株式を無償で譲渡するメリット・デメリットや契約・税金・3つの注意点を解説 

親族間などで株式譲渡を行う場合は、無償で株式譲渡をして事業承継するケースが多くみられます。この記事では、事業承継の手法として株式の無償譲渡を検討したい人に向けて、メリット・デメリットや注意点について解説します。かかる税金や手続きの流れについても解説するため、無償譲渡を検討している人はぜひ役立ててください。

1.無償でする株式譲渡とは

株式譲渡とは「有償」と「無償」の2つがあります。有償は対価を得て株式を譲渡する手法です。また、無償は対価を受け取らずに譲渡する手法を意味します。有償の株式譲渡は、M&Aの手法として一般的です。対価を現金で受け取るケースが多く見られ、スピーディーに現金化を実現できる点が特徴として挙げられるでしょう。

一方、無償の株式譲渡は、子どもや親族などの事業承継で活用されます。対価の支払いがない譲渡であるため、譲受側の金銭的な負担なしでM&Aを進められます。有償と無償は、税金面が大きく異なる点が主な違いです。

2.株式譲渡を無償でする2つのメリット

株式譲渡を無償でするメリットを2つ解説します。

手続きが簡素である

株式譲渡を無償でするメリットは、手続きが簡素である点です。そもそも株式譲渡自体が、一般的に手続きが簡素なものとなっています。会社が所有している資産・負債などについて、個別の手続きをする必要がないため、スムーズに譲渡を進めることが可能です。無償の株式譲渡は、有償よりさらに手続きを省略できるため、時間や手間があまりかかりません。

事業を存続しながら手続きできる

株式譲渡を無償でするメリットは、事業を存続しながら手続きできる点です。株式譲渡は、株式が譲渡側から譲受側に移動するだけの手続きです。そのため、従業員・取引先などに個別に承諾を得る必要がありません。

また、事業譲渡などとは異なり、組織内の再編もない点が特徴です。組織内の体制を変更しなくてもよいため、通常の事業を継続しながら手続きを進められるでしょう。

3.株式譲渡を無償でするデメリット

無償で株式譲渡を行う際には、譲渡側は本来得られるはずの利益を失います。利益を損なう点が、もっとも直接的なデメリットといえるでしょう。無償であれば金銭面でのマイナスはないと考えられがちですが、手続きを進めるうえでは企業価値の算出が必要となります。算出にあたって費用が発生するため、この点はデメリットといえるでしょう。

また、譲受側は、資産だけではなく負債も引き継ぐリスクを抱えています。得られる資産だけを考えるのではなく、相手方がどのような負債を抱えているのかを、入念に精査しておきましょう。

4.無償での株式譲渡における3つの注意点

ここでは、無償で株式譲渡をする際の注意点を解説します。

株式譲渡契約書は必ず交わす

無償での株式譲渡における注意点は、株式譲渡契約書を必ず交わすよう手続きを進めることです。確かに、契約書がなくても株式譲渡は行えます。しかし、親族間などであってもトラブルは十分に起こり得る可能性があります。後のトラブルを回避するため、必ず契約書を作成し締結するのがよいでしょう。

株式譲渡契約書の内容

株式譲渡契約書には、下記の内容を明記するとよいでしょう。

  • 株式が無償で譲渡されること
  • 承認されるまで譲渡側が譲受側以外に株式を譲渡しないこと
  • 株式無償譲渡の後に株主名簿の書き換えをすること

など

また、契約を交わした日付、双方の住所・氏名、無償で譲渡する株式の数の記載も必要です。これらの内容を記載した通常A4サイズ1枚程度の書類が、株式譲渡契約書となります。

税金がかかる

無償での株式譲渡における注意点は、手続きそのものに費用がかからなくても税金は発生する点です。無償で行う際には「税金がかからない」と誤解する人もいるでしょう。しかし実際は、税金がかかる場合も出てきます。どのような税金がかかるかは、個人か法人かで変わる点に注意しましょう。無償で株式譲渡をする際に発生する税金の詳細については後述します。

契約内容は慎重に精査する

無償での株式譲渡における注意点は、契約内容の精査を徹底することです。有償での株式譲渡と同様、公的に必要な手続きや届出はありません。そのため、すべてが自己責任となります。自らの責任において、契約および手続きを進める必要がある点を、十分に理解しておきましょう。

自分たちだけで進めるのが不安な場合には、プロのサポートを受けるのが安心です。M&Aのプロに依頼をすれば、漏れや抜けを防ぎつつ手続きを進められるでしょう。

4.無償で株式譲渡したときにかかる税金

譲渡側・譲受側がそれぞれ、個人か法人かによって課せられる税金は異なります。課せられる税金は、下記表のとおりです。

 譲渡側譲受側
個人から個人課税なし贈与税
個人から法人みなし譲渡所得税法人税
法人から個人法人税所得税
法人から法人法人税法人税
譲渡側・譲受側が課せられる税金の違い

