止となります。

ニデックの永守重信氏は、TAKISAWAの買収価格を市場株価の2倍に設定した理由について「理屈じゃない。指針発表後、最初の案件で失敗するわけにはいかない」と述べ、今後の日本のM&Aへの影響も考慮したことを明らかにしました。ここでいう「指針」とは、経済産業省から2023年8月に公表された「企業買収における行動指針」を指します。

第一生命によるベネフィット・ワンの買収(2024年、成立)

第一生命ホールディングスによるベネフィット・ワンの買収は、2023年から2024年にかけて実施されました。この買収は、エムスリーとの競争の中で進行し、最終的には第一生命HDがベネワンを完全子会社化しました。エムスリーのTOB(公開買付)に対抗して、第一生命HDは2023年12月にベネフィット・ワンと筆頭株主のパソナに対して、先行するエムスリーを上回るTOB価格を提示する公開買付を提案しました。より魅力的な条件をベネフィット・ワンの株主に対して提示することで、第一生命HDはベネフィット・ワンの完全子会社化に成功しました。

第一生命HDは、ベネフィット・ワンの約950万人の顧客基盤を活用し、共同で保険商品や健康サービスの開発を行う計画です。これにより、中小企業への営業強化や新規事業の開拓を目指しています。

ブラザー工業によるローランドDGの買収(2024年、不成立)

ブラザー工業は2024年3月に、業務用プリンターなどを手がけるローランド ディー ジー(DG)に対して買収提案を行うと発表しました。それ以前に、ローランドDGは米国の投資ファンドと組んでMBO(経営陣が参加する買収)を行うことを公表しており、ブラザーはローランドDGの同意を得ていないため、そのMBOへの対抗TOBということになります。ブラザーとローランドDGはともに東証プライムに上場しています。ブラザーは、ローランドDGがMBOのために実施しているTOB価格を上回る価格を予定していました。

ブラザーは家庭やオフィス向けの小型レーザー複合機やインクジェットプリンターに強みがあります。しかし、近年のペーパーレス化による印刷需要の減少を受けて、食品などのパッケージに印刷する産業用プリンター事業を強化しています。産業用プリンターに強いローランドDGと提携することで、部品の共通化や両社の技術を融合した製品の共同開発などの相乗効果を目指しました。

その後、ブラザー工業の対抗TOBの予告を受け、ローランドDG側はTOB価格を引き上げたこともあり、ブラザーは2024年5月に価格を引き上げないことを決定し、対抗TOBを実施しないと発表しました。同月、ローランドDGはMBOに向けて実施していたTOBが成立したと発表しました。

AZ-COM丸和によるC&Fロジの買収(2024年、不成立)

アマゾンの配送業務を担うAZ-COM丸和ホールディングスは、2022年から東証プライム上場の物流業者であるC&Fロジホールディングスに買収の提案をしており、2024年3月には正式な買収提案を行いました。「C&Fロジやその株主の理解を得るために十分な検討期間を設けたい」として、買収提案からTOB開始まで1ヶ月以上の猶予を設けましたが、2024年5月にはC&Fロジ経営陣の同意を得ずにTOBを開始しました。

C&Fロジは「大口顧客の離反を招くリスクがある」として、AZ-COM丸和の買収提案に難色を示していました。猶予期間中、C&Fロジは実質的なホワイトナイト(友好的な買収者)として期待できる他の物流大手や投資ファンドを探していたようです。2024年5月には「対抗提案を4社から受けている」と発表し、その中には佐川急便を傘下に持つSGホールディングスも含まれていました。

2024年6月、AZ-COM丸和はC&Fロジに対するTOB価格を引き上げないと発表しました。SGHDの買付価格がより高いため、AZ-COM丸和は「SGHDの買い付け価格は、当社が合理的な企業価値の評価に基づく水準ではない」とコメントしました。

同意なき買収(敵対的買収)のまとめ

同意なき買収(敵対的買収)は、譲渡側企業の同意なく進行する買収です。日本の中小企業では、株式譲渡制限のルールにより、ほとんど行われていません。しかし、独自性の高いコンテンツや価値あるノウハウを有する企業をはじめ、敵対的買収を狙われやすい企業が存在するのも事実です。

事業継承や譲渡、相続対策など、M&A全般に関するご相談は、税理士法人グループのみつきコンサルティングにお任せください。経営コンサルティング経験者をはじめとするプロが、あらゆる可能性とメリット・デメリットを詳細に考慮した、最善の策をご提案します。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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