調剤薬局のM&Aが多い理由とは?売却価格の相場、成功ポイント

市場の成熟化や、異業種からの参入などにより、調剤薬局におけるあり方は変わりつつあります。この記事では、近年の調剤薬局・ドラッグストア業界の特徴や動向を解説しながら、M&Aの成功ポイントや事例についても解説します。薬局のM&Aに興味関心がある方はぜひ参考にしてください。

調剤薬局業界について

最初に調剤薬局業界を概観します。

調剤薬局とは

調剤薬局とは、処方箋をもとに薬剤師が調剤をおこなう薬局のことです。昔は医師が診療と調剤の両方を担っていたものが、欧米の医薬分業の考え方を取り入れ、国内では7割以上が医薬分業となっていることから調剤薬局数は、現在コンビニエンスストアの数を超えるという状況になっております。

調剤薬局業界の課題

当業界の主な課題は「薬剤師の確保」「セルフメディケーションの推進」「得意分野への特化」等が挙げられます。近年調剤薬局・ドラッグストア業界では深刻な薬剤師不足が挙げられており、各社人材育成など、採用力の強化が求められ、人材の奪い合が激化している状況です。

また、市場が伸び悩むなかで、独自サービスや得意分野に特化することや、セルフメディケーションの推進において、医師や薬剤師、調剤薬局やドラッグストアといった施設との連携サポートが重要になってきております。

再編が進む調剤薬局業界

医薬品は、医師の処方が必要な医療用薬品と処方箋不要の一般用医薬品に分かれます。一般医薬品を主に扱うドラッグストアは、近年、一般用医薬品以外にもコスメや食品、飲料など生活雑貨・日用品全般を扱い、2016年には18,000店舗にまで増え、売り上げ規模も6兆を超え、ドラックストア間の競争が激化。ドラッグストアのシェア拡大のために近年はM&Aによる業界再編が進んでおります。

また、医療用薬品を扱う調剤薬局は全国で58,000カ所以上あると言われており、個人経営と大手チェーンの二極化が進むなか、近年大手調剤チェーンが後継者問題によりM&Aを考えている個人薬局に対してM&Aをおこなう流れが進んでいます。

大手調剤薬局の売上高

売上高が大きい調剤薬局チェーンほど、M&Aに積極的な傾向があります。その結果、さらに事業規模を拡大しています。

企業名売上高(百万円)店舗数
1アインホールディングス321,5771,209
2日本調剤280,161718
3クオール155,370892
4メディカルシステムネットワーク104,366428
5東邦ホールディングス92,346543
6スズケン87,742577
7トーカイ49,334149
8ファーマライズホールディングス42,327300
9シップスヘルスケアホールディングス30,499123
10メディカル一光23,09495
調剤薬局の売上高ランキング(2023年版)

調剤薬局のM&A動向

国民医療費は上昇を続けているため、調剤薬局の売り上げも着実に伸びていくと予想されています。しかしながら、薬価基準の見直しにより利益率が低下し始め、小規模な調剤薬局の経営は厳しさを増しています。このような状況下で、大手調剤薬局チェーンの中には、新たな収益源を求めてM&A等を用いて周辺事業に進出する動きも見られます。
例えば、日本調剤やクオール薬局は、ジェネリック医薬品の製造や医療人材派遣、MR派遣事業など多角化を図り、独自の強みを築いています。一方、アインホールディングスは全国に最大級の店舗網を展開しているため、薬剤師の確保と育成に重点を置いているように見受けられます。

調剤薬局の買い手として最も多い業態は、複合型でチェーン展開するドラッグストアです。調剤薬局は収益性が高いため、DgSチェーンは調剤薬局併設店の拡大を進めています。この流れは今後も続くと予想されます。

