業界激震!M&Aによる寡占化が進む測量業界

寡占化の進む測量業界の動向と将来的な見通しを徹底解説。M&Aの波がもたらす影響や、成功例、戦略を活用する企業の事例、将来の見通しなど、今後の展望を含め一挙ご紹介します。

測量業界の基本情報

測量業とは、測量法に基づき測量業者登録を行い、地形状況や地点間の距離など、土地、構造物、河川の流量などを測定・観測する定量的に把握できるものを計測する仕事です。また、測量業の業務は下記に分類できます。

民間測量:主に建設会社(ゼネコン)や建築会社(ハウスメーカー)などの依頼で計測する業務

公共測量:主に国や都道府県などの公共団体からの業務を受託し、計測する業務

ただし、登記を目的とした測量業務は土地家屋調査士の独占業務であり、測量業者が登記を行うことができないため注意が必要です。本記事では土地家屋調査士には触れず、測量業者について解説していきます。

測量業界の特性

測量業界の特性を3つのポイントに分け解説していきます。

1.ローカルビジネス

主に公共工事は入札で獲得するため、案件ごとに地域要件(都道府県や市区町村)があり、そのエリアに営業所がある業者のみ入札参加権を得ることができます。

また、営業所として登録するためには常駐の測量士を一人以上置く必要があるため、技術者の確保も必須となり、商圏の拡大には時間とコストがかかります。

2.受注変動

特に公共工事は上記でも記載したとおり、入札により業務を請け負うため、国全体の公共工事の予算や入札の運によって仕事量に偏りが生じてしまいます。

一例として、東北エリアでは東日本大震災後の復興特需により業務量が一時的に増加しましたが、近年は復興特需が落ち着き、売上の低下が起きています。

また、民間業務であっても開発工事に依存するため、時期や地域によっては仕事量の差が生じてしまいます。やはり人口の多い主要都市の方が都市開発や維持管理の需要が大きいため、仕事量は多い傾向にあります。

3.労働集約型ビジネス

近年はドローンを活用した測量や3D測量など様々なテクノロジーが利用されていますが、あくまでも人の補助を必要とする機器のため、今後も技術者の確保は測量業を営む上で最重要課題となります。

測量業界における今後の課題

測量業界をでは近年大きく分けて2つの問題が深刻化しております。今後、企業存続を考えるうえで非常に重要なポイントになりますので、本項にて説明していきます。

1.技術者の高齢化

平成30年時点での測量士・測量士補の人数及び年齢の構成比率(図1参照)を見ると技術者のうち約80%が40代以上となっております。また、60代以上だけを見ても10代~30代の合計数より多く、今後10年以内に技術者全体のおよそ25%が引退を迎えるため、将来を見据えた人材確保が必要と考えられます。

図1【測量士合計と測量士補合計の年代別人数と構成比】

参考:国土交通省「測量業における測量士・測量士補に関する実態調査報告書」

(平成30年度)

2.測量業者の減少

測量業者は2003年をピークに18年連続で減少を続けております。(図2参照)

原因としては、建設関連業の中でも圧倒的に業者数が多く、決められた市場のなかで売上を取り合うため、競争力の弱い小規模事業者を中心に減少を続けています。

特に本業界は国内需要が主であり、日本国内の情勢を考えると公共工事が飛躍的に増加することは考えづらいことから、この動きは今後も続くと予想されます。

しかし、災害特需や維持保全など人間が生活する限り測量の需要が無くなることはないため、中堅・大手企業による寡占化が進むと考えられます。 

図2【登録業者数の推移】

出典:国土交通省「建設関連業 登録業者数調査」(令和3年度)

測量業界を取り巻く環境と競合企業の動向

近年、測量業界を取り巻く環境は日々変化を遂げており、今後も事業環境は目まぐるしく移り変わると考えられます。本項では現在の業界動向や競合他社の状況について説明します。

測量業界の市場動向

国土交通省「建設関連業等の動態調査報告」によると、2021年度の測量業者50社の契約金額は99%以上が国内となっており、測量業者の売上の殆どは国内需要で成り立っている事が分かります。また、公共工事の比率が非常に高いため、測量業界は日本の景気に左右されることが分かります。

下記のグラフ(図3参照)を見ると、契約金額は2018年をピークに下降しますが、2021年には概ねピーク時まで戻っていることが確認できます。一方で、契約件数は2018年をピークに下降しており、1件当たりの単価が上昇したことが分かります。

契約金額から考えると中堅以上の企業が調査対象となっており、高単価な業務が技術力のある大手を中心に集約していると推察できます。

ただし、過去10年の契約金額は800億円~1,000億円のレンジで推移しており、今後も継続的な需要はあると見込まれるので、引き続き業者間の競争が続くと考えられます。

図3【測量業者50社の契約金額及び契約件数の推移】

出典:国土交通省「建設関連業等の動態調査報告」より作成

競合企業の実態

測量業界は参入障壁が高いこともあり、基本的に異業種からの新規参入はありません。小規模な測量会社では測量業の登録業務のみを請け負っておりますが、中堅大手は総合建設コンサルタントとして土木設計、測量、地質調査などの隣接業務を一貫して対応出来る体制を整えております。

また近年、測量業務において3D測量[1]やドローンという新しい機材の必要性が増加する環境下で、資本力のある総合建設コンサルタント会社は積極的な設備投資を進めています。一方で、小規模事業者では設備投資が進まず、技術力の格差が生じてます。

今後は総合建設コンサルタントとして運営していく企業の増加が考えられるため、測量業務のみの事業者は技術力や業務範囲の拡大など、専門業者としての差別化を図る必要性があります。

