株式譲渡における取得費は、納める税金の額を算出する際に必要となる項目です。取得費について正しく理解しておけば、株式譲渡に伴う税金の正確な申告が可能となります。ひいては、無用な税金トラブルを避ける助けとなるでしょう。
この記事では、株式譲渡における取得費の定義や計算する方法などについて解説します。株式譲渡に関する知識、特に取得費について知識を得たいと考えている人はぜひ参考にしてください。
株式譲渡した際の取得費の基本
ここでは、取得費の基本的な内容について解説します。
株式譲渡とは?
株式譲渡とは、株主が保有する株式を対価と引き換えに譲渡して経営権を移行する手法です。数あるM&Aの手法のなかでも、最も利用されています。
株式譲渡は、事業譲渡に比べて手続きが比較的簡単で、時間も少なくて済む点も特徴です。中小企業の場合は株主が少ないため、より迅速に株式譲渡を行えるでしょう。株式譲渡の際には事業に関連する許認可の再取得が不要かつ従業員の再雇用の必要もないため、会社の運営がスムーズに継続可能です。
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株式譲渡時の取得費とは?
株式譲渡時の取得費とは、株式譲渡時に譲受側が出資した金額のことです。簡単にいえば、株式を取得した際に実際に支払った金額の総額です。具体的には、株式の購入代金や手数料、消費税、名義書換料などの株式を取得する際に使用した費用を指しています。
ただし、M&A仲介会社の相談料や譲渡側企業のデューデリジェンス(買収監査・企業調査)の費用は、含まないケースがある点には注意しましょう。
株式譲渡時の取得費を知る必要性
取得費は譲渡所得を算出する際の根拠となるため、この金額を知らなくては正確な税額を算出できません。したがって、株式を譲渡する際には、取得費を把握しておくことが適正な税務申告への第一歩となります。
もし、取得費を正確に把握せずに確定申告を行った場合、税務当局からの追加調査や修正申告を求められる可能性があります。これは単なる手間と時間の問題にとどまらず、場合によっては追徴課税が発生する可能性もありえます。余計な負担やリスクを背負うことになりかねないため、事前に正確な取得費を把握しておきましょう。
購入・払込以外で取得した株式の取得費
ここでは、購入・払い込み以外で取得した株式の取得費について、ケース別に解説します。
相続・遺贈・贈与によって取得したケース
購入・払い込み以外で株式を取得するケースの1つは、相続・遺贈・贈与によって取得した場合です。この場合は、被相続人、遺贈者または贈与者などの元の所有者が株式を取得した際の取得費を引き継ぐ形となります。
新株予約権などの権利の行使によって取得したケース
新株予約権などの権利の行使によって取得したケースの取得費は、下記のとおりです。
- 平成17年法律第87号による改正前の商法に規定する新株予約権:その権利の行使の日における価額
- 会社法第238条第2項の決議などに基づき発行された新株予約権:その権利の行使の日における価額
- 株式と引き換えに払い込むべき金額が有利な場合における、その株式を取得する権利:その権利に基づく払込みまたは給付の期日(払込みまたは給付の期間の定めがある場合には、その払込みまたは給付をした日)における価額
その他の方法で取得したケース
株式取得は、購入・払い込みや相続・遺贈・贈与、新株予約権などの権利の行使によって取得する以外にも、さまざまな方法で取得できるケースがあります。特殊な状況や方法を通じて株式を得た場合は、取得費の計算は一層複雑になる可能性があります。
特殊な方法で株式を取得した場合は「その取得の時におけるその株式等の取得のために通常要する価額」を取得費にするとされています。もし、通常要する価額がいくらになるかわからないのであれば、会計士や税理士に相談をしましょう。
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株式譲渡時の取得費を計算する方法
ここでは、株式譲渡時の取得費を計算する方法について解説します。
基本的な計算式
取得費を計算したい際には、「1株あたりの取得費」と「譲渡株式の取得価額(総額)」の双方の計算方法を押さえておくとよいでしょう。株式譲渡時の取得費を計算する基本式は、下記のとおりです。
1株あたりの取得費
(取得単価×取得株数+委託手数料+消費税)÷株数=1株あたりの取得費
譲渡株式の取得価額(総額)
1株あたりの取得費×株式数=譲渡株式の取得価額
同一銘柄を2回以上、取得・譲渡した場合の計算式
同一銘柄の株式を2回以上にわたって購入した上で、株式などの一部を譲渡した場合の取得費は、さらに特殊な計算式を用います。この場合は、総平均法に準ずる方法によって1単位あたりの金額を算出します。
具体的な計算式は、下記のとおりです。
前提条件
A=株式などを初めに購入したときの購入価額総額
B=株式などを初めに購入した後から今回の譲渡時までの購入価額総額
C=Aにかかる株式などの総数
D=Bにかかる株式などの総数
1単位あたりの金額
(A+B)÷(C+D)=1単位あたりの金額
株式の取得費を確認する方法
ここでは、株式譲渡時の取得費を確認する際の手順について解説します。
取引報告書から確認する
株式譲渡時の取得費を確認する際には、取引報告書を活用しましょう。取引報告書とは、取得費が記載されている書類です。確認すればすぐに取得費を把握できます。取引報告書は、各証券会社が郵送や電子交付で発行しています。
取引報告書以外の証券会社が交付している取得費を確認できる書類は、下記のとおりです。
- 取引残高報告書
- 月次報告書
- 受渡計算書
顧客勘定元帳から確認する
株式譲渡時の取得費の確認は、顧客勘定元帳からも確認可能です。顧客勘定元帳とは、企業が取引を行った顧客ごとに売買や入出金などの取引履歴を記録する帳簿のことです。
過去10年以内に購入したものの場合、証券会社に問い合わせることで確認できます。10年より前であっても企業によっては情報を保存しているケースもあります。10年以上経っていても、念のため確認してみるとよいでしょう。
自身の控えを確認する
直接的かつ確実な方法は、自身が株式譲渡を受けた際の控えを確認する方法です。手元にある預金通帳でも確認できます。そのほか、日記帳やメモなどで確認できる場合もあります。
名義書換日で取得時期を確認し、相場をもとに算定する
株式譲渡時の取得費を確認する方法としては、取得時期の相場に合わせて確認する方法も考えられます。取得時期は、名義書換日で確認可能です。
名義書換日とは、株式が売買された際に新しい所有者の名義に変更された日を指します。名義書換日は、発行会社の株主名簿や複本、株式異動証明書などによって確認可能です。その時期の相場から計算をすることで、取得費のおおよその算定ができるでしょう。
株式の取得費が不明なときは「概算取得費」を使う
株式譲渡時の取得費が不明な場合の処理方法についても、あらかじめ把握しておきましょう。取得費は、株式売却時の譲渡益を計算する際に必要となる重要な項目であるためです。
取得費が不明な場合は、譲渡した金額の5%相当額を取得費にできます。例えば、5,000万円で譲渡した場合は、5,000万円の5%である250万円が取得費となります。もし、実際の取得費が譲渡した金額の5%を下回っていた場合であっても、5%相当額を取得費とできる点も押さえておきましょう。
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株式の取得費のまとめ
株式譲渡を検討する際には、税金のことも考えた上で取得費に関する知識も十分に押さえておきましょう。株式譲渡について不明な点が多い場合には、専門家への相談をおすすめします。
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著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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