コングロマリットとは|有名企業の例・ディスカウントの解消方法

コングロマリットは異業種を束ねてリスクを分散し、シナジーで価値を引き上げる経営手法です。本記事ではコングロマリットの定義、プレミアムとディスカウントの要因、メリット・デメリット、成功のポイントを詳しく解説します。

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コングロマリットとは

コングロマリットは、複数の異業種を一つの企業グループとして統合し、共有資源を活用しながら事業リスクを平準化する経営形態です。第二次世界大戦後の米国で盛んになり、日本では高度経済成長期に電機や総合商社が多角化を進める中で広まりました。今日ではグローバル化と不確実性の高まりが追い風となり、再び注目を集めています。近年はM&Aが増加していますが、このことも結果的にコングロマリットを促進させています。

有名なコングロマリット企業の具体例

日本にもコングロマリット企業は幾つもありますが、以下はその一例です。

企業名基本情報・特徴主な事業内容
旭化成・化学メーカーとして始まりながら、現在では多角的な事業展開を行うコングロマリット企業として成長
・化学メーカーとしての技術力を活かしながら多様な産業領域でシナジー効果を発揮
・化学事業を基盤
・住宅・建材事業:「ヘーベルハウス」ブランドで知られる住宅事業
・エレクトロニクス事業
・ヘルスケア事業:人工腎臓や医療機器の製造・販売
GMOインターネットグループ・インターネットインフラ事業を主力事業として手がける日本のコングロマリットの成功事例
・業界最安値水準の手数料とスプレッドを採用した「GMOクリック証券」は、日本の金融業界においても幅広い個人投資家から支持を受けている
・インターネット広告
・メディア事業
・関連事業
・インターネット金融事業:株式取引やFX
・仮想通貨事業:仮想通貨交換事業や仮想通貨マイニング事業
DMM.comグループ・動画配信事業から始まったコングロマリット企業
・もともと動画配信事業を主力としていたが、他の大手企業と同様にコングロマリット化を進め、現在では多岐にわたる事業を展開
・近年では、欧州サッカークラブの買収を行い、スポーツ分野への進出も果たし、さらなる多角化を実現
・動画配信事業(メイン事業)
・金融事業:DMM FXなど
・エンタメ事業:ゲームコンテンツ制作など
・人材育成事業:社会人向け私塾など
・スポーツ分野:欧州サッカークラブの買収

これらの企業は、それぞれ異なる分野から始まりながら、コングロマリット化により事業領域を拡大し、持続的な成長を実現している代表的な事例です。

コングロマリットを形成する3つの手法

組織を跨いで多角化する際には、資本の結びつきの強さによって三つのスキームが用いられます。

資本提携

株式の三分の一未満を持ち合い、独立性を維持しながら経営資源を共有します。三菱・三井グループが好例で、緩やかな連携でリスクも限定的です。

買収

株式を100%取得して子会社化し、強固な結びつきを築きます。ソニーグループはエンタメ分野で積極買収を行い、シナジー創出に成功しました。

合併

複数企業を一法人へ統合します。吸収合併は既存法人が残り、新設合併は全法人を消滅させ新会社を設立します。日立グループの歴史が好例です。

コングロマリットに似た他の企業形態

異業種を束ねるコングロマリットは多角経営の代表格ですが、企業連携の型は他にも存在します。ここでは代表的な四つを整理し、位置づけを明確にします。

トラスト

同業種企業が資本を結び、水平統合で市場支配力を高める企業連合です。資本関係を伴うため協調が強固ですが、寡占化が進むと独占禁止法リスクが跳ね上がります。

コンビナート

サプライチェーン上流から下流企業を一地域に集め、垂直統合で生産効率を極限まで高める複合体です。石油コンビナートが典型例で、工程間輸送を短縮しコストを圧縮します。

カルテル

価格や生産量を同業他社で取り決める協定です。資本提携がない点でトラストと異なり、緩い連携ながらも市場競争を歪める恐れがあり、違法判定を受けやすい形態です。

コンツェルン

持株会社を頂点に子会社群を束ね、市場独占を狙う組織です。戦前財閥が代表的で、戦後解体されました。コングロマリットが分散を志向するのに対し、独占が目的です。

参考:多角化戦略の分類

多角化戦略の3つの型を整理した表は以下の通りです。

戦略の型詳細内容特徴・メリット
水平型多角化戦略・既存技術を応用し、近接市場へ製品を投入する手法・参入リスクが低い
・短期でもシナジーが得やすい点が魅力
垂直型多角化戦略・既存顧客に向け、新カテゴリ製品を提供する戦略・顧客理解が深まるため提案力が向上
・付加価値を高く設定できる
集中型多角化戦略・コア技術と高い関連性を持つ製品を全く新しい市場へ展開・開発費抑制と、新分野での競争優位確保が両立