[1]地形や構造物などといった計測対象物の寸法情報を、専用器械によって3次元的に計測する測量方法

寡占化が進む測量業界のM&A動向と事例

近年、隣接業を営む総合建設コンサルタント企業を中心に測量業者へのM&Aが活発化しております。本項ではM&Aが増加している理由について説明し、実際の事例とともに解説していきます。

業界におけるM&A戦略

測量業界のM&Aは、主に同業の中堅~大手企業が小規模~中堅の企業とM&Aを行うケースがほとんどであり、エリア拡大や技術者の確保・登録部門の拡充を目的としております。人材の確保が難しい業界のため、中堅・大手企業といえども新たなエリアに進出し一定規模の売上を立てるまでには時間がかかることから、費用対効果やリスクを考えM&Aを選択するケースが増加しております。

また、異業種からの参入が非常に稀な業界のため、同業または隣接業者間でのM&Aが殆どであり、比較的スムーズに経営統合できるのが特徴です。

現状では測量業界は大手企業の寡占化が少ない業種であり、小規模事業者が大多数を占めております。しかし、今後は技術者の高齢化により事業継続が困難になる小規模事業者が増加することからM&Aが増加し大手企業の寡占化が進んでいくと考えられます。

測量業界におけるM&A事例

大手総合建設コンサルタント企業を中心に、M&Aが活発化しており、グループ全体の売上を伸ばしている会社が増加しております。最新の動向として、近年で実施された測量業界のM&A事例をいくつかご紹介いたします。

ERIホールディングス×日建コンサルタント

ERIホールディングス株式会社が北海道で建設コンサルタント会社として土木設計や測量などを行っている日建コンサルタント株式会社を買収した事例です。

ERIホールディングスは、住宅・建築物等に関する専門的第三者機関として、建築基準法に基づく建築物の確認検査や住宅品確法に基づく住宅性能評価などを行っております。

「インフラ・ストック分野の事業領域拡大」、「M&Aの積極的活用」を中期経営計画で掲げており、日建コンサルタントをグループ化することで、北海道における土木インフラ関連事業の体制を強化し、地域基盤整備への貢献を深めると同時に、グループの企業価値向上を図りました。

メイホーホールディングス×安芸建設コンサルタント

株式会社メイホーホールディングスが子会社の株式会社メイホーエンジニアリングをとおして、広島県で建設コンサルタント業を行っている株式会社安芸建設コンサルタントを買収した事例です。

メイホーホールディングスは総合建設コンサルタントとして上場している中堅の企業です。統合後はメイホーエンジニアリングをはじめとするグループ内の建設コンサルタント6社と協業し、単なるスケールメリットだけでなく、グループ内での連携による支援体制の強化を目指しております。

新日本コンサルタント×東光測建

新日本コンサルタント株式会社が神奈川県で測量業務を行う株式会社東光測建を買収した事例です。

東光測建は主に神奈川県川崎市を中心に測量、補償コンサルタント業務を主要業務としております。また、関東圏の電鉄関連企業などの大手民間企業からも受注を受けております。さらに東光測建が得意とするGIS²情報処理は今後有望なマーケットと目され、新日本コンサルタントが保有する地理空間情報技術を合わせてグループの事業内容と領域を補完するため、さらなる企業価値の向上が見込まれます。

²GIS:Geographic Information System(地理情報システム)とは地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。

測量業界のM&Aの見通しと検討する際のポイント

業界における将来的なM&A市場の見通し

測量業界におけるM&Aの将来的な見通しとしては増加が見込まれることは間違いないと思われます。

背景として、1.建設工事がある限り測量は必須、2.小規模事業者が多く大手の寡占化が進んでいない、3.事業承継適齢期の経営者が多い、という3点があげられます。

今後の少子化・人口減少社会においても一定程度の業界規模が維持されることが想定され、M&Aもより一層活発化するものと思われます。

測量業界のM&Aを検討する際のポイント

本項では、測量業を営む企業の経営者がM&Aを検討するうえで、事前に確認しておくことでスムーズに進めることができるように、業界特有のポイントを2点解説していきます。

従業員の年齢

測量業界の高齢化は顕著に進んでおります、そのため譲受を希望されるお相手も非常に重要なポイントとして考えます。実際にM&Aによる譲渡を検討される際には、従業員の高齢化が進んでしまう前の方がより良い条件での譲渡が可能になります。

労働環境の整備

近年、雇用に対する規制が強化されております、測量業界の特性として長時間労働になってしまうことが多いかと思います。労務違反に該当してしまうとM&Aを進める上で必ず争点となってしまいますので、労務管理には気を配りたいものです。

万が一、該当してしまっている場合でも、適正な残業代を支払うなどの対応を実施することで、問題なくすすめられるケースも多いため、M&Aを検討する場合には、M&A仲介会社や社会保険労務士などの専門家に相談し事前に準備を行うことが非常に重要です。実際にM&Aを検討する際には、上記以外にも細かなポイントは多くありますが、この2点は非常に重要になりますので、事前に確認いただくことでより良いM&Aに繋がるかと思います。

測量業界のM&Aのまとめ

本記事では、測量業界におけるM&A業界の動向や事例を解説してきました。測量業界は競合他社のM&Aに触発され、さらなる活発化が見込まれます。これまで、測量業界は小規模事業者を中心に寡占化があまり進んでおりませんでしたが、今後は大手企業を中心に集約していくでしょう。そのためにも、過去の事例を参考にしつつ経営戦略を考えることが測量業界で生き抜くうえで非常に大切と言えます。 弊社みつきコンサルティングは測量業界をはじめとする建設サービス業界のM&Aにも精通したコンサルタントが多数在籍しております。グループ内の海外法人と連携し国内外問わず実績を有しますので、M&Aをご検討の際は是非ご相談ください。

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人