コングロマリットとは?意味とディスカウント効果vsプレミアム効果

企業が成長し、一定の事業規模に達すると、子会社を複数持つグループ企業へ発展する傾向があります。組織の編成方法には多くの選択肢があり、経営方針や収益構造、市場戦略を考慮して決定されます。その中でも「コングロマリット」という組織編成方法が注目を集めています。この記事では、コングロマリットの特徴や効果について説明していきます。

コングロマリットとは

コングロマリットは、多角的な業種や事業分野にまたがる企業を指し、シナジー創出やリスク分散を目的とした経営手法です。厳密には、異なる業種の事業を組み合わせる企業体がコングロマリットとされますが、同業種で構成されたグループ企業体を指すこともあります。

コングロマリットが注目されている理由

コングロマリット型の多角経営では、グループで保有しているノウハウや既に進出している市場との関連性が低い異業種への参入も行われます。これにより、一部の顧客や市場動向に影響を受けにくいビジネスモデルのリスクヘッジ効果が期待できます。グローバル化が進み、世界情勢の影響を受けやすい現在において、リスク分散、競争力強化をはかり、生き残りを目指す企業にとっては、理想的な経営戦略と言えるでしょう。

コングロマリットの効果

コングロマリット組織には、以下の2つの効果が期待されます。

コングロマリット・プレミアム

コングロマリット・プレミアムとは、多角的な事業展開によるシナジー効果が投資家の期待を超える収益と株価上昇をもたらすことをいいます。グループ内での技術交流、物流の効率化、システム管理などの連携により相乗効果が期待でき、グループ全体として営業活動促進させ、販路拡大にも繋がります。

コングロマリット化を採用する企業は、これらのシナジー効果を期待して、企業価値向上を目指すことが多いです。

コングロマリット・ディスカウント

一方、コングロマリット・ディスカウントは、多角的戦略が逆効果となり、シナジー効果が発揮されず、結果としてグループ全体の経営に悪影響を及ぼす現象です。リスク分散や新規分野への進出を目的に関連性の低い異業種に参入したものの、想定していた連携が上手く取れないことで、管理コストの上昇などのコングロマリット・ディスカウントに繋がります。

コングロマリット型の多角経営は、リスクヘッジや成長拡大を目指す企業にとって効果的な戦略であることが分かります。ただし、事業が複雑化することのよる管理コストの上昇に注意し、その効果がマイナスに転じるコングロマリット・ディスカウントを避けることが重要です。

コングロマリット戦略の利点

コングロマリット型の多角化戦略は、以下のようなメリットがあります。

  • シナジー効果の創出
  • 経営リスクの分散
  • 中長期的なビジョンが描きやすい

シナジー効果の創出

コングロマリット経営では、異なる業種の企業が複数あり、ノウハウや技術を共有できます。これにより、新たなシナジー効果が生まれやすくなります。例えば、エア・ウォーターは産業ガス事業に加えて、病院設備の設計・施工、病院業務のアウトソーシング受託、医療機器のメンテナンス業務から、日常のヘルスケアにかかわるデンタル、衛生材料、注射針、エアゾールといった多岐にわたるサービスを展開することで、グループ内でのシナジー効果を実現しました。

経営リスクの分散

事業環境は急激に変化し、突然のリスクが発生することも珍しくありません。コングロマリット戦略は多角的なビジネス展開を行い、リスクを分散できます。ソニーグループの例を見てみると、当初は音楽機器などの製造が主軸でしたが、コングロマリット化により、エンターテインメント部門や金融部門などの事業でも成功を収め、リスク分散に成功しています。

中長期的なビジョンの策定が容易

コングロマリット戦略は複数の異なる市場への進出を目指すため、短期的な成果は期待しづらいですが、中長期的な計画が立てやすくなります。楽天グループの例を見ると、過去にイーバンク銀行をTOBにより子会社化しましたが、楽天銀行として再成長させ、現在ではグループ内の金融サービス部門の中心的な役割を担っています。また楽天市場とのシナジー効果も生まれ、新たな経済圏構築に繋がりました。