調剤薬局のM&Aが多い理由

本章では、調剤薬局業界でM&Aが進む理由を解説します。

売り手側の理由

薬局オーナーからみた譲渡を進める理由は様々ですが、主なものは以下のとおりです。

薬局側の後継者不在

調剤薬局業界でも、経営者の高齢化による事業承継が問題となっています。少子化により後継者がいなかったり、事業に魅力を見出せず後継ぎから承継を拒否されたりするケースなど親族が後を継ぐことが難しくなるケースがあります。

かかりつけ薬局の推奨

厚生労働省はかかりつけ薬局への移行を推奨しており、移行は進んでいる状況ではありますが、現在は、2021年8月に始まった地域連携薬局と専門医療機関連携薬局の認定制度の要件を満たす必要があり、この対応のため、個人経営の調剤薬局にも経営資源のさらなる確保が求められることとなっています。

買い手側の理由

薬局を譲り受ける主な理由や背景は、以下のようなものです。

スケールメリット

調剤薬局は、お薬の患者への販売価格は薬価基準により固定されていますが、医薬品卸からの仕入価格は自由に設定できます。そのため、仕入コストを抑えるほど、調剤薬局の利益率が向上する仕組みとなっています。また、調剤薬局は、経費の約70%を医薬品購入費が占めます。
こうした背景から、医薬品の大量仕入れによるボリューム・ディスカウントを図るべく、大手調剤薬局チェーンは規模の拡大を目指しています。そして、その方法としてM&Aが選択されています。

ドミナント戦略

既に複数の店舗がある地域でのドミナント(店舗集中)を強化することで、医薬品の配送効率や薬剤師の店舗間の融通が利きやすくなり、業務効率が上がります。また、その地域に自社の店舗が集中していれば、競合も参入し難いでしょう。

そのための方法としては、自力での新規出店だけでなく、既存の他社店舗の買収も有力です。

薬価や調剤報酬のマイナス改定ど

薬価改定について、以前は2年に1度の頻度で行われていましたが、2021年度からは中間年度改定も開始されたため実質毎年行われている状態となっています。また、報酬はマイナス改定傾向にあり、大手チェーンや病院隣接の薬局では、相対的に低い調剤報酬が適用される形となっています。この状況は、収益減となる流れを止めるために、大手がM&Aによって収益性を高める動機へとつながっています。

店舗運営ノウハウの獲得

調剤薬局業界では、都市型と郊外型の店舗運営において、異なる戦略や方針が求められます。都市部の店舗は、限られたスペースと高額な賃料という制約の中で、高収益商品を効率的に販売することが重要です。一方、郊外の大型店舗では、豊富な品揃えを強みとするビジネスモデルが一般的です。

このような背景から、特定地域での運営ノウハウを獲得するためにM&Aが選択されます。一例として、日本調剤による都市型店舗拡大を目指した取り組みが挙げられます。同社は、薬栄、新栄メディカル、センチュリーオブジャスティスといった中小薬局3社を買収しました。

大手商社の参入

中堅商社の一部では、従来より調剤薬局に力を入れていました。しかし近年は、住友商事や三井物産といった大手商社が、非資源分野への進出を積極的に推進しようとする傾向が顕著になっています。この戦略の一環として、多くの大手商社が調剤薬局を含むヘルスケア領域に注目しています。特筆すべきは、医薬品業界のバリューチェーン全体に幅広く投資を行っている点です。調剤薬局事業とのシナジー効果を最大限に活用しようとする狙いがあると考えられます。

こうした背景から、今後、大手商社による調剤薬局の買収案件が増加するのではないかと予測されています。業界の構造変化と相まって、商社の新たな収益源として調剤薬局事業が注目を集めている状況です。

投資ファンドの参入

調剤薬局のM&Aでは、投資ファンドも買い手として注目すべきプレーヤーとなっています。投資ファンドが調剤薬局業界に注目する理由の一つは、その事業モデルの予測しやすさにあります。「一店舗当たりの売上」と「店舗数」を掛け合わせることで、将来の業績を比較的容易に推測できる特性を持つ調剤薬局は、投資ファンドにとって魅力的な投資先となりやすいのです。

