法務デューデリジェンスとは、譲受企業がM&Aを検討する際に、譲渡企業の法務・労務リスクを詳細に把握するための調査です。この記事では、法務デューデリジェンスの目的、調査項目、進め方、およびM&A全体における重要性について詳しく解説します。
法務デューデリジェンスとは
法務デューデリジェンス(法務DD)は、M&Aの最終合意に至る前に、譲受企業が譲渡対象企業を調査し、リスクの有無を確認する重要な手続です。これは、法律や契約に関連するM&A法務の一部であり、譲受企業にとって譲受に関わるリスクを回避するための調査となります。
▷関連:デューデリジェンスとは?M&Aの重要調査で、成功の鍵!
M&Aにおける法務デューデリジェンスの定義と重要性
法務デューデリジェンスは、譲受企業が譲渡企業を譲受するに際し、特に重大な法的問題の有無を確認するための法務調査です。
調査結果によって、譲渡価格や譲渡条件、譲受後の対応、そして譲受そのものの可否が変わることがあります。M&Aの成功には、法務DDを含む各専門家の関与が不可欠です。
法務デューデリジェンスの目的
法務DDの目的は、M&Aに伴う法的リスクの発見と評価です。重要資産の権利確認、訴訟の有無、取引が事業運営の障害とならないかなどを調査します。リスクが発見された場合は、契約上の対処や取引中止の判断が必要です。
実際に、法務デューデリジェンスの結果、訴訟紛争や大きな法律問題が潜んでいる場合には、M&Aを取り止める(ディール・ブレイク)ことも少なくありません。中止に至らない場合でも、リスクを考慮した譲渡価格や譲渡条件の交渉が行われます。
税理士法人グループによる財務デューデリジェンス
M&Aに潜む財務リスク、見逃していませんか?
法務デューデリジェンスの一般的な進め方
法務DDは、個別のM&A取引によって順序が異なる場合もありますが、一般的には以下のような流れで実施されます。
1.調査体制と範囲の検討
まず調査体制を整え、調査範囲を検討します。効率的な進行のためには、事前に調査範囲を明確に設定することが重要です。専門家への相談も有効です。
2.資料の開示請求と確認
譲渡企業に必要書類の開示請求を行い、開示された資料や回答を確認します。追加の資料や質問を繰り返しやり取りすることで、情報の精度を高めます。
必要事項の漏れを防ぐため、専門家にチェックリストの作成・点検を依頼することが推奨されます。
バーチャル・データルームの活用
近年ではオンラインのバーチャル・データルームを活用することで、情報漏洩防止や資料管理の効率化が図られています。
3.経営陣への質疑応答と現地調査
資料確認後、譲渡企業の代表者や担当役職員らに対するインタビューを実施します。特に、M&Aの責任者である経営者へのインタビュー(マネジメント・インタビュー)は重要です。この段階では、資料監査の際に抽出した問題点や疑問点を解決するための的確なヒアリングが重要になります。
また、必要に応じて譲渡企業を訪問し、現地調査(現地DD)を行うこともあります。現地でしか確認できない機密書類を見つけることもあり、資料開示請求の段階で開示されなかった情報を確認した際に新たなリスクを発見することもあるため、非常に重要です。
4.法律上の問題点の検討と報告
調査結果をもとに法律上の問題点を検討し、報告書にまとめます。報告書はM&Aの取引条件に反映されます。
▷関連:中小企業M&Aの相談先ランキング|銀行・税理士・仲介会社の違い
法務デューデリジェンスにおける主な調査項目
調査項目は対象会社の業種や規模、M&Aの目的によって異なります。以下に一般的なチェックポイントを紹介します。
組織に関するチェックポイント
譲渡企業の組織を把握することは、法務デューデリジェンスにおいて最も基本的な項目の一つです。
定款、登記簿、議事録等の確認
社内規程や過去の組織再編、重要会議の議事録なども調査対象です。設立手続の適法性も確認します。
▷関連:中小企業のM&A仲介とは?メリットとデメリット・費用相場・選び方
株式に関するチェックポイント
譲渡企業が株式会社である場合、株主構成や潜在株式、株主間契約などを調査します。
株主構成、潜在株式、株主間契約等の確認
現在の株主構成やこれまでの株主の変遷、種類株式や潜在株式(新株予約権)、株主間契約、従業員持株会の状況などを確認します。
株式譲渡における注意点
株式の適法性確認はM&Aの有効性に直結するため、慎重な確認が必要です。
中小企業では、株券の不交付、譲渡制限承認の未実施など、瑕疵のある株式譲渡が多く行われている実態があります。また、名義株主や敵対的少数株主がいるため、M&Aがディール・ブレイクになったり、後に訴訟・紛争になったりするケースも少なくありません。
▷関連:2025年版【M&A仲介会社一覧】上場・非上場・会計系を紹介
事業・契約に関するチェックポイント
譲渡企業がどのような事業を行っているか把握し、その事業の特徴やリスクを検討することも重要です。契約は、資産と並び、事業を構成する最も主要な要素の一つです。
