株式譲渡・事業譲渡の挨拶状|作成・送付方法、テンプレ・雛形あり

株式譲渡はM&A戦略の一環で、会社の全部もしくは一部の」株式を売却することです。株式譲渡が完了した際には、取引先や関係者に直接挨拶しながら説明を行うのが一般的ですが、同時に挨拶状を送ることも重要です。本記事では、譲渡企業側が送付する株式譲渡や事業譲渡の挨拶状について、テンプレートも交えて解説します。

事業承継とは

事業承継について説明する前に、企業における事業承継の意義や取引先への影響について整理したいと思います。

事業承継とは、起業家やオーナー経営者が築いた会社を次世代の経営者へ引き継ぐことで、経営者だけでなく企業全体の若返りを図ることです。

企業にとっての事業承継の目的は、経営者の高齢化対策だけではありません。一般的に、事業承継が遅れ経営者の高齢化が進むと売上や利益率が低下する傾向があるため、企業は事業承継対策を積極的に行う必要があります。

M&A後の挨拶状の送付先・送付時期

挨拶状は主に「取引先」に送付します。「取引先」といっても会社には多くの関係者が存在します。取引先を大きく分けると、以下の3つが挙げられます。

  • 譲渡側の取引先
  • 譲受側の取引先
  • 取引先以外の関係者

これらの取引先に対して、譲渡企業による単独、または譲受企業との連名で挨拶状を送付します。

挨拶状の目的は、株式譲渡・譲受の「挨拶」であり、関係者への通知を主な目的としています。つまり、第三者からの情報による取引先への混乱や不安を回避することが狙いです。取引先としてはこれまでの取引が継続できるのか、M&Aによって自社に影響は出ないのか、など不安に思われることもあります。そのような懸念を払拭するためにも、丁寧な挨拶が必要です。

挨拶状の送付タイミングは、できるだけ早く実施することが望ましいです。株式譲渡を実行した日から1週間以内に送付することが目安です。送付方法としては、手紙が一般的ですが、最近ではメールでの送付も増えており、どちらでも問題ありません。関係者との普段のやり取りに合わせて、適切な手段で送付しましょう。取引が多い先など関与度合に応じて、事前に電話や訪問をすべき先など精査が必要です。

株式譲渡の挨拶状

株式譲渡した後の挨拶状を具体的に見ていきましょう。

株式譲渡の挨拶状の記載項目

株式譲渡を通じた株式譲渡のお知らせや通知・案内を行う際、挨拶状に記載すべきポイントがいくつかございます。以下に、それらの重要事項を解説いたします。

  • 冒頭の挨拶
  • 株式譲渡日
  • 譲受企業名
  • 新しい代表取締役(代表取締役等が交代する場合)
  • 送り主の会社名と住所

それぞれの項目については、以下で詳しく説明していきます。

冒頭の挨拶

以下に、一般的に使用される冒頭の挨拶の例を記載します。

  • 拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
  • 拝啓 〇〇の候、貴社ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。

これらの文言の中から適切と思われるものを選び、文頭に添えることが望ましいです。

株式譲渡日

株式譲渡日以降、権利義務が変わるため、挨拶状には必ず記載すべきです。

譲受企業名

譲受企業名を記載することで、株式の引継ぎ先を紹介することができます。併せて、企業規模(売上や従業員数)所在地、事業内容などを記載することで、取引先が一目でどのような会社に引き継がれたかが分かるようにすべきです。

新しい代表取締役(代表取締役等が交代する場合)

株式譲渡により会社のオーナーが変わると、代表取締役や取締役の変更が一般的に行われます。そのため、新たな代表取締役等を挨拶状に記載することが望ましいです。

送り主の会社名と住所

株式譲渡による株式承継は、会社のオーナーが変わるだけで、社名や住所は通常変わりません。しかし、その事実を取引先や関係者に伝えるためにも、送り主の会社名や住所を挨拶状に記載することが重要です。

株式譲渡の挨拶状の雛形

上記の内容を踏まえた、株式譲渡による株式承継の挨拶状のテンプレートは以下のようになります。

拝啓 〇〇の候、貴社ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。

さて この度弊社は令和〇〇年〇月〇日をもちまして〇〇〇株式会社に株式を譲渡いたしました。

また弊社株主総会ならびに取締役会におきまして左記のとおり役員が選任されそれぞれ就任いたしました。

つきましては今後〇〇〇グループの一員となり、新体制のもと一層の社業の発展に努力いたす所存でございます。

なにとぞ倍旧のご支援ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

まずは略儀ながら書中をもちましてご挨拶申し上げます  敬具

令和〇〇年〇月吉日 株式会社〇〇〇〇

代表取締役社長 〇〇〇〇

————————————————

代表取締役会長 〇〇〇〇(新任)

代表取締役社長 〇〇〇〇

取締役副社長 〇〇〇〇(新任)

取締役 〇〇〇〇

監査役 〇〇〇〇(新任)

これらの要素を含めつつ、株式譲渡に伴う挨拶状を作成することが、適切な情報提供と良好な印象を与える上で重要です。

旧株主(経営者)が譲渡後も関与(引継ぎ等)する場合、その旨も記載することで取引先への安心感に繋がります。

事業譲渡の挨拶状

事業譲渡した後の挨拶状を具体的に見ていきましょう。

事業譲渡の挨拶状の記載項目

挨拶状に記載すべき項目やポイントについて詳しく解説します。挨拶状は、事業譲渡をスムーズに進めるための重要なツールであるため、適切な内容と形式で伝えることが大切です。