実際に、CVCキャピタル・パートナーズや日本産業推進機構グループ(NSSK)などの大手投資ファンドが、最近では大規模な調剤薬局チェーンの買収を実施しています。このトレンドが今後も続くのが、注視されています。

M&Aのメリット・デメリット

本章では、調剤薬局M&Aのメリット・デメリットについて解説します。

譲渡側のメリット・デメリット

メリット

  • 後継者不足の問題が解消する
  • 大手チェーンの参加に入ることで、事業拡大のチャンスもある
  • 会社清算と比べて、譲渡価格が高額になるケースがある

デメリット

  • 労働条件の悪化や、人員整理が行われる可能性がある
  • M&Aによって経営悪化の可能性もある

譲受側のメリット・デメリット

メリット

  • 早急な事業拡大が叶うと同時に顧客基盤も得ることができる
  • 共同仕入れによって薬剤原価を下げられる
  • 人員確保が叶い、法改正などへの対応力も上がる

デメリット

  • 経営陣の変更によって、反発や離職が起きる可能性があること
  • 経営自体が不振に陥る可能性はゼロではなく、その場合大きな損失につながる

調剤薬局の売却相場

会社の譲渡価格は、譲渡側と譲受側で条件交渉をした結果、合意した金額になります。具体的には、譲渡価格の相場は店舗数や規模により異なりますが、売買事例としては1千万円~数億円程度の案件が多いです。

調剤薬局の譲渡価格は、立地等の個別性が強いですが、一応の目安としては、以下の算式で示されてる金額となります。
売却相場=「時価純資産」+「のれん」+「その他要素」
以下、それぞれの計算要素について、簡単に説明します。

時価純資産 

貸借対照表上の棚卸資産やソフトウエア、設備、未収金などの資産を時価に評価し、そこから買い手に引き継ぐ負債があれば、それを控除して時価ベースでの純資産を算出します。

のれん 

のれんとは、その調剤薬局が将来に渡り利益(キャッシュフロー)を生み出す力を数値化したものです。便宜上、営業利益※またはEBITDAの2~4年分と見積もることがあります。EBITDAは、(正常)営業利益に減価償却費を加えることで簡便に算出します。
※譲渡後に不要となる費用(課題や役員報酬や交際費など)を控除した正常利益に修正した営業利益

上場する調剤薬局チェーンのEBITDAマルチプル(EV/EBITDA倍率)は、およそ7~8倍です。そのため、自社のEBITDAの7~8倍が事業価値で、それにネットキャッシュ(現金マイナス有利子負債)を足したものが株式価値という見方があり得ます。
しかし、実際にそのような倍率がつくことは少なく、上記したように検討の初期段階では3年分程度で見ることが多いです。売上の大きな店舗ほど倍率は大きくなる傾向があります。

その他要素

調剤薬局のM&Aでは、上記で算出された「時価純資産」+「のれん」の金額をベースとしつつも、譲受企業からすると以下のような項目も重要であるため、大いに考慮して譲渡価格が算出されます。

  • 技術料
  • 処方せん応需枚数
  • 集中率
  • 薬剤師の状況(人数、年齢、補充可能性)
  • 店舗の立地
  • 処方元医院の状況(事業継続の可能性、院長の評判など)
  • 独自の集客ルート

調剤薬局M&Aを成功させるポイント

本章では、M&Aを成功させるポイントについて解説します。

優秀な人材の確保

現在、大手チェーンでも薬剤師の人材不足が続いており、M&Aをする際は薬剤師や販売登録者を中心に多くの優秀な人材を確保しているほど好条件でのM&Aが叶う確率が高まります。

独自サービスの展開

現在、当業界でも差別化を図るために独自サービスの展開が求められています。自社の独自のサービスを用意することができれば、M&Aの際は付加価値がつき好条件での成立につながります。

