零細企業とは、一般に、小規模で事業を運営している企業です。本記事では、零細企業の意味や、中小企業などとの違い、メリット・デメリットなどを解説します。
零細企業とは、どういう意味?
零細企業とは、従業員が極少数で、家族経営の商店や町工場のような小さな規模の企業です。法律上の定義はありませんが、以下で紹介する類似する事業体には定義があるものもあり、それらとの比較で零細企業の輪郭が見えてきます。
他の企業形態との違い
零細企業は、ベンチャー企業や中小企業、大企業とはいくつか異なる特徴があります。それぞれの企業形態の特徴を把握することで、零細企業の位置づけがより明確になるでしょう。
小規模事業者とは
零細企業に明確な定義はありませんが、中小企業基本法上で定義されている小規模企業者の概念に近いと考えられています。同法では、小規模企業者を以下のように定義しています。
業種 | 常時雇用する人数 |
卸売業 | 5人以下 |
サービス業 | 5人以下 |
小売業 | 5人以下 |
製造業、建設業、運輸業、 その他の業種(上記を除く) | 20人以下 |
中小企業とは
中小企業とは、法律や制度によって異なりますが、代表的なものとして中小企業基本法における定義があります。同法における中小企業の定義は下記になります。
業種 | 資本金の額または出資金の総額 | 常時使用する従業員の数 |
卸売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
製造業、建設業、運輸業、 その他の業種(上記を除く) | 3億円以下 | 300人以下 |
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大企業とは
大企業には明確な定義がありませんが、会社法で定義されている「大会社」を大企業と捉えることができます。大会社とは、以下のいずれかに該当する会社のことを指します。
- -最終事業年度にかかる貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上
- 最終事業年度にかかる貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上
つまり、資本金や負債の規模が非常に大きい企業が大企業と言えるでしょう。
ベンチャー企業とは
ベンチャー企業にも明確な定義はありませんが、新しい革新的なビジネスモデルを展開し、急成長を目指す企業のことを指す傾向にあります。設立から数年程度の若い企業が多いのも特徴です。従業員数が少なく、会社の規模が小さいという点では零細企業と共通しますが、事業の革新性や成長性を重視する点が異なります。
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零細企業の社会的役割
零細企業は、従業員数が少なく規模は小さいものの、日本の企業数の大半を占める重要な存在であり、地域社会に様々な形で貢献しています。
零細企業は地域の生活やコミュニティーを支えている
零細企業の多くは地域に根差した事業を展開しており、特に人口密度の低い地方において、地域住民の生活を支え、コミュニティーの形成に重要な役割を果たしています。日用品や食料品等の販売、飲食サービスなど、住民の日常生活に欠かせないサービスを担っているのは、しばしば地元の零細企業です。
零細企業は地域に多様な活躍の場を提供している
2021年6月1日の時点で、小規模事業者は全国で約285.3万社あり、企業全体の84.5%を占めています。つまり、地方の雇用を支えているのは、大企業ではなく、圧倒的に零細企業なのです。零細企業の中には、高齢者や女性でも無理なく働ける職場環境を提供しているところもあり、多様な人材の活躍を後押ししています。
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零細企業の事業上のメリット・デメリット
零細企業にはその規模ゆえの強みと弱みがあります。それぞれの特徴を理解することで、零細企業ならではのビジネスモデルを構築することができるでしょう。
メリット
零細企業の主な強みは以下の通りです。
- 地域に密着した事業展開ができる
- 経営環境の変化に迅速に対応できる
- 顧客との距離が近く、ニーズを把握しやすい
- 固定客が多く、リピート率が高い
零細企業は小規模であるからこそ、地域の顧客と緊密な関係を築きやすく、きめ細やかなサービスを提供できます。また、意思決定のスピードが速いため、市場の変化に柔軟に対応することができるのです。
デメリット
一方で、零細企業には以下のような弱みもあります。
