医療機器商社のM&A動向|譲渡・譲受のメリット、成功ポイント

当記事では、医療機器卸・商社におけるM&Aについて解説します。業界特有の動きやM&Aにおけるメリット、成功に向けたポイント、譲渡価格の相場についても解説します。医療機器卸・商社業界のM&Aを検討されている方は参考にしてください。

医療機器「卸」業界とは

医療機器卸・商社は、医療機器メーカーから商品を仕入れ、病院や診療所などの医療機関に販売を行うビジネスモデルです。日本標準産業分類では、医療機器卸売業とは、レントゲン装置、吸入器、歯科医療機器などの「医療機器」を主に取り扱う事業者を指します。

「医療機器」とは、人間や動物の病気の診断・治療・予防を目的として使用される器具や機械を指し、身体の構造や機能に影響を及ぼす製品も含まれますが、再生医療製品は対象外となります。これらの定義は、医薬品医療機器等法(旧薬事法)にて定められています。

医療機器の販売を行うためには、「医療機器製造販売業許可」が必要となります。このライセンスには、第1種から第3種までの区分が存在するほか、高度に管理が必要な医療機器や保守管理が特定された医療機器の販売には、「高度管理医療機器等の販売業及び賃貸業の許可」が必要となります。また、一般的な管理医療機器の販売に関しては、都道府県知事への届出が必須となります。▷関連:

医療機器の卸業界のM&A動向

近年、医療機器への需要が増加し、医療機器卸・商社業界も堅調に推移しており、 M&Aを活用し積極的に業界再編が進行しています。さらに、市場拡大が期待される業界で、医療機器卸・商社業界におけるM&Aの動きに対する注目度も高まることが予想されます。

当業界の具体的なM&A動向を以下の二つの観点から解説します。

  • 大手企業による買収事例の増加
  • 同業者同士による合併の増加

大手による買収事例の増加

市場拡大が見込まれる医療機器卸・商社業界では、競争力を向上を狙った大手企業によるM&Aが増えています。医療機器卸・商社は特定のドミナントで強みを持つことが多いためM&Aによる新たな市場獲得は、大手企業にとっても魅力的なものとなっています。

一方で、大手による市場シェア拡大の影響で中小規模の医療機器卸・商社は厳しい状況に置かれることがあります。、防衛策として、経営基盤の強化のために中小企業によるM&Aも増えており、中小企業が買手となるM&A事例が増加傾向にあります。

同業者同士による合併の増加

同業者間の合併事例も増えています。大手医療機器卸・商社同士が競争力を強化する目的で合併するケースが代表的です。また、競争力強化、ノウハウの活用、事業エリアの拡大などを目的に、中小医療機器卸・商社同士の合併も増加する可能性があります。

これらの動向が続くことで、業界再編が今後さらに増加すると予想されます。

医療機器「卸」M&Aのメリット

医療機器卸が行うM&Aのメリットを譲渡側と譲受側に分けて紹介します。

譲渡側のメリット

医療機器卸の譲渡側が行うM&Aのメリットは以下のようなものです。

事業承継対策と雇用の維持が可能

帝国データバンクの動向調査(2022年)によれば、2022年の卸売業における後継者不在率は54.6%であり、2社に1社が後継者不在の状況です。医療機器卸業界も後継者不在の企業が多く、事業承継が困難になることがあります。後継者が見つからない場合、経営者の高齢化や体調悪化が事業継続の大きな障害となります。

M&Aは後継者不在の企業にとって、事業承継問題を解決する有力な手法です。具体的には、会社や事業、従業員の雇用を買い手企業に引き継ぎ、事業の存続が可能となります。

創業者利益を享受できる

経営者は会社や事業の売却を行うことで、売却利益を得ることができます。売却金額は営業利益の数年分+時価純資産に相当する金額が一般的な相場となります。仲介会社への手数料と譲渡益に対する税金などを差し引いた金額が手取り金額となるため、まとまった額のキャッシュを手に入れることが可能です。