これらがコングロマリット戦略の利点ですが、一方で投資家の評価が下がって株価が下落することや、事業が複雑化することでグループの統治が難しくなるといったデメリットもあります。コングロマリット戦略を採用するかどうかは、その利点・欠点を吟味し、中長期的な計画に基づいて決定すべきです。

コングロマリットの注意点

コングロマリット型の多角化戦略を行う際には、主に以下の4つの注意点があります。

短期的な経営戦略には向かない

先述の通り、コングロマリットは既存の保有技術や参入市場と異なる市場へビジネスを展開するため、短期的な成果を求めるには向いていません。コングロマリット化を計画する場合は、じっくりと腰を据えて、中長期的な戦略を練る必要があります。

コミュニケーション不足が生じやすい

異業種が混在するコングロマリット型経営では、新しいノウハウやビジネスアイデアが生み出される可能性がありますが、コミュニケーション不足に陥ることがあります。この結果、新技術や知識の共有化が困難になり、シナジー創出が阻害されることがあります。

企業価値低下のリスク

コングロマリットが成功すればシナジーが創出され企業価値の向上に繋がりますが、失敗すると共倒れにより企業価値の低下、投資家からの低評価に陥ることもあります。

コーポレートガバナンスが難しい

多様な業種を抱えるコングロマリットでは各企業・事業ごとに異なる経営戦略や方針が存在し、実質的には独立しているため、他の事業形態に比べてグループ全体の統治が困難です。したがって、グループ全体としての理念を明確にしておくことが重要です。

コングロマリットと他の企業形態の違い

企業体の形成方法として、コングロマリット以外に代表的なものは以下の3つです。

  • トラスト:同業種企業が集まりグループを形成し、独占力を高める企業連合体。一方で、過剰なトラストは独占禁止法違反リスクがある。
  • コンビナート:製品製造工程に関わる企業を特定地域に集結させ、効率的な生産を目指す複合企業体。
  • カルテル:同業者間で価格や生産計画などを調整する協定。資本関係はない。

多角化戦略の分類

企業の多角化戦略は、コングロマリット型以外にも以下のように分類されます。

水平型多角化戦略

水平型多角化戦略は、既存の事業や技術を活用し、類似する市場で新製品を開発する手法です。自動車メーカーが自動二輪車を製造するケースなどが代表的です。

コングロマリットが異業種への進出を目指すのに対し、水平型多角化戦略は既存のノウハウを最大限生かすため、参入リスクが低く、比較的短期間でのシナジー効果が期待できます。また、顧客基盤やブランド力を活用した事業展開が可能となります。

垂直型多角化戦略

垂直型多角化戦略は、既存の顧客やそれらに近い顧客に新製品を提供する多角化戦略です。家電メーカーがシステムキッチンを手掛ける例が典型的です。これにより、顧客ニーズを把握しやすくなり、提案力の向上に繋がります。

集中型多角化戦略

集中型多角化戦略は、既存の技術と関連性の高い製品を新たな市場へ投入する戦略です。デジタルカメラで培った光学技術や画像処理技術を医療分野に応用する例などが挙げられます。コングロマリットと異なり、既存技術に関連性が高い製品を開発するため、開発費の削減にもなります。

まとめ

コングロマリット戦略は、異業種をグループ内に取り込みながら、事業連携をはかりシナジー創出を目指します。世界情勢、世界経済が不安定な現状では、リスクヘッジが可能なコングロマリット型の多角化戦略が、新たな時代を切り開く企業戦略としてあらためて注目されています。ただし、異業種を統合し、企業体としてのガバナンスを確立するためには、M&A後のPMIが非常に重要です。そのため、M&A仲介会社を選ぶ際には、経営コンサルティングの経験が豊富であることを重視することが重要です。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人