譲渡制限株式は相続で移転する場合、会社の承認を得る必要がありません。相続人の共有状態から名義書換までの手順、会社が株式を買い取る3つの方法、売渡請求の期限と財源規制を整理しました。後継者不在で株式の分散が心配なオーナー経営者に向け、生前の第三者承継という選択肢まで解説します。
譲渡制限株式の相続に会社の承認は不要
「うちの株は定款で譲渡制限がかかっているから、相続でも会社の承認がいるのだろうか?」。相談を前にしてこう話される経営者が、いらっしゃいます。結論から申し上げると、相続による移転に承認は不要です。理由は、相続が会社法上の「譲渡」に当たらないところにあります。
譲渡制限株式とは何か
譲渡制限株式とは、定款によって株式の譲渡に会社の承認を要すると定めた株式を指します。株式の譲渡は本来自由ですが、定款で制限を置けば、望まない相手が株主に入り込む事態を防げます。中小企業の大半が採用している設計です。
譲渡制限は種類株式の一種
会社法の整理では、譲渡制限は種類株式の一種として位置づけられます。議決権制限株式や拒否権付株式と並ぶ、株主構成をコントロールするための道具立てのひとつ。譲渡制限株式の仕組みを押さえておくと、以降の手続の意味が理解しやすくなります。
相続が「譲渡」に当たらない理由
会社法が承認の対象としているのは、売買や贈与のような個別的な権利移転です。人の死亡によって権利義務がまとめて移る相続は、これとは性質が異なります。承認手続を経なくても、相続人は当然に株主の地位を引き継ぎます。
特定承継と一般承継の違い
売買・贈与・交換のように、個別の権利を選んで受け継ぐのが特定承継です。対して相続や合併は、権利も義務もひとまとめに移る一般承継。譲渡制限が働くのは前者だけ、という関係になります。一般承継人との違いを整理しておくと、判断を誤りません。
相続は親族内承継の典型形
自社株が相続で子へ渡る流れは、親族内承継のもっともありふれた形です。ただし、経営を継ぐ子と継がない子が同時に株主になる点が厄介。事業承継の全体像のなかで、株式をどう集約するかを先に決めておきたいところです。
承認不要でも会社が困る場面はある
承認が不要ということは、裏を返せば会社が相続人の登場を止められないということでもあります。経営にまったく関わらない親族、疎遠になった元配偶者側の相続人。そうした相手が議決権を持つ事態を、会社法は別のルートで手当てしています。それが後述する売渡請求です。
譲渡制限株式を相続したときに必要な手続
承認は不要でも、相続人の側でやるべきことは残ります。誰がどれだけ持つかを確定させ、会社の株主名簿に反映させるまでが一連の流れです。
遺産分割協議で帰属を確定する
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続を指します。預貯金や債権と違い、株式は協議を経なければ各人の持分が確定しません。誰が何株を取得するかを協議で決め、その内容を書面に残します。
協議が長引くと株式は準共有のまま
相続人の間で折り合いがつかない例は、想像以上に多いものです。協議が未了のあいだ、株式は相続人全員の準共有状態に置かれます。名義書換にも進めず、会社としては議決権の所在が宙に浮いたまま。早期の決着が望ましい理由は、ここにあります。
権利行使者の指定と通知が要る
準共有のあいだも株主総会は開かれます。共有株式の議決権を行使するには、会社法106条により権利行使者を1名決め、会社へ通知しなければなりません。指定は共有持分の過半数で行うのが実務の扱いです。通知を怠ると、原則としてその株式の議決権は行使できなくなります。
分散を防ぐ設計は生前に組む
協議が紛糾してから打てる手は限られます。遺言、生前贈与、種類株式の活用といった遺産分割対策は、経営者が元気なうちにこそ効きます。
名義書換を請求する
帰属が決まったら、株主名簿の書換を会社に請求します。相続による取得の場合、名義人と共同でなく相続人が単独で請求できるのが特徴。株主名簿管理人を定款で置いている会社であれば、その窓口へ申し出ます。
必要書類と実務上の注意
会社によって細部は異なりますが、一般的に求められるのは下表の書類です。表中の左列が書類名、右列が実務上の留意点になります。
| 提出書類 | 実務上の留意点 |
|---|---|
