会社乗っ取りは違法?その手口と事例、対策を解説!

会社乗っ取りは、上場企業や大企業のみならず中小企業でも起こりうるリスクです。会社のオーナー(対象会社の発行済み株式の過半数を保有している者)としては、あらゆる会社乗っ取りに対処すべく、対策を事前に準備しておく必要があります。本記事では、会社乗っ取りに関する事例やどのように対策を講じるべきかを詳しく解説します。まだ乗っ取り対策を行っていない会社オーナーや経営者の方は参考にしてください。

会社乗っ取りとは何か

まずは、会社が乗っ取られるとどのような状況になるのか解説します。

会社の乗っ取りは、現経営者が経営権を失い、他者によって経営が行われる状態を指します。会社を乗っ取られる方法は様々なケースがありますが、第三者から出資を持ちかけられて、対象会社の発行済み株式数の過半数を掌握されることにより会社を乗っ取られるケースなどがあります。

その他にも、相続によって株式を取得したり、現株主から株式を取得したりすることをきっかけとして乗っ取りを企てられることがあります。中には、現オーナーが病気などで休んでいる間に、株主総会や取締役会を開催し全株主の同意なく株式取得を進め、会社を乗っ取るなどの事例もあります。

相続や株式取得により会社を乗っ取られたとしても、所定の手続きが適法に行われていれば問題にはなりません。どんなことがきっかけで会社の乗っ取りを受けるか分からないため、オーナーは様々なことを想定し会社乗っ取り対策を講ずるようにしてください。

会社乗っ取りの事例

会社乗っ取りの方法は、「非上場の中小企業」と「上場企業」で異なる特徴があるため、それぞれに合った有効な対策を行うことが求められます。この記事では、それぞれの代表的な事例について解説します。

  • 中小企業での会社乗っ取り事例:相続クーデター
  • 上場企業での会社乗っ取り事例:敵対的買収(M&A)

自社の防御策検討の参考にしてみてください。

中小企業における会社乗っ取り事例~相続クーデターの危険性

非上場の中小企業で発生しやすい「相続クーデター」と呼ばれる会社乗っ取りの事例についてご紹介します。日本では創業者一族が経営する企業では、親から子へ株式を移転し事業承継を行っている会社が多く存在しますが、このようなケースでも会社乗っ取りの危険性が潜んでいます。

まず、事業承継について解説します。事業承継とは、現オーナーが後継者に経営権を譲るため、保有する対象会社の株式の大部分を後継者に譲渡することを指します。仮に現オーナーが対象会社の発行済み株式を100%保有しており、保有している全ての株式を、一人の後継者に譲渡するのであればオーナーの意思で株式を譲渡しているため、会社の乗っ取りが発生する余地はないと言えます。

しかし、非上場の中小企業では、他の役員や元従業員など現オーナー以外の者が株式の一部を保有しているケースも多くあります。このような会社においては、相続クーデターにより会社の乗っ取りが発生する可能性があります。非上場会社の株主が複数いるケースは、株式の譲渡方法は様々ですが、オーナーが信頼した者に株式を分け与えるケースがほとんどです。

この場合株主は分散していますが、オーナーと株主との間での信頼関係が成立しているため、経営に大きな影響が及ぶことはありません。しかし、信頼関係を気付いてきた株主が亡くなり相続が発生した場合、その相続人の人柄によってはこの信頼関係が崩れる可能性があります。

この信頼関係が崩れることによって他の少数株主と協力し経営権を奪い会社を乗っ取ることを企てる者が出てくる可能性があります。このように相続が発生したことがきっかけで、会社を乗っ取られることを相続クーデターと言います。非上場企業でも、自社の株式の譲渡は原則自由に行えるため、ほとんどの会社で譲渡制限を設け自社が好まない株主が経営に関与できないよう対策がされています。会社乗っ取りの脅威となる株主を排除するための対策としても有効ですが、相続はこの譲渡制限の効力が及ばないため、注意が必要です。

