M&Aで「会社を売りたい」経営者へ。売り手の利点と欠点・注意点

自社の後継者問題や今後の事業拡大を見据え、M&Aを検討する企業が増えています。しかし、譲渡側におけるM&Aのメリットやデメリットを正しく把握している人は多くありません。この記事では、M&Aにおける譲渡側のメリットやデメリットだけでなく、注意点や成功のためのポイントについて解説します。

売り手とは

M&Aにおける「売り手」とは、自社の経営権を譲渡することや自社の事業のみを譲渡することを検討している株主や経営陣のことを言います。

売り手がM&Aを選択する理由       

売り手企業がM&Aを選ぶ理由はさまざまな理由があります。一例ではありますが、売り企業がM&Aを選択する理由を紹介します。

  • 経営者の高齢化による後継者不足の問題が深刻化
  • M&Aのイメージが、乗っ取りなどの悪いものからイグジット(出口戦略)の1つとして世間に浸透。
  • M&A検討企業への相談窓口やサポート体制の充実が進みM&Aが検討しやすくなった。

M&Aによる売り手のメリット    

売り手企業のM&A実施によるメリットについて解説します。1つのメリットだけではなく複数のメリットを享受できるのがM&Aの良いところでもあります。M&Aを検討されている売り手企業の方は参考にしてください。

後継者不足の問題解消               

日本における経営者の高齢化による後継者不足問題は、深刻な状況です。中小企業庁のデータによると、2020年の廃業件数は約5万件あり、そのうち黒字経営であった企業は全体の6割以上であったというデータもあります。親族内及び社内に後継者がいない場合、M&Aを後継者問題の解決策として実施することが増えております。

従業員の雇用の安定化

M&Aは、ほとんどのケースが売り手企業よりも大きい企業が譲受企業となるため、雇用の安定化が図れます。売り手企業のイグジット(出口戦略)が廃業の場合、従業員の雇用が失われることになりますので、M&Aの実施により売り手企業の従業員の雇用を守ることも可能です。

創業家利潤   

M&Aの実施は、経営権の譲渡や事業の譲渡を行うため、譲受企業より譲渡対価が支払われます。株式譲渡スキームで譲渡した場合、譲渡対価は売り手企業のオーナー個人に支払われることになります。売り手企業の事業規模によっては多額の対価を獲得できるため、その資金を元手に新たな事業を起こしたり、セカンドライフを満喫するなどハッピーリタイアを実現したりすることも可能です。

事業拡大のチャンス

自社を成長させ続けるためには、人材・設備・資金などに経営資源を投下し続けることが重要とされていますが、中小企業では継続的な投資は難い状況にあります。M&Aにより譲受企業のグループ会社となることで、豊富な経営資源を獲得することができ、売り手企業としても経営基盤を整えることが可能となります。経営基盤の強化は、事業拡大に重要な要素な一つです。

M&Aによる売り手のデメリット

売り手企業にとってM&Aは、多くのメリットを獲得できる一方で、デメリットもあります。デメリットは、事前準備や対応策によっては回避することも可能ですので、デメリットに対する対策検討の参考にしてください。

経営方針の変更による従業員の離職

M&Aにより譲受企業のグループ会社となると、事業運営方針や業務フローが変更されることがあります。また、売り手企業の従業員の労働条件などの変更も起こる可能性があります。これらの変更は、M&A後の従業員のモチベーションを下げたり、離職者が出たりすることも考えられます。

M&A実行前に、売り手企業と譲受企業間でM&A後の雇用・労働条件・運営方針について協議しすり合わせを行うことが重要です。やむなく変更が必要な場合は、M&A後、譲受企業と従業員間でコミュニケーションを取り、丁寧な説明のもと実施する必要があるでしょう。

得意先や顧客との関係が悪化   

売り手企業としては、得意先や顧客への配慮が必要となります。譲受企業によっては、取引条件が見直されたり、取引ストップとなったりすることもあります。売り手企業は、自社と得意先や顧客との関係性を考慮し、譲受企業を選定することが重要です。場合によっては、譲受企業の許可を取った上でM&A実行前に得意先や顧客へ丁寧な説明をすることも良いでしょう。

買い手企業が見つからない       

売り手企業の譲渡条件が厳しい、業績不振がはなはだしいなど、譲受候補企業が見つからない場合もあります。自社のみでの対応は難しいため、M&A仲介会社などの専門家に依頼するようにしましょう。また、イグジット(出口戦略)をM&Aのみに絞ると、M&Aが成功しない場合、廃業や倒産のリスクが高まるため、複数のイグジットを検討しておくことをお勧めします。

売り手が注意すべきこと

最近では、M&Aの情報がすぐに手に入る環境も整ってきたため、売り手企業でも情報の整理が必要となります。M&Aにおける売り手企業の注意点について解説しますので、情報の整理に役立ててください。