負債や個人保証、資金繰りの悩みから解放される

中小企業では、経営者が個人保証を行い、金融機関から借入しているケースが一般的です。M&Aによって会社を売却する際は、譲渡会社の借入金に該当する個人保証も通常は解除されます。さらに、事業運営に対する責任がなくなるため、資金繰りの悩みからも解放されるでしょう。

買い手企業の取扱機器や販売網、資金力などを活用できる

譲受企業の傘下に入ることで、その企業の持つ取り商材、販売網、資金力などのリソースを活用して自社の事業を運営することができます。その結果、独自に事業を展開する場合に比べて、収益の安定化や事業拡大、新しいビジネスチャンスを創出することが容易になります。

譲受側のメリット

医療機器卸売事業や他業種の事業買収を行う譲受側にとってのメリットについて解説します。

新規の地域への事業拡大が可能になる

他エリアの医療機器卸売事業を買収することで、未進出の地域や国外への進出が可能になります。特に、医療機器卸売業界では中小企業が特定の地域で密着型のビジネスを展開しているケースが多く見られるため、未進出地域へのビジネス展開が円滑に行われる点は大きなメリットです。

また、新興国などの経済成長が見込まれる地域の医療機器卸売会社を買収することで、新たな収益源を確保し、国内事業とのリスク分散を狙ったM&Aも効果的です。

事業規模拡大による売上成長とスケールメリットの獲得

同業他社を買収することは、当然ながら買収した事業の分だけ売上が増加します。また、譲渡企業とのシナジー効果により、各社が個別に事業を行う場合よりも効率的に収益を出すことが可能となります。さらに、一括仕入れや医療機器輸送の効率化、部門の統廃合などを行うことで、コスト削減によるスケールメリットも期待することができます。

優秀な人材、医療機関との繋がり、新規機器等の経営資源の確保が可能

医療機器メーカーや卸会社の買収を行うことで、優秀な人材(営業担当や技術者等)や医療機関とのネットワーク、新しい医療機器のラインナップといった経営資源を譲渡企業から獲得することができます。このような経営資源の獲得は、技術力の向上、収益性や成長性の強化、新たなビジネスチャンスの創出などに繋がります。加えて、取得した経営資源が希少である場合は、持続的な競争優位性を確立することも可能となるでしょう。

事業立ち上げや拡大に要する時間を短縮できる

M&Aは、譲渡企業が有する経営資源を全て取得できるため、自社だけの力で新規事業への参入や既存事業の拡大を図るよりも、目標達成までの時間を短縮することができます。

また、特定の事業や地域で実績を持つ譲渡企業とM&Aを行うことで、新規事業立上げのリスクも軽減されるでしょう。特に、他業種からの医療機器卸事業への参入や、医療機器卸会社が他業種に新規参入する場合、ノウハウや知名度がない状態からのスタートとなるため、事業の成功確率が低く、時間がかかることが予想されます。

M&Aの成功ポイント

医療機器卸がM&Aを行う上で、留意すべきポイントを紹介します。

譲渡側のポイント

医療機器卸を譲渡する側のポイントです。

タイミングを見極めて決断する

会社の譲渡を検討するタイミングとしては、資金繰りの悪化や後継者不在、従業員の雇用維持、人材不足などのネガティブな理由がきっかけとなることがありますが、。景気が良く自社に利益が出ている時期や、従業員に成長余地がある時期が、M&Aにおける最適なタイミングとなります。

会社の状況や世の中の情勢を考慮して決断する

経営者が会社の譲渡を検討する際、年齢や健康状態など「個人的な事情」が理由となることが多いなかで、「会社の状況」や「世の中の情勢」を重視した理由とタイミングで決断した方が、より良いタイミングでのM&Aを実現できます。特に、医療機器卸売業界は変化が激しく、個人の事情だけで判断すると、最適なタイミングを逸する危険があるため、より冷静な判断が求められます。