主要契約書レビューとチェンジ・オブ・コントロール条項
主な売上先・仕入先との取引に関する契約書を確認したり、対象会社の事業において通常想定されるリスク等をチェックします。対象会社が締結している契約は、様々な角度からの検討が必要です。
いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項(支配権の移転が生じる場合に、契約の相手方に対する事前通知や承認を要する旨を定めた条項)の有無を確認することは特に重要です。この条項により、M&Aに伴い契約が解除されたり、多額の契約更新料や保証金を要求されたり、取引条件の変更(悪化)を求められたりするリスクがあります。
また、譲渡企業にとって不当に不利な条項や対象会社の事業を制約するような条項が含まれていないか等のチェックも欠かせません。継続的な取引が可能かどうかは業績に影響し、譲渡価格にも影響を与えます。
契約書が存在しない場合の対応
契約書がない場合でも、取引実態を確認し、リスクを評価する必要があります。
資産・負債に関するチェックポイント
重要資産の種類や権利、負債の有無を確認します。
重要な資産の種類と権利確認
貸借対照表や税務申告書等を参照しながら、対象会社にとって重要な資産としてどのようなものがあるか、その資産について対象会社はどのような権利を有しているか、第三者の担保が付されている資産はないか等を確認する必要があります。
重要な資産としては、不動産、知的財産、金融資産などがあります。不動産登記簿謄本や特許登録原簿などで所有権や担保状況、実施権者などを確認します。譲受後の使用継続可能性も重要です。
簿外債務等の負債チェック
貸借対照表や税務申告書等を参照しながら、対象会社にとって重要な資産としてどのようなものがあるか、その資産について対象会社はどのような権利を有しているか、第三者の担保が付されている資産はないか等を確認する必要があります。
重要な資産としては、不動産、知的財産、金融資産などがあります。不動産登記簿謄本や特許登録原簿などで所有権や担保状況、実施権者などを確認します。
法的リスク承継とスキームによる違い
事業譲渡方式や会社分割方式では、合意・規定した負債のみを承継し、借入金や保証などの偶発債務は承継しないことが多いため、負債に関する法務リスクを承継しない範囲はデューデリジェンス事項から外れます。 他方、買掛金などの流動負債を承継対象とする場合は、これらも法務DDの対象となります。
流動資産・負債は財務DDの対象とすることが多いですが、法務上問題がありそうな事項は法務DDの対象とするため、財務DD担当者との密な連携が重要です。法的に切り離せても、事実上承継せざるを得ない簿外債務も存在し、これらは法務DDのスコープとなります。
▷関連:財務デューデリジェンスの目的とは?手順・分析項目・費用相場を解説
知的財産に関するチェックポイント
知的財産の権利保有状況や第三者の権利侵害リスクを確認します。
権利保有状況と侵害リスク
商標権その他の知的財産権、およびライセンスを受けている知的財産権のリストと関連契約書を確認します。知的財産権に係る紛争の履歴も調査します。特許、商標、著作権などの管理状況や侵害リスク、そして個人情報保護法への対応状況は、法務デューデリジェンスにおいて特に確認すべき重要な事項です。
資料開示の難しさ
他方、知的財産に関するデューデリジェンスにおいては、対象会社が守秘義務等を理由にライセンス契約書等の資料開示を拒み、当該知的財産やライセンス契約の内容等を把握することができない場合がある、という特徴もあります。
労務(人事・労務)に関するチェックポイント
労務は事業の重要な構成要素であり、雇用契約や就業規則、未払賃金、労働条件、ハラスメント、退職・解雇に関する法的リスクなど多岐にわたる確認が必要です。
雇用契約、就業規則、未払賃金等の確認
雇用契約や就業規則に違法な点はないか、従業員らに対する未払賃金はないか、必要な規程・届出類は具備されているか、従業員らとの間に紛争はないかなどを確認します。
従業員の労働条件や職場におけるパワハラ・セクハラ問題、退職や解雇に関する法的リスクをチェックします。
労務リスクと法務DDの必要性
最近では長時間労働や未払残業代が問題となることもあり、人事・労務の分野は法務リスクが高く、法務DDは必須です。譲受後のトラブルを防ぐため、従業員情報や労働環境を把握する必要があります。
スキームによる調査範囲の違い
株式譲渡方式では法人格を承継するため労務DDが必要ですが、事業譲渡方式では対象事業に従事している従業員のみを承継することが多く、調査負担が軽減されます。
役員に関する法的関係(委任条件など)も株式譲渡では承継するためDDが必要ですが、事業譲渡では不要で負担が減少します。未払残業代などの簿外債務の存否調査と、労働法を中心とする法令遵守(コンプライアンス)の調査という2つの視点で行うこととなります。