これらのように相続人が、会社乗っ取りの脅威となる可能性がある場合、売渡請求権を行使することにより脅威を排除することが可能です。売渡請求権とは、会社にとって好ましくない者が株式を取得したと判断した場合、その人物に対して会社が株式の売り渡しを請求できる権利のことを言います。

特別支配株主(議決権の90%以上保有する株主)が売渡請求権を行使すると強制的に売り渡しを通知することができます。株式会社では、定款で株式の売渡請求権が定められていることが多くありますので確認してみてください。売渡請求権は相続によって株式を取得した者に対しても行使することが可能で、売渡請求権の行使対象となる株主には、売渡請求権に関する議決権が認められていないため、売渡請求権の効力は十分に機能します。

売渡請求権を行使する要件は非常に厳しいことから、要件が満たなかった場合も想定し、その他の対策も必要であると言えます。こうした相続クーデターの対策に最も有効なのは、むやみに株主を分散させないことや、会社の安定的な運営を考慮した相続になるよう遺言書などで相続人を明確に指定しておくことも対策の一つとして検討してみてください。

上場企業における敵対的買収(M&A)による会社の乗っ取り事例

上場企業において会社を乗っ取るケースとしては、敵対的買収によるM&Aがほとんどです。これは通常のM&Aが対象企業同士で友好的かつ建設的な協議を行って進められるM&Aとした場合、敵対的買収は、買収を行う側が独自の意向で強引にM&Aを進めることを指します。

具体的には、対象会社の経営陣から正式な合意を得ることなく、対象会社株式を購入し、経営権獲得することになります。上場会社の場合、株式取得には株式市場での買い注文の他、TOB(take-over bid)と呼ばれる株式公開買付けが用いられることも多くあります。

株式公開買付け(TOB)とは、対象会社の一般株主に対し、「買取り価格」「買取り株数」「買付け期間」などを公表し、証券取引所外で株式を買い付ける手法のことを言います。株式を取得し経営権を掌握することを目的に行うため、より多くの一般株主から株式を取得することが可能で、市場の流通株価よりも高い株価が設定されるケースが多いのが特徴と言えます。

市場での株式取得やTOBで取得した株式の持ち株比率が一番高くなれば、対象会社の経営陣の同意を得ることなく、会社の経営権を掌握できるため、会社の乗っ取りが完了することになります。

ただし、TOBに対して応じるかは一般株主の判断によるため、必ずしも買収企業の思惑通りに株式を取得することができる訳ではありませんが、対象会社の経営陣に買主側の意向に賛同する株主がいれば、驚くほどのスピードで進行してしまうため、多くの上場企業が何らかの買収防衛策を講じています。

日本の事例では、買収防衛策が成功したケースが大半を占め、敵対的買収が成立した例はわずかです。敵対的買収は、対象会社の経営陣からの承諾を得ず実行する行ためであることから、収集可能な情報に限界が買収側も難しい判断が必要となります。さらに買収防衛策を導入することで、買収コストが高騰するリスクもあることから過剰に警戒する必要はないかも知れません。それでも、無策の状態では会社乗っ取りに対する防衛が困難となることも事実であり、専門的な対策を準備しておくことは重要です。

企業乗っ取りの手法について

企業乗っ取りの主な手法を5つ紹介します。これらの手法は、法律や税務の専門家等が支援して進めることが多く法律的に合法であるケースが大半です。中には違法行行為に相当するものもありますので、会社乗っ取り対策検討の際の参考にしてください。

敵対的買収(M&A)

上場企業での乗っ取り手法としては、敵対的買収(M&A)が挙げられます。通常のM&Aは、売手側・買手側両者の経営陣が条件等の合意によりM&Aが実行されますが、敵対的買収(M&A)では売手側の意向を加味せず、買手側が一方的に経営権を掌握することを目的に行われるM&Aを言います。