以下で、それぞれについて詳しく解説します。

「個人」から「個人」へ無償で株式譲渡する場合

個人から個人へ無償で株式譲渡する場合は、下記の税金が課せられます。

  • 譲渡側:利益を得ていないため課税されない。
  • 譲受側:贈与税が発生する。譲渡された株式の価格から、贈与税の基礎控除額110万円を引いた額に課税される。

譲受側にかかる贈与税は累進課税であるため、株式の時価が高いほど負担が大きい点に注意しましょう。専門家に相談して、贈与税対策をしておくのがおすすめです。

「個人」から「法人」へ無償で株式譲渡する場合

個人から法人へ無償で株式譲渡する場合は、下記の税金が課せられます。

  • 譲渡側:みなし譲渡所得税が発生する。実際は、無償で譲渡した株式を時価で譲渡したとみなされる。そのため、譲渡所得税20.315%が課税される。
  • 譲受側:株式を「時価で取得した」として受贈益を得たとみなされ、法人税が発生する。

「法人」から「個人」へ無償で株式譲渡する場合

法人から個人へ無償で株式譲渡する場合は、下記の税金が課せられます。

  • 譲渡側:法人税が発生する。雇用関係が譲渡側と譲受側にある場合には賞与として扱う。雇用関係がない場合には寄付金として扱う。
  • 譲受側:所得税が発生する。雇用関係にあれば給与所得、なければ一時所得として扱う。

有償の場合には、譲渡側に法人税が発生します。ただし、譲受側に税金は発生しません。

「法人」から「法人」へ無償で株式譲渡する場合

法人から法人へ無償で株式譲渡する場合は、下記の税金が課せられます。

  • 譲渡側:法人税が発生する。
  • 譲受側:個人から法人へと同じく、株式を時価で取得したとして受贈益を得たとみなされる。そのため、法人税が発生する。

5.贈与税の事業承継税制とは

事業承継に伴う無償の株式譲渡を行う場合、「事業承継税制」という贈与税の特例制度の対象となります。贈与税の事業承継税制とは、2018年の税制改正以降、自社株を引き継いだときの税負担を実質ゼロにできる制度です。適用を受けるためには、2024年3月31日までに都道府県知事に特例承継計画を提出して認定を受ける必要があります。

特例承継計画は、経営革新等支援機関のアドバイスを受けて作成しなければならないため、専門家のサポートが必須です。

参考:事業承継税制特集|国税庁

6:無償で株式譲渡する際の流れ

ここでは、無償で株式譲渡する際の流れについて解説します。

1.株式譲渡承認の請求をする

無償で株式譲渡する際には、まず株式譲渡承認の請求を行いましょう。請求は、株式譲渡承認請求書を会社に提出することで進められます。上場会社の場合は株式を自由に売買できますが、非上場会社は会社の承認が必要になる点は、あらかじめおさえておきましょう。

2.株主総会・取締役会で承認する

株式譲渡承認の請求をしたら、株主総会あるいは取締役会で審議が行われます。取締役会設置会社なら取締役会において、取締役会非設置会社なら臨時株主総会において、株式譲渡の承認決議を取りましょう。臨時株主総会を開催する場合は、株主全員に対して開催を通知する書面を送付します。

株主総会あるいは取締役会では、承認が口約束とならないよう必ず議事録を残しましょう。すべてのフローにおいて、トラブルにならないよう厳格に手続きを進める必要があります。

3.決議内容を通知する

株主総会あるいは取締役会で株式譲渡の承認がなされたら、決議内容の通知を行います。株式譲渡の承認決議を経て手続きを進める際には、無償で株式譲渡をする株主に決議内容を通知する必要があるためです。株式譲渡承認の請求があった日から、2週間以内に通知を行いましょう。

4.株式の無償譲渡契約書を交わす

決議内容の通知を株主に対して行ったら、株式の無償譲渡契約書を交わします。まず株式譲渡契約書を作成し、譲渡側・譲受側双方の署名捺印をしましょう。署名捺印の際には、契約書の記載内容に不備がないか、慎重に確認する必要があります。特に、無償で株式譲渡をすることや株主名簿の名義書き換え請求をすることなどが記載されているかどうかを確認しましょう。

5.株主名簿を書き換える

株式の無償譲渡契約書を交わしたら、株主名簿の内容を書き換えます。会社に対して、株主名簿の名義を書き換えるよう請求を行いましょう。株主名簿が書き換えられることで、株式譲渡の効力が発生します。会社が株主名簿を作成していない場合は、これを機に作成するとよいでしょう。

7.まとめ

無償での株式譲渡を検討している際には、メリットやデメリットについて十分に理解を深めておきましょう。もし、どのように進めていくべきか迷った際には、専門家に相談することも1つの方法です。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループであることからM&A(第三者への承継)ありきの提案ではなく、事業所内承継、親族内承継など複数の選択肢のメリット・デメリットを比較して選択可能な体制を整えています。

経営コンサルティング経験者も多く在籍しているため、対象企業の詳細な事業分析を実施したうえでシナジー創出を見込める候補先を紹介可能です。株式無償譲渡によるM&Aにも対応しているため、お困りの人はぜひお問い合わせください。

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人