地域との関係性

調剤薬局は地域との関係性がどれほど築けているかが重要になる事業モデルであり、地元の人々から日常利用する場所として欠かせない店舗だと位置づけられることで、M&Aの際も高い評価を受けることができる。

信頼できる専門会社選び

M&Aでは、専門な知識や経験が必要となり、信頼できる専門会社とのつながりは欠かせません。また、財務や税務などの対応には税理士や弁護士といった専門職との連携も有効であり、M&Aの検討段階から信頼できる専門企業に相談することが良いとされています。

調剤薬局のM&A事例

本章では、調剤薬局M&Aの事例について紹介します。

ウェルシアホールディングス

調剤薬局型のドラッグストアを全国展開しているウェルシアホールディングスは、M&Aを積極的におこなっており、近年では、2020年5月に、愛媛を中心に調剤薬局を運営するネオファルマーおよびサミットの全持ち株取得をして子会社化させました。また、2022年7月には、沖縄でドラッグストアを展開する「ふく薬局」の株式取得をしました。

ココカラファイン

ドラッグストア・薬局だけでなく、訪問看護やサービス付き高齢者向け住宅を運営するココカラファイングループワークは、2021年2月、大手ドラッグストアのマツモトキヨシグループにおいて、経営統合契約が締結され、同年10月に経営統合が実現しております。

クスリのアオキ

石川県を中心に、中部、関東、近畿、東北にチェーン展開をするクスリのアオキホールディングスは、2020年10月、京都府宮津市で食品スーパーを運営するフクヤとM&Aを実施しました。今後は、両社の持つ新鮮な食材の品揃えと、ドラッグストアの強みを生かし、地域から愛される店舗づくりを目指しています。

ツルハドラッグ

薬局併設型ドラッグストアや介護ショップなどを、全国に2,420店舗展開しているツルハホールディングスは、2020年5月にJR九州が運営するドラッグイレブンの株式を51%取得し子会社化しました。ツルハとしては、九州沖縄エリアでの出店強化や、共同仕入れ、経営資源の共有によるコスト削減を目的とした事例となります。

クオールホールディングス

クオールホールディングスは、2008年にはローソンと業務提携をするなど、積極的なM&Aにより業務拡大を続けている企業です。近年では、2016年には、新潟や山形で調剤薬局を85店舗展開する共栄堂との資本業務提携を行い、株式譲渡契約を締結しました。また、2023年1月には、パワーファーマシーの38店舗の調剤薬局を買収、2012年にアポプラスステーションを、2019年に藤永製薬をグループ会社化し、CSO事業や医薬品製造販売事業にも進出しています。

調剤薬局・ドラッグストア業界の未来予想

調剤薬局・ドラッグストア業界は成熟期に入り、大手チェーンが占める割合が今後も増加することが予想されています。また、2023年1月26日から始まった電子処方箋とそれに伴うAmazonの日本の薬局市場の参入も、業界に大きな影響を与えると予想されています。

一方で、ドラックストア業界は、業界の売上シェアを大手10社が占めている状況ですが、2022年の調剤報酬の改定から大手の個店への買収は減少し、中堅チェーンのM&A(業界再編)が進んでいます。例としては、クオールによるパワーファーマシーの買収や、住友商事によるトモズの買収などが有名です。

こうした流れののち、近い将来では調剤薬局及びドラックストア業界再編が終了することも予想されているほどで、M&Aの時期を逃すと、売却が困難になるケースも予想されるため、M&Aの検討タイミングがより重要となっていく業界です。

調剤薬局M&Aのまとめ

本記事では、調剤薬局及びドラッグストアのM&Aについて解説してきました。当業界において大切なことは、業界動向を踏まえたうえで、自社にとって適切なアドバイイスと譲受先の情報を有しているM&A仲介会社などの専門家とのつながりが重要であるということです。

我々、みつきコンサルティングは税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、調剤薬局、ドラッグストアのM&Aに精通した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。

M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

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