具体的には、市場やTOBを活用し対象会社の株式を買い集め一方的に経営権を掌握します。TOBは、買い付け期間、価格、予定数などが公告され、買付け価格は市場価格より高く設定されることが多いため、スピーディーに買収を進めたい場合に使われる手法です。しかし、日本の上場会社では、この敵対的買収への対策を入念に実施している会社が多く、敵対的買収(M&A)が成功するケースは多くないのが現状です。

株式の相続

対象会社株式の相続がきっかけで企業乗っ取りの脅威にさらされるケースもあります。特に中小企業においては注意が必要です。会社にとって好ましくない株主(経営者)を排除するため、多くの中小企業は定款で自社株式の譲渡制限を設けおります。譲渡制限が設定された株式譲渡は、取締役会や株主総会での譲渡承認が必要となります。しかし、相続による株式の移動はこの譲渡制限の効力が及ばないため、会社にとって好ましくない株主(経営者)が入ってきてしまう可能性があり、これらの株主らが、会社乗っ取りを画策するケースがあります。

親族等によるクーデター

創業者が高齢になり自社の事業承継のため、創業者が親族などに株式を分散させるケースがあります。対象会社の議決権が創業者以外の手に渡ることで、株式を承継した親族が団結してクーデターを起こしたケースがあります。具体的な例としては、株式を承継した者同士が団結し株主総会で代表取締役(オーナー)の解任決議を通じて創業者を追い出したなどの例があります。

不正な登記変更

会社は、代表者や役員など登記しなければならない情報がいくつかあります。これらの登記は対象会社の株主総会で決議された内容を基に実施されます。これを逆手にとって会社乗っ取りを狙う者が、株主総会議事録を偽造し、役員や代表者を変更するなど虚偽の内容で登記変更を行い、会社乗っ取りを企てる事例もあります。これまでに紹介した会社乗っ取り手法は、敵対的であるものの適正な手続きで実施される手法のため、違法行ためには当たらないものでしたが、この手法に関しては明確な違法行ためと言えます。

総会屋等による違法行為

総会屋とは、株主の権利を乱用し対象会社の企業価値を下げる行為を実施することで、不当な報酬を得ることを目的とした団体のことを指します。最近では会社法の改正も手伝って総会屋の勢力が衰えてきたと言えますが、以前は上場会社の株主総会の妨害や協力するために金銭の要求や、中小企業では対象会社の株主や役員になり企業価値を下げる行為を行い、会社乗っ取りを実行するケースも散見されました。不当な金銭の要求は違法行為と言えますが、株主の権利行使の範囲内であれば違法行為とは言い切れないという判断の難しいケースもあります。

会社が乗っ取られた後の展開は?

会社が乗っ取られた場合、前オーナー側と乗っ取り側で友好的な条件交渉が行われないまま買収が進むため、役員や従業員の処遇については会社を乗っ取った側の意向に従うしかありません。彼らの経営方針によって、職場環境や処遇の変更が行われる可能性は否めません。一方で、買収した会社を発展させたいという意向を持っていれば、会社にとって財産である役員や従業員に配慮した経営が行われる可能性もあります。どちらに転ぶかは乗っ取られた後にしか分からないため、雇用環境は不安定な状況と言えるでしょう。

会社が乗っ取られた場合、違法性はあるのか?

会社が乗っ取られた場合、違法性があるか否かはどのような手法で会社を乗っ取られたかによって判断されることになります。これまでご紹介した敵対的買収(M&A)・相続・親族クーデターなどの手法は、敵対的な行ためであるものの株式の取得方法は合法的に取得されたものであり、適正な手続きに基づいて実施されており違法性はないとの判断になります。しかし、虚偽の変更登記などは手続き自体が違法行為であるため、違法性があると判断することができるでしょう。

会社乗っ取りの可能性がある会社の対策

自社が第三者からの会社乗っ取り防止策として、会社オーナーが取り組むべき効果的な対策を紹介します。この記事では種類株式と呼ばれる特別な権限を持つ株式を発行する方法や敵対的買収を進める買手側に、買収意欲を下げさせることによって会社乗っ取りを回避するなどの対策について解説します。自社の会社乗っ取り対策検討の際の参考にしてください。