まず、挨拶状に記載すべき項目は以下の通りです。

  • 文頭の挨拶
  • 事業譲渡の概要
  • 譲渡対象の事業に関する情報
  • 譲渡企業と譲受企業の情報
  • 事業譲渡の実施日
  • 伝えたいメッセージ
  • 送り主の所在(下記記載ひな形の場合は連名での送付のため、譲渡企業・譲受企業の両方)

事業譲渡の挨拶状の雛形

具体的な挨拶状の記載例を以下に示します。これは、X社がY社にカフェ事業を譲渡する際の、取引相手や関係者への挨拶状です。

事業譲渡のお知らせ

拝啓 貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、このたび当社 X株式会社は 令和○年○月○日(以降、「事業譲渡日」)をもちまして、都心部を中心に展開しておりましたカフェ事業(ブランド:○○)を、同じくカフェ事業を手掛ける株式会社Yに譲渡することになりました。

従って、事業譲渡日をもって、弊社カフェ事業は廃業いたします。ここに永年にわたりご愛顧、ご芳情を賜りましたこと、心より御礼申し上げます。

今後弊社はレストラン事業を中心とし、引き続き皆様のご要望にお応えしていく所存でございますので、ご高承の上、より一層のご指導ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願いいたします。

まずは、略儀ながら書面をもちまして、ご挨拶申し上げます。

敬具

令和○年○月吉日

X株式会社

代表取締役社長 ○○ ○○

従前のカフェ事業に関するお引き合い、ご注文は、事業譲渡日以降、Y社にて承りますので、下記までご連絡の程、宜しくお願い申し上げます。事業譲渡日以降に当該事業にて賜りましたご注文に関しましては、Y社宛のご注文として取り扱わせていただきますことを、何卒ご了承願います。

【事業譲受会社】株式会社Y

(所在地) 〒○○○‐○○○○ 東京都○○区○○○○ ○‐○(電話番号) ○○‐○○○○‐○○○○

(FAX番号)○○‐○○○○‐○○○○

【事業譲渡会社】

X株式会社

(所在地) 〒○○○‐○○○○ 東京都○○区○○○○ ○‐○

(電話番号) ○○‐○○○○‐○○○○

(FAX番号)○○‐○○○○‐○○○○

本件に対するお問い合わせは、X株式会社までお願い申し上げます。

挨拶状を作成する際には、文章に適切な敬意を示すと同時に、事業譲渡がどのような影響を及ぼすかを明確に伝えることが重要です。また、取引関係者への対応についても、事業譲渡日以降の連絡先や手続きをわかりやすく記載しましょう。

以上が、事業譲渡の挨拶状の作成方法とポイントになります。適切な挨拶状を作成し、関係者への説明や連絡を行うことで、事業譲渡を円滑に進めることが可能です。

事業譲渡の挨拶状に関連する注意事項

事業譲渡の挨拶状を作成・送付する際には、以下の2点に留意することが重要です。これらを押さえておかなければ、事業譲渡後に大きな損失を被るリスクが生じることがあります。

  • 債務引受公告
  • 詐害行為取消権

債務引受公告

事業譲渡によって引き継がれる債務は、原則として営業上発生した債務に限定されます。しかし、挨拶状の文面が不適切な場合、本業とは無関係な債務を引き継ぐ義務が生じることがありますので、注意が必要です。

なお、事業譲渡の当事者間で譲渡対象から除外した債務であっても、債務引受の公告を挨拶状で行ってしまうと、本来は対象外だった債務を引き継ぐ義務が生じてしまうことがあります。

最高裁の判例においては、「(挨拶状に)債務を引き受ける旨の文言がなくても、事業譲受人が債務を引き受けたものと認められる内容であれば、債務引受の公告に該当する」との判断が出ています。

例えば、「責任を持って債務を引き継ぐ」などと挨拶状に記載してしまうと、営業に関係のない保証債務なども引き継ぐ義務が生じることがあります。事業譲渡後に挨拶状を作成する際は、債務引受公告に該当しないよう注意しましょう。

詐害行為取消権

詐害行為取消権とは、債権者に損害を与えることを認識しながら行った行為(詐害行為)について、債務者がその行為を取り消すことができる権利のことを指します。事業譲渡を行うことで、企業の資産が一定程度失われることになります。

失われた資産の額が多額である場合、債権者の権利が害されることになり、詐害行為に該当する恐れがあります。詐害行為取消権が行使されると、事業譲渡の効力が取り消されることになります。例えば、事業譲渡の対価が不当に低い場合などは、詐害行為と認定される可能性があります。

また、事業譲渡の対価が実際に支払われない場合も詐害行為に該当します。詐害行為と判断されると、事業譲渡の効力が取り消されるだけでなく、役員が損害賠償を請求されることもあります。挨拶状を送付した後に事業譲渡の効力が失われると、取引先や顧客の信用を損なうことになりかねません。

信用を失った企業は存続が困難な状況に陥ることがあります。挨拶状を送付する前に、事業譲渡が詐害行為に該当しないかどうか、専門家の弁護士に確認しておくことが望ましいです。その上で挨拶状を作成・送付すれば、事業譲渡後も円滑に事業を展開することができるでしょう。

M&Aに伴う挨拶状のまとめ

株式譲渡や事業譲渡は事業承継の代表的な手法です。M&Aを実行した場合、ビジネスマナーとしても周知のためにも、挨拶状を作成し送付しましょう。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。 

みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

野口慎矢
野口慎矢熊本支店長 兼 事業法人第四部長
国内証券会社(現SMBC日興証券)にてクライアントの資産運用を支援。みつきコンサルティングでは、消費財・小売業界の企業に対してアドバイザリーを提供。事業承継案件のみならず、Tech系スタートアップへの支援も行う。
監修:みつき税理士法人

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