| 遺産分割協議書 | 相続人全員の署名押印が揃っているかを確認する |
| 遺言書 | 自筆証書は家庭裁判所の検認を経たものに限る |
| 印鑑証明書 | 発行から3か月以内など、会社が期限を定めている場合がある |
| 戸籍謄本等 | 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要 |
| 会社所定の請求書 | 様式や添付書類は会社ごとに異なるため事前に確認する |
名義書換に法律上の期限はありません。とはいえ相続税の申告・納税は10か月以内。配当の受領や議決権行使にも関わるため、放置は避けたいところです。相続と事業承継の関係を踏まえ、税務のスケジュールと並走させるのが現実的でしょう。
相続人から会社が譲渡制限株式を買い取る3つの方法
相続で外部に散った株式を会社が回収し、自己株式として保有する。この「金庫株化」には、大きく分けて3つの入口があります。合意によるもの、定款に基づく強制的なもの、そして全株主に平等な条件を示すものです。
相続人との合意で自己株式として取得する
もっとも穏当なのが、相続人と話し合って会社が買い取る方法です。特定の株主から自己株式を取得する場合、通常は株主総会の特別決議に加え、他の株主に「自分の分も買ってほしい」と求める売主追加請求権を与えなければなりません。
会社法162条の特則が使える場面
相続人からの取得には特則があります。公開会社でないこと、そして当該相続人がその株式について株主総会で議決権を行使していないこと。この2つを満たせば、売主追加請求権の規定は適用されません。特定の相続人からだけ、静かに買い取れるわけです。
議決権を一度行使させると使えなくなる
支援現場でひやりとするのが、この議決権行使の要件です。相続発生後の定時株主総会に相続人を出席させ、形式的にでも議決権を行使させてしまうと、特則は使えなくなります。買取方針が固まっていない段階では、総会運営そのものに注意が要ります。
定款の定めに基づき売渡請求で強制的に取得する
合意に至らないときの手段が、相続人等に対する株式売渡請求です。定款に「相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に売渡しを請求できる」旨の定めがあることが前提。株主総会の特別決議を経て、会社が買取りを迫ります。取得した株式は自己株式、いわゆる金庫株の活用という枠組みに入ります。
全株主に同一条件を示して応募を募る
相続人だけを狙い撃ちにせず、株主全員へ同じ条件を提示する方法もあります。取得する株数・価格・申込期間を一律に定めて通知し、応募のあった株主から買い取る形です。応募が予定数を超えたら、按分して取得します。
資金計画が読みにくいという弱点
この方法は手続の公平性が高い反面、どれだけ応募が来るか事前に読めません。想定外の株数が集まれば、分配可能額の枠を超えかねない。実行前に資金と財源の両面でシミュレーションしておく必要があります。
3つの方法を比較する
それぞれの向き不向きを下表に整理しました。表中の左列が手法、以下の列が相続人の同意の要否と主な使いどころです。
| 取得方法 | 相続人の同意 | 主な要件 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 合意による自己株式取得 | 必要 | 株主総会特別決議 非公開会社であること 相続人が議決権未行使 | 相続人が現金化を望んでいる場合 |
| 相続人等に対する売渡請求 | 不要 | 定款の定め 株主総会特別決議 相続を知った日から1年以内 | 協議が決裂し、株主から外したい場合 |
| 全株主への平等条件の提示 | 不要(応募制) | 株主総会決議 一律条件の通知または公告 | 相続人以外にも整理したい株主がいる場合 |
いずれの方法でも、会社が自ら株式を取得する以上、分配可能額の枠内でしか実行できません。自己株式の基本ルールを押さえたうえで、資金繰りとの整合を確認しましょう。
相続人に対する売渡請求の流れと注意点
3つのうち、実務でもっとも論点が多いのが売渡請求です。条文の根拠は会社法174条から177条まで。条文はe-Gov法令検索の会社法で確認できます。
売渡請求の手順
手順そのものは4つの段階に整理できます。順番を飛ばすと決議が無効になりかねないため、確認しながら進めるのが安全です。