特別な効力を持つ「種類株式」の発行

会社が発行する株式には「普通株式」以外にも「種類株式」と言うものがあります。普通株式と種類株式は株主平等の原則に基づいて扱われる株式と同様ではありますが、種類株式は普通株式と異なる権限を設定することができます。設定できる権限は9つありますが、会社乗っ取りの防止策として有効な権限を持つ種類株式としては、「取得条件付種類株式」と「拒否権付種類株式」の2つがあります。2つの種類株式について、解説します。

取得条項付種類株式の活用

普通株式の場合、会社が株主から自社の株式を買取る際、会社は株主総会や取締役会等で自社株式の買取りの可否や買取り時の金額について決議が必要となります。しかし、取得条項付種類株式はあらかじめ定めた条件が満たされた場合、他の株主の同意なく、会社が決定した価格で強制的に買い取ることができる株式となります。例えば、相続などで自社の株主に会社にとって好ましくない株主が経営に参画するリスクがある場合、取得条項付種類株式の権限を行使することで強制的に、会社が株式を買取ることができ、リスクを排除することが可能となります。

黄金株(拒否権付種類株式)とは

拒否権付種類株式とは、株主総会や取締役会決議等に対して拒否権を持たせる設定が可能な株式のことを言います。拒否権付種類株式は、その権限の強さから「黄金株」とも呼ばれます。株式の譲渡・新株予約権の発行・代表取締役の変更など会社に関わる重要事項の決定は、株主総会や取締役会での決議が必要となります。

会社乗っ取りを企てる株主が現れたとしても、黄金株を保有していれば、拒否権を行使することで会社乗っ取りのリスクを回避することが可能となります。また、創業者から後継者へ事業承継をする際も、事業承継後の後継者を監視する目的でも黄金株が活用されるなど、会社をコントロールするための策として活用されています。

敵対的買収の防衛策

敵対的買収とは、売主側の合意を得ず買主側が強引に買収を進めることを指し会社乗っ取りの一つです。そのような敵対的買収(会社乗っ取り)への対策として、以下の防衛策が挙げられます。

ポイズンピル

会社が敵対的買収を実行された場合、敵対的買収を企てる株主以外の株主に市場よりも安く取得できる新株予約権を発行し敵対的買収を企てる株主の株式保有比率を下げ、買収コストの増加や経営権掌握までの長期化などを誘発させることにより買収を断念させる防衛策を言います。

ホワイトナイト

敵対的買収を企てる株主が現れた際に、友好的な別の会社に買収してもらうことにより、敵対的買収を企てる株主から逃れる防衛策を言います。

ゴールデンパラシュート

敵対的買収を受けた際に買収価額を高騰させるための仕組みを作り、敵対的買収を企てる株主の買収意欲を下げることで敵対的買収を回避する防衛策を言います。例えば、敵対的買収を受け、役員が退任する際の退職金等を高額に設定するなどの仕組みを構築したりします。

クラウン・ジュエル

敵対的買収を受ける企業の企業価値を高くしている事業や資産を売却し、企業価値を下げることで相手の買収意欲を下げる防衛策を言います。

会社乗っ取りのまとめ

会社の乗っ取りは、上場会社・中小企業問わずどの会社にも起こりうるリスクの一つです。親族や身近な人、関係性の薄い第三者など、いつ・誰が画策するのか予測はできません。よって会社オーナーや経営者は、自社の会社乗っ取りリスクに対して備える必要があります。会社乗っ取り対策については、弁護士など専門家に相談し自社にあった対策を講ずるよう検討してみてください。また、むやみに株式を分散しないことやリスクのある人物に自社の株式が相続されないよう管理するなど、会社乗っ取りのリスクを軽減することも重要と考えます。

弊社みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 また、グループ会社である、みつき税理士法人との連携で、税務や法務のサポートもワンストップで対応可能でございます。M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングに是非一度、ご相談くださいませ。 

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋事業法人第二部長
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。
監修:みつき税理士法人