水平型は既存技術の活用でリスクを抑え、垂直型は既存顧客との関係を深め、集中型は技術力を武器に新市場を開拓する戦略です。

コングロマリット・ディスカウントとは

コングロマリット・ディスカウントとは、多くの異なる事業を手がける企業(コングロマリット)の価値が、各事業を個別に評価した合計よりも低くなってしまう現象のことです。

コングロマリット・ディスカウントとは

簡単に言うと、「1つ1つの事業の価値を足し算した金額」よりも「会社全体の価値」の方が安く評価されてしまうということです。

なぜこの現象が起きるのか

コングロマリット・ディスカウントが生じる原因は通常、以下のようなものです。

経営が複雑になるため

多くの事業を同時に行うと、経営が複雑になり、効率が悪くなることがあります3。例えば、食品事業とIT事業を同じ会社で行う場合、それぞれに必要な知識や経験が全く違うため、どちらも中途半端になってしまう可能性があります。

投資家にとって分かりにくいため

投資家から見ると、様々な事業を手がける企業は「何の会社なのか」が分かりにくく、正確な評価が難しくなります2。そのため、安全を見込んで低めに評価されがちです。

具体的な数字例で理解する

ある会社が2つの事業を行っているケースを考えてみましょう。

会社全体での評価

  • 年間利益:10億円
  • 評価倍率:6倍
  • 企業価値:60億円

事業別での評価

  • A事業:年間利益4億円 × 評価倍率5倍 = 20億円
  • B事業:年間利益6億円 × 評価倍率7倍 = 42億円
  • 合計企業価値:62億円

この場合、事業別に評価した方が2億円高くなります。この差額がコングロマリット・ディスカウントです。

解決方法としてのカーブアウト

近年、資本コストやROICを意識した経営が重視される中、企業価値の向上には既存事業ポートフォリオの見直しが不可欠となっています。この流れを受けて、コングロマリット・ディスカウントの問題を解決する方法の1つとして、カーブアウトというM&A手法が注目を集めています。

カーブアウトの概要と手法

カーブアウトは、企業グループの一部事業や子会社を切り出して、独立させる、または第三者に譲渡する手法の総称です。その代表的な手法には、事業譲渡・会社分割・スピンオフ(法的形式は分割型分割または株式分配)などがあります

この手法は、欧米では事業ポートフォリオを機動的に入れ替える手段として一般的に活用されていましたが、日本企業においても徐々に普及が進んでいます

カーブアウトの主なメリット

カーブアウトにより企業が企図するものは以下です。

コングロマリット・ディスカウントの解消

カーブアウトによって事業を分離することで、コングロマリット・ディスカウントの解消効果が期待されます。複雑な事業構造が簡素化されることで、投資家が個別の事業価値を評価しやすくなり、事業単体の価値が市場から正当に評価されやすくなります。

コア事業への資源集中とROIC向上

カーブアウトの実施により、企業はコア事業への資源集中が可能となります。譲渡側企業はノンコアである子会社・事業の売却によって得られる譲渡対価を、自社が得意とする事業領域への投資に振り向けることができ、企業全体の経営効率や収益性向上を図ることができます。人材等のリソースも注力分野へ集約でき、ROICの向上が期待できます。

日本企業における実践例

日本企業でもカーブアウトの活用が本格化しており、日立製作所は代表的な成功事例として挙げられます。同社は2009年以降、段階的に事業構造の転換を進め、2017年から2022年にかけて日立マクセル、クラリオン、日立化成、日立建機、日立物流、日立金属といった上場子会社を次々に売却・整理しました。これらはいずれも黒字の優良企業でしたが、同社の将来ビジョンに沿った戦略的判断により実行されました

その他にも、ソニーによるVAIO事業のカーブアウトや、富士通研究所からのQDレーザ分離、NTTドコモの通信鉄塔事業の切り出しなど、様々な業界で実践例が見られます

カーブアウトの今後の展望

企業価値向上への圧力が高まる中、カーブアウトは「選択と集中」を実現する有効な手段として、今後も多くの日本企業で活用が拡大していくと予想されます。適切な事業ポートフォリオ管理により、企業は持続的な成長と株主価値の最大化を両立できる経営基盤を構築することが可能になります。