1.定款と財源を確認する
出発点は定款のチェックです。売渡請求の定めがなければ、株主総会の特別決議で定款を変更するところから始まります。あわせて、買取代金が分配可能額の範囲に収まるかを検証しておきます。財源規制に触れる取得は、そもそも実行できません。
2.株主総会の特別決議で承認を得る
請求する株式数と、対象となる相続人の氏名を定めて決議します。売買価格をこの段階で決議する必要はありません。重要なのは、対象となる相続人はこの決議で議決権を行使できないという点。会社法175条2項が定めています。
3.相続を知った日から1年以内に請求する
会社が相続の発生を知った日から1年を過ぎると、請求権は失われます。請求の際は対象株式数を明示すること。なお会社は、請求をいつでも撤回できます。
4.売買価格を決める
価格は会社と相続人の協議で決めるのが原則です。まとまらなければ、請求から20日以内に裁判所へ価格決定の申立てを行います。この20日を徒過すると、協議が調った場合を除き請求そのものが効力を失う。期限管理がとりわけシビアな局面です。
売渡請求が「逆用」されるリスク
ここが、多くの解説記事で抜け落ちる論点です。売渡請求の定款規定は、オーナー自身の相続時に会社側から使われる可能性があります。決議で議決権を持たないのは請求される側、つまり後継者となる相続人だからです。
少数株主による経営権奪取のシナリオ
仮にオーナーが80%、専務が20%を保有していたとします。オーナーが急逝し、株式を相続した長男が対象者として議決権を封じられれば、残る20%の専務が総会の全議決権を握ります。特別決議は成立し、長男は株主から外される。理屈のうえでは十分に起こりうる構図です。
当社が定款確認を最優先する理由
そのため当社では、事業承継のご相談を受けた際、定款の売渡請求条項の有無を初回で必ず確認しています。定款を「作った当時のまま20年触っていない」会社は珍しくありません。承継の方針と条項の設計が噛み合っているか。ここを点検せずに次の話へ進むことはしないようにしています。
買取資金と税務の論点
手続をクリアしても、資金と税金の壁が残ります。買取価格が高額になるほど、双方の負担は重くなります。
相続人側は譲渡所得課税の特例を確認する
相続した非上場株式を発行会社へ譲渡すると、通常は資本金等の額を超える部分がみなし配当として総合課税されます。ところが相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合、みなし配当課税を行わず全額を譲渡所得として扱う特例が使えます。税率は20.315%の分離課税。詳細は国税庁タックスアンサーNo.1477に示されています。
取得費加算の特例との併用も検討する
相続税額のうち、その株式に対応する部分を取得費に加算できる特例もあります。両方を使えば、手取りは相当に変わります。ただし譲渡前に届出書を発行会社へ提出する必要があり、事後の救済はききません。順序を誤ると特例を落とす、という失敗が実際に起きています。
買取価格は評価方式で大きく振れる
非上場株式の価格は、誰が誰から取得するかで評価方式が変わります。同族株主が取得するなら原則的評価方式、それ以外なら配当還元方式。考え方は国税庁タックスアンサーNo.4638にまとまっています。M&Aでの時価とは物差しが違う点も含め、非上場株式の評価を確認しておくと交渉の見通しが立ちます。
後継者がいない会社は相続前に第三者承継も検討する
ここまでは、相続が起きた後の対処法でした。しかし相談の現場で本当に多いのは、「そもそも継ぐ人がいない」という悩みです。株式の回収方法を詰める前に、承継先そのものを見直す価値があります。
相続で株式が分散するとM&Aは難しくなる
会社を第三者へ譲渡する場合、譲受企業は原則として発行済株式の100%取得を求めます。相続で株式が3人、4人と分かれ、しかも連絡の取りにくい相続人が混ざっていると、集約だけで半年以上かかることも。価格交渉に入る前に案件が止まる、という展開は避けたいものです。
生前に会社売却を選ぶという解
後継者が見つからないまま相続を迎えれば、残された家族が納税資金と株式の押し付け合いに直面します。オーナーが健在なうちに第三者承継へ舵を切れば、株式は一度の取引で現金化され、分割もしやすくなる。親族間の株式譲渡と比較したうえで、事業承継とM&Aの違いを押さえておくと判断材料が揃います。