M&Aの正しい知識を持つ        

M&Aは乗っ取られるなど悪いイメージがありましたが、公的機関によるM&A相談窓口が開設されたり、補助金が付いたりと事業承継問題等の選択肢として世間にかなり浸透しています。M&Aを正しく理解し、自社の課題解決策として検討してみることをお勧めします。

情報漏洩リスクを理解する       

M&Aを実行するためには、売り手企業の事業の詳細や財務情報、従業員情報などを開示する必要があります。自社の秘密情報を第三者へ開示することになりますので、情報が漏洩するリスクがゼロとは言えません。売り手企業と譲受企業間で秘密保持契約書の締結をするなど、秘密情報の取り扱いには細心の注意を払うようお互いに意識することが重要です。

税金を踏まえる           

M&Aは譲渡スキームによってかかる税金が異なります。法人株主が子会社等の株式を株式譲渡スキームでM&Aを実行する場合、法人税等が発生します。個人株主が、売り手企業の株式を株式譲渡スキームでM&Aを実行する場合、個人所得税や住民税が発生することになります。M&Aによる対価を計算する際、かかる税金を考慮し検討することをお勧めします。

お相手探しを急ぎ過ぎない              

売り手企業が買い手候補企業を検討する際、自社との相性が良い企業や自社を高く評価してくれる企業を選ぶことが重要です。M&Aの専門家であるアドバイザーの助言を参考にすることは必要ですが、最終的には売り手企業自らの意思で決定する必要があります。M&A実行までのスピードを重視し過ぎて、検討がままならない状況で判断しないよう注意が必要です。

従業員や取引先の理解を得る             

従業員や取引先がM&A実行の事実を知った際、不満や不安の声が出ることがあります。M&A実行に至る背景やM&A後の運営方針など丁寧に説明し、理解を得る必要があります。

M&A実行の説明会のタイミングや表現には気を付ける必要があります。

M&Aを成功させるポイント

売り手企業のM&Aを成功させるには、いくつものポイントがあります。すべてのポイントを抑えることは難しいかも知れませんが、ポイントを理解することでM&Aの成功率が高まりますので参考にしてください。

自社の魅力を高める   

買い手企業はM&Aを通して、自社の事業拡大や成長を見込んでいます。魅力ある企業として評価してもらえるよう、業績向上や経費削減などに取り組むことはもちろんですが、技術力の向上やブランド力の強化なども自社の魅力を高めることに繋がりますので、普段から自社の魅力向上を意識することをお勧めします。

嘘や隠し事をしない   

買い手企業はM&A実行後、売り手企業に関係するリスクも引き継ぐことになります。リスクを洗い出し、対策を講じることにより買い手企業はM&Aの成功率を高めることができます。売り手企業からの情報開示で虚偽があった場合、買い手企業が分析にかけた時間とお金が無駄になります。

また、M&A後に情報開示が虚偽であったことが発覚すれば、訴訟問題に発展することもあります。M&A後に大きな問題に発展しないよう虚偽の報告や曖昧な回答は避けることが重要です。

早めの決断や行動を心がける   

買い手企業がM&Aを行う目的の1つは経営資源の早期確保があります。M&Aは買い手企業にとって時間を買うと表現されることもあり、売り手企業が決断を先延ばしにするのは望ましくありません。また、企業価値の算定は時価を用いて計算されるため、時間経過とともに自社の価値が下がる恐れもあります。焦る必要はありませんが、速やかな決断と行動を心掛けることが重要です。

譲れない条件を決めておく       

M&Aは、売り手企業と買い手企業の双方の希望や条件をすり合わせ最終条件を決定します。よって自社の条件が全て受け入れられることはほとんどありません。あらかじめ譲れない条件と譲歩可能な条件を明確にしておくことで、お互いが納得する条件のすり合わせが可能となります。

適切な専門家へのサポートを早期に依頼する

最近では、M&Aはマッチングサイト等を活用して売り手企業や買い手企業の経営者が自らM&Aを進めることも可能ですが、専門性が高く、負担も大きいM&Aの交渉を自社単独で進めることは非常に困難です。適切な専門家の活用は、M&Aにおける最新情報やハードな交渉ノウハウなどの活用が可能となるため、M&A検討段階でも早期に支援を依頼することがM&Aの成功の近道と言えます。

会社を売りたい経営者のまとめ

売り手企業におけるM&Aは、自社が抱える課題解決の選択肢として、自社のイグジット(出口戦略)として、最も合理的で多くのメリットを享受できる方法と言えます。しかし、M&Aにはデメリットもありますので、デメリットに対しての対応策も考慮しM&Aの検討を進めることをお勧めします。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して選択可能です。M&A検討の際は是非一度、ご相談くださいませ。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人

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