コングロマリット・プレミアムとは

シナジー効果が期待値を上回ると、投資家は事業ポートフォリオ全体を高く評価します。これをコングロマリット・プレミアムと呼びます。

  • 物流・購入スケールの共有で直接コストを削減
  • 技術・ブランドを横展開して新市場へ参入
  • グループ内資金循環で外部金融コストを抑制
    成功例として、エンターテインメントと金融を統合したソニーグループが挙げられます。

シナジーが企業価値を押し上げる仕組み

シナジーは①収益増加、②費用削減、③資本効率改善の三本柱で測定されます。例えば楽天は金融サービスを買収し、ECユーザー基盤と結合させることでクロスセル比率を高めました。このような横断的顧客戦略がプレミアム創出に直結します。

コングロマリット企業のメリット・デメリット

コングロマリットのメリットとデメリットを比較した表は以下の通りです。

メリットデメリット
経営リスクの分散
・業績が市場サイクルに左右されにくくなる
・ソニーは音楽機器市場縮小時も金融・映画収益で安定を確保した

中長期ビジョンの設計
・異業種を含むため投資回収期間を長く取れる点が強み
・楽天は銀行・通信・ECを束ね、10年単位で経済圏を構築している

シナジー効果の創出
・技術共有により研究開発を圧縮
・異業種間クロスセルで顧客LTVを伸ばす
・グローバル人材を事業横断で配置し学習速度を高める
短期成果が得にくい
・新市場投入から黒字化まで時間を要する
・株主が短期リターンを期待すると摩擦が生じる

コミュニケーション不足
・異業種では専門用語や文化が異なるため、情報共有が停滞しやすい
・結果として技術融合が遅れ、期待シナジーが目減りする

企業価値低下リスク
・シナジー不発で複数事業が同時に業績悪化すると、ディスカウントが深刻化し調達コストが増加する
・いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」

ガバナンスの複雑化
・事業ごとに異なるKPIを管理する負荷
・権限と責任の境界が曖昧になり内部統制無視の温床
・監査役会が多様事業を網羅的に把握しきれない恐れ

経営リスクの分散やシナジー効果といったメリットを享受する一方で、短期成果の困難さやガバナンスの複雑化といったデメリットにも十分な配慮が必要です。

コングロマリット型のM&Aを成功させるポイント

異業種統合を成功させるための4つの要素を整理した表は以下の通りです。

要素詳細内容
統合目的と戦略の明確化・リスク分散か成長加速かを定義
・目的に沿った買収候補を選定
・統合後KPIを事前に共有
具体的な計画策定・シナジー創出の工程表を作成
・PMIチームを立ち上げ役割分担を明確化
・財務計画と資金調達手段を確定
シナジー効果の追求と評価・統合後も定期的にシナジーKPIを測定
・ギャップが出た場合は施策を即修正
・効果実証で資源再配分を継続的に実施
慎重なリスク管理・文化摩擦や統合遅延をシナリオ分析
・法務・会計デューデリジェンスを徹底
・障害発生時のエスカレーションルートを設定

異業種統合は複雑ですが、これら4つの要素を押さえることで成功確率が高まります。特に統合目的の明確化と具体的な計画策定を事前に行い、統合後は継続的なシナジー効果の測定とリスク管理を徹底することが重要です。

コングロマリットのまとめ

コングロマリットは複数の異業種を束ねる複合企業体で、経営リスクを分散しながらシナジー効果で企業価値を高める強力な戦略です。資本提携、買収、合併などの手法により形成され、各事業の相乗効果による成長が期待できます。一方で、経営の複雑化やガバナンス体制の課題により、コングロマリット・ディスカウントが生じるリスクもあります。成功には統合目的の明確化、緻密な計画策定、シナジー効果の追求が不可欠です。

みつきコンサルティングは、みつき税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の実績を持ちます。中小企業のM&Aに特化し、経験豊富なM&Aアドバイザー、公認会計士、税理士が多数在籍しています。コングロマリット化を含む多角化戦略や、カーブアウトによる事業ポートフォリオの見直しまで、財務・税務面の専門知識を駆使した総合的な支援が可能です。M&Aをご検討の際は、ぜひ当社にご相談ください。 

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長/M&A担当ディレクター
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人

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