▷関連:M&Aでの人事デューデリジェンスとは?調査項目・労務DDとの違い
許認可に関するチェックポイント
事業に必要な許認可の有無や承継可能性を確認し、無許可営業等のリスクを回避します。
事業に必要な許認可の確認
譲渡対象会社の事業においてどのような許認可が必要か、すでに許認可を取得している場合には当該許認可を取り消されるリスクや更新できないリスクはないか等は重要な検討項目です。無許可・無認可の事業展開がないかどうかも確認します。
検討結果によっては、スキームや譲受対象を見直すこともあります。
許認可の承継と再取得のリスク
事業譲渡や会社分割では許認可の再取得が必要な場合が多く、取得までの期間や事業停止リスクを考慮します。株式譲渡方式が採用されることが多い理由の一つが、この許認可の存在であると言われています。各業界ごとで許認可は複雑な要件であるため、業界に精通したコンサルタントに確認をすることが望ましいと言えます。
コンプライアンス(法令遵守)に関するチェックポイント
譲渡対象会社の法令遵守状況は、法務デューデリジェンスにおいて非常に重要なチェックポイントです。
各種法令遵守状況の確認
対象会社の個人情報管理に問題がないか、各種業法を遵守しているか、過去に当局から摘発された事例やリコール事案は生じていないか等、コンプライアンス関連の検討事項は多岐にわたります。業務に関する法令はもちろんのこと、無許可・無認可の事業展開、反社会的勢力との関与、会社法、税法、労働関係法令、個人情報保護法、下請法等にも留意が必要です。近年は、SDGsやESGへの意識の高まりから、「人権」や「環境」分野に関する取り組みについても検討の対象とされることがあります。
法令違反リスクとM&Aスキーム
法令遵守上の問題がある場合、株式譲渡を避け、事業譲渡方式や会社分割方式により対象事業のみを承継することで、法的には対象会社の法令遵守上の問題を承継しないようにすることができます。
しかし、対象事業にそのような問題が内包されていると、譲受企業が許認可を再取得できない可能性が生じたり、対象事業を従前どおり運営した場合に同様の問題が再発することもあります。
いずれのスキームでも対象事業の法令遵守については、法務デューデリジェンスを実施することが好ましいと言えます。
紛争・訴訟に関するチェックポイント
対象会社が事業運営の過程で法令に違反している場合、譲受後の影響は経済的リスクだけでなく、さらに大きな問題が生じることがあります。
係争中の訴訟と潜在的リスク
対象となる企業が訴訟や紛争の当事者である場合、その内容次第では大きなリスク要因となり得ます。
裁判が進行中のケースでは、請求金額や勝敗の可能性などの情報も合わせて確認します。さらに現時点では表面化していないものの、将来、訴訟や紛争が勃発する潜在リスクや過去に審理された件についてもリサーチします。
過去の訴訟に関しては、再度関連する問題が発生する可能性があるため、特に慎重に調査が求められます。
訴訟・紛争リスクとM&Aスキーム
株式譲渡では訴訟リスクを承継するため、事業譲渡等での回避が検討されます。ただし、対象事業に訴訟や紛争が存在するということは、譲受企業が対象事業を承継し、今後、運営するに際して、同じような訴訟や紛争が生ずる可能性を内包すると言えます。譲受企業が承継する資産、契約、従業員に関する訴訟・紛争は、法的に承継するか、又は法的には承継しないものの事実上承継してしまうことがあります。
スキームに関わらず、対象会社の訴訟や紛争については法務デューデリジェンスを実施することが好ましいと言えます。
環境問題に関するチェックポイント
不動産の汚染状況や環境法令違反の有無を確認し、将来の浄化費用負担リスク等を評価します。
不動産関連の汚染リスク
土壌汚染や水質汚濁があると使用制限や費用負担が発生するため、慎重な確認が必要です。
営業所・事務所・事業所等における環境問題の内容、環境問題に関して所轄官庁に提出・受領した資料、廃棄物・有害物質の産出・処分に関する資料が調査項目に含まれます。
環境問題リスクとM&Aスキーム
株式譲渡方式でM&Aを行う場合は、譲受企業は対象会社の法的な権利義務の全てを承継し、対象会社の保有する不動産を承継することから、そこに内包される土壌汚染や水質汚濁があった場合、その環境問題に関する責任も承継することとなります。
事業譲渡方式や会社分割方式で行う場合、譲受企業は対象会社の事業を構成する権利義務から、承継すべき権利義務のみを承継できるため、その中に不動産が存在しなければ、環境問題に関する責任を承継しないこととなります。
譲受企業としては、土壌汚染や水質汚濁などの環境問題に関する責任を内包するような不動産については、事業譲渡で不動産を除外することが望ましいです。
▷関連:環境デューデリジェンス|目的・調査項目・流れ・費用相場とは?