- BtoCビジネスでは商圏の拡大が難しい
- 地域資源を活かした商品・サービス開発が難しい
地域密着型の事業展開は強みでもあり弱みでもあります。商圏が地理的に限定されるため、事業の拡大には限界があります。また、大都市圏の零細企業では、地域資源を活かしきれていないケースも少なくありません。
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零細企業の現状と将来展望
日本経済を支える重要な役割を担う零細企業ですが、様々な課題に直面しています。一方で、事業環境の変化を捉えた新たな取り組みにチャレンジする零細企業も現れつつあります。
新型コロナウイルスが零細企業に与えた影響
中小企業庁の調査によれば、新型コロナウイルス感染症の影響により、70%以上の中小企業・小規模事業者が企業活動へのマイナスの影響を受けたとのことです。特に、対面サービスを提供する業種の零細企業は大きな打撃を受けました。一方で、コロナ禍をきっかけにオンライン販売やテイクアウトサービスを始めるなど、新しい事業モデルに取り組む零細企業も出てきています。
零細企業における働き方改革への対応
少子高齢化に伴う人手不足が深刻化する中、零細企業にとって働き方改革への対応は喫緊の課題となっています。長時間労働の是正、非正規雇用の処遇改善、ITツールの導入などを通じて、魅力的な職場環境を整備することが求められています。
零細企業の海外人材受け入れ
人手不足解消の選択肢の一つとして、外国人材の活用が注目されています。2019年4月に創設された特定技能制度は、一定の専門性・技能を有する外国人を、零細企業を含む人手不足の深刻な産業分野で受け入れることを目的としています。今後、外国人材の採用を検討する零細企業は増えていくことが予想されます。
零細企業における副業の受け入れ
副業を解禁する企業が増える中、副業に理解のある零細企業も増えつつあります。優秀な人材を確保しやすくなる、従業員のスキルアップにつながるなどのメリットが期待できる一方、情報漏洩のリスクなどの課題もあります。副業を認めるかどうかは、各社の事情に合わせて慎重に検討する必要があるでしょう。
零細企業のテレワーク活用とDX化の促進
新型コロナウイルス感染症をきっかけに、テレワークの導入が急速に進みました。零細企業でもオンラインでの営業活動や顧客対応を始めるところが増えており、こうしたDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れは今後も加速すると考えられます。IT投資による生産性向上が、零細企業の競争力強化につながることが期待されます。
零細企業のSDGsへの取り組み
持続可能な開発目標(SDGs)への関心の高まりを受けて、SDGsに取り組む零細企業も現れ始めています。福祉の向上や環境保護に資する事業を展開し、地域社会の課題解決に貢献することで、新たな顧客価値を生み出すことが期待できます。まだ取り組みは限定的ですが、商工会・商工会議所などの支援機関の後押しもあり、今後の広がりが期待されます。
零細企業の事業承継の促進
零細企業の経営者の高齢化と後継者不足は深刻な問題となっています。事業承継が円滑に行われないと、企業の存続のみならず、雇用や地域経済にも影響が及ぶため、迅速な対応が求められます。M&Aによる第三者への事業引継ぎも選択肢の一つですが、専門知識が必要なため、早い段階で専門家への相談が不可欠です。
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零細企業のM&A
事業承継問題の解決策の一つとして、M&Aに注目が集まっています。零細企業を対象とするM&Aの現状と、M&Aのメリットについて見ていきましょう。
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零細企業のM&A動向
国内のM&A件数は年々増加傾向にあり、2021年は4,280件、2022年は4,304件と過去最高を更新しました。この背景には、M&Aに対する経営者の意識の変化や、零細企業でも利用しやすいM&Aサービスの普及などがあると考えられます。今後も少子高齢化に伴う後継者不足が続く中、零細企業のM&Aは高い水準で推移すると予想されます。
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零細企業を譲渡するメリット
一方、零細企業の経営者にとって、M&Aによる事業売却のメリットは以下の通りです。
- 後継者問題の解決
- 事業の存続と雇用の維持
- まとまった資金の獲得