業界の流れは一瞬で変わりますので、迷っている場合などは、専門家に相談し、情報収集を行うことが大切です。

譲受側のポイント

医療機器卸売業界におけるM&A成功に向け、譲受側が留意すべきポイントについて解説します。

取引先(医療機関)との関係性を重視する

取引先(医療機関等)との関係性には注意が必要です。取引先との関係が安定しているか否かはM&Aの成否に直結します。M&Aが成功する企業は、価格交渉だけでなく、どのように譲渡側に協力をしてもらい、既存得意先であるドクターや関係者との関係を継続していくかに着目して交渉を進めています。一方、M&Aがうまくいかない企業は、価格交渉ばかりに目が行ってしまい、「取引先(医療機関)との関係性維持」を疎かにしてしまいがちです。当然ながら、譲渡側も、買い叩かれるような交渉をされたら引継ぎに協力しようとは思いません。医療機器卸売業のM&Aに精通している仲介会社は、価格面と引継ぎの仕方をバランスよく考えて交渉してくれますので、M&A仲介会社を活用することは有効です。

厚生労働省の動向を把握する

厚生労働省の動向に注意することも重要です。国の施策や厚生労働省の指導のトレンドをチェックし、会社の将来性やM&Aのタイミングを見極める必要があります。

医療機器卸のM&A事例

本章では、医療機器卸・商社におけるM&A成功事例を紹介します。

ホームケアサービス山口のフランスベッドホールディングスへの譲渡

ホームケアサービス山口は、福祉用具のサービス事業や特定施設入居者生活介護事業を展開しており、フランスベッドホールディングスが同社全株式を取得しました。フランスベッドホールディングスは、ベッドや家具類、療養ベッド・福祉用具などの製造・仕入、レンタル・小売および卸売を行っています。

実行時期:2021年12月
スキーム:株式譲渡
取引価額:非公開
目的:メディカルサービス事業の基盤強化

佐野器械のメディアスホールディングスへの譲渡

メディアスホールディングスは、医療機器販売や医療材料の物流管理を行うグループ会社の経営管理を手掛けており、医療機器の販売および修理を手掛ける佐野器械の全株式を取得しました。

実行時期:2021年10月
スキーム:株式譲渡
取引価額:非公開
目的:販売エリアの拡大

日本信用リースの芙蓉総合リースへの譲渡

芙蓉総合リースは、情報関連機器や事務用機器、産業機械、工作機械、商業用店舗設備、医療機器、輸送用機器、建築土木機械などのリースおよび割賦販売業務を手掛けており、介護福祉用具、医療機器、情報機器のリース・割賦販売を手掛ける日本信用リースの株式を取得して子会社化しました。

実行時期:2021年3月
スキーム:株式譲渡
取引価額:非公開
目的:医療・福祉事業の強化

プロトセラの東和薬品への譲渡

医薬品製造・販売分野で事業を展開している東和薬品が、疾病リスクの検査分野や診断・治療用の医薬品研究開発、販売事業を手がけるプロトセラの株式を、全体の77.1%取得しました。この取得により、東和薬品はプロトセラの事業に関わることになります。

実行時期:2021年3月
スキーム:第三者割当増資引受
取引価額:非公開
目的:検査事業の立ち上げ

これらの事例からも、医療機器卸・商社におけるM&A成功には、隣接業種間で活発に行われており、適切なタイミングと相手選びが重要であることがわかります。

医療機器卸のM&Aのまとめ

医療機器卸および商社の買収を検討している企業や、自社の譲渡を検討している経営者は、業界の動向やM&Aにおける重要なポイントを理解することが大切です。医療機器業界のM&Aを進める際には、専門家のサポートを受けることが推奨されます。その際、医療機器卸・商社業界に精通している専門家に依頼することが、成功への重要な鍵となるでしょう。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。  みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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