相続前に確認したいチェックリスト
当社が初回面談で必ず目を通す項目を挙げます。5つのうち2つ以上に不安があれば、専門家を交えた整理を検討する段階です。
- 定款に相続人等に対する売渡請求の定めがあるか、また現在の承継方針と整合しているか
- 発行済株式のうち、オーナー以外が保有する比率と保有者の連絡先を把握できているか
- 名義株や所在不明株主が残っていないか、株主名簿と実態が一致しているか
- 直近の株価評価額と、相続税の概算額を試算したことがあるか
- 自社株を会社が買い取る場合の分配可能額が、必要額に足りているか
株主が5人に分かれてから相談に来た会社の例
年商12億円の地方の建設業で、創業者の急逝から3年後にご相談を受けたことがあります。株式は配偶者と子3人、さらに先代の兄弟へと分かれ、保有比率は最大でも38%。譲受企業の候補は複数現れたものの、全株主の同意を取り付けるのに8か月を要しました。生前に整理していれば、と何度も口にされていたのが印象に残っています。
相談先の選び方も結果を左右する
相続、株価評価、会社法の手続、そして譲渡先探し。論点が分野をまたぐため、窓口が分かれると話が前へ進みません。事業承継の相談先を比較する際は、税務と法務の両方に踏み込めるかを基準に置くとよいでしょう。
譲渡制限株式の相続に関するFAQ
相談の場でよく出る質問を、実務の答え方で整理しました。
できます。株主総会の特別決議で定款を変更すれば足ります。ただし相続発生後に慌てて追加すると、対象となる相続人が反対に回り、可決に必要な議決権を確保できないケースがあります。現場では、経営者が健在なうちの整備をお勧めしています。
協議が調わなければ、会社か相続人のどちらかが裁判所へ売買価格決定の申立てを行います。期限は請求から20日以内。申立てがないまま20日を過ぎると請求自体が失効するため、協議と並行して申立ての準備を進めるのが実務の進め方です。
遺産分割が未了なら、株式は準共有の状態です。権利行使者を1名決めて会社へ通知してもらう必要があります。通知がないまま議決権を行使させると、決議の効力を争われる余地が生まれる。総会前に書面で確認しておくのが安全です。
後継者個人が金融機関から借り入れて買い取る、持株会社を設立して取得する、といった選択肢があります。返済原資と保証の問題が残るため、会社の収益力次第です。集約そのものが難しいなら、第三者への譲渡を含めて出口を組み直す判断もあります。
不利に働きます。譲受企業は原則100%取得を前提とするため、少数株主が残ると価格の減額や取引断念につながることも。譲渡を視野に入れているなら、株主構成の整理を先行させるのが定石です。
譲渡制限株式の相続と事業承継のまとめ
譲渡制限株式の相続は一般承継に当たるため、会社の承認は要りません。相続人は遺産分割協議と名義書換を経て株主となり、会社側は定款の定めがあれば1年以内に売渡請求ができます。財源規制と価格決定の期限が実務上の関門です。株式が誰にどう渡るかは、経営者にとって最後まで気がかりな問題ではないでしょうか。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として、中小企業の事業承継と会社売却を数多く支援してきました。株価評価から株主整理、譲渡先の選定までワンストップで対応いたします。後継者が決まらないまま相続を迎える不安があれば、早い段階でご相談ください。
完全成功報酬のM&A仲介会社なら、みつきコンサルティングへ >
著者

- 事業法人第三部長/M&A担当ディレクター
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修者 神門 剛 代表取締役 / 公認会計士・税理士
最近書いた記事
2026年9月15日株式贈与による事業承継|税金・手続と後継者不在時の選択肢
2026年9月15日吸収合併とは?買収との違い・メリットと手続・会社売却の判断軸
2026年9月14日株式交換による会社売却とは|手続の流れと個人株主の税金を図解
2026年9月14日M&Aで社長が会社を譲渡する流れ|手法・時期・条件と売却後の処遇