法務デューデリジェンス以外のM&Aプロセスにおける法務の関与
弁護士等の専門家は、法務デューデリジェンスだけでなく、M&Aプロセスの様々な局面で重要な役割を果たします。
M&A契約書の作成と交渉
M&Aに関する契約は、通常の商取引に関する契約に比べ、内容が広範にわたりかつ複雑です。
DDや価格算定の結果を踏まえて、表明保証事項、前提条件事項、誓約事項、補償条項、価格調整条項等を作り込んでいく必要があり、法務DDと同様、専門性が問われる作業と言えます。譲渡企業にとっても、どのような義務や責任を負うかに直結するものであるため、専門家のサポートを得ながら交渉に臨むことが重要です。
クロージングに向けた手続
契約締結が完了すると、譲受企業・譲渡企業双方においてクロージングに向けたプロセスに入ります。これは、代金決済や必要書類の引渡し等を行い、M&Aの取引実行を行うプロセスです。契約締結日からクロージング日までの間に一定日数を挟み、その間に必要な諸手続を行う場合もあれば、契約締結と同日にクロージングが行われる場合もあります。
個別のM&A取引によっては、デューデリジェンスで発見された事項への対応に加え、公告を行ったり、法定の備置書類を作成したり、独占禁止法や外為法に関連する届出を行う必要がある場合もあり、クロージング前に必要な作業は様々です。つつがなくクロージングするには入念な準備が必要です。弁護士等の専門的な視点からの検討が必要な局面が続きます。
PMIにおける法務的視点
PMIとは、Post Merger Integrationの略であり、クロージング後の統合プロセスを指します。せっかくM&Aを完了したのに、譲受後の統合がうまくいかず事業運営がうまくいかない、シナジーが生まれない、というケースは少なくありません。M&Aはクロージングで終わりではなく、そこからが始まりです。M&Aを成功させるためには、適切なPMIの実施が不可欠であり、この局面においても専門的ノウハウが必要となります。
▷関連:M&A仲介会社の比較|信頼できるアドバイザーを選ぶポイント
M&Aスキーム選択と法務デューデリジェンス
M&Aのスキーム(株式譲渡、事業譲渡、会社分割など)によって、法務デューデリジェンスの対象や負担が大きく異なります。
株式譲渡方式の場合
株式譲渡方式では、譲受企業は譲渡対象会社の法人格そのものを承継します。そのため、譲渡対象会社に帰属する権利義務(資産、負債、契約、許認可、労務関連、訴訟、環境問題等)の全てを包括的に承継することとなります。
したがって、法務デューデリジェンスにおいては、譲渡対象会社全体の広範な項目を調査する必要があります。
▷関連:株式譲渡とは|中小企業の事業承継での利点と欠点・M&A後は?