M&Aによって後継者不在の問題を解決し、事業を引き継いでもらうことで、従業員の雇用を守ることができ、取引先や地域の方々にも引き続きサービスを提供することができます。また、売却資金を老後の生活資金や新たな事業の立ち上げ資金に充てることができるでしょう。
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零細企業を買収するメリット
零細企業を買収することで、譲受企業は以下のようなメリットを得ることができます。
- 新たな顧客基盤の獲得
- 即戦力となる人材の確保
- 参入障壁の高い市場への進出
買収先の零細企業が持つ地域の顧客ネットワークや、特定分野のノウハウを持つ人材を獲得することで、自社の事業拡大を加速させることができるのです。
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零細企業がM&Aを行う際の留意点
M&Aは、譲受企業と譲渡企業双方にメリットをもたらす一方で、リスクも伴う取引です。円滑なM&Aを行うために、譲受側と譲渡側それぞれが留意すべき点があります。
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譲渡側の留意点
譲渡企業は、次の点に留意しましょう。
- 自社の強みを適切に伝え、適切な条件で交渉できるか
- 従業員の不安を和らげ、円滑な引継ぎができるか
- 譲渡後の自身の生活設計を考えられるか
M&Aの交渉では、自社の価値を正当に評価してもらえるようアピールすることが大切です。また、従業員に対して丁寧に説明し、不安を取り除くことで、買収後の事業運営がスムーズに進みます。経営者自身の今後のキャリアプランを描くことも忘れてはいけません。
譲受側の留意点
譲受企業は、以下の点に注意する必要があります。
- 譲渡価格に見合うシナジーが見込めるか
- 譲渡先の隠れた債務リスクはないか
- 従業員の雇用をどう守るか
財務データだけでは判断できない譲渡先の価値を見抜き、適正な価格で買収することが重要です。また、買収後の事業運営において、従業員の雇用を守り、モチベーションを維持することも欠かせません。
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就職先としての零細企業
零細企業で働くことには、大企業では得られない魅力がある一方で、デメリットもあります。就職先としての零細企業の特徴を知ることで、自身のキャリアプランと照らし合わせて判断することが大切です。
零細企業で働くメリット
零細企業で働く主なメリットは次の通りです。
- 早い段階で役職に就けるチャンスがある
- 幅広い業務を経験でき、スキルアップができる
- 経営陣とのコミュニケーションが取りやすい
従業員数が少ない分、一人ひとりの裁量が大きく、キャリアアップのスピードが速いのが魅力です。また、様々な仕事を任される中で、多様なスキルを身につけることができるでしょう。
零細企業で働くデメリット
零細企業で働く主なデメリットは以下の通りです。
- 大企業と比べて給与水準が低い傾向にある
- 人材育成の仕組みが十分でない場合がある
- 福利厚生が充実していないことがある
国税庁の調査によれば、従業員10人以下の企業の平均給与は、5,000人以上の企業の平均給与の7割程度にとどまっています。また、従業員の教育に十分なリソースを割けない零細企業も少なくありません。福利厚生の面でも、大企業ほどの充実は期待できないかもしれません。
零細企業とM&Aのまとめ
零細企業は、日本経済を支える重要な存在であり、地域社会に欠かせない役割を果たしています。一方で、少子高齢化や後継者不在など、様々な課題に直面しています。M&Aは、こうした課題を解決し、零細企業の事業を存続させるための有力な選択肢の一つです。M&Aを成功させるためには、譲受と譲渡双方が、メリットとリスクを十分に理解し、適切な準備を行うことが求められます。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。
著者
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みずほ銀行にて大手企業から中小企業まで様々なファイナンスを支援。みつきコンサルティングでは、各種メーカーやアパレル企業等の事業計画立案・実行支援に従事。現在は、IT・テクノロジー・人材業界を中心に経営課題を解決。
監修:みつき税理士法人
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