事業譲渡方式・会社分割方式の場合
事業譲渡方式や会社分割方式では、譲受企業は譲渡対象会社の特定の事業や、それに付随する個別の資産・負債、契約などを選択して承継します。そのため、法務デューデリジェンスの対象は、承継対象となる事業や資産、負債、契約などに限定されます。
譲受企業が承継すべきものを取捨選択できるため、株式譲渡方式に比べて法務デューデリジェンスの負担を大幅に軽減できる場合があります。ただし、許認可の承継が困難な場合が多いなど、スキーム特有の留意点もあります。
▷関連:事業譲渡とは|利用するケース・利点と欠点・手続・税金を解説
▷関連:会社分割とは?M&Aでの利用法・利点と欠点・税制適格スキーム
その他の法務上の留意点
M&Aを実施する際には、法務デューデリジェンスや契約以外にも、様々な法務上の手続や規制への対応が必要となる場合があります。
企業結合規制への対応
ある市場において一定シェアを有する企業同士がM&Aを行う際、あまりに大きなシェアを有することとなるなどして当該市場における競争を実質的に制限するような場合には、独占禁止法上、当該M&Aの実施が規制されることがあります。この規制を「企業結合規制」といいます。企業結合規制の対象となるM&Aであるかを判断するために、譲受企業において届出(「企業結合届出」)を行ったうえ、審査(「企業結合審査」)を受ける必要がある場合があります。
企業結合審査を要するとなった場合、審査期間中はM&Aの実行が禁止され、場合によっては当該M&Aを実行できないこともあります。そのため、弁護士等を交えて事前に企業結合届出の要否や内容を検討し、審査期間を考慮したクロージングまでのスケジュールを組んでおく必要があります。
外為関連手続への対応
外国会社や外国に居住する個人、それらの者が支配権を有する日本の会社等がM&Aにおける譲受企業となる場合、対象会社の業種や取得する持分の比率によっては、外為法に基づく届出や報告が必要になる場合があります。クロスボーダーM&Aにおいて必ず留意すべき点であり、事前届出を要するとなった場合、事前届出後の一定期間はM&Aの実行が禁止されることから、企業結合規制と同様、クロージングまでのスケジュールにも影響が生じます。そのため、届出や報告の要否については、譲受企業だけでなく譲渡企業側も留意・検討しておくことが必要になります。
税理士法人グループによる財務デューデリジェンス
M&Aに潜む財務リスク、見逃していませんか?
法務デューデリジェンスに関するよくあるご質問(FAQ)
法務デューデリジェンスは、M&Aにおける重要な調査です。ここでは、その目的や調査項目、手続などについてよくあるご質問にお答えします。
Q:法務DDの一般的な流れは?
法務デューデリジェンスは、一般的に以下の流れで進められます。
まず、譲受企業から譲渡企業に必要な資料や質問リストが送付されます。譲渡企業からの資料開示や回答を受けて確認し、追加の質問などを繰り返します。その後、譲渡対象会社の経営陣へのインタビューが実施されます。
これらの調査結果に基づいて、法律上の問題点が検討され、最終的に報告書が作成され、報告会が行われます。
Q:契約書を全部チェックするのですか?
基本的に、譲渡対象会社の重要な取引契約(主要な売上先・仕入先との契約、ライセンス契約、賃貸借契約、融資契約など)は確認します。
ただし、M&Aのスキーム(株式譲渡か事業譲渡か等)や、デューデリジェンスの調査範囲によっては、対象となる契約書の範囲が異なります。特に、事業譲渡や会社分割の場合は、対象事業に関連する契約書に限定されることが多くなります。
Q:法律違反が見つかったらM&Aはどうなるのですか?
法務デューデリジェンスの結果、重大な法律違反や法的リスクが発見された場合、譲受企業はその内容を評価します。リスクが大きいと判断された場合、M&A取引自体を中止することもあります。
中止しない場合でも、発見されたリスクを考慮して、譲渡価格の引き下げや、契約条項によるリスク軽減策の導入などが交渉されます。
Q:法務デューデリジェンスにかかる費用はどのくらいですか?
法務デューデリジェンスの実施には、弁護士への依頼が不可欠です。費用は、おおよそ100万円から500万円程度が相場とされていますが、これはあくまで目安です。実務では「タイムチャージ」で計算されることが多く、調査の対象(スコープ)を適切に設定しなければ、不必要な調査に時間を要し、費用が無駄にかかってしまう可能性があります。M&Aの目的や期待される利益を考慮し、事前に調査範囲を明確にすることが、効率的な法務デューデリジェンスを進める上でのポイントになります。小規模なM&Aの場合には、譲受価格に応じてリスクの高い領域に限定して実施することも検討されます。
Q:法務DDって会社の何を調べるのですか?
法務デューデリジェンスでは、譲渡対象会社の組織、株式、事業・契約、資産・負債、知的財産、労務、許認可、コンプライアンス(法令遵守)、紛争・訴訟、環境問題など、幅広い項目を調査します。特に、潜在的な法的リスクがないかを詳細に確認します。 特に重要度の高い調査項目は以下の通りです。
- 債権・債務(資産・負債):債権が適切に管理されているか、時効になっていないかなど、信憑性を確認します。不動産登記簿謄本や特許登録原簿などを用いて、所有権の帰属先や担保状況、実施権者の有無などを調べます。
- 株主・株式:株主が適切な手続に基づいて株式を所有しているか、非公開会社における譲渡制限が遵守されているかなどを調査します。株主構成や転換社債などによる株主数の変動要因も確認し、譲渡に関する決定権者を正確に把握します。
- 契約関係:契約内容の確認と、譲受後の契約存続に関する事項を調査します。法的に取引が継続可能か、重要な取引先との関係がM&A後に継続できるかなどを検証します。
- 人事・労務:従業員の労働条件や職場における問題、退職や解雇に関する法的リスクをチェックします。長時間労働や未払い残業代など、法令違反に該当する可能性のある事項についても注意深く調査します。
- 法令の遵守状況:対象企業が事業運営の過程で法令に違反していないかを確認します。業務に関する法令のほか、無許可・無認可の事業展開、反社会的勢力との関与、会社法、税法、労働関係法令、個人情報保護法、下請法なども留意点となります。許認可の承継や更新の可否も重要な確認事項です。
- 紛争:対象企業が訴訟や紛争の当事者であるか、その内容や潜在的なリスクを詳細に調べます。過去に審理された件や、時間外労働、未払い賃金、知的財産権の侵害、顧客との契約違反など、将来的に賠償責任が発生する可能性のある法的リスクについてもリサーチします。
- 環境汚染:M&Aに伴って不動産を引き継ぐ場合、工場や土地の汚染状況に注意します。環境関連法規に違反していないか、浄化措置の費用負担が発生するリスクがないかを慎重に確認します。
Q:法務デューデリジェンスを行う上での注意点はありますか?
法務デューデリジェンスを実施する際には、いくつかの重要な注意点があります。
- 情報漏洩の防止:対象企業から得た情報は機密性が高く、外部への情報漏洩は厳禁です。情報漏洩があった場合、M&A交渉が破談になる可能性や、信頼を失い損害賠償請求されるリスクがあります。
- 資料のみに依存しない:対象企業から提出された資料だけで法的リスクの有無を判断することは避けるべきです。譲渡企業が有利な情報のみを提供することが懸念されるため、経営陣へのインタビュー(マネジメントインタビュー)など、複数の情報源から得られた内容も総合的に考慮する必要があります。
- 多角的な視点での判断:法務デューデリジェンスだけでなく、財務デューデリジェンスやビジネスデューデリジェンスといった他の領域のデューデリジェンスも実施し、M&Aの全体像を多角的な視点から判断することが重要です。
- 専門家への相談:法務デューデリジェンスは高度な専門性を要する作業です。不明な点や判断に迷うことがあれば、M&Aコンサルタントや弁護士などの専門家に早めに相談することが推奨されます。確かな知識と経験を持つ専門家のサポートを得ることが、M&Aを成功させる上で不可欠です。
法務デューデリジェンスのまとめ
法務デューデリジェンスは、M&Aにおける譲受企業にとって、対象会社の法的リスクを特定し、評価するための不可欠な手続です。組織、株式、契約、資産、負債、知的財産、労務、許認可、コンプライアンス、紛争、環境など多岐にわたる項目を調査し、潜在的な問題を洗い出します。その結果はM&Aの実行可否や取引条件に大きな影響を与えます。弁護士等の専門家による適切な実施が、M&A成功のために非常に重要となります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A専門会社として15年以上の業歴があり、中小企業の財務デューデリジェンスに特化した経験実績が豊富な公認会計士・税理士が在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務DDを含めた財務調査をワンストップで対応可能ですので、財務DDをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
著者

- 事業法人第四部長/M&A担当ディレクター
-
国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。M&Aの成約実績多数、M&A仲介・助言の経験年数は10年以上
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
2025年6月24日法務デューデリジェンスとは?M&Aで確認すべき法的リスクと進め方
2025年6月21日持株会社のメリットとデメリット|ホールディングス設立の注意点
2025年6月7日事業譲渡の「のれん」とは?評価・算定方法、仕訳・税効果を解説
2025年6月7日事業譲渡契約上の「地位承継」とは?M&Aでの違いを解説